ミエザの熱い夏(2)
アレキサンダー 15歳
ヘファイスティオン 15歳
カッサンドロス 17歳
フィロタス 17歳
プトレマイオス 20歳
アリストテレス 45歳
レオニダス 50歳
「ああ、暑い。部屋の中も暑いだろうな。ヘファイスティオン、少し外へ出ないか」
「うん、いいよ」
カッサンドロスが誘うと、ヘファイスティオンはあっけないほど簡単に承諾してくれた。暑い夏の夜、気晴らしに散歩でもしたいと彼も思っていたのだろう。建物の外に出ると広大な庭園が広がっている。アリストテレスが、アテネのアカディミアと同じように散策しながら思考を張り巡らす場所が必要だと特別に作らせたのである。もっともスパルタ式の体育教師レオニダスなどは散策など必要ないと考えている。この二人の教師の考えはかなり違っているが、それでもミエザではお互い譲り合ってそれぞれの得意とする教科を生徒に教えていた。二人はよく手入れされた庭園をゆっくり歩いた。
「星がきれいだな」
「月の動きと星の動きは違うって先生が言っていたよね。月は太陽と同じように東から出て西に沈む。でも星の中には一晩中沈まずにまわっているものがあるって・・・・」
「俺達、かなり難しいこと習っているんだよな。もしかしたらアテネのアカディミア以上かもしれない」
「きっとそうだよ。アレキサンダーは言っていた。スパルタは衰え、アテネも学問は盛んだけど軍事力は衰えているから、次にペルシャに対抗するために立ち上がるのはマケドニアだって」
「そうかもしれない。俺の父とアレキサンダーは今アテネに行っている。軍事的なことで、アテネに学ぶことはもう何もないかもしれない。新しい時代に俺達は生きている」
「新しい時代か。アレキサンダーがいるからね」
ヘファイスティオンが歩みを止め、うっとりと星空を眺めた。ヘファイスティオンの心にはいつでもアレキサンダーがいる、憎らしいほどに・・・・
「そこのベンチで休もうか」
「うん」
庭園のあちらこちらに休むためのベンチや日を避ける屋根のついた東屋があった。レオニダスはこんなに休む場所ばかり作ったら子供を堕落させるだけだと非難したが、アリストテレスは学問を究めるためには落ち着いて話せる場所が必要だと譲らなかった。だが、東屋の中には人目につきにくい場所にあるものも多く、生徒達が夜、愛を囁くのにかっこうの場所を提供していたのだが、アリストテレスはこれをあえて禁じたりはしなかった。男同士の愛は、それが互いの欲望ではなく知識や知恵を交換するならば、素晴らしい力となって新しい都市を築き、世界を広げるものだとこの哲学者は考えている。
「なあ、ヘファイスティオン。お前はもうアレキサンダーと・・・・」
「もちろんキスしたり、裸で抱き合って寝たりしているよ」
ヘファイスティオンはあっけらかんと答えた。実を言えば、彼らもまた互いの欲望を真に満足させる方法など知らず、ただ体を触れ合っているだけであった。
「愛しているのか、アレキサンダーを?」
「もちろん愛している」
「どれくらい?」
「彼のためならいつでも命を投げ出すことができる。アレキサンダーはいつも言っている。自分はアキレウスで僕はパトロクロスのようだと・・・・」
「アキレウスとパトロクロスか」
カッサンドロスはため息をついた。自分はなんのためにヘファイスティオンをここへ誘い出したのだろうか。欲望?征服?嫉妬?・・・・どれも違っていた。いつも感じていたが、今夜のヘファイスティオンはあまりにも無邪気で真っ直ぐである。
「プトレマイオスとフィロタスはおそらくやっているだろう」
「あの二人、仲がいいからね。早くアレキサンダー帰って来ないかな」
「それ前にちょっとだけ、俺と試してみようとは思わないか?」
言い終わる前にカッサンドロスはヘファイスティオンの唇に自分の唇を押し付けた。激しい衝動を感じ、歯をこじ開けて舌を絡めた。ヘファイスティオンは口を固く閉じ、カッサンドロスの顔を自分から引き離そうとした。
「何をするんだ!」
「大声を出すな。近くに他のヤツがいるかもしれないぞ。やっぱりお前はまだ子供だな。キスの仕方もろくに知らない」
「キスぐらい知っている。バカにするな!」
「それなら試してみよう。ここでは人がくるかもしれない。もっと奥へ行って・・・・」
「痛いなあ、カッサンドロス、そんなに強く手首を握らないでよ」
「離してもちゃんとついてくるか?」
「もちろんだ」
カッサンドロスは素早く庭園の小道を歩いた。いつも授業ではゆっくり話しながら歩く道だったが、レオニダスでさえ驚くほどのスピードだった。後ろを振り返ったりはしていない。ヘファイスティオンはついてくる、そう確信していた。森の入り口にある東屋に入った。ここまで来る者はめったにいない。カッサンドロスは中の椅子にドサッと腰を下ろした。まだ息切れがするが、きわめて冷静を装った。
「ここなら誰も来ない。さあ、キスのやり方を知っているなら、今ここでやってみろ」
「いいよ」
ヘファイスティオンが口をカッサンドロスの唇に押し付けた。だが、ただ唇を触れているだけでそれ以上のことは何もしてこない。カッサンドロスはヘファイスティオンの耳のあたりを両手でつかんだ。柔らかな髪の匂いが鼻腔をくすぐった。柔らかな唇をこじ開け、再び舌を差し込むとやはり激しく拒絶された。だが、ヘファイスティオンの足の間のものが膨らみかけているのが、椅子に半分腰かけ、足を絡ませていたのでよくわかった。カッサンドロスは足の位置を少しずらした。さっきよりももっと股間にあるものの形を足で感じることができた。
「ヘファイスティオン、少しじっとしていてくれ。俺はお前を愛している。ずっと前から・・・・」
腰かけているカッサンドロスの腰に大きな重さがかかった。ヘファイスティオンは力を抜いている。自分の方にもたれかかってきているのだ。唇の抵抗はおさまり、歯の間に隙間を開いた。
「ああーん・・・・・ふううーん・・・・」
意識しないままに口元から嬌声が漏れた。カッサンドロスはなおも舌に力を入れて進み、ヘファイスティオンの舌をとらえた。
「ああー・・・・・カッサン・・・・ドロス・・・・・何を・・・・」
「何も考えるな、ヘファイスティオン。俺に全てを任せればいい」
「こんなこと・・・・僕が愛しているのはアレキサンダーただ一人・・・・君のことは・・・・ああー・・・やめて」
「力を抜け、お前の体は反応しているぞ」
「いやだ、カッサンドロス!」
ヘファイスティオンは恐怖を感じた。今までアレキサンダーとしていたこととは全く違う何かをカッサンドロスはしようとしている。どうしたら逃れられるか。彼の手は自分の腰をしっかり掴んでいる。
「カッサンドロス、離して!」
「もう遅い、ヘファイスティオン。お前だってこんなに感じている」
ヘファイスティオンは眩暈を感じた。体中の力が抜けてくる。自分はどうなってしまうのか・・・・
カッサンドロスは自分のキトンを脱ぎ、ベンチの上に広げてヘファイスティオンを寝かせた。抵抗しようと思えばいくらでもできるのに、なぜか力が入らない。カッサンドロスの唇が頬に触れ、首筋を通った。ヘファイスティオンの体は敏感な場所に触れられるたびにビクンと動く。
「なんだ、お前、こんな場所まで感じるのか」
カッサンドロスが笑いながら言った。ツンと立った乳首に唇をあてれば、それだけで喘ぎ声が漏れた。
「ああー・・・・カッサン・・・・やめて・・・・はああーん」
「気持ちいいんだろう。もっとよくしてやるぜ」
経験はなくてもカッサンドロスの本能が次にどこに触れればいいかを教えてくれた。片手で腰を軽く押さえ、片手で腿の内側をなぜれば、体をよじって逃れようとする。
「ああー・・・・ひいいい・・・・やめて・・・・」
「こんだけ感じるヤツが、よくアレキサンダーとの間には今迄何もなかったな」
カッサンドロスは自分自身激しい欲望が湧きあがるのを感じた。腰につけていた布を外し、充分乱れていたヘファイスティオンの衣服も剥ぎ取った。ヘファイスティオンの足の上にまたがり、腰を激しく揺らした。
「ああ、いい、お前は最高だ」
カッサンドロスの欲望は強く膨れ上がった。ヘファイスティオンの膝にこすり付けると、かってない快楽に全身が包まれた。暑い夏の夜、周りの暑さ以上に自分の体に熱を感じる。ヘファイスティオンの股間を見れば、そこもまた大きく膨らんでいるのがわかる。足を絡め、互いのものを絡めるようにして、体の上にまたがった。
「ああ・・・・カッサンドロス・・・・何を・・・・」
「お前も気持ちいいだろう」
「やめて・・・・こんなこと・・・・アレキサンダーとだって・・・・」
ヘファイスティオンの目に涙がたまっていた。体は快楽に溺れそうになりながらも、頭では必死に抵抗していた。
「目を閉じろ、ヘファイスティオン。俺をアレキサンダーだと思えばいい・・・・」
「ああ、こんなこと、アレキサンダーとはけっして・・・・ああーん」
カッサンドロスの腰の動きが激しくなった。彼の重さがかかっているため、ヘファイスティオンは体を動かすことがまったくできない。擦りあわされる二人のものは熱くたぎってきた。逃れようとしながらも、より強い刺激を体は求めている。体中の神経が一点に集中した。ヘファイスティオンもカッサンドロスも目を閉じた。二人のリズムは一つとなり、ある一点を目指して互いに擦りあい、叩き付け合った。ほとんど同時に二人とも頂点に達し、体が軽くなるのを感じた。カッサンドロスが力を抜いてヘファイスティオンの体に倒れこむとその重みで彼の精液も吐き出された。体中が二人の体液でベトベトになり、汚れているはずだ。それなのに力が入らず立ち上がることができない。涼しい風が吹いてくる。なんて心地よいのだろう・・・・
「うわー!水はまだ冷たい」
「本当だ」
「ヘファイスティオン、しっかり洗っておけよ。体につけたままではマズイ」
「わかっている」
二人は泉に来て体を清めていた。
「俺、お前に対して悪いことしたのかな」
「そうだよ、あんなこと・・・・アレキサンダーやみんなには・・・・絶対に言わないで欲しい」
「わかった、約束する。その代わり、もう一度いいか?」
カッサンドロスの問いにヘファイスティオンの動きはしばらく止まった。冷たい水に体が冷やされガタガタと震えがきた。ヘファイスティオンは星空を見上げ、そして大きく頷いた。自分の口からいいとは絶対に言いたくない。
「もうそれぐらいでいいだろう。早く泉から出て体をふけ、震えているぞ」
カッサンドロスの声が聞こえた。ヘファイスティオンは無言で自分の腹や腰に手をあて、激しくこすって汚れを擦り落とそうとした。彼は決して自分を許し、受け入れたわけではない。だが、そうして自らを清めようとしているヘファスティオンはなんて美しいことか。一文字に固く結ばれた口元がカッサンドロスに新たなる欲望を与えた。
−つづくー
後書き
熱く激しく不器用な若い時の恋、うーん、難しいです。この二人、まだ完全に結ばれてはいません。初体験の時は欲望をコントロールできずただただ激しさに身を任せて失敗することも多いだろうな、などと考えながら書きました。それにヘファイスティオンは気持ちは完全にアレキサンダーに向かっているので複雑です。
2007、8、2
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