ファラミアとファラミア
     
              〜 小さな訪問者 〜



 2.



「それは大変でしたねぇ。」

 そう言いながらファラミアは笑っている。

 そう、かなり盛大に・・・。

 「まあ、殿が涙を流してお笑いになるところなど初めてみましたわ。」

 エオウィンもそんな姿を見てクスクス笑う。

 ピピンはここに来るまでに小さなファラミアの世話がどんなに大変だったかをファラミアに

 話して聞かせたのだった。

 珍しいものを見かけるとすぐに付いていく。危ないものにでもすぐに手を出す。

 水溜まりや川には進んで飛び込む。

 珍しい食物はすぐに食べたがる。

 「ちょっと目を離した隙にお酒まで飲んで、酔っ払っているのですよ。」

 ピピンが盛大に付いたため息にファラミアはまた笑いだした。



 「エルボロン、大きくなりましたね。」

 ピピンが言った。

 「ええ、兄上に似ているでしょう?」

 ファラミアが穏やかに言った。

 「ええ、正直、そう思いました。」

 「勉強よりも馬で遠乗りしたり、狩りや剣の方が好きなところも。

 まあ、それは妻に似たのかも知れませんけど。」

 最後の言葉は小声で言ってクスッと笑った。

 「殿、聞こえていますわ。」

 お茶を運んできたエオウィンがファラミアを軽く睨んだ。

 「私の妻は耳が良くて・・・」

 ファラミアが笑いながら首を竦めてみせた。

 「聞き分けが良くてお優しい気質などは殿にそっくりですのに。」

 そう言ってエオウィンが微笑んだ。

 「でも・・・」

 ピピンが言った。
 
 「え?」

 「ボロミアとファラミアがよく似ているのですから。優しいところも顔立ちも。」

 「そう、そうですね。」

 ピピンの笑顔の言葉にファラミアの表情が和らいだ。

 「小さなファラミアは可愛いですね。ピピンもすっかり良いお父さんだ。」
 
 ファラミアが笑顔で言った。

 「いいえ、ファラミアのような立派な父親にはなれません。」

 ピピンが苦笑した。

 「いいえ。私は・・・・いい父親にはなれそうもない。」

 ファラミアが少し寂しげに笑った。

 「ファラミア・・・」

 「私には解らないのです。普通の父親がどんなものか。普通父親はどんな風に子供に接するのか。

 子供とどんな風に話したら良いのか。どんな風に子供を愛したらいいのか・・・」




 その頃、小さなファラミアは家の中を歩き回っていた。

 そして一つの扉が少し開いているのに気付いた。

 ファラミアは扉を押し開けた。

 「あれ?」

 中から声がした。



 エルボロンは一人で自分の部屋にいた。

 「あれが『小さき人』の子供かあ・・・本当に小さいなあ・・・」

 父から何度か聞いたことがあった。

 「シャイアという村には『小さき人』ホビットがいるんだ。

 そのホビットの勇気のおかげで今、このゴンドールも中つ国も平和な日々を送れるのだよ。」

 父はことある毎にエルボロンに語って聞かせた。



 父は一ヵ月のうち半月はミナス・ティリスで執務をしている。

 そして残りの半月もそのほとんどをイシリアンの領主としての仕事に費やしている。

 エルボロンにとって父は近くて遠い人だった。

 その父が時折、嬉しそうに家に招く友人がいる。

 時には「小さき人」であり、時にはエルフとドワーフという少し不思議な二人組であり、

 また時には野伏姿の国王だったりする。

 その時の父は本当に嬉しそうだ。

 「たまには・・・僕とも遊んで欲しいのになあ。」

 エルボロンが呟いた。

 ベアキルは「父上と遠乗りに行った。」「父上と母上と森に遊びに行った。」と楽しそうに

 子供の頃の思い出話をしてくれる。

 だが、自分は執務をしている父親の姿以外ほとんど見たことなかった。

 でも、まあいいや。

 父のお客様がいる間は父は家に居てくれるから。



 そんなことを考えている時、部屋の扉が小さく開いた。

 「あれ?」

 そこにいたのはあの小さき人の小さな小さな子供だった。

 確か父と同じ名前。

 「ファラミア・・・」

 エルボロンが呼ぶと小さなファラミアはにっこり笑った。

 「お兄ちゃん。」

 「エルボロンっていうんだ。」

 「エルロロン?」

 「エルボロン」

 「エルボボン?」

 この小さなファラミアにはエルボロンの名前は難し過ぎるらしい。

 「いいよ、何でも。」

 エルボロンがクスッと笑った。



 「ボロ兄ちゃん。」

 結局小さなファラミアはエルボロンをそう呼んだ。

 小さなファラミアは物珍しげにエルボロンの部屋のベッドに乗り、ピョンピョンと跳ねている。

 こんな小さなファラミアだったらベッドが痛むこともないだろう。

 エルボロンは笑いながらその様子を見ていた。



 「あれ、なーに?」

 小さなファラミアはやがてベッドで飛び跳ねるのに飽きたのか、部屋の中を見回している。

 「あれ?あれはレゴラスにもらった弓と矢。」

 「ゆみ?」

 「うん、あれで、狩りをするんだ。」

 「ふーん・・・あれは?」

 今度は少し高い棚の上にある箱を指し示した。

 「あれ?あれは僕の宝物。だから駄目。」

 「たからもの?」

 「大事なもの。だからファラミアには貸して上げられない。ごめんね。」

 エルボロンが言った。

 「で、あれなーに?」

 「あれはね。オルゴールと言って音楽が鳴るんだよ。」

 「ふーん。」

 「父上から頂いた大切なものなんだ。父上は亡くなった父上のお兄さんから頂いたんだって。

 僕が音楽が好きだからそんな大切なものを私の誕生日にくれたんだよ。」

 そのことがとても嬉しかった。







親子関係の無器用さは多分父親譲りなんだろうな・・・・

自分で設定した親子関係は、そういう定義づけがしてあります。

国王が何かと頼りにしている「出来る」執政はおそらく息子から見ても

憧れだったのではないかと。

出来の良い身内って結構辛いものもあります。

特にハードルの高い父親って言うのは大変なのですよ。(実体験)

2005.05.28.Jeroen

考えてみればファラミアは、父親からの愛情とかほとんど感じられないまま育ったのですよね。エルボロンのことすごく愛しているのにうまく表現できない。そんなもどかしさがすごくよく伝わってきます。  2005、6、6 NIMA