17階の少年
原作者 水格 1981年10月生まれ
2004年中国新人作家「新概念」受賞、「80後」の代表作家の一人である。
始めてロシン(主人公の名前、漢字では「洛生」と書く)に会ったのは彼の家の前だった。
薄暗い夕暮れの舗道に、白い服を着た少年がぽつんと立っていた。それがロシンだった。
僕は自転車から降りると、彼に近づき、「すみませんが、ロシン君の家はここですか?」と尋ねた。
ぱっと頭を上げると、彼は瞳を輝かせた。「あの、どなたですか?」
僕はポケットから学生証を取り出すと、事情を説明した。僕は師範大学の学生で、ロシン君の家は家庭教師を探しており、僕がその家庭教師なのだと。
ロシンはうつむくと、視線を足元の薄汚れた靴に泳がせながらぽつりとつぶやいた。「僕は家庭教師なんか要らないよ、母さんが・・・。」そして、それっきり黙り込んでしまったのだった。
僕とロシン------この15歳の中学校三年生の少年は、時間が止まってしまったような、耐え難い巨大な沈黙の空間に取り残された。
ロシンの不思議と自信に満ちた表情は僕を困惑させ、時間を持て余してしまった僕は、家の前を行ったり来たりするしかなかった。
暫らくすると、彼は口を開いた。
「うろうろだって、無駄さ。今日は、母さんは帰れないかもしれないだもの。手術が入っていると言っていたからさ。」
「本当に?」
「本当だってば!」そういう彼は、いたずらな笑みを浮かべた。
ロシンのような少年には、今までにだって何度も会ったことがある。例えば、僕の従弟もその一人だろう。
まだまだ世間知らずというのに、世の中を冷めた目で見ている。まあ、あどけなくて可愛らしいけれど…。
従弟のいでたちといったら、いつも帽子のつばを後ろ向きに被り、口にはタバコをくわえている。口を開けば乱暴な口ばかりきくし、おまけにけんかっぱやいのだ。
人と口論の末に、あたりかまわず石ころで相手の頭を殴りつけて、血だらけにさせたこともある。
その場に居合わせた連中はみな仰天し、「まったく恐ろしいやつだ、見たことのない虎の子みたいじゃないか」と口々に言っていたそうだ。
ところが、そのことを僕に話すときの従弟の表情といったら、まるで自慢話でもしているかのようにとても愉快なのだ。
僕は思わず従弟の額に手を当てて、「君、熱でもあるんじゃない?」と聞かずにはいられなかった。
「今日はもう帰ったほうがいいよ。」とロシンに声をかけられた。
僕はにやりと笑った。大事なバイトなんだからだよ!よし、今は八時だ。八時半までは待ってみよう。それでもだめなら帰ったら、電話で思いっ切り怒鳴ってやればいいさ!
とそのとき、ロシンの母が現れた。彼女は通りの向こう側から歩いてきた。
ふと彼女の背後聳え立つ向こう側の20階建ての巨大な高層ビルが目にとまった。
なるほど、分かった。僕は騙された。彼の家は向こうにあるのだ。
あの高層ビルに住む人々が、建物の外を見下ろす優雅なさまが目に浮かぶ。そして、その感覚がもうすぐに僕にも訪れるのだ。
「まあ!」ロシンの母は声を上げ、慌ててロシンの手を引っ張ると向こうへとずんずん歩き始めた。僕は足早で二人の後ろにぴったりとくっつきながら、車に引かれないように注意してあげなくてはならなかった。
この間、ロシンはずっと黙ったままで、そんな彼の様子は、まるで深海に生きる魚のようだった。
ロシンの家は17階にある。17階!それは僕にとっては体験したことない高さなのだ。
僕はふとロシンのうつむいた横顔を見つめた。細かい産毛が照明の光の下で黄金色に輝き、つぶらの瞳はきょとんとしていて可愛らしい。
エレベーターが上昇を始めると、僕は眩暈に襲われて、思わず目を閉じてしまった。17階とは、危険性の伴う高さかもしれない、などと思った。
ロシンの母は、とても暖かく接してくれた。
缶コーラを僕に手渡しながら、話し始めた。
「ロシンはわがままな子だから、李先生、大変ですが、よろしくね・・・。」など。
これはつまりロシンの勉強に付き合ってほしいということではないか。
やったぞ!これで、僕もかなりの食費が節約できそうだ。
「はい、大丈夫ですよ」と僕はロシンの母に快諾した。
ロシンはじっとうつむいていたが、急に口を開いた。
「僕、家の中に知らない人の匂いがするのなんて、いやだ」
ロシンの母は、ぴしゃりと言った。「なんていうことを言うの!先生に失礼じゃないの。」
缶コーラを飲み続けている僕に、ロシンの母は言った。
「今日、ロシンの勉強を試しに教えてくださる?」
ロシンの家庭教師は、4月からだった。
学校に戻り、同級生のリン(漢字では?と書く)にロシンの話しをすると、彼女は「それは、絶対にやめたほうがいいわよ!」とすごい剣幕で言った。
「なんだよ。うるさいな」と僕は反論したが、
「勉強の付き合いですって?死ぬ覚悟が、できているの?」と彼女はわめくのだ。
そうか!思い出したぞ!リンが昨年ある少年の家庭教師をしていたときのことだった。
その教え子はとても腕白だったのだが、ある日のこと、遊びたいので外に出してくれと言いだした。
リンは先生らしくいさめてみせた。「よくないわ。だって、外はもう真っ暗だし、それに宿題もまだ終わっていないでしょう。」
「お願いだから、出してくれよ」と少年は駄々をこねたが、それでもリンは許さなかった。
「それなら、いいさ。」
少年はそうつぶやくや否や、どこからか紐を取り出すと、虎の子のようにリンに襲いかかってきた。
驚きのあまりリンの顔はみるみる青ざめて、彼女は大声で助けを呼ぼうとしたところ、少年は冷たく言い放った。「叫びたいのなら、思い切り叫んでみりゃいい!どんなに叫んでもだれも来やしないさ。おふくろだって、今晩は帰らないんだぜ!」
リンは途方に暮れ、つい泣きながら許してくれるようにと頼んだが、少年は取り合おうともしなかった。
少年は、彼女の足からするりとソックスを剥ぎ取ると、無理やりに彼女の口にねじ込んだ。
そして、満足しそうにゆうゆうと窓から出て行ってしまった。
リンの黒い瞳は、一晩中電燈の光に晒されたまま、ぺしゃんこな気持ちで涙を流していたという。
その少年の名前はリシャン(漢字では李響と書く)という。
僕はリンに同情するけれど、同じことが僕にも起こるなんて信じられない。ロシンがあのキャシャな体で僕に襲いかかってくるだなんて!
「ロシンはね、君の教え子とは違うさ。あんな乱暴な子じゃないんだ。可愛いらしいんだよ。それにあの子目といったら、格別で今まで見たことのないぐらい、きょとんとしていてすごく可愛いらしいんだから。」
リンはきょとんとした目はどんな目なのか分からないし、納得いかない様子だった。
僕にもうまく説明できない。彼女は不思議そうな顔をしていると、彼女のさえない彼氏がやってきた。
僕は、これ幸いとばかりにそそくさと帰ってしまった。
4月13日、ロシンの家を訪ねると、そこはひどい散らかりようだった。
ロシンの家は、ときどき僕を混乱させることがある。
ロシンの父は商人である。そして、彼は、この町でも名の知られた富豪だという。彼はたいそう忙しく、家庭以外の世界でほとんどの時間をついやし、妻と子供のいるこの家にはめったに帰ってこない。父親が帰ると、この家では決まって夫婦喧嘩が起きる。
その日も、僕が玄関に立ちつくし、入りあぐねていると、ロシンの母に声をかけられた。
「さあ、どうぞ、ロシンの部屋へ。よろしくお願いしますね」と。
僕は、すばやくつま先で跳ねるようにロシン君の部屋に駆け込んだ。
ロシンは、ベッドで大の字になり寝そべっていた。目を閉じて、耳にはイヤホン。
ベッドに近づくと、柔らかい電光に照らされた美しいロシンの顔を見つめた。
突然、彼は目を開けた。あの輝きのある瞳を。
「ロシン、イヤホンを貸してくれない?
彼はちょっと戸惑っていたが、片方のイヤホンを渡してくれた。
耳に流されたのは、ジャンソ(漢字では張楚と書く)の歌だ。
あの有名な「寒さも温かさも、感じるのは己の心だけ」という歌だった。(中国語曲名「冷暖自知」)
空は悠久のまま、 (この歌の訳は、もう少々考え出せていただきます)
地から欲望の芽が出る。
麦は太陽に向って生長するが、
僕の目が空を飛ぶ鳥を追う。
鳥は体温が感じるが、
鳥は体重が感じない……。
一晩中、僕はロシンとそのまま部屋に閉じこもり、ベッドにぼんやり坐ったまま、ただ窓の外の暗い夜空を見つめていた。
この晩、ロシンに教わったことがある。
自分の頭を背中向きに窓の外に出すことだ。とっても刺激的なのだ。この静寂な夜空中、風が耳元でびゅうびゅうと騒ぎ、現実のささやきを掻き消していく。
「先生も、やってみない?」と誘われた。
僕はこわごわと彼を真似して、硬くて冷たい窓の枠に肩を当てると、そっと頭を外に出してみた。すると、とたんにくらくらと巨大なめまいに襲われた。このままでは窓の外に吹き飛ばされてしまいそうな気がした。
ロシンはとても頭のいい子だと、初めて授業をしたときに感じていた。それなのに不思議なことは、テストの成績は一向に振るわないのだ。
僕は教えている最中、幾度となくロシンに注意しないといけない。彼の答えはいつも決まっている。「もういいよ、これぐらいの問題なら、僕、全部できるんだから。」
そして、その都度に、僕も同じことを繰り返す。
「そうかな、そんな嘘を平気でつくもんじゃないよ!できるなら、どうしてテストのとき書けないんだい?」
その日も、同じようなやり取りをして、ロシンはつまらなさそう顔になり、そっぽを向いてしまった。
僕はロシンのカバンを取り上げると、この前のテストの結果を取り出した。
46点!ああ、こんなひどい成績では、僕の理数系大学生としての能力が、ロシンの母に疑われてしまうかもしれない。
そのとき、思いもよらぬ、ロシンは突然瞳をカッと見開くと叫んだ。
「カバンを返してよ!返さないと、どうなるか知らないぞ!」
そんなにロシンが向きになるなって、僕はおやっと思った。
「はは!どうなるかだって?それじゃ、見せてもらおうじゃないか!」
すると、ロシンは、僕の襟元にガバッと掴みかかってきた。
そんな彼の慌てた様子は、まるで従弟とそっくりで、あどけなくて可愛らしい。
僕は従弟にするように、ロシンを高く持ち上げると、どすんとベッドに投げつけた。
そして、僕はロシンのカバンを見つめた。
ミー(漢字では「小米」と書く)という少女からのメモが入っていた。
それを見て、ロシンが大変なことに巻き込まれていることに気づいた。
「ロシン、ゴメンな。本当にゴメン!だけど、大丈夫だよ」僕は急いでメモを彼に返した。
「ロシン、君は男だろう、だったら男らしなくちゃ!彼女だって、君のためにひどい目にあったんだろう。彼女のためにも勇気を出すんだよ。」
「どうすればいいのさ?」ロシンは尋ねた。
しかし、僕の従弟が関わっていることのようなので、何と答えたらいいものか言いよどんでしまった。「だってさ、君は17階に住んでいるじゃないか、17階にすむ少年は、なんだってできるはずさ。」ととっさに答えてしまった。
「先生の、大嘘つき!」とロシンは怒ってしまった。
4月21日、僕は従弟に話をつけに行った。
いつものように、従弟を高く持ち上げると、力いっぱい床にたたきつけてやった。
従弟は顔をくしゃくしゃにすると、僕に向って怒った。
「俺のこと、ほっといてくれよ、兄貴には関係ないじゃないか!やる気なら、ここで待っていろ、刺してやるぞ!」
「ああ、いいさ、包丁でも何でも持って来い!待っていてやろうぜ!と僕は得意げに言った。
果たして彼は、本当に青白く光る包丁を持って僕の前に現れたのだ!
ロシンから聞いた話を、思い出した。
「あいつさ、学校でたくさんの事件を起こしているんだ。帆布バック一杯の凶器を持っているんだそうだよ!」ロシンの澄んだ瞳は恐怖の色が浮かんでいた。
そのとき、僕とロシンは17階の彼の家のベランダにいた。
イヤホンをあてて、音楽を聞きながら、遠くの空を目が疲れるほど眺めていた。
ロシンは呟いた。「ミーちゃんと一緒に居られたらいいな。手をつないでさ、空よりも青い海を見に行きたいな。」
僕はロシンの頭をコツンと小突いて、「へえ、君も、なかなかロマンチックだなぁ!なら、リシャンと決闘でもしたら?」と言った。
ロシンは黙り込んでしまった。
やがて、ロシンは口を開くと、「先生、“愛情”って、なんだろうね」なんて言い出した。
これには、まいった!
いまどきの子供には、びっくりさせられる!
僕はかしこまってロシンに『カルメン』の物語を話してやった。
ホセを勇敢な英雄として讃えながら。
愛に目覚めたばかりのロシンは、この自由奔放な物語に大いに感動してしまったのか、ついにわんわん泣き出してしまった。
僕は彼の頭を撫でてやった。「男の子なのに、ずいぶんデリケートだなぁ。」
ロシンは、肩を上下に震わせてなかなか泣きやまない。
「よし!よし!しっかりしろよ!」と僕はこれしか言えなかった。
4月21日の昼下がり、日差しは従弟の振り上げた包丁の刃の上で青く光り、その光りは暖かくて風情さえ感じる。
僕は怯むことなく、胸を張って一歩前へ進んだ。「やれるものならやってみろ!さあ!」
従弟に、この僕の体を切り裂く勇気などあるはずがない、と確信していたのだ。
従弟の口元が引きつり、その途端、暖かい日差しが僕の目の前を一閃した。
僕の体は大きく裂かれ、血が噴き出した。
傷口は新鮮な空気でも吸いたがっているかのように、大きく口を開けた。
痛さで頭がぼうとした。
高所にいるときのような、巨大なめまいが襲ってきた。
僕の体は浮き上がると、暗い夜空に吸い込まれていくようだった。
気を失う瞬間に、包丁が従弟の手から床に落ちるのを見た。
「ヘヘ!」と僕は従弟に向かって苦笑いした。
やがて赤い色が、僕の目を覆ってしまった。
4月22日、僕は医療センターに入院していた。
夕方、真っ白な天井を一人でぼんやり見つめていると、ロシンがこわばった表情でベッドの横に立っていた。
まったく気がつかなかった。
僕が口を開こうとする前に、ロシンは話し始めた。
「母さんから話しを聞いたんだ、先生が刺されたことを。母さんは先生の主治医なんだよ。」
ロシンは続けた。
「昨日運ばれたときに、先生は母さんのことも分からなくて、ひどく暴れて、わめき散らかしていたそうだよ。」
「僕が?」
「そうらしいよ!」ロシンの表情は暗かった。
「先生は僕にしっかしろなんて言うけど、・・・。これでもそんなことを言える立場なの?」
「これは違うんだ。僕にだって予想外のことなんだから。」と僕は答えた。
「母さんが言っていたよ。先生のような人には、僕のか家庭教師をもう頼めないって。昨日の手術のとき、先生の口からは汚い言葉ばかりが出てきた。先生がどんな人なのか分かった、って言うんだ!ここままでは僕も悪い子になってしまうって。」
僕は、笑った。
帰ろうとするロシンに、僕は尋ねた。
「ロシン、君はどう思うの?先生のことを・・・?」
ロシンが何を答えるか、僕はとても気になっていた。
それを聞かないと、ベッドに横たわっている自分が、悔しいと思ってしまうかもしれない。
ロシンは、病室を出掛かっていたが、振り返ると言った。
「先生は、立派だよ!」
4月23日、リシャンがロシンを呼び出した。
ミイも連れてきていた。
夜風に吹かれながら、三人は凛と立っていた。
「やい!ロシン!言いたいことがあるんなら、直接この俺に言えよ!従弟の兄貴に言いつけるなんて、卑怯なやつめ!俺はな、今日死ぬ気できたぜ!」
リシャンはひどく興奮していて、チンピラぶりそのものだった。
ロシンの漆黒の瞳は、怒りで炎を燃やしていた。
「それなら、受けてたとうじゃないか!かかってこいよ!勝負をつけよう!」
二人の15歳の男の子は、野獣のように掴み合いながら必死に殴りあった。
二人の叫び声が、ミイの全身をぶるぶる震えさせた。
ミイは自分の危険を顧みることなく、二人を引き離そうと必死で乱闘の中に飛び込んだ。
もつれ合いうちに、ロシンの拳が彼女の胸を打った。「あ!」ミイは短く叫ぶと、地面に倒れた。
すると、リシャンは虎のよう、すばやく後ろポケットからナイフをとり出し、ロシンに刃を向けた。
ロシンは息を呑んだ。
倒れたミイちゃんが痙攣している。
ロシンがミイのそばに近づこうとする。
リシャンが一歩一歩迫ってくる。
突然、リシャンが飛び掛って来た!
ナイフがロシンの白いシャツを切り裂き、みるみる赤い血が流れてきた。
リシャンはミイに駆け寄ると、ミイの体を抱きかかえて懸命にゆすりながら、「ミイ、ミイ!どうしたっていうんだよ!」と叫んだ。
ロシンには、分かっていた。ミイはもう永遠に目をさますことはないのだ。
二人でミイを殺したんだ。耐え難い苦しみが、ロシンの体をがんじがらめにする。
ロシンは、じっとその場に立ち尽くしていた。
ロシンだけが知っている。
ミイは心臓病を患っているのだ。
昨年、ロシンの凄腕の母に診断されたのだ。
もちろん秘密にしていた。学校のでは知っているのはロシンたったひとりだけだったろう。
心臓病の発作で、体をゆすることは禁物だ。
しかし、ロシンは口を閉ざしたままでいた。
リシャンがミイを死なせるのを、見届けているかのように・・・。
たまらずにロシンは言った。
「もうやめろ!ゆするな!ミイを死なせるつもりなんのか?ミイは心臓病なんだ!」
リシャンは唖然とし、動きを止めた。
しかし、もう遅い!ミイは、すでにこときれていた。
これで彼女は、もう二度とこの17階に住むロシンという少年を苦しめることはないのだ・・・。
5月になり、リラの花が咲いた。季節が移り変わっても、ミイは永遠に逝ったままだった。
僕は、ロシンと一緒に雨の中にいた。
二人とも、ひどい雨にずぶ濡れになっていた。
僕はきりりとした瞳のロシンに告げた。
「リシャンは、僕の従弟だ。」
「知っていた。そんなこと最初から知っていたさ、先生。ねえ、一緒に走らない?」
二人で雨の中を走り、陸橋に上がった。
ロシンはふうふうと息を弾ませながら、まるで雨を受け止めるかのように、色の白い顔を空に向けた。
僕も、鳥のように両腕を広げて、空を見上げた。
すると、あの17階の窓から頭を出したときのめまいが襲ってきた。
「ロシン、君はね、もう少年なんかじゃない、17階に住む男だ!」
ロシンは、何も答えなかった。
彼はただ天を見つめていた。溢れる涙を、瞳から迸しらせながら・・・。
(完了)
翻訳 修行僧侶 月如
指導 日本語教育研究所
添削 竹田優子
2004年10月