20、襲撃
ファラミア18歳(12歳) アムロス18歳(14歳) マルディル23歳(18歳) ダムロド93歳(62歳) マブルング63歳(50歳)
ボロミア23歳 デネソール71歳(47歳) クローディル45歳(36歳) ファレス16歳
ミナス・テリスから偵察が来てからは、僕達のグループはしばらくの間大将のダムロドなどがいる本拠地近くにいるようになった。ここならばオークが攻めてくることはまずないし、滝と複雑に入り組んだ洞窟に守られ、イシリアンの中でも一番安全な場所である。イシリアンに来てから3年ぐらい、見習い野伏の僕達11人はここで生活していた。今、そのころ一緒に訓練を受けていた仲間はみなそれぞれの場所に行き、僕よりだいぶ年下の新しく来た子供が同じように訓練を受けていた。
体の小さな僕は、ちょうど新しく来た年下の子供達と同じぐらいの背の高さであった。剣や弓の腕前も、結局同じぐらいであるからほとんど一緒に訓練を受けるようになった。僕と同じ年のアムロスは背の高さは僕とあまり違わなくても、剣や弓の腕前は大人の野伏に負けないほどの実力があったから、僕と一緒に訓練は受けず、ほとんどマルディルがいろいろ教えていた。リーダーのマルディルはここにいることにかなり不満を持っているようだった。なにかにつけマブルングに対して文句を言っている。
「俺達のグループはファラミアにつきあって、いつまでここにいなければならないのですか?」
「ゴンドール軍とハラドとの戦いが終わるまではファラミアは安全な場所にいたほうがよいだろう。ハラドとの戦いが思うように進まず、執政もいらだっているだろうから」
「だったらファラミアだけここに置いておけばいいじゃないですか。ファラミアは新しく来た訓練生と似たようなものだから、もう一度一緒に訓練を受けさせればちょうどいい。でも俺達はここでのんびり訓練していようとは思わない。アムロスだって早く実戦を経験させなければいつまでたってもオークを倒せない」
「アムロスを使う時には気をつけたほうがいい。あの子はあの男の血を引いている。どれだけ実力があってもいつどうなるかわからない」
「どうしてファラミアとアムロスをずっと一緒にしておくのですか?あいつはファラミアのことになるととたんに冷静さを失う。急に泣き出したり、俺にくってかかったり・・・本当にあの二人はどう扱ったらいいか、悩むことばかりです」
「あの二人を一緒にしておくというのは、俺の考えではない。大将のダムロドの考えだ。アムロスならファラミアの力を充分伸ばせると・・・ダムロドはファラミアを次の大将にと考えている」
「本当ですか!いくら執政の子だからといって、ファラミアの今の力を考えると、年下の訓練生にまで負けるほど・・・」
「確かにファラミアは今は弱いが・・・だが彼のあの視力と聴力は・・・ここの、いやゴンドールで一番いいだろう。これであと予言の力さえ身につければ・・・実際に剣を持つ手は弱くても、ここの大将、指導者だ」
「未来の大将だからつきあってそばにいろ、ということですか」
「まあ、そんなところだ。いくら不満があっても・・・それからもうひとつ言っておく、マルディル。アムロスのことはあきらめろ。あいつの目はファラミアしか見ていない」
「俺は別にアムロスのことそんなふうには・・・」
「ここでは隠し事はできない。心が読めるから考えていることはすぐにわかってしまうし、ファラミアなど、どこにいても会話は全部聞こえているよ」
「そうですね、ファラミアの耳には全部聞こえてしまう・・・」
そう、僕の耳には、人の会話も足音もすべて聞こえてしまう。見張りをするには便利かもしれないが、聞きたくない話、聞いてはいけない話でも知ってしまう。今までも、これから先もずっと・・・僕の感覚は鋭くなるばかりだ。剣や弓の腕前はなかなか上達せず、一人前に戦うことはできないのに、感覚だけが鋭くなっていく。
僕は今どこにいるのだろうか?月明かりの下、大勢の兵士が行進しているのが見える。あの旗はゴンドールの白の木、ボロミアの軍隊だ!顔が見えなくてもボロミアがどこにいるかはすぐにわかる。堂々とした大将の姿は馬に乗った後姿だけでもよくわかる。でも僕はいまいったいどこにいる?僕はイシリアンにいるはずだし、こんなに上の方から、軍全体が見渡せる場所にいるのはおかしい。
ボロミアの軍隊よりも先に僕は目的地の方へ行っていた。たくさんの見張り塔、これはゴンドールが作ったものではない。人が血を流して倒れている。別の国の人の顔。これがハラドという国の人なのだろうか。見張り塔の上で血を流して死んでいる人。あそこにも、ここにも・・・みんな死んでいるのだろうか。一人の男が剣を持ち、見張り塔の上に上ってきた。彼はゴンドール人に間違いない。紋章も何もつけず、顔も布で覆っているが、ゴンドール人であることははっきりわかる。彼は数人のハラドの人の中に飛び込んでいく。激しい斬り合いが続く。だがどうしたのだろうか、聞こえるはずの悲鳴や剣のぶつかる音が全く聞こえない。静まり返った戦いの中、やがてハラドの人は皆倒れ、ゴンドール人のその人だけが立ち上がった。どこかで見た顔だが、思い出せない。
この見張り塔は見覚えがある。イシリアンで僕達が何度も見張りをしていた場所。よかった、やっと知っている場所に戻って来た。でも見張り塔にいるのは僕達とは別のグループの人だった。遠くからオークの足音、またたくまにオークが近づいてくる。どうしてこんなに速く、こんなにたくさんのオークが・・・知らせなければ・・・でも僕に気づいてくれない!声を出そうとしても声は聞こえず、体を触ることもできない。すぐにオークに取り囲まれてしまう。助けて!何の音も聞こえない静かな戦い。だけど味方の人間より、オークのほうが数がずっと多い。どうしてこんなことに!オークに刺されて1人が倒れる。体の小さい、少し前まで僕達と一緒に訓練を受けていた・・・助けて!・・・殺される・・・
「ファラミア、おい、ファラミア。どうした、しっかりしろ」
アムロスに声をかけられて目を覚ました。僕は夢を見ていたようだ。
「ずっとうなされていた。怖い夢でも見たのか」
「最初、ボロミアのいる軍隊の夢を見た。それから僕達が前にいた見張り塔がオークに襲われて・・・いくらさけんでも誰も気がつかないで・・・一人殺されて・・・前に一緒にいた・・・」
「おい、どういう夢を見たのか詳しく話せ」
近くで寝ていたマルディルが僕のすぐ近くに来た。僕は夢の中のことを詳しく話した。
「お前はしょっちゅうこんな夢を見ているのか」
「いつもという訳ではないけど・・・」
「はっきりした夢であるのが気になる。マブルング達に話して様子を見てくる」
「急いでください。もうオークはすぐ近くまで来ています」
「俺達も連れて行ってください」
「いや、アムロスとファラミアはここで待っていろ!何かあったら角笛を吹く。急いでみんなを起こして準備をするように言ってくれ」
「わかりました」
すぐに準備は整った。その時、前に僕達のいた見張り塔の方角からかすかな角笛の音が聞こえた。危険を知らせる合図だ。その場所まで歩けば1日かかる。走っていっても数時間必要である。間に合うだろうか。マルディルは仲間を連れてすぐに走っていった。助けを求める角笛の音が何度も聞こえた。他の場所からも援軍がいくだろう。
「ファラミア、ここじゃ、滝の音がうるさくてよく聞こえないだろう。ついてこい」
アムロスに手を引かれて走った。暗い山道も彼と手をつないでいると、驚くほど速く走れた。やがて小高い丘の上に出た。
「ここなら静かだからよく聞こえるだろう。俺には無理だけれど・・・」
丘の上に座り、目をつぶる。遠くからかすかに悲鳴のような声が聞こえる。僕は意識をその方向に集中させた。少しずついろいろな音が聞こえるようになった。剣のぶつかる音、人間の悲鳴、オークの叫び声・・・
「あ、危ない、助けて!」
「もうこれ以上聞かないほうがいいか、耳をふさいでいてやろうか」
「静かにして・・・僕があの場所にいればもっと早く気がついて・・・全部聞かなければ・・・」
俺はファレスから渡された紙を見て驚いた。ハラドの本拠地の地図、見張りの場所や門の位置、それぞれの場所の兵士の数や敵の大将のいる位置まで詳しく書き込まれていた。ハラドの兵士の数は数万人、俺の軍隊千人の数十倍の人数である。確かにまともに戦っていては勝ち目は薄い。しかも敵は奇襲ばかりで、こちらの兵力を少なくしようとしている。だがこれだけ詳しく書かれたものがあれば・・・クローディルはこれだけのことを敵から聞き出すために、どれだけのことをしたのか。そしてなぜ、ここまで詳しく敵の情報を手に入れておきながら、わざわざ一人で偵察になど行こうとしたのか。まさか最初からそのつもりで・・・俺は渡された紙を丁寧にたたんで胸にしまった。
「すぐにここを出発する。全員でできるだけすばやく行軍し、ハラドの本拠地まで進む。すぐに伝えてくれ!」
ハラドの本拠地までほとんど休みもとらずに行軍を続けた。三日目の夜、荒地にたくさんの見張りの塔のようなものが見えてきた。ハラドに気づかれないよう全員を此処で休ませ、数人を偵察に行かせる。状況がよければ、ここで一気に攻め込むつもりだ。だが敵はどう出るのか。数万の兵がいるはずなのに、辺りは静まり返っている。偵察に行かせた者が戻って来た。
「ボロミア様、大変です。ハラドの見張りの者が何者かに殺されています」
「なんだと!それは本当か」
「はい、一番近くまでは行っていませんが、少なくともこの辺りの塔には敵は一人もいません。一体なぜこのようなことが・・・」
「それはよい知らせだ。見張りがいないのならば、敵に気づかれずに中まで入り込めるかもしれない。すぐに出発の準備をしろ。夜明けまでには決着がつく、ゴンドールの勝利は間違いない」
俺達の軍隊は叫び声をあげ、ハラドの本拠地に攻め入った。荒れ果てた土地にあるその場所は生活のためではなく、戦いのためだけに作られているのだろう。周りの城壁は厚いが、ここにも人の姿がほとんど見えない。城門を押し破り、中に進入した頃、やっと敵も気がついたようだった。激しい戦いが始まった。俺は周りにいる敵を片っ端から殺していく。周りの兵士に指示を出し、少しずつ奥の方へと入っていく。一体何人を殺したのか、敵の大将はどこにいるのか。長い戦いが続く。自分も何箇所かを切られ、血が出ているのを感じる。だが痛みは感じない。俺は負けるわけにはいかない。どんなことをしてでもゴンドールを守らなければならない。ファラミアは今何をしているのだろうか?
−つづくー
後書き
ファラミアの予知能力、次第にはっきりしたものになります。感覚もさらに研ぎ澄まされて、他の人には見えないものが見え、聞こえないことが聞こえてしまう。こうした能力は戦いには便利だけれど、人として生きていくためには不幸なことかもしれません。
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