Web拍手お礼文「新しい旅」(1)〜(5)



拍手お礼文1  「新しい旅」(1)

<ウルフ族>の男コリーと<ゴート族>の男ジャレは種族の違いや宿命を乗り越えて友情を育み
ました。けれどもそのために2人はどちらの国にも暮らせなくなり、旅に出ます。冬の間は移動す
る距離も短く、じっとしていることが多かったのですが、暖かくなると行動範囲も広がっていき
ました。

「おい、ジャレ、この山は確か何日か前にも通らなかったか」
「そ、そうか、・・・ま、まあ似たような山ばかりだし・・・いいじゃんか、先を急ぐ旅でもないから」
「それはそうだけどさ、少しも進んでいないような気がする。早く俺は別の国にたどり着きたい。お前
本当に知っているのか。<ウルフ族>と<ゴート族>が一緒に暮らしている国のことを・・・」
「もちろんさ、僕にまかせてくれればいいよ」

ジャレは胸を張って答えました。でもこれはすべて口から出たでまかせです。どこへ行ったらいいか彼
自身わかっていません。それどころか<ゴート族>の伝説では山を越えて遠くまで行くとどちらの方角
に向かっても怖ろしい魔物がすんでいることになっています。魔物のいる場所には行きたくない、でも
コリーを安心させなければ・・・というわけで同じような場所をぐるぐると歩いていました。

「やっぱり同じ山だ。よく見ろ、この洞窟に火を焚いた跡がある。この鹿のつのは・・・間違いない、
俺が獲ったものだ・・・覚えているだろう!お前、鹿なんてすごいごちそうだと大喜びしていた」
「え、そうだったっけ、もう忘れたよ」
「お前は獲ってきた獲物を料理するだけだから、狩の苦労がわからないんだよ!あの鹿を捕らえるために
どれだけ走ったことか・・・つまずいて怪我までしてしまった。でもこういう怪我とは別に俺の頭の中は
どこかひび割れているようなんだ。俺、お前とどこであったか、何をして暮らしていたのか思い出せない
思い出そうとすると、頭が割れそうに痛くなる」
「思い出さなくていいよ。僕が何もかも覚えているから」

なぜコリーが記憶の一部を失ってしまったのか、ジャレはとても本当のことが言えません。<ゴート族>
の国で一緒に暮らしていた時、ふとしたことでケンカになり、コリーは捕らえられて石で打たれて殺され
そうになったのです。ジャレが必死で助け出しましたが、頭をひどく打たれたコリーはぐったりし、記憶
も失ってしまいました。

「心配しないで、僕が君の道案内をするからさ」
「どうもお前はあてにならない。これからは俺が先頭を歩く」
「ま、待ってよ!遠くの山へ行くと魔物が出るからさ・・・」
「そういうことだったのか!お前、魔物を怖れて同じ場所をグルグルと・・・」
「あ、そ、そういうわけじゃ」
「俺についてしっかり歩いて来い。魔物ぐらいでビクビクするな。お前男だろう!」
「おとこだけど・・・」

ジャレは自分のまたの間を触った。何度も危機はあったが、今も彼のものはいちおう無事である。

「しっかりついてこい。もうお前は信用できない」
「そんなこと言って、命を助けたのは僕だよ」
「それは充分感謝しているさ」

気の短いコリーはどんどん先へ行ってしまい、しかたなくジャレもそのあとをついていきました。


拍手お礼文2   「新しい旅」(2)

 山に住む魔物を恐れ、同じところを何度も通っていたジャレですが、とうとうコリーにそのことがバレてしまい
ました。コリーは怒り、自分が先頭を歩くと言い出します。怖いもの知らずのコリーはどんどん先へ歩いて行きま
す。ジャレは見失わないように追いかけて行くのが精一杯でした。やがて二人は一つの洞窟にたどり着きました。

「俺は何か獲物を捕まえてくる。お前はここで火でもおこして待っていろ」
「この山に来た者の話を聞いたことがない。こんな魔物が出そうな山の洞窟に一人で待っていろというのか」
「大げさだな、ちょっと獲物を獲ってくるだけだ。知らない場所といってもどこにでもありそうな普通の山だろ」
「そ、そうだけどさ・・・なるべくはやく戻ってきてくれよ、頼む」

コリーはジャレに軽く口付けをして、狩に行ってしまいました。残されたジャレは枯れ木を集め、洞窟の中へ入って
行きました。洞窟は思っていたよりもずっと長く奥へと続いています。けれども向こう側にも穴が空いているのでしょ
うか、急に明るくなってきました。

「なんだ、これは・・・まだ雪が降っている・・・僕達また寒いところに来てしまったのかなあ」

おそるおそる洞窟の外に出ました。同じ山の景色が続いています。ただ違う所は雪が降っていてかなり深く積もって
いるところです。と、突然変な生き物が目の前を通り過ぎました。その生き物は大慌てで木の陰に隠れました。毛の
生えた獣の足が見えます。深い山奥、カモシカか何かの足でしょうか。ジャレはそっと近づきました。

「あなたは、にんげんの、おんなのこですか?」
「わ、なんだ、お前は・・・く、口を利いて・・・顔は人間で・・・足は・・うわー化け物だ!たすけてー」
「おどろかないでください、わたしはフォーンです」
「フォ、フォーンて・・・あ、あの神話とかに出てくる山羊と人間の・・・」
「そうです。そのフォーンです。はじめまして、あなたはにんげんのおんなのこですか」
「おれはたしかに人間だけど、女じゃない」
「しつれいしました。にんげんをみるのははじめてですから・・あんまりにもうつくしいからてっきり・・・」
「ああ、俺達<ゴート族>は女みたいだとよく言われるよ。実際ある部族のやつらに捕まって女の代わりをさせ
られるやつもたくさんいるし・・でも俺は男だ、おんなじゃない」
「ごおとぞく、ごおととはふるいことばでやぎといういみですね。わたしたちフォーンもやぎとにんげんの・・
わたしたちは、おおむかし、おなじだったのですか」
「知らねえよ、そんなこと。<ゴート族>というのはただの部族の名前で人間であることに変わりはねえ、そん
な山羊と人間が合体したようなやつといっしょにしないでくれ」
「すみません、にんげんにあえたのがうれしくて・・・よかったらわたしのいえでおちゃをのんでいきませんか」
「家・・・お茶?・・お前、家に住んでいるのか」

ジャレは目の前のフォーンをジロジロ見ました。その毛の生えた足はどう見ても獣の足です。

「おもしろい、どんな家に住んでいるのか、みてみたい。案内してくれ」

ジャレは初めて会ったフォーンの後をついて雪の中を歩いていきました。



拍手お礼文3   「新しい旅」(3)

 ジャレは上半身人間で下半身が山羊の不思議な生き物フォーンの後をついて歩いていきました。雪は激しく
降っています。ふとこのまま帰れなくなったらどうしようという不安も感じましたが、好奇心がそれを上回って
しまいました。やがてフォーンは1本の大きな木の根元で立ち止まりました。小さな扉のようなものがあります。

「へえ、こんなところに住んでいるのか。地面の下の穴倉が家か」
「さあ、なかにはいってください。いえのなか、ひろくておおきい、あなたもきにいるとおもいます」
「俺、こんな狭い扉通れるかなあ」

フォーンは扉をあけて中へどんどん入っていきます。ジャレもついていきました。木の根元の穴倉と思っていた
ジャレは中へ入って驚きました。家の中は思ったよりずっと広くて明るく、暖炉の火が燃えていて暖かです。り
っぱなソファーやテーブルもあり、美しいティーカップにお茶が注がれました。ジャレはもう珍しくてあたりを
きょろきょろするばかりです。

「さあ、あたたかいのみものをのんでください。わたし、とてもいいフォーンです。あなたになにもわるいこと
しない、あんしんしてください。ふえをふいてあげましょう」
「へえー、笛もあるのか。本当に物語で聞いた話と同じだ」

笛の音にうっとりし、ジャレはだんだん眠くなってきました。その時突然フォーンがジャレの手をひっぱります。

「ねむってはいけない、おきてください。ふゆのまじょ、にんげんのおんなのこがきたらつかまえるようにいい
ました。でもわたし、あなたをつかまえたくはない。いそいでにげてください」
「俺は女じゃないって言っているだろう!」
「おおきなこえ、ださないでください。まじょのてしたがきいてしまいます。さあ、はやく」

フォーンはジャレの手を引いて急いで雪の道を走ります。雪の山道はすべりやすく、何度も転びそうになりながら
夢中で走りました。ようやくもとの場所にくると、洞窟の入り口が見えました。

「あそこがあなたがでてきたばしょです。すぐにもどってください」
「でも、お前は俺を逃がして大丈夫なのか」
「だいじょうぶです。あなたはいいつたえにあるような、おんなのこではないので・・・」
「あ、そうか、大丈夫だよな。じゃあお前も気をつけろよ、その悪い魔女とかに」
「わるいまじょではなく、ふゆのまじょです。このくにはずっとながいあいだふゆがつづいています」
「それは大変だな。今度コリーと一緒にここに来るよ。あいつ記憶を失っているけど、俺よりずっと強いから。
魔女でもなんでもやっつけてやるから・・・じゃあな、早く戻らないとあいつが心配するから・・・」

ジャレは洞窟に入りました。すぐに明るくなって出口が見えます。

「おい、ジャレ、ウサギを獲ってきたぞ。お前何やっているんだ。薪を集めて火をおこしておけって言った
だろう。何にもやってないじゃないか!」
「大変だよ、コリー!この洞窟、別の世界に繋がっているんだ。向こう側に出たらまだ雪が降っていて、おま
けに山羊と人間が合わさったような変な生き物がいるんだ!」
「ジャレ、夢でも見たのか?この洞窟はすぐそこで行き止まりだよ。他に続いてはいない。それにほら、こんな
暖かくなってから雪が降るなんて・・・山羊と人間が合体した・・・ハハハ、<ゴート族>にはそういう話が
伝わっているんだ。俺達にもあるさ、<ウルフ族>は二頭の青くて美しいオオカミが祖先だって・・・」
「コリー、君はいろいろなこと思い出しているのに僕のことだけはまだ・・・」
「ごめん、思い出せない・・・でもお前が大切なやつだってことはわかる。こっちへ来い。なんだ体が冷えて
冷たくなっているじゃないか。やたらに寝るんじゃない、危ないぞ」

コリーはやさしくジャレの体を抱きしめました。


拍手お礼文4   「新しい旅」(4)

 翌日、コリーはまた獲物を探しに出かけてしまいました。ジャレは洞窟の奥へとゆっくり歩いて行きます。

「おかしいなあ、確かにきのう、この奥から外に出て、そこは雪が降っていて変な生き物がいた」

 ジャレが歩いていくとまた確かに外の光が見えました。やはり前と同じように雪が降っています。前と同じ
景色、ジャレは雪の中をゆっくり歩いて行きました。フォーンという人間とヤギを合わせたような生き物に出
会った場所はすぐわかりました。降り続く雪のため、足跡はどこにも見えません。それでもそのフォーンの家
のあった方角に向かって歩き出しました。

「どうしたんだ、一体何が起こった!」

前に来たフォーンの家の入り口の大きな木は倒れていました。まるで引き抜かれた雑草のように大きな木が根本
をむき出しにして倒れているのです。この大木を切り倒すのではなく根こそぎ引き抜けるほど大きな生き物がい
るのでしょうか。そして彼が前に入ってお茶を飲んだ家の中はめちゃくちゃに壊されていました。テーブルやイス
は巨大な力で踏まれて折れ曲がり、カップは粉々のかけらになっています。フォーンの姿を描いた大きな肖像画
が床に落ち、その胸には鋭く尖った氷が突き刺さっています。

「驚いたかい?裏切り者のフォーンは連れて行った。だがお前は何も怖れることはない」

大きな声が響きました。振り返るとジャレの身長の2倍ぐらいはありそうな大きな女の人が立っています。白いドレス
と全身を覆う真っ白な毛皮、頭には白く光る飾りの玉をつけた冠をつけています。その顔は美しく、威厳に満ちたも
のでした。

「あなたは・・・一体誰ですか・・・僕達よりとても大きく・・・」
「私はこの国の女王です。予言によればこの国ができてちょうど1000年過ぎた時、人間がこの国にきて王になる
と言われています。お前はそのためにきた人間ですね」
「ちょ、ちょっと待ってください。いきなり王と言われても僕はこの国のことよくわからないのです。足がヤギ
のような人間とか、あなたのようにとても大きな人とか・・・僕のような小さな人間がとても王様になるなど」
「私は人間ではありません。魔女です。お前が怖れるのなら、同じ姿となりましょう」

魔女の姿はたちまち小さくなり、ジャレより少し大きいくらいの背丈になりました。

「これでいいですね。もうお前は怖れることなどなにもない。ほら見えるでしょう。遠くのあの山の頂に見える
白い城が・・・あの山も城も全部お前のものになるのです」

魔女が指差すとそこだけ雪は降らなくなり、遠くの山とそこにある城がはっきりと見えました。

「でも僕、1人でここにずっといるわけにはいかないのです。コリーが・・あ、僕の友達が待っているから帰ら
ないと心配します。僕達もうずっと一緒に旅をしているのです」
「それならばその友達もこの国にきて、王になればいいでしょう。二人の人間が来て王になると言われています」
「でも、ここにどうやってきたら、いつも来られるわけではないのです」
「わかりました。それではこれを食べてごらんなさい」

ジャレは魔女が差し出した白い小さな二つの塊を受け取りました。

「心配することはない。これはお前達の国ではホワイトチョコレートと呼ばれているものです。これを食べれ
ば自由にいつでもこの国に来ることができます。お前に一つ、そしてその友達に一つ、さあ食べてみなさい」

言われるままにジャレはその白い塊の一つを口に入れました。それは甘くて今まで食べたことのない味がしま
した。甘い塊は口の中でゆっくり溶け、幸せな気持ちにさせてくれます。ジャレはうっとりして目を閉じました。


お礼文5  「新しい旅」(5)

 洞窟に戻ったジャレは一人でコリーの帰りを待ちます。手にはあの不思議な国の女王にもらった白い塊が
一つだけ残っています。コリーはなかなか戻ってきません。

「遅いな・・・早く戻ってくれないかな・・これおいしかった・・・こんなおいしいもの生まれて初めて食べ
た。ああ、どんな味だったかな。一口だけ、ちょっとだけならかじってもいいよな。・・・ああ、おいしい、
友達にも一つ、コリーの分も残しておかないと・・・ああ、でもおいしい。そうだ!コリーの分はまたもらえ
ばいいや。女王様なんだもの、いつもこういうもの食べているさ。あーあ、こんなに小さくなってしまった、
いいや、全部食べてしまえ・・・また明日もらえば・・・なんておいしいんだろう・・夢のようだ・・・・」

ジャレはうっとりしながら、いつのまにかまた眠ってしまいました。

「ジャレ、悪い、今日は獲物をしとめることができなかった。木の実を少しだけ拾ってきた。食べるか」
「いいよ、僕はそんなにおなかが空いてないから、君が全部食べていいよ」

コリーはジャレの腹の上あたりを、そっと手でさすりました。ジャレはドキリとしましたが、白い小さな塊ぐらい
ではそんなに腹は膨れてはいません。それでも自分が独り占めしたことを知られたらどうしようかと、胸はドキドキ
します。コリーの手はジャレの体をゆっくり触ります。

「お前は細いから、何か食べないとすぐ倒れてしまいそうで心配だ」
「大丈夫だよ。もともと体は細いんだ。君の方が獲物を追いかけて走り回っているんだ。何か食べた方がいい」
「そうか、じゃあ、俺が食べて少し休んだらもう一度何か探してくるよ」

コリーは固い木の実をそのまま食べ、また立ち上がって洞窟の外に行こうとします。その手をジャレは握りました。

「待って、外じゃなくて、こっちの奥の方へ行ってみようよ」
「また変なことを言い出す。奥は行き止まりだよ」
「いいからさ、早く・・・こっちは吹雪だけれど・・・」

ジャレはコリーの手を取って歩き出しました。いつのまにか二人は雪の降る森の中に立っています。

「どうしてこんなに雪が!今はもう春だろう!それにこの森・・・・どこまで続いているんだ!」

コリーは驚いて叫び声を上げます。

「森はそれほど広くはありません。この森には終わりがあります。この先には山も平原も湖もあります。でも
この国の冬には終わりがありません。長い間雪が降り続いています」

どこからか声がします。でも二人の近くにはその声の主らしい人間の姿は見えません。

「誰だ!どこにいる。姿を隠していないで出て来い。ここはどこだ!俺達はどこに迷い込んでしまった」
「あなたの目の前にいます」
「目の前って誰もいないじゃないか」
「はじめまして、ビーバーです」
「ビ、ビーバー・・・ビーバーが口を利いた。おいジャレ・・・一体どういうことだ。俺達はどこに迷い込んで
しまった。・・・本当にあのビーバーが話をしているのか」
「知らないよ、ビーバーなんて初めて見た」
「予言では二人の人間がこの国に来て、冬の魔女を倒し、王になると言われています。ここにいては危険です。
さあ、後についてきてください。いそいでください。・・・冬の魔女の手下がどこにいるかわかりません」

二人は驚きながらも、言われるままにその大きなビーバーの後ろをついて行きました。

                                       −つづくー


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