ミエザの熱い夏(5)
アレキサンダー 15歳
ヘファイスティオン 15歳
カッサンドロス 17歳
フィロタス 17歳
プトレマイオス 20歳
アリストテレス 45歳
レオニダス 50歳
アレキサンダーがミエザに戻ってきたのは、夏が終わり、秋風が吹く頃になってからだった。今までの暑さが嘘のように涼しくなり、アリストテレス、レオニダスなどの教師達は暑さでだらけた遅れを取り戻そうと熱心に生徒の指導にあたった。ヘファイスティオンは何事もなかったかのようにアレキサンダーと行動を共にした。彼の隣で学び、訓練に励み、同じ部屋で眠る毎日、カッサンドロスとの関係は遠い過去のように思われた。カッサンドロスもまたアレキサンダーが戻ってからは極力ヘファイスティオンとの接触を避けた。
「カッサンドロスと何かあったのか?」
突然のアレキサンダーの質問にヘファイスティオンは驚いた。
「え、別に何もないけど・・・・」
「アンティパトロスがカッサンドロスのことを気にしていた。本来なら自分の息子を同行させ職務を教えるべきところだが、それ以上に俺にすべてを教えたいと彼は考えている。父上がまだ健在だというのに、何をあせってそれほど・・・・」
「アレキサンダー、君はフィリッポス王の第一の王子だ。でも最近王が新しい王妃を迎えるのではないかという噂が流れている」
「アッタロスの姪、エウリディケのことか」
「いくら新しい王妃が来ても、誰もが君こそマケドニアの王に相応しいと思っている。だからこそアンティパトロス大臣もわざわざ君を連れ出した。そのことでカッサンドロスが少しひがんでいるかもしれないが、仕方のないことだ」
思いがけない言葉がヘファイスティオンの口から出た。カッサンドロスがひがんでいる、体を重ねたためだろうか、ふっと彼の気持ちがわかってしまったのだ。今までのように自分に嫌味を言うこともなくなった。自分にも言葉にできない苛立ちを彼は感じていた。そして、そのはけ口を別のところに向ける・・・・
「どうした、ヘファイスティオン?」
「みんな少しずつ変わってきたと思って」
「変わらなければいけない。ここミエザでの勉強が終わったら、プトレマイオスやフィロタスは将軍に、カッサンドロスは大臣となるようそれぞれ仕事が与えられる」
「君は王になるための・・・・」
「そうだ。そしてお前は俺を支えなければならない」
アレキサンダーの表情が変わり、真剣な眼差しでヘファイスティオンを見詰めた。
「俺が一人前の男になった時お前を求める。それでいいか?」
「うん・・・・」
曖昧な返事をヘファイスティオンは返した。自分はもうカッサンドロスとそれを経験している。彼に知られないためにはもっと後になった方がいい・・・・いつ、アレキサンダーは自分を求めてしまうのか・・・・
教練の後、体についた汗と土を洗い流すために皆で泉へと向かった。水はもう冷たく、手早く体を洗わなければ凍えるほどである。ヘファイスティオンはチラリとカッサンドロスの方を見た。長い金の髪、白い肌、すらりとした細い体、だが彼の情熱は熱く激しかった。彼もまた自分の方をじっと見る。視線が顔から少しずつ下がり何もつけていない下半身を見詰める。水は冷たいのに体は火照って熱い。
「ヘファイスティオン、早く洗わないとかぜをひくぞ。お前、寒い季節になるとすぐ熱を出して寝込むから」
「あ、うん」
熱い体はある場所に意識が集中してしまう。そこに手を触れると硬くそそり立っているのがわかる。ヘファイスティオンは慌ててしゃがみ、腰を水の中に沈めた。手で素早く刺激を与えると、水の中にドロリとした液体が放たれた。無意識のうちに片方の手を体の後ろに回し、指で自分の秘部に刺激を与えていた。うっとりするような心地よさ、ヘファイスティオンは顔を上に向け、日の光を体一杯に浴びた。すぐそばにはアレキサンダーが、そして少し離れた場所にカッサンドロスや他の仲間達もいた。だが、ヘファイスティオンの目には誰もうつっていなかった。
「お前もついに自分で慰めることを覚えてしまったのか。だけど、皆がいる前であんな表情をするな」
「アレキサンダー、僕は・・・・」
「きれいだった。あんな顔見せられたら、誰も自分を抑えられない」
夜、部屋でいつものように寝るはずだったが、アレキサンダーは突然ガバッと飛び起きて毛布をどかし、ヘファイスティオンの寝るベッドへと歩いた。体に巻きつけた薄い腰布を手早くはずし、ヘファイスティオンの隣に寝て肩を抑えた。
「アレキサンダー、僕はまだ・・・・・」
「いやだとは言わせない」
アレキサンダーはヘファイスティオンの体の上にまたがり、両肩を手で強く押さえて顔を近づけた。いつも寝る前にする軽い口付けや戯れの抱擁とはまるで違う激しい口付けにヘファイスティオンは驚き、顔を左右に揺らした。
「待って、アレキサンダー、明りを消して・・・・」
「だめだ。俺はお前の体すべてをこの目に焼き付ける」
「だって、僕達はいつでもこうやって一緒に暮らし・・・・」
「いつも一緒にいる。それなのにお前が離れてしまいそうで恐い。ヘファイスティオン、もう一度お前に聞くぞ。お前は本気で俺を愛し、全てを受け入れるつもりなのか?」
「・・・・・」
ヘファイスティオンは目をそらし、唇を噛み締めた。カッサンドロスと関係を持った夜のことがまざまざと頭に浮かんだ。
「どうして目をそらす?俺のこと本気で愛してはいないのか」
「愛している、愛しているよ・・・・でも、僕は君と並んで立てるような立派な人間ではない。将軍や大臣の家の生まれではないし、武力や学問で特別な才能があるわけでもない。いくら愛していても、君にふさわしい人間にはなれない」
「だからお前は俺がいない時に別のヤツと関係を持った。相手はカッサンドロス!そうだろう!」
「違う、そんなことはしていない」
「嘘をつけ!お前は絶対何か隠している」
アレキサンダーの手が、ヘファイスティオンの頬を激しく打った。ヘファイスティオンは目を閉じた。唇が切れ、血が流れているのがわかる。恐る恐る目を開け、アレキサンダーの手の平に自分の手を重ねた。
「こんなに熱くなっている。これでは君の手が痛くなるから、これを使って」
ヘファイスティオンは立ち上がって歩き、アレキサンダーの上着の上にあった革ベルトを手渡した。
「君ので悪いけど、僕はまだこれをもらえるような活躍をしていないから」
マケドニアでは戦場で敵を殺すまでは一人前の男と認められない。一人前と認められ革ベルトを締めていたのはミエザではアレキサンダーとプトレマイオスの二人だけだった。ヘファイスティオンは腰布を取り、裸になって再び自分のベッドに横になった。
「僕は君を裏切り、カッサンドロスと関係を持った。だからそれで気が済むまで打って欲しい」
「そんなにあっさり認めてしまうくらいならなぜ裏切った。カッサンドロスが卑怯な手段を使ってお前を脅した、そうだろう?」
「違う、僕の方から彼の部屋へ行った」
「お前は俺を愛しているのではなかったのか!」
「愛している、今でも愛しているのは君だけだ。許されるならどんなことでもする」
「この部屋で大騒ぎして悲鳴を上げたら、見張りの兵士が驚いて駆けつける」
「絶対に悲鳴は上げない。うめき声も出さない」
「俺の手がどれほどの力があるのか、どれほど激しい性格か、お前はわかってないだろう」
「わかっている、でもそれを自分の体で確かめたい」
「いいだろう。お前が少しも悲鳴を上げなければカッサンドロスとのことは許してやる。だけど少しでも声を出したら・・・・」
「僕は君の前から姿を消す。二度と顔は見せない」
アレキサンダーは立ち上がった。手に持ったベルトを2、3回床に振り下ろした。ヘファイスティオンは固く目を閉じた。体にベルトがあたり、鋭い痛みが走った。2度、3度と続くと体は熱くなり、痺れるような痛みに襲われた。歯を食いしばって唇が切れ血が流れた。続けて数回打たれ、耐え切れずに体をよじり、小さな呻き声が漏れた。
「これぐらいでもう声を出す。やっぱりお前は意気地なしだな。さっさと俺の前からいなくなってくれ」
「アレキサンダー・・・・」
ヘファイスティオンの目から涙が流れた。彼は立ち上がろうとしたが、背中が痛くてうまく起き上がることができない、ベッドから転がり落ちるようにして床を這い、アレキサンダーの足元へと向かった。
「はあ、はあ・・・・ああ・・・・」
足首を押さえ、顔を埋めた。真っ直ぐ立つアレキサンダーの足をヘファイスティオンは舐め、四つん這いになって彼自身を口にくわえた。
「何の真似だ、ヘファイスティオン。こんなことで俺の機嫌をとろうとしているのか」
「愛している・・・・アレキサンダー・・・・」
「今度、俺を裏切ったら本当に許さないからな」
「アレキサンダー・・・・愛している・・・・」
ヘファイスティオンは何度もアレキサンダーのその部分を舐めた。アレキサンダーの手がヘファイスティオンの腰へと回った。
「もういい、ベッドに戻れ。お前を抱えては歩けない」
「アレキサンダー・・・・」
「今度こそ悲鳴は上げるなよ。お前の体は血だらけだ。誰かが来たら困る」
ヘファイスティオンは頷き、立ち上がって自分より背の低いアレキサンダーの首に手を回した。二人の顔が近づき、激しい口付けが交わされた。
アレキサンダーにとってそれは初めてのことだったが、本能と友人から聞いた断片的な知識がどうすればよいかを教えてくれた。うつ伏せになって横たわるヘファイスティオンの尻に手をかけ、香油を垂らした指をゆっくりと差し入れた。
「ああー!・・・・・はあー・・・・」
「声を出すなと言ってあるだろう。そんなにいいのか・・・・」
「わからない・・・・僕は・・・・・」
「もっとよくしてやる、ヘファイスティオン」
「ああああー・・・・・アレキサンダー・・・・そんな・・・・」
指の数が増やされ、ヘファイスティオンは体をよじった。だが香油をつけた指は腰を動かせば動かすほど体の奥深くへと食い込まれた。ベルトで打たれた背中が痺れるように痛く、その感覚を思い出すたびに体の奥からも液体が染み出して香油とまざりあった。びちゃびちゃとはっきり聞こえる音を立てながら、アレキサンダーの指はヘファイスティオンの内壁を貪り掻き回した。
「ひゃあああー・・・・うわああー・・・・もうやめて・・・・」
「いい顔をしている。お前は男の欲望を掻き立てる。だが、これからは俺以外の男を受け入れることは許さない」
「ああー・・・・・ひいいいー・・・・」
「もういいだろう」
アレキサンダーはヘファイスティオンの内部に入れた指を外に出した。彼の硬くなったものを少し擦れば、すぐに精液があふれ出した。手についた粘液を自分のものに擦りつけ、アレキサンダーは大きく息を吸って止めた。入り口につければ粘液と香油でベタベタになっているとはいえ、まだ秘部は閉じられて、ビクビクと震えている。
「ヘファイスティオン、本気で俺を愛しているか」
「愛している・・・・・ああー・・・・・ひいいいー」
再び鋭い痛みがヘファイスティオンの全身を貫いた。理性はなくなり、痛みを感じるたびに叫び、体をくねらせて逃れようとした。アレキサンダーの動きは激しく、力任せのものであった。ヘファイスティオンはただ痛みを逃れるのに必死になった。体の内部が引き裂かれ、割られるように痛い。血を流しているかもしれない。背中も、唇もどこもかしこも血を流し激しく痛む。
「うわあああー・・・・ひいいいー・・・・」
一際大きな悲鳴を上げ、ヘファイスティオンは意識を失った。
ヘファイスティオンが目を覚ました時、夜はすっかり明けていた。アレキサンダーは一睡もしていない。ヘファイスティオンの隣に横になり、寝顔をずっと眺め時々顔に手を触れていた。
「あ、もう明るくなって、早く起きて・・・・」
「無理だよ、その体ではまともに歩けない。お前は熱を出したと言ってやるから、しばらく寝ていろ」
「大丈夫・・・・ああ・・・・」
立ち上がろうとしたが、すぐにうずくまってしまった。
「だから言っただろう。ヘファイスティオン、悪かった。お前にはかなり酷いことをした」
「アレキサンダー・・・・」
「本当に声も出さずに耐えているから、俺もついムキになって何度も打ってしまった。痛かっただろう。それなのにお前は歩けなくて這ってでも俺のところにやってきて俺の体を舐めた」
「どうしたらいいかわからなくなって・・・・君と離れるなんてことできないから」
「うれしかったよ、ヘファイスティオン。だけどお前は無理をしすぎる。本当に体が熱く、熱があるみたいだ」
アレキサンダーが額にあてた手を、ヘファイスティオンが掴んで自分の口の上に重ねた。
「だめだ、ヘファイスティオン、これ以上いろいろしたら、お前は当分寝込むことになるぞ。愛し合うことはいつでもできるが、ミエザにいる日はもう終わりも近い。しっかり勉強してもらわないと困る。俺が王になった時、隣に並ぶのはお前なのだから」
「カッサンドロスは?」
「あいつは適当に大臣にでもしておく。お前のことで恨んで、役職を奪うほど俺は心の狭い人間じゃない」
「それなら僕はあんなに打たれて・・・ああ、まだ痛い・・・・」
「俺を裏切った罰だ、それぐらいは当然だろう」
「そうだね、もう二度とあんなことはしない」
「その痛みを忘れるな。まあ、俺達が離れ離れになることはもう二度とないだろう」
「もう二度とない・・・・」
ヘファイスティオンの顔がさっと曇り、その時誰の顔が浮かんだのかアレキサンダーにはすぐわかったが、そのことを追求したりはしなかった。
「来年の夏、俺達はペラに戻らなければならない。ミエザの夏は今年限りだ」
「ミエザの熱い夏は終わった」
「そんなに今年の夏は暑かったのか?」
「暑かったけど、もう忘れた。君はもう行かないと、誰かが迎えに来たら大変だよ」
「すぐに行く。ああ、このベルトにも血がついて・・・いいか、獣を槍でしとめた時についた血とでも言えば・・・・ヘファイスティオン、こうして血の誓いまでたてた、だからもう二度と・・・・」
「わかっている、アレキサンダー・・・・」
ヘファイスティオンは静かに微笑んだ。アレキサンダーは着替えを済ませ、部屋の外に出た。
「えー!ヘファイスティオンはまた熱を出したのか。こんな時期にゆっくり水浴びなんかしているのが悪いんだよ」
「あいつは本当によく熱を出すな」
「最近レオニダスの訓練が一段と厳しくなっただろう。サボりじゃないのか」
「そんなことないよ。ヘファイスティオンはできなくても一生懸命やっているもの」
通路で話す仲間達の声が寝ているヘファイスティオンの耳にも聞こえた。相変わらずカッサンドロスは嫌味っぽい。ヘファイスティオンはクスリと小さく笑った。信じられないほど暑かった今年の夏、それはもう遠い昔のように思えた。
−完ー
後書き
すっかり夏が終わった頃、「ミエザの熱い夏」終わりまで書き上がりました。ヘファのカッサンとの浮気、アレクにバラしていいのかどうか迷いましたが、やっぱり黙っていてもアレクにはわかってしまうだろうとこのような形にしました。何でもすると言いながらも耐え切れずに声を出してしまうヘファ、でもプライドを捨ててまでも自分のところに来ようとする姿に、アレクも許してしまいます(というか、最初から許す気でいたが、なにか少しくらいは懲らしめたいと思った)こういう罰に憧れる私、やっぱりMなのかなあという気持ちも・・・・今の時期、リンクも切ってあるので訪問者はごくわずかだと思いますが、それでも最後まで読んでくださった読者の方に感謝します。
2007、9、20
目次に戻る