7,sandy wastes

エンリケは退学になった。僕は神学校に残っている。希望は全て失われた。僕はただ毎日与えられた日課をこなしているだけである。神に対する祈りの言葉を口にし、神を称える賛美歌を歌う。なんのために?もう信じるものなど何もないのに・・・・

「イグナシオ、心が乱れているようだな。何を悩んでいる」
「すみません」
「エンリケのことをまた考えていたのか・・・・」
「いいえ・・・」
「懺悔室に来なさい。一緒に神の前で祈ろう」

校長先生になったマノロ神父に連れられて僕は懺悔室に入る。祈りのためにその部屋に入るのではない。そこでマノロ神父は僕に何をするのか、その行為がどんな意味をもつのか、僕はいつのまにか知ってしまった。僕は知っている、それがどれほど神の意思に反した罪深い行為であるかを・・・・だが僕は真っ直ぐにその部屋に向かった。

僕の体は衣服を脱がされ、寝台の上に横たえられた。これが神に捧げる生贄ならば僕は罪を犯したことにはならない。だけど僕は生贄にされるわけではない。

「イグナシオ、怖がらなくていい・・・お前にはなんの罪もない」
「はい・・・・」

虚ろな声で答えれば、マノロ神父の手が僕の背中にゆっくり触れていく。寝台も手の感触もひやりとするほど冷たい。何度も何度もさすられ、僕の背中は熱くなっていく。

「お前にはなんの罪もない・・・ただ・・・あまりにも美しく生まれすぎた・・・」

冷たい手が僕の体の内部にも侵入してきた。熱いのか、冷たいのか、それとも痛いのか・・・渇いた体を貫く衝撃に身を縮めるが声は出ない。喉もカラカラに乾いている。今、僕の体は熱くなっているにちがいない。体をよじり、痛みを逃そうとするが逃れることはできない。刺すような痛みと信じられない刺激に固く目を閉じ、口を開いて助けを求める。カラカラに渇いたのどから声はでない。





「ねえ、イグナシオ、学校の様子はどう?エンリケとはどんな話をしているの」

休みの時に家にもどれば、弟のフアンがしつこくつきまとってくる。フアンだけではない。両親も村の人も次々とやってきて僕の様子を見に来る。特別の神学校に通っている特別な子、将来が楽しみ・・・みんながそう噂する。僕のどこが特別なんだ。神は僕を見捨てた。救われることは決してない。

「ねえ、イグナシオ、今どんなこと勉強しているの?エンリケとはどう?」
「うるさいな!エンリケは退学になったよ」
「退学!え、どうして?何か悪いことでもしたの・・・どうして退学になったの・・・まさか僕の祈りを・・・」
「うるさいな!お前はあっちへ行ってろよ・・・関係ないだろ」

フアンの手を払いのけ、屋根裏部屋へ入りベッドに潜り込んだ。何もかもいやになる。そばにいれば弟のフアンだって殴り倒したくなる。僕が特別な子なんて嘘だ、嘘に決まっている。本当は誰よりも罪深く汚れている。あの行為が何を意味するのか知っている。わかっていながら僕はマノロ神父の手を思い出し、その時の痛みを思い出しながら目を閉じ、足を交差させて自分の体の中心をベッドにこすりつけるように動かした。

「エンリケ、助けて・・・僕はどうなるの・・・何度もそれを思い出してしまう。僕の体は君の手を覚えている。あの映画館のことも覚えている。それなのにどうしてこんなことを・・・僕は汚れて罪深く・・・どうしてこんなことを・・・」

体に力を入れ、刺し貫かれた痛みを思い出した。呼吸は荒くなり喉がカラカラに渇く。それでも僕は自らを慰めるその行為を止めることができなかった。もっと鋭い痛みを・・・あの時はもっと・・・激しく擦りつけた体の中心からドロリとした液体が流れ出て、ようやく僕は落ち着いて我に返った。





「エンリケは退学になったの?」
「ああ、退学になった。彼は罪を犯した。みんなと一緒にいてはいけないと校長先生が判断した」
「そう、よかった・・・」

夜、同じベッドに横になり、フアンの質問に穏やかな声で答えると、彼も素直に自分の心を吐き出した。よかったというこの言葉、フアンは僕のこと好きだからエンリケに対して嫉妬していたのだろう。よかったなどという言葉を素直に口に出してしまう幼い弟をかわいらしく感じ、抱きしめてやった。エンリケに対しての嫉妬、まさかマノロ神父も同じ感情を・・・・違う、そんなことはない、彼は神に仕える神父様だもの、そんなこと思うわけは・・・でもあの行為は何?なんのために何度も罪深い行為を・・・違う、あれは罰なんだ・・・僕が正しい道に進めるよう教えてくれるために・・・それは嘘だ・・・どうしてわかっているのに・・・わからない、あれはみんなを救うための罰なんだよ・・・違う、わかっているはず・・・・

「何を考えているの」
「なんでもないよ、なんでもない」
「イグナシオは学校を卒業したら大学に行って、本当に神父さんになるの?」
「わからないよ、そんなことまだ」

弟の問いには驚くほど冷静に答えていた。自分の心の中は混乱しているというのに・・・





「イグナシオ、懺悔室へ」
「はい・・・」

何回か同じような経験をすると、僕の顔はマノロ神父に話しかけられるだけで赤く染まった。僕の体が熱くほてっているのも感じる。部屋に入ると自分から服を脱いで寝台の上に横たわった。体の熱さは寝台の冷たさを感じさせなかった。体をなでる手も驚くほど熱い。僕はその手の愛撫に少しずつ反応して微かな喘ぎ声を出した。

「だれも聞いてない。もっと声をあげていい」
「でも、神様が見ている」
「目を閉じていればいい。誰も見ていない、神も今ここにはいない」

激しい手の動きに僕はまた喘ぎ声をあげた。自分の体の中心が熱くなり、固く立ち上がっているのを感じた。自分の部屋のベッドで感じたのと同じ衝動が体中を駆け巡った。あの痛みが欲しい・・・あの衝撃が・・・僕は自分からひざを少し曲げ、それを待った。僕の体は強い力で押し広げられ、激しい痛みに貫かれる。少し腰を動かしていた。これは違う、こんなこと決して許されることではない・・・これは罪なこと・・・それなのに・・・

「がまんしなくていい、自分の感じるままに・・・・」

赤茶けた砂漠が見える・・・砂嵐で何も見えない・・・激しい嵐の渦・・・巻き込まれる・・・喉がカラカラに渇く・・・苦しい・・・ここにいてはいけない・・・巻き込まれる・・・砂嵐の渦に・・・体が痛い・・・引き裂かれる・・バラバラになる・・・たすけて・・・どこにつかまれば・・・熱い・・・水が・・・・水が・・・・ほしい・・・助けて・・・巻き込まれる・・・

「もう楽になれ・・・お前に罪はない」

その声はマノロ神父の声ではなかった。もっと大きく力強く厳かな声が聞こえ、僕は手を離し砂の渦へと飲み込まれていった。





目が覚めた時、きちんと服を着せられ、マノロ神父以外のたくさんの先生が僕の顔を覗いていた。同じ懺悔室の寝台の上にいるようだ。

「もう大丈夫だろう。イグナシオは感受性が強すぎる子だ。ここで祈りを捧げている間に神の声を聞き、意識を失ったのだろう」
「それは素晴らしい奇蹟ですね。マノロ神父」
「そうだ。これほどの子はこの学校でも滅多にいないだろう。大切にしなければ・・・」
「わかりました」

何を言っているのだろう。これは神の奇蹟などではなく、ただ僕がおかしくなって、おかしなものを見ただけなのに・・・僕の体も心も汚れている・・・でもそれをうまく言葉で伝えることもできない。ただ虚ろな目をして回りを見渡すだけである。




                                          −つづくー



後書き
 久しぶりの悪教育更新です。この映画も難しい、イグナシオがなぜ性転換をしたり薬に溺れるようになったのか、その心を辿ろうと考えるととても難しいです。
2006、5、17




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