21、声
ファラミア18歳(12歳) アムロス18歳(14歳) マルディル23歳(18歳) ダムロド93歳(62歳)
ボロミア23歳 クローディル45歳(36歳) ファレス16歳 デネソール71歳(47歳) マブルング63歳(50歳)
「死ぬ前にもう一度ボロミア様に会いたい」
心の奥底で、感じた思い。今僕はどこにいるのだろうか?暗闇の中、少しずつ目が慣れてくる。高い場所にいるようだった。
「城門を壊さなければ・・・」
また声が聞こえた。すぐそばに人がいる。彼はゴンドール人に間違いない。高い城壁の上から下の様子を見ている。下にはたくさんのゴンドール人とは全く違う衣服を身に着けた兵士達。
「何をぐずぐずしている。もうやるべきことはすべて終わった。あとは城門を壊して、ハラドの中に飛び込めば彼らが捕まえて好きなやり方で殺してくれる。これでやっと何もかも終わりにすることができる」
「待って、今出て行ったら殺されるだけだよ。もうすぐボロミアの軍隊が此処に来る。ボロミアが危ない。助けて」
「誰だお前は!」
「ファラミア」
「どうして此処に・・・」
「わからない、でも今出てはいけない。ボロミアの命が危ない、お願い、助けて!」
角笛の音が聞こえた。ボロミアの軍隊が到着したようだ。激しい音がして、城門は壊され、兵士がどっと中に入ってくる。激しい戦いが始まった。叫び声やうめき声、剣のぶつかりあう音、血の匂い・・・だけど僕はその場所にはいない。少し離れた高い場所でこの光景をじっと見ている。
激しい戦いが続いているが、いつのまにか森の中にいた。戦っているのはボロミア達ではなく、イシリアンの野伏で、相手も人間ではなくオークであった。野伏の中で一番小さい体の彼はずっと一緒に訓練を受けてきた。目の前にいるたくさんのオークに怯え、震えていた。こんなにたくさんのオークを見たのは初めてであった。50人以上はいるだろうか?そのオーク達がいっせいに襲い掛かってくる。
「ファラミア、何を怖がっている。そのオークどもを、この場所まで誘い出したのはお前だろう」
「だれ、何を言っているの?」
「よく見ておけ、お前は人もけものも、そしてオークですら意のままに動かせる力を持っている。私は待っていた。ヌメノールの血が交わりいつかこれだけの力を持つ人間が現れることを・・・」
「僕はオークなどなにも・・・」
「自分では意識しなくとも、お前の心の奥底にある何かが呼び覚まされた時、オークもまたそれに答えて集まってくる」
「僕は何もしていない、何も考えていない」
「お前の呼んだオークが今夜、何人仲間を殺すか、よく見ておくんだな。次にはもっとたくさんの数の・・・」
「やめて!」
僕の周りに何人ものオークが集まって来た。これほど怖ろしく醜いものは他にはいないだろう。オーク達は手にかまのようなものを持ち、僕に襲い掛かってくる。激しい痛みを感じた。胸を、腹を・・・体中に何度もオークのかまの先があたる。
「やめて!助けて!」
「ファラミア、どうした。しっかりしろ」
「これも夢なの?」
「そうみたいだな。急に意識を失って倒れた」
僕はアムロスと一緒に小高い丘の上にいた。遠くで微かに悲鳴や叫び声が聞こえた。
「アムロス、たすけて!」
「こんなとこ来ない方がよかったかな。いろいろ聞こえてしまうか。耳をふさいでいてやるよ」
彼は僕の両方の耳を手で押さえた。それでもたくさんの悲鳴や叫び声が聞こえてしまう。
「だめだよ。これでも聞こえてしまう。僕は一体なんなの?他の人には見えないものが見え、聞こえないものが聞こえてしまう。それだけではない。僕は周りの人を不幸にしてしまう。知らないうちにオークまで呼び出してしまって・・・」
「おい、ファラミア、落ち着け。お前変なこと言っているぞ」
「アムロス、助けて!僕はどうしたらいいの」
「こうしていれば、少しは落ち着くか」
アムロスは僕の体を強く抱きしめ、髪や背中をなでた。僕も手に力を入れて彼にしがみついた。つかまっていなければ、また別の場所につれていかれるかもしれない。
思っていたよりもずっとたやすくハラドの本拠地に侵入することができた。その後は激しい戦いが続いた。一体何人殺したのか。俺の体も何箇所か敵に刺され、血が出ているのを感じた。
「兄上、危ない!」
ファラミアの声が聞こえた。とっさに俺はよけた。ハラドの兵士に後ろから刺されそうになっていた。体勢は立て直したが、俺は敵に取り囲まれてしまった。必死で剣を振り回して戦ったが、また何箇所か刺された。激しい痛みで意識が遠くなりそうになり、地面に倒れた。もはやこれまでなのだろうか。ハラドさえ倒せればゴンドールにも少しは平和が・・・執政はファラミアが継げばいい。あいつは頭がいいから俺よりもきっと・・・ファラミアの姿が見えた・・・黒い服を着た男の姿も・・・
「ボロミア様、お目覚めになりましたか」
「ここはどこだ、ハラドとの戦いは・・・」
「終わりました。わが軍の圧倒的な勝利です。ハラドは大きな犠牲を出し、降伏してきました。ただあなたがこのようなけがを・・・」
「クローディル、お前が助けてくれたのか」
「いいえ、私ではありません。不思議なことですが、ファラミア様の声がして、あなたが倒れているところまで導かれました。
「俺もファラミアの姿を見た。だがあいつがここにいるはずはない」
「あの方には、普通の人間にはない特別の力があるようです。私の心も読み、引き止められました」
「偵察というのはうそだったな。どうして一人で戦おうとした」
「私は敵の捕虜を人間とは思えぬほどのやり方で拷問し、殺しました。そのような人間が一緒にいては決して勝利はつかめない、そう思いました。でも私は弱い人間です。敵に対してそれだけの仕打ちをしておきながら、自分の死は怖ろしく、ハラドの真っ只中に飛び込むことはできませんでした」
「それでよかった。俺にとってもゴンドールにとってもお前は欠くことのできない人間だ。今度勝手なまねをしたら許さない」
「ボロミア様・・・」
一晩中アムロスは僕を抱きしめていてくれた。その間ずっと僕の耳には悲鳴や叫び声が聞こえていた。そんなに長い時間オークとの戦いが続くわけがない。僕の耳はおかしくなっているのかもしれない。それにあの声も・・・僕がオークを呼び出したなんて・・・あの声は人間ではない・・・なにが僕に話しかけていたのか・・・
朝になって、元の場所に戻った。ダムロドやマブルング達も寝ないで様子を見守っていたようだった。
「わしの読みが甘かった。まさかこれほどたくさんのオークに襲われるとは・・・」
「そうですね。おそらく半分ぐらい犠牲が出たかもしれない。ファラミア、どうだった」
「ファラミアには何も聞かないで下さい。変な声が聞こえたとか、変なことを口走っていました」
「声が聞こえたか・・・ふむ・・・ファラミアにもとうとうそのような時がきたか。わしに詳しく聞かせてくれ」
ダムロドは僕一人を連れて森の奥へ入っていった。
「ここならいいだろう。誰にも話を聞かれない。ファラミア、どんな声が聞こえて何を話した。詳しく聞かせてくれ」
「でも、その声は信じられないことを言いました」
「信じられないことでもいい。すべて話してみろ。わしも昔はいろいろな声を聞き、人の心を知り、これから起こることを予知して、この土地を守ってきた。だがわしももう年をとった。予知能力もそのほかの力も衰える一方だ。だからわしはお前を此処に連れてきた。誰よりも濃いヌメノールの血を持つお前の力は、この森で同じ血を持つ仲間と暮らすことによって、研ぎ澄まされてきた。今はまだ自分でもその力を使いこなすことができずに戸惑っているようだが、やがてお前はここイシリアンを、いやゴンドールを守り、導く者となるだろう」
「でも僕は周りの人を不幸にしてしまうのでは・・・母上の病気も・・・いまたくさんのオークに襲われたことも僕が原因では・・・」
「お前は力はあっても未熟な人間だ。悪しき者はお前の力を使おうと、様々な形で誘惑してくるだろう。その声に惑わされてはいかん」
「はい、でも僕はどうしたらいいか」
「同じ血を持つ仲間が助けてくれるだろう。アムロスではだめか」
「いえ、彼には何度も助けられています」
「それならば心配することはない。今まで通り暮らせばよい」
「わかりました」
返事をした時、また声が聞こえた。
「お前はその力を持つ者。周りの者を支配し、そして滅ぼしていく」
−つづくー
後書き
他の人間の意識の中に入って、別の場所にいく。これはもう夢というよりも、生きている間に魂が抜けて別の場所に行っているのでしょうか。(生霊というと怖くなるが) 幽霊というよりも強い思いや危険があるとき、それに引かれて意識が別の場所に行ってしまう・・・そんなこともあるかなと思って書きました。
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