「アレクサンドロスと少年バゴアス」

・・・本の感想・・・

本の感想をホームページにUPするのは初めてです。プログの日記に書くには長すぎるし(内容も少々問題がある)何よりも今までホームページ上でいろいろな話を書いてきたが、その根本が揺さぶられ、これからの話作りに大きく影響を受けそうだったので、こちらのページに書きます。ネタバレ、そして表のページでは書いてはいけないような言葉も使ってありますのでご了承ください。

この本を知ったのは、映画「アレキサンダー」関係のホームページをいろいろ見ていた時で、その中で非常に印象的なコメントと共に紹介されていたので、いつか読んでみたいと思っていました。今回たまたま一人で旅行する機会があったので、旅先のホテルと新幹線の中で続けて読んでしまいました。(内容が余りにもはっきり頭に浮かんできたので、その間他の本を読んだり、テレビを見たりする気にはまったくなれなかった)ただ地名、人名がかなり複雑なので、映画アレキサンダーを見ていなければすごく読みにくかったと思います。(ヘファイスティオンなんて難しい名前、映画を見ていなければ覚えきれないし、まったくイメージがわかない)




物語の最初、バゴアスはこれ以上は滅多にないだろうと思われるほど、不幸な境遇の少年として登場する。元はペルシャ王の忠臣のただ一人の息子として、裕福な家で何一つ不自由のない生活をしていたのだが、宮廷内の陰謀に巻き込まれ(しかもその首謀者が同じバゴアスという名前)、目の前で父を惨殺され母は自殺、姉妹はどこかに連れ去られて家族のすべてを失う。本人は危うく命拾いをするが、奴隷商人に売られて無理やり去勢される。この時彼は十歳ぐらい。去勢した方が美しさが保てて、抵抗しなくなり高く売れるからだろうか?随分残酷な話である。

最初に彼を買ったのは宝石商の奥方で彼女は親切であったが、内緒で他の客に貸し出され弄ばれるという悲惨な体験をする。この時は本当にただ毎日を生きているだけという存在であった。ところが宮廷の人間が彼の美貌に目を付け、時のペルシャ王ダレイオスに差し出そうとしたことで、運命は大きく変わる。王に会う前には、宮廷での礼儀作法、食べ物、飲み物の出し方から、寝具の整え方、夜の相手の方法まですべて教えられ(一体何をどう教えるのだろう?)王に会う。そしてめでたくダレイオス王のお気に入りになり、豪華な衣装と部屋を与えられ、身の回りの世話をする奴隷までつけてもらえるのだが、この時はまだ王の態度で全てが決まってしまう受身の状態で、与えられた運命を受け入れるだけであった。

ところがダレイオス王はアレキサンダーに破れ、運命のめぐり合わせで今度は敵であったアレキサンダーに仕えることになる。バゴアスは最初ペルシャ宮廷との違いに驚き、どう仕えたら良いのかわからないでいるが、王の部下に屈辱的なことをされ、殺されそうになったところを助けられたことから、彼こそが王の中の王、自分が仕えるべき唯一の相手だと思い、王の愛を得ることにすべてをかけるようになる。

アレキサンダーを自分が仕えるべき唯一の王と思ったときから、バゴアスはそれまでの不幸な人生を取り戻すかのように生き生きとしてくる。王の親友であり愛人でもあるヘファイスティオンをライバルとして、激しい敵意を燃やす。ヘファイスティオンは今まで王を少年のままにおいていたけど、自分なら男にしてさしあげることができると心の中でつぶやく。この言葉から推測すると、映画の印象でアレキサンダー×ヘファイスティオンと思っていたこの二人の関係、実際にはヘファイスティオンの方が背も高く堂々として王らしく見えたと書いてあるので、ヘファイスティオン×アレキサンダーだったのだろうか?アレキサンダーは戦いや遠征のことで勢力を使い果たし、ヘファイスティオンと一緒の時は彼に身を任せてなすがままになっていたのかもしれない。あまり浮いた噂がなかったというから、子供の時からの親友との関係だけで満足していたのだろう。(映画でのイメージではすごく精力的な王様に見えたが・・・)だけどバゴアスとの場合は彼は去勢された宦官であるからアレキサンダーが男になるしかない。それにしても今までの境遇や身分を考えると、王の親友をライバルにしてしかも自分の方が王を男にできると勝ち誇れる自信はどこからくるのだろうか。

ヘファイスティオンをライバルにしたバゴアスは時には子供の頃から長い関係がある彼には絶対かなわぬと思い、あいつを殺さなければ自分が生きられないと毒殺まで考える。さすがにいろいろ考えてそこまではしなかったが、それでもことあるごとに激しく憎み、やっぱり殺しておけばよかったと思ったりもする。(身分とか立場を考えると、嫉妬とかライバルとか言える立場ではないと思うけど)その他にも、アキレウスとバトロクロスの話を聞いてバトロクロスが誰のことを言っているのか知り涙を流したり(アレキサンダーは異国ペルシャの少年が自分達が崇拝しているギリシャの神話を理解して涙を流したと勘違いして感激するが)王に誕生日はいつかと聞かれただけで涙を流し、誕生日を待たずに馬と王の肖像が彫りこまれた指輪を贈られれば、それを自分と一緒に埋葬して欲しいと遺書まで書いたり、とにかく情熱的である。アレキサンダーのことが好きで好きでたまらず、お世話をしているだけで幸せ、近づく者は皆ライバルと大変な勢いである。さらに自分の持って生まれた美貌だけで安心はせず、太らないよう食べ物に気を配り、踊りの技を磨き、ギリシャの言葉を覚えてと大変な努力家でもある。美少年にこれだけの情熱を持って愛されればアレキサンダーもまんざら悪い気はしないだろう。一方ヘファイスティオンの方はどうだったか、彼は内心穏やかではなかったと思うが、それでも面と向かって争ったりはしていない。(ヘファイスティオンは他の部下と争って怒ったアレキサンダーに今度争ったら二人とも死罪だ、と言われたりもしたが)そしてお互い少しずつ認め合う関係になり、アレキサンダーが愛馬をなくして悲しんでいる時、バゴアスは自分では無理だとヘファイスティオンを呼びに行っているし、砂漠で死にそうになったバゴアスをヘファイスティオンが助けに行ったりもする。

この関係はアレキサンダーの結婚後も続き、バゴアスは王の妻に対してはそれほど嫉妬はしていない(嫉妬するほど仲良くはなかった?)だがヘファイスティオンの突然の死、そしてアレキサンダーの死によってこの関係は幕を閉じる。残りの人生を彼はどう過ごしたのだろうか?エジプトのプトレマイオスのところにいったとあるが、おそらく王を失ってからの彼は思い出と追憶だけで生きたのだろう。

この本を読んで、自分はとてもじゃないけどここまで情熱的に人を愛することはできないと思いつつも、いつのまにかバゴアスの目線で本を読むというかアレキサンダー像を作り出して愛するようになっていた。映画ではヘファイスティオンの目線で見ていたので、「入浴は一人でするから下がってよいバゴアス」というセリフを残してヘファイスティオンとバルコニーへ行ったアレキサンダーをうっとり見ていたが、バゴアスだったらここで激しく嫉妬したに違いない。踊りが終わったあと、ダンサーとキスをする場面、どうしてヘファイスティオンとのキスシーンは1回もないのに、奴隷とは簡単にキスするの!と思ったけど、これもバゴアスなら、彼は戦場で戦って王の手助けをすることはできないから、せめてよい踊りを踊って王を喜ばせようと必死に練習したのだろう、とか見方が随分変わってくる。



バゴアスがなぜこれほど情熱的にアレキサンダーを愛したかということでは、彼が去勢された宦官であることも大きく影響しているかもしれない。男と女の愛では子供という形で未来に夢を繋げられるし、男同士でもアレキサンダーとヘファイスティオンのような関係は二人とも長生きして愛人関係ではなくなっても、共に戦った仲間として栄光を分かち合い、それぞれ結婚して子の成長を楽しみながら昔話をするという関係は続いていく。だけどバゴアスの場合は子孫を残すことも戦いで名誉をつかむこともできない。自分の美しさがすべてであり、しかもそれが決して長続きしないことをよく知っている。だからこそその瞬間瞬間で自分の全てを出して愛したのかもしれない。二人が共に過ごした時間はわずか数年でしかも厳しい遠征生活ばかりであるが、それでもそこまで全身全霊をかけて愛せる人間に出会えた彼の生涯は幸せだったと思うし、うらやましくもある。



今までアレキサンダーに関してはほとんどヘファイスティオン側から見て話を書いていましたが、この本を読んでからはバゴアスの視点からも書いてみたいと思いました。本を読んでこれだけ主人公に感情移入ができたのは久しぶりです。



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