27、身代わり
ボロミア24歳 デネソール72歳(48歳) クローディル46歳(37歳) ファレス17歳
ファラミア19歳(13歳) アムロス19歳(15歳) マルディル24歳(19歳) ダムロド94歳(63歳) マブルング64歳(51歳)
「ボロミア様、兵士達の今後の身の振り方について、考えてきました。このリストをご覧下さい」
「ご苦労だった。あの人数について一人一人考えるのは大変だっただろう。そこにすわるがよい」
「失礼します」
城に数多くある応接室の一室で俺は部下のクローディルと相談をしている。年上のこの男と俺はかって戦場やミナス・テリスで何度も体を重ね、激しく愛し合ってきた。だが今はただ大将と部下という関係に戻り、二人きりで会うことはなくなっていた。この部屋にも周りにはたくさんの者が控えている。
「執政のお考えでは、これから先、しばらくは大きな戦もないので、兵士達の大部分はこの戦いでの報酬を与えて村に帰らせた方がいいのでは、ということです。このまま千人近くの兵士をミナス・テリスにとどまらせて置いては、財政面で大変です」
「そうだな、また大きな戦になりそうな時は同じ者を召集するとしても、ひとまず大部分の者は村に帰したほうがよさそうだな。そのリストを見せてみろ」
「はい、ただ特に優れた功績を挙げたもの、百人程度は残そうと考えています」
「お前は何から何までよく考えているな、本当に助かるよ、俺はどうもこういうことを考えるのは苦手だ」
俺はさっそく渡されたリストをめくってみた。兵士達一人一人については、彼の方がよほど詳しい。俺が口出しすることはなさそうだが、一人の名前のところで手が止まった。
「ファレスは村に帰すつもりか」
「はい、彼は正直に申し上げて、兵士に向いている人間ではありません。村に帰って・・・」
「まだ16、いや17だ!それぐらいの年齢でなぜ向き、不向きがわかる。これからの訓練でいくらでも伸びていくだろう」
「いいえ、彼が兵士として生きていくのは、本人が大変な思いをするだけです」
「お前、何を考えてその言葉を言っている!」
「ボロミア様、他の者が聞き耳を立てています」
「わかった、二人だけで話そう」
部屋にいた者をすべて外に出して、人払いをした。
「こうすれば他の者を気にしなくてよいだろう。正直に答えろ!なぜ彼を村へ帰そうとする」
「その方が彼にとって幸せだと考えたからです」
「兵士に向いてないからか」
「いいえ、それだけではありません」
「ファレスはかしこく、気が利く。もし兵士に向いてないのなら城で働かせようと思っていた」
「そのようなことをしてはなおさら彼は妬まれて大変な思いをします」
「お前がうまくやってくれればいいだろう。・・・クローディル、お前は兵士達の間でだけでない、この城の中ですら父上に仕えてうまくやってきた。お前の一言で、誰も何も言わなくなる」
「ファレスのことをそれほどまでに・・・」
「気に入っている。俺は少しおかしいのかもしれない。男でも女でもいくらでも相手を選べる立場にいながら、本当に気の許せる相手しか抱く気にはなれない。そして好きになってはいけない相手ばかりを愛してしまった」
「クローディルはかすかに笑った。苦笑いなのだろうか。父の愛人であるこの男を抱き、何もかもわかりあえる相手と思って本気で愛した。そして実の弟であるファラミアに、いつのまにか弟以上の強い愛着を感じてしまい、無理やり抱いてしまった。ファラミアによく似た顔立ちのファレスを寵愛し、また無理に身近なところに置こうとしている。
「わかりました。ファレスをお気に入りでしたら、そちらの方はどうにかします。ただこれが彼にとって本当によいことなのか・・・」
「俺は自分でもよくわからない、一体自分が今誰を本当に愛しているのか・・・お前の方はどうだ。父上の相手はきついだろう。体を壊さないでくれ」
「いつもというわけではありません。デネソール様はただ穏やかに、私を相手に話をされるだけの時もあります。執政の仕事のこと、ボロミア様のこと、昔の思い出・・・昔のことを話されるときは本当に穏やかで幸せそうで・・・」
「そうか、父上にもそのような時があるのだな。それを聞いて安心した」
俺はファレスを自分の部屋に呼んだ。城に住まわせるつもりならば、彼の意見も聞かねばなるまい。
「正直に答えてくれ。俺は戦場だけでなく、ミナス・テリスに戻ってからも、城の中でお前に身の回りの世話をしてほしいが、お前はどう思う」
「そのようなお役目を、私のような者でよろしいのですか?」
「執政の子というのはよく見えるかもしれないが、実際には大変だ。俺は特にミナス・テリスに戻ってくるといつも気を使っている。誰を気に入ったとか、誰にいい言葉をかけたとか、みな俺や父上の言葉には敏感だからこっちも絶えず気を使っている。せめて身の回りの世話ぐらい、気を使わない人間にやってほしい」
「私でしたら気が楽なのですか」
「そうだ、お前は俺の気持ちがよくわかっている。俺が何をしたいかすぐに読み取り、その通りのことをしてくれる。・・・それに、夜一人で寝るのは寂しい・・・」
ファレスは微かに笑った。その穏やかな微笑みはファラミアに本当によく似ている。
「おかしいか、俺は子供の頃はずっと弟のファラミアと一緒に寝ていたから、一人で寝るのは寂しくてたまらない。お前はファラミアによく似ているから・・・もしかしたらファラミアにそばにいて欲しくてお前を抱いているのかもしれないが・・・」
「そんなに似ているのですか」
「ああよく似ている。顔だけでなく、声や・・・俺は酷い男だな・・・自分のことばかり考えてお前の気持ちなど少しも考えていない。お前は弟の身代わりなどとわざわざ口に出して言わなくても・・・」
「なんでも話してください。少しでもお役に立てれば・・・それだけで私は幸せです」
「では、この城に住んで、俺の身の回りのことをしてくれるか?」
「はい、喜んでいたします」
俺はファレスを抱きしめ、口付けをした。
「俺は本当に好きな相手しか抱く気にはなれない。弟の身代わりではない、ファレス、お前を愛しているよ」
「ボロミア様・・・」
ファレスを抱きながら、俺はファラミアのことを考えていた。俺の帰還を祝ってイシリアンから駆けつけてくれた弟は、そのために酷い傷を負っていた。背中に走る無数の鞭の痕、大きなやけどの痕。目を背けたくなるほどの酷い傷を負った弟は俺にしがみつき助けを求めていた。そんなファラミアをまた無理やり抱いてしまった。小さな弟の傷跡と泣き叫ぶ声に異常なほど興奮し喜びを感じてしまう俺はどうしてしまったのか。そしてまた目の前にいるファレスを手荒く扱い、叫び声をあげさせることで言いようのない快楽を感じている。
イシリアンに戻ってからも僕は何度も夢でうなされていた。父に鞭で打たれ、焼き鏝を当てられる夢。うなされて飛び起きるとまだ傷跡が激しく痛む。
「たすけて!たすけて!」
「ファラミア、しっかりしろ」
アムロスが僕の手を握っている。
「ごめん、また大声を上げて君を起こしてしまった」
「いいんだよ。また夢を見たのか」
「どうして同じ夢ばかり何度も・・・」
「こんな酷い目に合えば誰だってそうなるよ。代われるものなら代わってやりたい。ファラミア、どうすれば少しは楽になる?」
「僕の横に寝て」
彼は言われたとおりに僕のベッドで横に寝た。僕は手を回し、彼を強く抱きしめた。
「お、おい、ファラミア」
「こうしていると、痛みがなくなるから・・・少しでいいからこのままでいて・・・僕はひどいことをしているよね。君の気持ちにこたえられないくせに、君に抱きついたりして・・・でももう痛くて苦しくて、怖くてどうしようもないんだ」
「こうやって抱きしめていればお前の痛みがなくなるなら、いくらでもこうしていてやるよ」
「でも僕は・・・君を愛することは・・君を受け入れることも・・・」
「気にしなくていい。俺がお前の兄の代わりになってやるよ。いくらでもしがみついていればいい」
「僕は君を利用しているんだよ」
「いくらでも利用すればいい。それでお前が楽になるならば・・・俺はお前のためならなんでもしてやるよ」
「ありがとう・・・」
彼に抱きついて寝ると、少しは痛みはやわらぐような気がした。そして怖い夢も見ないで眠れた。明け方遠くでアムロスとマルディルが話す声が聞こえた。
「ファラミアの様子はどうだ」
「まだかなり苦しんでいる・・・どうしてあんな酷いことを・・・許せない!」
「おい、俺に怒ってもしょうがないだろう」
「あんな酷い目にあって、兄には犯されて・・・それでもファラミアは・・・」
「兄だけを愛しているっていうのだろう、仕方がないことだよ。それでお前はどうする気だ。あきらめるのか、それともお前も強引に抱いてみるか」
「どうしてそう極端なことを!」
「結局愛するってそういうことだよ。お前はファラミアに夢中で誰ともやってないからそうとうたまっているだろう。俺が相手をしてやろうか?一度すっきりすればお前も冷静になるだろう」
「いい加減にしてくれ!俺はそんな気はない!」
「そうやって怒った顔は一段と魅力的だ。そそられる」
「気安くさわるな!」
「はっきり言ってやる。ファラミアはお前を兄の身代わりにしようとしている。あいつは自分では意識してないだろうけど、結局は周りのやつを利用している、いい加減気がついてほっとけ!」
「うるさい!年上だと思って話を聞いていれば・・・ほっといてくれ!」
マルディルはアムロスのことを気に入っているのだろうか?彼を怒らせるようなことばかり言っている。そして僕もまた愛しているのは兄のボロミアだけと言っておきながら、アムロスの好意をうれしく思い、彼の話が気になってしょうがない。僕達はこれからどうなるのだろうか?
−つづくー
後書き
人を好きになる気持ちは複雑です。本当に好きな人の身代わりに身近な人を愛してしまったり、身代わりだと思いながらも本気になってしまったり・・・結局イライラして余計なことを言ってしまったり・・なかなかうまくいきません。
目次へ戻る