26、傷跡

ボロミア24歳 ファラミア19歳(13歳) アムロス19歳(15歳) マルディル24歳(19歳) 
ダムロド94歳(63歳) マブルング64歳(51歳)

「ファラミア、此処まで来ればもうミナス・テリスの城壁から姿は見えない。少し休もうか?俺の前では無理しなくていい」
「いいえ、このままもう少し行きます。休んだら動けなくなってしまうかもしれないので・・・」
「急いでイシリアンに戻らなくても・・・ミナス・テリスで治療を受けたほうがよかったのではないか」
「僕が長くいると父上が・・・兄上だって・・・離れていた方がいいのです」
「こんな時にお前をミナス・テリスになど連れて行かねばよかった。ボロミアは当分遠征には行かないだろう。もっと落ち着いてから来ればよかった」
「帰還したボロミアにすぐに会いたいと言ったのは僕です。ボロミアが無事に帰ってくる姿を少しでも早く見たくて、街のみんなと一緒に祝いたくて・・・でもそれが父上の気に触ったようです」

僕の目から涙があふれ出た。そう、僕はボロミアの無事な姿をいち早く見たかった。歓声に包まれ、光り輝いている兄の姿を見てうれしくなって飛びついてしまった。でもそれが原因で父を怒らせてしまった。それだけではない。灰色の魔法使いと話をしていたことも父の怒りに火をつけたらしい。僕は鞭で打たれ、焼けた鉄の塊を体に押し付けられた。背中も手足もまだずきずきと痛み、体中が熱くなっている。

「俺の前では無理しなくていい。本当は立っているのもやっとなのだろう。デネソール殿も酷いことを・・・」
「僕が悪いのですから・・・」

一緒に歩いているマブルングがかなり心配している。イシリアン野伏の副隊長であるこの人は、僕達がまだ見習いの訓練生だったころずっと指導をしてくれていた。そのころかなり反抗的だったアムロスは何度も彼に鞭で打たれている。

「悪いと言ったってこれはしつけや罰という程度の傷ではない。拷問と同じだ。実の子にこれほどまでひどいことを・・・」
「僕は大丈夫ですから、父上のことはもう何も言わないでください」

本当は大丈夫ではなかった。体の痛みはますます強くなり、少しでも気を抜けば意識を失いそうであった。でも僕はミナス・テリスにいる3日間ずっとこの痛みをこらえてきた。ボロミアには心配をかけたくない。ボロミアが父のことを悪く思うのも僕にとってはつらい。だからずっとなんでもないふりをしていた。そして夜のあのこと。僕がまだ子供だからなのだろうか。愛し合うときにはいつも激しい痛みを感じる。僕の心はボロミアを愛し、いつも激しく求めている。心の奥底から狂おしいほどボロミアに抱かれてひとつになることを望んでいる。兄と離れて一人で寝ている夜、何度兄に抱かれる夢を見て、自分の体を摺り寄せ、こすりつけていたかわからない。それなのに、いざボロミアに抱かれる瞬間は激しい苦痛を感じてしまう。僕はできるだけ唇をかみ締め、苦痛の声はあげないようにした。本当はうれしいのだから、気持ちいいはずなのだから声などあげてはいけない。ぼくはどこか他の人とは違っている。そんな僕を愛し、受け入れてくれるのはボロミアしかいない。

「ファラミア、今夜はこの村で泊まろう。このあたりはオークがよく出る。野宿は危険だ」
「はい」

返事をするなり、その場に座り込んでしまった。

「ファラミア、しっかりしろ、もう少しで休める」

マブルングの肩によりかかるようにして、フラフラとした足取りで宿屋の方に向かった。

次の日の夕方、イシリアンの森に着いた。着いた途端、張り詰めていた何かが切れ、ばたりと倒れてしまった。それから数日間意識を失い、その間の記憶がほとんどない。




薄暗い部屋の中で僕の体は鎖で縛られている。鋭い鞭の音がして、体に激しい痛みが走る。

「ファラミア、お前は悪い子だ、なぜ父の言うことが聞けぬ」
「ごめんなさい。もうしません」

父は何度も何度も僕を鞭で打つ。僕は泣き叫んでいる。

「鞭だけでは足りないようだな、真っ赤に焼けたこの鉄の塊、これを体につけたらどうなる。皮膚がこげ肉が焼かれ・・・」
「やめて!お願いです!それだけはやめて!たすけて!・・・ボロミア!」

今度は足の間に鋭い痛みが走った。ボロミアが僕の上に覆いかぶさり、僕の体をこじあけようとしている。

「やめて!痛い!たすけて」
「どうした、ファラミア、俺はお前を愛している。お前も俺を愛しているのだろう」
「愛しています。でもやめて・・僕にはまだ・・・痛い・・たすけて・・・いやだ!・・やめてください」
「愛しているよ、ファラミア」
「たすけて・・・たすけて・・いやー・・いたい・・・」
「ファラミア、しっかりしろ」
「やめて!手を離して・・・痛い・・・やめて・・・」
「ファラミア」




僕はベッドの上で目を覚ました。アムロスが僕の手を握り締めていた。

「やっと目を覚ましたか。何日もうなされてこんな感じだった。怖い夢を見たのか?」
「ここは・・・僕はいままで・・・」
「イシリアンだよ。ずっとうなされていた。よほどひどい目にあったようだな」
「ずっとそばに・・・」
「当たり前だ!何日も目をさまさないから・・・マブルングから何があったかは大体聞いているよ。こんなになるまで苦しめるなんて・・・ファラミア、お前はもうミナス・テリスには帰るな!ずっとここにいろ。ここにはこんな酷いことする人間は一人もいない」
「君は昔よく鞭で打たれていたよ」
「あんなの比べものにならないよ。それでもお前は心配して来てくれ、これで痛みはなくなるからと、俺を抱きしめてくれた。もし今俺がお前を抱きしめれば、お前の痛みはなくなるのか」
「だめだよ、僕が愛しているのは兄のボロミアだけだから・・・」
「じゃあ、どうすればいい。お前の痛みがなくなるのなら、俺はどんなことでもするよ」
「そばにいて、手を握っていて・・・ひとりになるのは怖い」

アムロスは僕の手を強く握り締めた。

「俺はお前を愛している。手だけでなくお前の体を抱きしめたい。意識を失っているお前を見て何度もそんなことばかり考えたよ。俺がそばについていたら絶対にこんな酷い目にはあわせない・・・相手は俺でなくても構わない。このイシリアンにいる誰もがお前のこと本気で守るよ。だから兄弟で愛し合うのはもうやめて、ここで誰かを好きになればいいだろう。これ以上お前が苦しむ姿は見たくない。もう二度とミナス・テリスにはもどるな!」
「それはできない。僕はボロミアを愛している。父上だって愛している、愛されたいと思っている・・・僕が生まれる前、母上がまだ元気だった頃、父上の顔はすごく穏やかだった。僕はそんな顔実際には見たことないよ。ボロミアの夢の中で、父上も母上も小さなボロミアを見て幸せそうに笑っている。僕だけはどこにもいない。僕もその夢の中に入りたい。幸せだったころの家族の中に・・・」
「ファラミア、昔の夢を追うのはもうやめろ。お前が辛くなるだけだ。俺は家族を全て失っているから昔のことは考えないようにしている。これからのことを考えよう。お前はここで素晴らしい戦士になれるよ」
「無理だよ、そんなこと」
「無理じゃない。十年後、お前は此処の大将になっている。俺の目にははっきり見える」
「君の予言では当てにならないよ」

いいながら僕は少し笑った。アムロスの顔がぱっと輝いた。

「やっと少し笑ってくれた。確かに俺の予言なんていい加減で当たったことないけど、でも俺には見えるんだよ。お前がここでいきいきと生きている姿が・・・だから元気を出してくれ」
「君はやさしいね」
「そうでもないさ、お前が倒れていると、俺ばかりがマルディルにこき使われる。早く元気になってもらわないと・・・」

僕はまた少し笑っていた。確かに彼の言うとおり、ここイシリアンにずっといる方がいいのかもしれない。でも僕はボロミアに対する思いを断ち切ることはできなかった。離れていればまたすぐに会いに行き、抱かれること夢見てしまう。それがどんなに辛いことであっても・・・


                                                    −つづくー


後書き
 アムロスはできる限り理想的に書いているのでやさしいです。それに比べてボロミアは・・・それでもファラミアはボロミアをあきらめることはできません。


目次に戻る