19、偵察

ファラミア18歳(12歳) アムロス18歳(14歳) マルディル23歳(18歳) ダムロド93歳(62歳) マブルング63歳(50歳)
ボロミア23歳 クローディル45歳〔36歳) ファレス16歳 デネソール71歳(47歳)

俺はあわてて意識を失ったファレスの手当てをした。何回彼をベルトで打ってしまったのか、背中には無数の傷跡があり、血が滲んでいた。手を触れると熱いので、水に浸した布を背中にあてた。

「ボロミア様、すみません。すぐに起き上がります」
「このままでいい。すまない、ひどいことをした」
「いえ、私が余計なことを言ったから・・・」
「本当にひどいことをした、痛かっただろう。俺はどうかしていた。もう俺の近くには来ない方がいい」

ファレスは起き上がり服を身につけた。

「他のものが気にしますので、今は戻ります。またここへ来てもいいですか」
「あれだけひどいことをしたのに、またお前は俺のところにくるのか」
「私の言った事を許していただけるなら、何度でも来ます」

ファレスは俺のテントから出て行き、代わりにクローディルが入ってきた。

「ボロミア様、敵とこちらの死者のおよその数がわかりました。敵の死者は500人あまり、全員死にました。一方わが軍の死者はおよそ200人、そして大きな怪我を負ったものが100人ほどいます。この者達はすぐにミナス・テリスに戻らせましょう」
「こちら側にもそんなに犠牲が出たのか、残り700人、いったん全員でミナス・テリスに引き上げ、新たに兵を集めて、体制を立て直した方がいいのだろうか」
「いいえ、ここで引き上げてはハラドの思うつぼ、国境近くのたくさんの村が襲われます。ハラドには数万の兵がいるとはいえ、今回はかなりのぎせいがあったはずです。それに私が調べたところ、ゴンドールの領土に入っている敵は数千人、この程度の数なら、奇襲攻撃で全滅させられるでしょう」
「だがどこを拠点にしているのか」
「拷問である程度のことはしゃべらせましたが、詳しい場所までは聞き出せませんでした。お願いがあります。私を偵察に行かせてください。敵の拠点を調べて参ります」
「1人で行くのか」
「1人の方が、身軽に行動できます。3日あれば調べられます。その間にボロミア様はこの隊を少しづつ南へ移動させてください」
「わかった。充分注意して行って来い」
「わかりました。どこにいてもゴンドールの勝利と・・・あなたの・・・ボロミア様の幸せを祈っています」
「俺の幸せなど・・・俺はひどいことをしている。お前にもファレスにも・・・」
「何があっても彼はあなたをうらむことなどないと思います」
「俺が何をしたのか知っているのか」
「私のデネソール様に対する気持ちも彼と同じです。うらんだことなど一度もない。そう伝えてください。そろそろ出かけます」
「気をつけて言って来い。無事を祈っている」
「ゴンドールの勝利とあなたとデネソール様、お二人の幸せを祈っています」




僕達のいる場所に、ダムロドとマブルングがやってきた。2人が同時にここに来るのは珍しい。後ろから歩いてくるのはミナス・テリスからの使者だろうか。ここにいる野伏とは歩き方がまるで違う。

「マルディル、休んでいるところを悪いが、ファラミアとアムロスの2人を連れてきてくれ。オークはほとんど夜活動しているので、ここの者は夜戦い昼は休んでいることが多いのです」
「夜の戦いか。オークはどれくらいの頻度で現れる」
「その時によって、続けてくることもありますし、一月ほど全く見かけないこともあります」
「そんな危険な場所でファラミア様は生活しているのか」

僕達は見張り塔の上にいる。ダムロドやマブルング達がミナス・テリスの使者と話している声が聞こえてくる。

「俺たちのこと呼んでいるみたいだ、降りていこう。ファラミア、あの2人を知っているか」
「見たことがない顔だけど、ミナス・テリスから来ていると思う」

僕達2人はマルディルが呼びに来る前に塔から降りて彼らの前に出た。

「どちらがファラミア様」
「私がファラミアです」
「執政のご子息ともあろうかたがこんな危険な場所で、薄汚い野伏の子供と見分けがつかないような生活をなさっているとは・・・」
「薄汚い野伏の子供で悪かったな。そんなに執政の子が大事なら・・・」
「よせ、アムロス、お前は何も言うな!」

マルディルがあわててアムロスの口をふさいだ。大将のダムロドがそれを制するかのようにゆっくりと話し始めた。

「ミナス・テリスからの使者の方々、ここイシリアンは数千年の間、ヌメノールの血と伝統を守って暮らしている最後の土地です。今はもう村もなく野伏しかいませんが、ただ戦いの技術が優れているだけでなく、深い知識や鋭い感性も併せ持つ者ばかりです。わしやこのマブルングのような年よりは大して役に立つことはないでしょうが、そこにいるマブルングとアムロスの2人は若い野伏の中でも、とりわけ才能と感受性がある者です。将来ファラミア様を、いえ、ゴンドールを支え導いていく存在となるでしょう」
「年寄りの自慢話などどうでもよい。われわれがここに来た用件を伝えよう。執政の跡継ぎ、ボロミア様の隊がハラドの襲撃に遭い、大きな犠牲が出たという報告が入った」
「ボロミアが・・・兄上は今どこにいます。ご無事ですか」
「幸い、ボロミア様は怪我もなくご無事だが、まだハラドとの戦いは終わってはいない。万が一の時はファラミア様がただ一人の執政の跡継ぎになられる」
「跡継ぎが無事な時は危険な場所に追いやって、危なくなったから連れ戻しに来たのか!執政がファラミアに何をした!」
「アムロス、黙りなさい。執政殿はどのような目的で、今回あなた方をここに使わしたのですか。この土地の重要性は執政殿もよくご存知で、またここで生活することが、ファラミア様の持っている力を引き出すことができると考えられて、執政殿はファラミア様を私どもにお預けになったのではないですか」

こんどはマブルングが話した。

「執政殿はファラミア様を連れ戻せとはおっしゃっていない。ただ様子を見て、あまり危険な場所には行かせないよう、それだけを何度もおっしゃっていた」
「それならば、こうしましょう。ファラミアのいるこのグループはしばらくの間、私どものいる本部の近くを守らせるようにします。そこならばめったにオークもきません。そして服装も執政の子息にふさわしい格好をさせましょう。それでよろしいですか」
「お前は話が早いな、名前をなんという」
「マブルングといいます。時々ミナス・テリスにも行き、執政殿とお話していますので、お考えはよくわかります」
「そうか、それならばこれからはお前がもっと何度もミナス・テリスに来て、直接ファラミア様のことを報告するようにしろ。そうすればわざわざこんなところまで来る手間がはぶける。昔はよい土地だったそうだが、今は荒れ果ててひどいもんだ。道も満足にない」
「このような大変な場所まで、来ていただき申し訳ありませんでした」

ダムロドが使者達を連れて戻っていった。マブルングが笑いながら言った。

「というわけだ。マルディル、出発の用意だ。この場所は別のグループに任せて、お前達は本部を守れ」
「守れといって、あそこにはオークなどきませんよ。退屈なだけです。ファラミアだけ安全な場所においておけばいいじゃないですか」
「ファラミアとアムロスの稽古の相手でもしてやれ、大将はお前に期待している」
「ずっとそこにいるのですか」
「いや、ボロミア様の隊の様子を見てだ。そっちが心配なくなれば執政殿もわれわれがどうしているかなど気にかけず、わざわざ偵察の使者などよこさないだろう」
「もう、うんざりです。薄汚い野伏がどうのこうのと・・・アムロスじゃなく俺だってかっとなっていましたよ」
「すみません。俺もついかっとなっていろいろと・・・」
「普段お前達は意識していないだろうけど、やっぱりファラミアは執政の子だ。それだけは心の隅においておけ。少し執政の子らしい服でも着せておくか」
「そんな服、イシリアンにあるのですか」
「あるわけないだろう。適当に話をあわせておいた。お前達もヌメノールの血を持っていて、人の心が読めるならもう少しうまく対応しろ」
「そんな余裕ないですよ。こっちは侮辱されて腹が立って」

ミナス・テリスにいる人やボロミアの軍隊にいる人は僕達のこと同じように見ているのだろうか?そしてボロミアは僕のこと、ここイシリアンのことはどう思っているのか。いまボロミアは大変な状況にいるから、僕のことを思い出す余裕などないかもしれない。




「ボロミア様、クローディル様からこれを預かりました。翌日までは決して渡してはいけないと言われ・・・」

ファレスが朝早く俺のテントに来た。翌日まではという言葉を忠実に守ったのだろう。

「何を預かった」
「この地図です」

大きな手書きの地図を渡された。ゴンドールの南部、ハラドとの国境近くが詳しく書かれ、ハラドの本拠地の場所が記されている。別の紙にはハラドの組織や守りの様子まで詳しく書かれている。ここまで詳しく知っていながら、彼はなぜ偵察になど行ったのか?

「クローディル様の帰りを待たず、この地図を見て、ハラドを攻撃するようにと言われました。あの方はもう帰ってはこないつもりなのでしょうか」
「いまなんて言った!そんなことまで言っていたのか。なぜ今まで黙っていた!」
「申し訳ありません。もどってこないと直接言われたわけではありません。ただなんとなくそんな気がして・・・」
「すぐに出発する。全軍を集めて南へ移動する。できるだけ早く。今ならまだ間に合う。間に合ってくれ。できるだけ急いで全員を呼び集めろ」
「わかりました」

なぜ俺には人の心を読む能力がまったくないのか。なぜいつも後になってから気がつくのか。最後に話したときにわかっていれば・・・そうあれは最後の言葉だった。だから同じことを何度も・・・今は考えている余裕はない。少しでも早くこの地図の場所まで行かなければ・・・俺は地図をたたんでしまい、立ち上がった。


                                                   −つづくー



後書き
 死を覚悟した時、最後に何を言うか。「どこにいても、あなたの幸せを祈っています」



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