見張り  ファラミア18歳(12歳)、アムロス18歳(14歳)、マルディル23歳(18歳)
                  ボロミア23歳、クローディル45歳(36歳)、ファレス16歳

 だんだん歩くのも苦しくなってきた。背負った荷物は重く、肩に食い込んでくる。暑くはないのに汗が流れ落ちる。何よりも下半身の痛みが耐えられないものになってきた。体の中心が歩くたびにズキズキと痛む。ついにはその場にしゃがみこんでしまった。

「すみません。ファラミアが調子が悪いようです。ちょっと待ってください」

近くを歩いていたアムロスが声をかけてくれた。僕たちのグループは今すべての持ち物を持って移動しているところだった。僕とアムロスを入れて合計12人、すべての物といっても、テントや武器、食料や着替えなどここで生活するのに必要な最低限のもので、僕の荷物などは一番軽くしてもらったが、それでも歩き出して数時間もしないうちにもう動けなくなってしまった。

「まだ先は長い、もう動けなくなったのか、しょうがないな」

リーダーのマルディルが僕の近くに来た。彼も、そのほかのメンバーもみなそろいの濃い緑色の服を身につけている。僕とアムロスも同じ服を着るはずであったが、体が小さくてそれでは動きにくいので、結局前と同じ服を着ていた」

「すみません。ファラミアの荷物は代わりに持ちます」
「なぜお前が謝る。ファラミア、歩き方が変だったがけがでもしているのか」
「ミナス・テリスで石の階段でつまずいて転んで・・・」
「そんなところで転んだのか。それなら荷物は俺とアムロスで分けて持ってやるから、しっかり歩いて来い」
「はい」
「ファラミアの荷物は俺が持ちます」
「できもしないことを簡単に言うな。このあたりは暗くなればオークがうろついている。誰か一人でも遅れさせるわけにはいかない」

僕の荷物は二人に分けられ、また歩き始めた。肩の痛みはなくなったが、下半身の痛みはますます強くなった。階段で転んだというのはうそだった。なぜそんな場所が痛いのか。僕にはその理由ははっきりわかっていたが、それを誰かに話すわけにはいかない。



 暗くなる頃、ようやく目的地に着いたようだった。小高い丘の上に大きな塔が建っていた。ずいぶん古いものらしく壊れかかっている。

「ここは千年以上も前から見張り台として使われてきた場所だ。この塔も壊れかけているがまだまだ使える。しばらくの間ここを拠点にする」

他のメンバーたちは着いてすぐからテントを張ったり、食事の用意をしたりと忙しく働いていた。でも僕とアムロスは疲れて座ったままだった。

「オークに出会わなくてよかったが、普通こういう時は新入りが率先して働くと思うが・・・」

マルディルが笑いながら話しかけてきた。

「もう、動く力も残っていないのか」
「そうです」

アムロスが小さな声で答えた。

「ここは上下関係は厳しくないが、それにしてもお前達は気楽だな。まあファラミアは本当なら俺たちには声もかけられないほど身分の高い人間だけど・・・」
「イシリアンでは生まれや身分は全く関係ない。執政の子であることは忘れるよう、最初に言われました」
「こうして見ていればお前達はまったく変わりがないから、俺もお前が執政の子であることはつい忘れてしまう。マブルングに何度も言われたが・・・」
「何を言われたのですか?」
「ファラミアは執政の子だ、そのことだけは忘れるなと何度も言われた。同じことを何度も・・・わかっているのに」

 夜になると二人だけ見張りをするために塔に登り、あとの者はテントで寝る。マルディルはアムロスを連れて塔に登り、僕はテントでねるように言われた。塔の上の方とテントの張ってある場所はかなり離れているのに、僕の耳には二人の話し声がはっきり聞こえてしまった。

「ファラミアは今いくつだ」
「18です。俺と同じ年だから」
「あいつはヌメノールの血が濃いから実際の年齢よりかなり幼い。18といっても12,3の子供と体は同じだろう。お前はもう少し上で14、5ぐらいか。ファラミアはまだ子供だ。あんまり無理なことするな」
「どういう意味ですか」
「歩けなくなるほどのことはするな。あれでオークに襲われたら大変だった」
「ミナス・テリスで階段から落ちたと・・・」
「それはうそだ。歩き方を見ていればすぐにわかる」

彼らは僕のことを話している。僕のうわさ話などしないでほっといて欲しい。

「つまり俺がファラミアを歩けなくなるほど強く抱いたと言いたいのですか」
「そういうことだ。別に誰と抱き合っても構わないが、ここは戦場だ。いつオークに襲われるかわからない。相手が動けなくなるまでするようなことはやめろ」
「俺は何もしていない!あいつはまだ子供だから無理させてはいけないと思って・・・じゃあ一体誰が!無理やりやったのか!」
「ちょっと待て、そう興奮するな。お前はファラミアのことになると全く理性を失ってしまう。背負いきれない荷物を自分で持つと言い出したし・・・」
「・・・・・」
「ファラミアに夢中になる気持ちもわからないわけではない。だけどお前は特に危ないから、あんまり一人に夢中にならないほうがいい」
「夢中になったら気が狂って死ぬ・・・父親と同じように・・・同じ血が流れているから」
「彼の戦士としての実力は相当なものだった。お前もその才能を確かに受け継いでいる。だけどたった一人の相手に夢中になったからその相手を失った時精神のバランスを壊してしまった。俺は近くで見たわけではないけど、そう話には聞いている」
「しまいにはひどい状態になって、見るに見かねた仲間に殺された。だから俺はここにいても絶対に誰かを愛したりはしないと決めていた。男同士、そんなことには絶対にならないと・・・それなのにファラミアに夢中になって・・・」

しばらくの間沈黙が続いた。

「アムロス、もっと近くに来い。離れていては寒いだろう」
「でも俺は・・・」
「そんなに無理してつっぱらなくていい。ここではいつもオークとの戦いがあって、仲間の死も数え切れないほど見てしまうけど、いつも一緒に行動していて、ある程度心の中まで読めてしまうから、もうみんな家族のようになっている。俺だって特別好きになって抱き合っている相手はいるし、年齢は下でもリーダーだからみんなに指図をし、命令を出さなければならない。でもここに長くいると、誰が上だとか誰を愛しているかとかそんなことはどうでもよくなってくる。傷ついているやつがいたらかばい、疲れているやつがいたら休ませてやる。お互いそうやって助け合って生きてきた。お前も一人で何もかも抱え込もうとしないで、もっと俺たちに頼って甘えていいんだよ」
「俺は人に甘えるのは慣れてないから・・・」
「見張りは一人で充分だ。お前は疲れているようだから先に休め。俺にもたれかかって寝ればいい」
「こんな格好で寝られるのですか」
「慣れればこの格好が一番快適だよ。なにもかも人に任せて全てを忘れ、自分は目を閉じていればいいのだから・・・」



 ハラドとの戦いは先が全く見えず、俺も兵士達も苛立ちを募らせていた。彼らはいつも数十人で奇襲攻撃をしかけ、決して堂々と戦ってこようとはしない。少しずつハラドの本拠地に近づいているはずなのだが、敵の数がどれくらいで、何を考えているかが全く見えてこなかった。

「ボロミア様、昨晩の奇襲攻撃はハラドの兵士が30人、こちら側は10人が犠牲になりました」
「30人と10人、わが軍のほうが犠牲は少ないが、それでも毎回何人かは犠牲になっているな。一体こんなことがいつまで続く」
「わかりません。敵の考えが全くわからないので・・・次に来た時はすぐに殺さず、何人かは残してしゃべらせるようにしたほうがいいでしょうか」
「拷問か。俺はそういうやり方は好きではないが・・・」
「でもこのままでは、わが軍の犠牲は多くなるばかりです。ハラドはおそらく数万の兵士がいるのでしょうが、ゴンドールはこの軍の千人が一番大きな隊です」
「そうだな、何か別の方法も考えなければ・・・」

クローディルと毎晩のように話し合っていたが、なかなかよい方法はみつからなかった。父との情事を知った時から俺はこの男と一緒に寝ることはなくなったが、指揮官である彼と話さないわけにはいかなかった。

「ボロミア様、入ってもよろしいですか?」
「ちょっとまて、まだ話し合いが終わっていない。もう少したってから来い」
「かしこまりました」

「私の口からこのようなことは申し上げにくいのですが・・・」
「なんだ、言いたいことがあるならさっさと言え」
「夜のお相手は慎重に選ばれたほうがよろしいかと思われます。兵士達の中にはあなたのお相手に選ばれ出世したいと考えている者が数多くいます。彼は若くて功績もなく、何よりも辺境の小さな村から来ている者です。そんな彼を寵愛すれば、兵士達の不満は高くなるばかりです」
「俺は夜の相手も自由に決められないのか!別に彼は出世など望んでないし、俺も相手に選んだからといって特別扱いするつもりはない!」
「ボロミア様がそのおつもりでも、兵士達はそうは思っていません。なぜ彼が選ばれたのか、様々な憶測が飛び交い、大変な騒ぎとなるかもしれません」
「だから俺はお前を相手にしていればいいというのか。お前はどうやってわが父上に取り入った。たくさんの競争相手を蹴落とし、プライドや人間性を捨てて命令に従い、父上に言われればどんな屈辱的なことでも喜んでやっているのだろう。あの時俺を誘惑したのも父上の命令か!お前は俺の見張り役か!」
「あの時のことはデネソール様の命令ではありません。私の一存でしたことです。もし不快に感じているのならば、私をどのように処罰してもかまいません」
「今実際にこの隊を動かしているのは隊長の俺ではなく、指揮官のお前だ。そのことがわかっているからお前は俺に何でも言う。だが一つだけはっきり言っておく。俺はもう二度とお前を相手に選んだりはしない。話しがすんだらさっさと出て行ってくれ!」
「わかりました」

クローディルは俺のテントから出て行き、しばらくしてファレスが入ってきた。

「ボロミア様、本当に私のようなものがお相手をしてよろしいのでしょうか」
「誰かに何か言われたのか?」
「直接言われたりはしていません。でもいろいろなうわさは耳に入ってしまいます」
「お前は俺のことどう思っている」
「りっぱな方だと思っています。心から尊敬しています」
「その気持ちだけで充分だ。すべて俺にまかせろ。お前は何も心配しなくていい」
「はい、ボロミア様」




 
見張り塔の場所に移動して数日が過ぎた。まだオークは一度も姿を見せず、平和な日が続いた。ある晩、僕とアムロスが見張り役に選ばれた。二人で塔の上に登る。月が出ているので、遠くの森までよく見渡せる。

「ファラミア、ミナス・テリスで何があったか教えてくれ。お前は急に変わってしまった。マルディルも随分心配している」
「この前、僕の噂話をしていたね。ここでは隠し事はできない。正直に話すよ。ミナス・テリスで僕は初めて兄のボロミアに抱かれた」
「・・・・・・」
「僕は初めてそのことを経験した。あんなに痛いことだとは思わなかった。僕はそれまでなにも知らなかったから、ボロミアにも君にも平気で抱きついて愛しているって言っていた。ただキスをして、裸で抱き合うこと、それが愛し合うことだと思っていた。僕はそうやって寝ることが大好きだった。誰かにしがみついていれば安心して、いい夢を見られる。でも愛し合うことはそうじゃないんだよね。すごく痛くて苦しくて体を引き裂かれることなんだよ。何人も一緒に愛することはできない。たった一人、引き裂かれてもいいから結ばれたい、ひとつになりたいと思ったのはボロミアだけだった。僕は心の奥底でそうなることをずっと望んでいた。生まれた時からずっとボロミアだけを見て、ボロミアにしがみついて生きてきた。僕たちは本当の兄弟だし、いつも一緒にはいられない。でもしかたがないんだよ。僕はもう他の誰かを受け入れることはできない」

アムロスは長い間黙っていた。何か言葉を探そうと口を動かしていたが、それは言葉になっていなかった。しばらくたってからようやくゆっくり話し始めた。

「ファラミア、もっと近くに来いよ。離れていたらお互いに寒いだろう。だいじょうぶ、決して強く抱いたりはしないよ」

僕はアムロスの近くに行って座った。

「俺のほうに背を向けてもたれかかって座ってごらん。こうすると楽だろう。マルディルが言っていたよ。ここで長く暮らしていると誰が上だとか誰を愛しているかとか、そんなことはもうどうでもよくなってくる。みんな家族みたいになっているから、傷ついたやつを助け、疲れたやつを休ませる。そうやって助け合って生きている。俺たちは家族なんだから、疲れたときはよりかかって休んでいいんだよ」
「でも僕は・・・」
「見張りは一人で充分だ。お前はこのまま寝ていいよ。誰かに寄りかかって寝ると気持ちいいよ。何もかも人にまかせて、何にも考えないで・・・俺はお前の見張り役になってやるから、お前は何も心配しなくていい。

僕は彼に体をあずけ目を閉じた。僕の頭がアムロスの胸についている。彼の胸が小刻みに震えている。アムロスは声を殺して泣いているのだろうか。目を閉じていても彼の顔も表情もはっきり見えた。彼の目から涙がこぼれ落ちそうになった時、僕は少しだけあごを上にあげた。彼の涙を顔で受け止めた。胸の震えは長い間続いていた。


                                                     −つづくー


後書き
 思いが通じなくただ見ているだけの見張り役はつらいですね(涙)この章は1日前に書き上げたのに、リンクを張るときうまく動かずついヘルプなど押してしまったら全部消えてしまい(その日に限って途中で保存してなかった)泣きながら(?)もう一度最初から書きました


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