ファラミアとファラミア
     
              〜 小さな訪問者 〜



 4.



 「入っていいか?」

 エルボロンは声で誰だか解った。

 エルボロンは扉を開けた。

 「ギムリ・・・・」

 扉の前にはギムリとレゴラスが居た。 

 ギムリは黙って部屋に入ると壊れたオルゴールの前に座った。

 「おやまあ、派手に壊したね。」

 横から言ったのはレゴラスだ。

 エルボロンの眼からはまた涙が零れた。

 「これ、預かっていっていいか?」

 「直るの?」

 「ギムリの腕をなめたらいけないよ。こんなのすぐに直してくれるさ。」

 そう言ったのはレゴラスだった。

 「怪我をしているじゃないか。手当てしよう。エオウィン、薬箱を下さい。」

 レゴラスが居間に向かって声をかけた。




 薬箱を持ってきたのはファラミアだった。

 「手当ては私がします。

 レゴラスとギムリはあちらでピピンとお茶でもいかがですか?」

 ファラミアが言った。

 「ありがとう。そうします。」

 レゴラスが笑顔で言った。



 「痛かっただろう?」

 ファラミアが傷を見て顔をしかめた。

 「父上・・・」

 「偉かったぞ。小さな子を庇って。」

 ファラミアはそう言いながら傷を消毒した。

 「父上・・・ごめんなさい。父上の大切なオルゴールを・・・」

 エルボロンが俯いたまま言う。

 「形あるものはいつかは壊れる。

 あれはお前にあげたものだし、お前は充分大切にしてくれていた。

 そんなことよりも、お前が大怪我をしたかと思って心配したよ。

 これくらいの怪我ですんでよかった。」

 ファラミアが笑顔でそう言いながら手当てをした。

 「ちちうえ・・・」

 エルボロンは手を延ばそうとして、躊躇っている。

 かつて、自分がそうだった。

 父に好かれたくて、父に抱き締めてほしくて・・・でも、拒絶された。

 それから父に手を撥ね除けられるのが恐くて・・・手を延ばそうとして躊躇った。

 忙しくてなかなか傍に居てあげられなかった。

 そのことがファラミアとエルボロンの間に見えない垣根を作ってしまったのだろうか。

 自分も息子に同じ思いをさせていたのかと思うと切ない気分になった。

 「お前の怪我が大したことなくて本当に良かった。」

 手当てが終わってからファラミアはもう一度そう言ってエルボロンを抱き締めた。

 「ちちうえ・・・」

 「私にとってはエオウィンとお前が一番大切な宝物なのだから。」

 ファラミアはそう言うとエルボロンの髪をそっと撫でた。

 父が抱きしめてくれたのが嬉しかった。

 父の手は大きくて暖かかった。

 翌日、ファラミアは元気を取り戻した小さなファラミアとピピンを伴って、

 レゴラスの住む森へと出掛けることにした。

 勿論、エオウィンとエルボロンも一緒に。

 「ここならいくら暴れても大丈夫ですから。」

 レゴラスがそう言って笑った。

 小さなファラミアは思う存分走り回っている。

 「エルボロン、これ。」

 ギムリがエルボロンに手渡したのは昨日のオルゴールだ。

 「直ったの?」

 エルボロンが眼を輝かせた。

 「ああ。」

 エルボロンがそっとスイッチを入れる。

 綺麗な旋律が流れだす。

 「ギムリ、ありがとう。」

 「小さな子を庇った勇敢な少年へのご褒美さ。」

 「父上、オルゴールが直った。」

 エルボロンが嬉しそうにファラミアに見せにきた。

 「良かったな。」

 ファラミアが笑顔で言った。

 エルボロンが頷いた。

 ファラミアの両腕がエルボロンを包んだ。

 「ち、ちちうえ?」

 「いい息子を持って誇りに思うよ。」

 そう言いながらファラミアはエルボロンを抱き締めた。

 エルボロンの髪がファラミアの鼻に触れた。

 石けんの匂いがした。



 「明日、帰るんだ。」

 森の中で小さなファラミアが言った。

 「そっか・・・また遊びにおいでよ。」

 エルボロンが言った。

 「ボロ兄ちゃん、怒ってないの?」

 小さなファラミアがエルボロンを見た。

 「オルゴールは直ったから。

 それに、考えてみたら、僕が最初に見せてあげれば良かったのかもしれないし。」

 「『もう来るな』って言われたらどうしよう・・って」

 小さなファラミアが嬉しそうに笑った。

 「ほら、これがオルゴールだよ。」

 ファラミアはエルボロンの前にオルゴールを置いてスイッチを入れた。

 小さな箱は美しい旋律を奏でた。

 「今度来る時は、一杯苺を持ってくる。サムがジャムにしてくれるから。」

 ファラミアが言った。

 「楽しみにしているよ。」

 エルボロンが頷いた。



 「ピピン、ありがとう。」

 木陰で並んで座っていたファラミアがピピンに言った。

 「え?何を言っているんですか、ファラミア。面倒ばかり掛けてしまってごめんなさい。」

 ピピンがすまなそうに言った。

 「いいや、ピピンと小さなファラミアのお陰で、息子との距離が少しだけ近くなった

 気がするよ。

 思えば今まで抱き締めてあげたこともなかった。

 とても愛しいのに、余りにも身近すぎて、余りにも忙しすぎて、そんなことも忘れていた。」

 「執務などはアラゴルンにちゃんとやらせて、少しはエルボロンの傍にいてあげてください。」

 「そんなことを言われるとゴンドールの国が危機に陥る。」

 突然木の上から声がしてファラミアとピピンは木を見上げた。

 「殿下、何時の間にそんなところに。」

 ファラミアが苦笑しながら言った。

 「何を言う。昼寝の邪魔をしたのはお前たちだぞ。」

 そう言うとアラゴルンは素早く下に下りてきた。

 「まあ、不本意だが、ピピンの言うことには一理ある。」

 アラゴルンが言った。

 「そうですよ。抜け出す数を減らして仕事をして下さい。」

 「ピピン、お前には言われたくない。」

 すかさず言い返したアラゴルンにレゴラスがクスクス笑っていた。



 遠くでエルボロンの笑い声が聞こえた。

 ほんの少し、父親らしくなれた気がする。

 ボロミアがくれた旅の仲間のお陰で・・・

 (ファラミア、お前なら大丈夫だよ・・・)

 風に乗ってボロミアの声が聞こえたような気がした。


(了)





どうやら少しは意思の疎通が出来た模様。

この1〜2年後の話も書きたいなと思っています。

でも、色々放置しているものもあるのでそっちが先でしょうか。

もたもたしているうちにNIMAさまのサイトは2000カウント越えてしまいました。

遅くなって申し訳ありません。NIMAさま。

1000カウント&2000カウント突破おめでとうございます。

これからもよろしくお願いします。

2005.06.03.Jeroen



素敵なお話し、ありがとうございました。思いがけない訪問者のおかげでやっとこの父子の距離が縮まりましたね。
エルボロンや小さなファラミアがこれからどんな風に成長するのか、この続きのお話しもぜひ読みたいです。 
2005、6、6 NIMA