17、恐怖
ファラミア18歳(12歳) アムロス18歳(14歳) マルディル23歳(18歳)
ボロミア23歳 クローディル45歳(36歳) ファレス16歳
僕は見張りの塔の上で過ごす日が多くなった。僕の耳はかなり遠くの足音や声も聞くことができた。目もほかのみんなよりも遥かに遠くまで見ることができた。見張り役としてはうってつけなのであろう。それに僕はオークとの戦いでは全く役に立てない。いまだに戦うどころかただその姿を見るだけでも震え上がってしまう。オークはほとんど夜活動している。だから目で見るよりも足音で近くにいることを知ることが多い。また足音が聞こえる。ちょうどみんな寝たばかりの時間だというのに・・・まだかなり遠いが、少しでも早く報告するように言われているのですぐにマルディルの寝ている場所に行く。
「オークの足音です。まだかなり遠いけど、10人ぐらいはいると思います」
「10人、ちょうどいい数だ。お前達2人も見に来い」
「それなら俺もいよいよ」
アムロスが喜んで言う。
「いや、まだだめだ。お前達2人はまだオークの前に出すわけにはいかない。ただ見ているだけだ。すぐに出かける用意をしろ」
「また見ているだけ・・・いつになったら・・・」
「アムロス、お前にはそのうちにいやというほどオークと戦わせてやる。今は文句を言わずに、俺達の動きをよく見ていろ」
一度合図があれば、他の人達はほとんど物音も立てずに、すばやく身支度を整えてしまう。僕達も念のため護身具を身につけ、剣や短剣を何本か渡される。そして夜の森をオークのいる方へ向かって歩き出した。
「ボロミア様、今夜あたりかなりの数のハラドの襲撃があると思われます。すぐに迎え撃つ準備を始めてください」
「何人ぐらい来る」
「300人以上いると思います」
「そんなにたくさん・・・お前はどうして敵の数まで正確にわかる」
「敵の足音と後は長年戦場にいる勘です」
「ヌメノールの血か。俺にはそんな血は少しも流れていないから、何年戦場にいても、そういうことは少しもわからない。ただ目の前にいる敵を倒すだけだ。いつ敵が襲ってくるか、目の前にいる相手が何を考えているか、そんなことは少しもわからない」
「急いで準備をしてください。それからできるなら・・・300人以上いるならきっと・・・」
「何を言おうとしている」
「数百人の兵士を率いているなら、それなりに指揮をしている者が必ずいるはずです。その者を捕らえればハラドの様子も少しはわかるかもしれない。指揮を執っている者、身分の高そうな者はできるだけ殺さずに生きたまま捕らえたほうが・・・」
「拷問するのか」
「ハラドに勝つためにはそれもやむを得ないのでは・・・そのように命令を出しておいてもよろしいですか」
「俺の許可がなくても、お前は最初からそうするつもりだろう。勝手にしろ!実際にこの軍を動かしているのは俺ではなくてお前なのだから」
俺は兵士達のテントを回り、すぐに戦いの準備をするように命じた。見張りの数も増やした。だがこちらが戦う準備が整っていることがわかれば敵は何もしないで逃げ出すかもしれない。千人以上いる俺達の軍隊とまともに戦っても勝ち目のないことはわかっているだろう。だから気がついていないふりをして、奇襲と見せかけて敵を誘い込み、全滅させなければならない。集まった兵士達に要点を話し終わると、また彼らにそれぞれのテントに戻らせた。だがファレスだけはなかなかテントに戻らずにうろうろしている。
「どうした、敵が来るのが怖いのか」
「すみません。すぐに戻ります」
「俺のテントに来い」
「でも、敵がすぐ近くに・・・」
「大丈夫だ、まだ来るまでには時間がある」
俺はファレスを自分のテントに入れた。顔色は青ざめ、体は小刻みに震えていた。その様子はますますファラミアに似ている。ファラミアも彼のようにオークを見て震えているのだろうか。
「お前は初めての戦いだ。怖がるのも無理はない」
「すみません、ボロミア様。何年も訓練を受けているのに、いざとなったら足が振るえ・・・」
「もっと近くに来い。まあ、敵がいつ来るかわからないから、いつものようなことはできないが・・・」
「ボロミア様」
俺はファレスの体を抱きしめた。薄茶色の柔らかな髪、細い体、ファラミアと同じように、彼もまだ兵士というにはあまりにも幼く、力がない。
「怖がらなくてもいい、戦いはすぐに終わる。そうだ、お前はずっとこの俺のテントの仲に隠れていればいい。このテントの周りは見張りが多い一番安全な場所だ」
「しかし、それでは私は何の役にも立てません」
「この軍に強い兵士はいくらでもいる。戦いなどできなくても、お前は俺のそばにいてくれるだけでいい」
「ボロミア様、入り口にあたる場所の兵をもう少し増やした方がいいと思います。あの場所が一番危険です。力があり、なおかつ敵をうまく中に誘い込めることができる者を・・・」
クローディルの声がテントの外からした。俺は腹が立ってきた。あの男は結局は自分の思い通りに軍を動かしているのに、細かいことでもいちいち俺の許可を取りに来る。そうすることで一応、俺を大将としてたてているのだろうけれど・・・
「そう思ったら、さっさと増やせばいいだろう。何もかも俺に聞きに来るな」
「そういうわけにはいきません。ボロミア様がこの隊の隊長、私はただの指揮官なのですから、最終的に命令を出せるのはあなただけです」
「わかった。そこまで言うなら、俺がその場所に行く」
「ボロミア様、それは危険です。あなたにもしものことがあれば・・・」
「うるさい、いちいち指図するな。俺は自分がどの程度のことができるか、自分のことぐらいよくわかっている」
俺の耳にもはっきりたくさんの馬が走る音、敵の叫び声などが聞こえてきた。すぐ近くまで来ている。俺は剣を持ち、テントの外へ走り出した。
オークの足音がすぐ近くに聞こえる。話し声も聞こえる。なんていやな声だろう。何を言っているのかよくわからないがぞっとするような声である。
「ファラミア、大丈夫か。顔色が真っ青だ」
「お前達2人はこの辺りで隠れていろ。ここからならよく見える。アムロス、怖がらないで俺達の動きをよく見ていろ」
「俺は怖がっていません」
マルディルはいきなりアムロスを抱きしめた。
「こんなに震えている。やっぱりまだ怖がっているな。俺もお前と同じだよ。子供の頃オークに家族を殺された。オークを見ただけで震えが止まらなかった。それが今ではこうしている。お前も早く慣れろ。恐怖さえ克服できればお前はりっぱに戦えるようになる」
「ファラミアに対しては何も言ってやらないのですか。ファラミアは俺よりももっと怖がってあんな顔をした・・・」
「ファラミアは今のままでいい。あいつは見張り役で充分だ」
「ちょっと待ってください、今なんて」
「悪い、余計なことを言ってしまった。オークが来る、静かにしていろ」
マルディル達はオークに向かって走っていき、僕とアムロスだけがその場に残された。
「あいつは見張り役で充分だ。見張り役で充分・・・」
マルディルの言葉を僕は繰り返した。
「ファラミア、静かにしろ、オークに見つかるぞ」
「僕は見張り以外何の役にも立たない」
「そんなことはないよ。お前だって最初に来たときに比べれば随分よくなっている」
「見張り以外に役に立たない。お前は本当にそうなのか。まだ誰もわかっていないようだな。お前の本当の力を・・・」
「え、いま、誰が」
「ファラミア、どうしたんだよ。大声を出すなと言っただろう」
「いま、何か声がした」
「何も聞こえない。おい、もうオークとの戦いが始まっているぞ。しっかり見ておけと言われてただろう」
「うん・・・」
返事はしたものの僕はその戦いを終わりまで見ることはできなかった。血だらけになって倒れる人、オークのうめき声、恐ろしい叫び声が目を閉じていても耳に突き刺さる。
「やめて、たすけて!」
「おい、ファラミア、しっかりしろ、見てなきゃだめだろう」
「だめだよ。僕にはできない」
やがて叫び声は消え、静かになった。
「やっぱり、お前達にはまだ無理か」
「すみません、俺もファラミアも・・・」
「1人怪我をしている。さっきの叫び声で別のオークがきたら大変だ」
「大丈夫です。この近くでは、もうオークの足音は聞こえません」
「急いで戻ってけが人の手当てをする。お前達も早く来い」
「わかりました」
さっきのオークとの戦いの光景が、叫び声が、まだはっきり記憶に残っている。この記憶が薄れる前にまた次の戦いになる。イシリアンにいればオークとの戦いはよくあること、わかってはいても、実際に近くで見てしまうと恐怖心はつのるばかりであった。僕もアムロスもなかなか一人前にはなれない。
−つづくー
後書き
クローディルに対するボロミアの気持ちは複雑です。初体験の相手であり、ともに戦うパートナーとして強い絆ができていると思った時、父と彼の関係を知ってしまい・・・。ファラミアもまた、自分が愛しているのはボロミアだけと言いながらアムロスのことも気になってこちらもいろいろあります。
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