--ガンマナイフによる三叉神経痛治療--

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三叉神経痛とは:

三叉神経とは、顔の半分の知覚と側頭部の筋肉(咬筋)を支配している神経のことを言います。とくに顔面の近くは上(おでこ)、中(上顎)、下(下顎)の3つの領域に分かれていることより、“三叉”神経と名づけられています。この領域にのみに起こる、激しい痛みのことを三叉神経痛と呼んでいます。

三叉神経痛

この原因の多くは血管による神経への強い接触と圧迫によります。これにより、顔面や口内への少しの刺激がかなり強く増幅されて脳幹そして大脳へ、“激痛(電撃痛)”として感じられます。麻酔なしで抜かれた歯の跡の、むき出しになっている神経に対し火柱を突っ込まれるような痛みと表現している患者さんは多く、考えただけでもたまらない難治性疼痛の代表なのです。加齢に伴う動脈硬化性変化が主因とされ、65歳以上の高齢者に多い疾患と言われています。

治療適応:

・本当に三叉神経痛か?

まずは診察上、問診と神経所見にて“本態性三叉神経痛”、いわゆる本当の三叉神経痛であると診断をつけることが重要となっています。顔が痛いというだけではガンマナイフの適応にはなりません。以下の6条件がすべて当てはまったときに、本態性三叉神経痛と診断できます。

  1. 顔面の痛みはいつも同側かつ同部位に起こる。
  2. 痛みは常に発作性(電撃痛)であり、ピリピリという持続性の痛みではない。
  3. 他のタイプの痛みや違和感はない。
  4. 何かしたときに痛みが誘発されやすい(食事・歯磨き・洗顔など)。
  5. 痛みがないときは顔面の知覚は正常である。
  6. テグレトール(三叉神経痛の特効薬)は効く(もしくは以前効いていた)。

つまり、三叉神経そのものは正常ですが、血管により圧迫を受け、神経が敏感になり、少しの刺激でも興奮しやすい状況になっている病態こそが“本態性三叉神経痛”と言えるのです。いわば“三叉神経のてんかん発作”とも考えることができ、それを鎮めるために、抗てんかん薬であるテグレトールを使用するわけで、これにより神経の興奮が起きなくなれば痛みは出なくなるのです。一般の“痛み止め”が効かない理由はここにあります。

・ガンマナイフはどんな治療なのか?他の治療法は?

三叉神経痛と診断がついてもすぐにガンマナイフの適応とはなりません。ガンマナイフ治療は接触している神経を除く治療ではなく、神経そのものに強く照射を行い神経そのものに軽いやけどを負わせて異常な痛みの伝わりを鈍くさせる治療に例えられています。治癒メカニズムはまだはっきりと証明はされてはいませんが、正常神経に対してダメージをもたらす一歩手前のような状況を作り出す治療と言えます。ですので、神経にとって侵襲の少ない治療が優先されます。テグレトールを中心とした薬物療法がまだ第一選択となります。

処方

後述しますが、正しい飲み方・量であるかをきちんとチェックする必要があります。それでもコントロールできない場合に、顔面への神経ブロックが推奨されます。神経ブロックの効果は一時的であり、確実に顔面の感覚障害を伴います。もしくは、開頭手術による微小血管減圧術(神経と血管を離す手術)が勧められます。これはガンマナイフに比べれば、効果も即時的であり神経に対するダメージもかなり少ない治療で、非常に有用性は高いと言えます。しかし、高齢者に多い疾患であるだけに、全身麻酔で行うこと自体がリスクとなる患者さんが多いのも事実ですし、頭を開けるということに恐怖感を抱く患者さんが多いのも事実です。これら治療が奏効しない場合、もしくは高齢者の場合で難治性疼痛と診断された患者さんのみが、最後の治療としてこのガンマナイフを取るべきと考えています。

・診断されたらいつ治療すべきか?

まだ軽症で罹患期間が短く、他の治療法が十分に考慮されていない患者さんはガンマナイフ治療を簡単にお受けにならないほうが賢明です。後述する合併症に悩ませられる可能性や、予防的治療としての意義も確立されておらず、かつ何年、何十年効果が持続するか不詳であり、再照射は基本的に行えない(2度以上行えば神経が完全に壊れます)治療であるだけに、いつ行うかというタイミングは慎重に考えるべきといえます。

効果と合併症について:

当施設(東京女子医大病院およびさいたまガンマナイフセンター)における効果に関しては、日本およびフランスにおける400症例の治療実績から、初期疼痛寛解率(一度でもまず電撃痛が消失する率)が現在98%前後となっています。細い神経に確実に照射する技術、そして診察上“本態性三叉神経痛”と鑑別できる診断力の高さゆえと自他ともに認めるところです。当施設では使用線量が他施設に比べ、やや高めに設定されているということも理由の一つと考えておりますが、2年以内の再発率がきわめて少なく3%ほどとなっており、他施設の2から3分の1となっていることも誇れる成績と考えています。

一方で、治療後合併症である“顔面のしびれ(放射線に伴う三叉神経障害による)”は全体の30%程の患者さんに認められています。軽い感覚障害からかなり強く生活まで苦痛となるほど(全体の3%)の方までいらっしゃいます。基本的に、三叉神経障害は一過性と考えていますが、長い人では数年以上かかります。その他の合併症(顔面神経麻痺・脳幹障害・意識障害・手足の麻痺など)はとくに認めていません。

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治療効果および経過について:

現在、APSを用いた新治療により、実に98%の患者さんに除痛については満足が得られています。治療後効果発現までの期間としては、3日以内の即効タイプが25%、1ヶ月以内の標準タイプまでが75%、3ヶ月以内のやや遅発性タイプまで含めれば実に94%となります。一方、3ヶ月以上経過してから効果が得られる患者さんも6%ほどいることも事実です。

治療後経過として、突然痛みが消えるタイプが33%、徐々に経過するタイプが33%、一旦消失するも3-6ヵ月後に再燃(治療前の程度の半分くらい)し、その後再度痛みが消失するタイプが33%となっています。ちなみに、3日以内に突然痛みが消失し、以後全く再燃しないタイプは全体の15%ほどとなっています。

グラフ1

2年以上経過した段階で評価すると、以前痛みが全くない状態の患者さんは全体の80%ほどです。残りの20%は再燃したためテグレトールを服用しながら様子を見ている患者さんと、若干の痛みが継続(治療前からすれば改善している)している患者さんです。完全な再発はまだ3%ほどに抑えられています。

経過中に痛みが再度出現しても慌てないでいただきたく存じます。ほとんどの場合、“再燃”であり、“再発”ではありません。“再燃”とは痛みが再度出るものの、ガンマナイフの効果がゼロになったわけでは決してなく、再度テグレトールなどの処方によりまた元の痛みのない状態に戻れる状態を示します。時期はとくにありませんが、1年以内(とくに半年以内)に多い傾向はあります。その際にはご連絡をいただくか外来受診を勧めます。
“再燃”を認めた場合には、基本的に治療直後に服用していたテグレトールの服用方法・量から再投与を指示することになりますので、残薬ある方はまず服用を開始しながら、次回外来予約を早めに取るようお勧めします。

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テグレトールの上手な使い方について:

・服用方法

まず、服用の仕方としては、基本的に「起床時」「就寝前」の2度のみとしています。前述したように、三叉神経痛は“神経の興奮”が基本病態。興奮が誘発される前に、テグレトールの血液内の濃度が最高に達している必要があります。
三叉神経痛は朝が最も鬼門となっています。顔を洗う・ひげを剃る・ご飯を食べる・歯を磨くなどの三叉神経痛を誘発する行為が詰まっています。テグレトールは抗けいれん剤(抗興奮剤)なので、むき出しになっている三叉神経にまるでオブラートを被せてあげるようなイメージの治療法です。

また、内服薬であることから、胃で溶けて、腸に吸収され、有効な血中濃度が得られるまでに最低でも1時間を要します。ですので、まずは「起床時」にしっかり服用することが大切で、その後1時間は顔への刺激は一切避けることを勧めています。朝の血中濃度を十分に上げるために、多量に服用すれば副作用として眠気が強く出てしまい、生活に支障をきたします。ですので、その直前、つまり前日の「就寝前」にテグレトールの服用を勧めています。この間が短ければ短いほど、血中濃度は保たれた状態で翌朝にしっかりと反映されます。

グラフ2

・減量方法

次に、減量方法に関してですが、急には必ず切らないようにしてください。ガンマナイフ後でも必ず痛みが再燃します。ガンマナイフの効果は表向き即効性でも、初期のうちは薬との併用により成り立っています。ですので、痛みがたとえ翌日から消失したとしても、1ヶ月間は服用量・方法を決して変えないで続けてください。その後、「就寝時」のものからテグレトール1錠ずつ減量してください。減量後は必ず最低でも2週間は痛みが出ないことを確認してから、さらに減量するようにしてください。減らす順番としては夜・朝・夜・朝・・・という順番でお願いします。最終的に3ヶ月経ったときに、「痛みもなし・薬もなし」というのが最も早く理想的であることを知っておいてください。

グラフ3
治療後副作用について:

前述しましたが、この治療による三叉神経に対する副作用は実に30%以上の患者さんに認められます。この治療そのものが三叉神経自体に強い放射線を当てることにより効果を得るものだけに、いわば“神経のやけど”の様な状態を敢えて作る形になってしまい、患者さんは“顔が半分しびれる”という訴えをされるのです。
放射線による神経自体の感受性は人によって異なります。なので、まったく影響のでない患者さんも多くいます。この変化は早い患者さんで、治療後3ヵ月後から、遅い患者さんでは2年以上経ってからという方もいらっしゃいますが、平均8ヶ月ほどからです。

軽い違和感(たとえば下顎だけの痛みであっても、痛みのある側全体に起こりえます)から始まり、人によっては目がかさつく、皮膚の上に一枚膜がかかっている感じなどと訴え始めます。そのうち、範囲や程度が徐々に強くなり、いわゆる“しびれ”へと発展します。ここまでなら患者さんも耐えられるのですが、さらにピリピリ小電流が流れる感じや正座をした後に足がビリビリする感じにまで発展する方が、合併症を負う患者さんの約10%(全体の3%)に認められます。ですので、治療前の痛みがさほどでなければ、この合併症に伴う症状はかえってご本人の生活を苦しめることになってしまいます。
これらの症状はすべてが永久的なものではなく、半年から数年を経て本当に雪解けのように徐々に改善していきます。最終的には「気にならなくなった」という治り方です。

“しびれ”が強くなると、どこまで悪くなるのだろうと心配に思う方が多くいらっしゃいます。“しびれ”から痛みが再発してしまうのでは…と。三叉神経に対してガンマナイフで治療するという観点からすれば、“痛み”と“しびれ”は180度全く反対の病態となります。
アメリカから発表された論文報告でも、自験例でも“しびれ”のある時期は再発する可能性はかなり低いと言われています。よく効き過ぎているからこそ“しびれ”として感じているとお考えいただければ結構です。一方で、“しびれ”が完全に改善した後に三叉神経痛再発という例も経験しておりますので、個人的には若干“しびれ”は残っていてくれた方が再発のない人生を送れるのだろうなと安心できるほどです。
また、“しびれ”が強く感覚までもかなり鈍麻となってしまう患者さんは、“顔まで曲がってしまう(顔面神経麻痺)”のではないかと心配される方もいらっしゃいます。しかし、これは心配無用で、もともと顔の表情筋は顔面神経という別の運動神経支配となっており、三叉神経(顔面知覚を支配)とは10mm以上離れております。しっかり当たっているからこそ“しびれ”があるだけに、ずれて顔面神経に照射ということは100%考えられません。

しかし、精神的に落ち込みやすくなる傾向は否めません。毎日毎日「いつ治るか…」と考えてしまう人ほど治りづらい傾向にあります。メンタルクリニックで抗うつ剤を処方してもらった途端に改善したという患者さんもいらっしゃいます。ですから、「いつかよくなるだろう。痛みがなくなったことでできることをもっとやっていこう。」くらいの気持ちの方が気にならなくなる日は早く来るようです。ケース・バイ・ケースで診ていくしかないですが、実際の直接的な治療法がないのも事実です。まずは神経親和性のあるビタミン剤(ビタミンB12製剤:メチコバール)を処方していきます。落ち込みすぎない為にも、外来へは通って話を聞いていってもらいたいと思います。

最後に:

ガンマナイフによる治療は脳神経外科領域の中で最も侵襲度の低い安全な治療です。われわれスタッフは全力で患者様の治療にあたる所存でおります。ご質問やご不明な点があれば何なりとお申し出ください。一人でも多く、一秒でも早く患者様に笑顔が戻る日を心から願いつつ、日々の診療に精進してまいります。

脳神経外科 林 基弘

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