28、決意

ボロミア24歳 デネソール72歳(48歳) クローディル46歳(37歳) ファレス17歳
ファラミア19歳(13歳) アムロス19歳(15歳) マルディル24歳(19歳) ダムロド94歳(63歳) マブルング64歳(51歳)

ミナス・テリスに滞在して数週間が過ぎると、俺はなんとなく落ち着かない気持ちになってきた。遠征で数ヶ月、時には数年、ほとんどの日々を不自由な野外生活をしていたが、不思議と心は穏やかだった。兵士達の身の振り方を決め、残った者の訓練を終えると他にやることはない。国境付近ではまたオークが出没しているという噂を聞く。そろそろまたオーク退治にでも出かけようと思っていたときに父から思いもかけない話をもちかけられた。

「ボロミア、何を遠慮している。父の部屋なのだから自由にしてよいぞ」
「しかし父上、私ももう大人になったのですから、いくら親子とはいえ、執政である父上の前で子供の時のような態度を取るわけにはいきません」

久しぶりに父の部屋に行くと、上機嫌で迎えられた。

「お前は子供の時、この部屋でよく飛び回っていた。フィンドラスが驚いていた。執政の子だというのにいつも飛び回って少しもじっとしていない」
「それは今も同じです。私はどうも城の中でじっとしているのは好きではありません。またオーク退治にでも出かけようかと思っています」
「お前は子供の時から少しも変わらないな。だがボロミア、今は長い戦も終わり、ゴンドールも平和を取り戻し、国中が喜びに溢れている。このような時はなかなかあるまい。お前もそろそろ身を固めてはどうだ。世継ぎをつくり、わしを安心させて欲しい」
「お言葉ですが父上、私はまだ結婚する気はありません。今、戦は終わりましたが、近い将来また新たな敵と戦わねばならないでしょう」
「それは他の者に任せればよい。お前はもう戦には行かず、わしのそばにいて執政の仕事を手伝ってくれればよい。わしも年を取った。いつまでこのまま執政の仕事を続けられるかわからない・・・ときどき自分が何をしているのかわからなくなることがある」

父は座ったまま大きなため息をついた。確かに父が歳を取り、昔のような気力をなくしていることは俺の目にもはっきりとわかる。時々おかしなことを言ったり、行動が不自然だと思うこともある。

「いいえ、父上はまだまだお元気です。それに執政の仕事は・・・ファラミアをミナス・テリスに呼び戻し、仕事を手伝わせたらどうですか?ファラミアだったらきっとうまく・・・」
「何を言っている!ファラミアに執政を継がせる気はない!・・・・世継ぎはお前一人で充分だった。お前だけの時は何もかもうまくいっていた。ファラミアさえ生まれてこなければフィンドラス、お前の母だってあんなことには・・・」
「父上!ファラミアにはなんの関係もないことです。ファラミアは俺よりもずっと頭がよく、人のこころがわかる優しい子です。ファラミアが執政の仕事を継いだ方が・・・」
「ファラミアの話はするな!わしはお前以外に執政を継がせる気はない!お前が今すぐ継ぐ気がないのならそれも仕方がないだろう。だが結婚はできるだけ早くしろ!もういくつか話は来ている。隣国の王家の姫、地方で強い勢力を持った領主の娘、この執政家と血縁関係を結びたがっている者はたくさんいる。気に入った者を選んでよい」
「俺は・・・私は結婚する気などありません!今は執政を継いだりもしません!・・・失礼します!」

俺は父の部屋を飛び出してしまった。腹を立てながら自分の部屋に戻った。

「ボロミア様、少しお話してもよろしいでしょうか」

クローディルが俺の部屋の扉をたたいた。

「なんだお前か、どうせ父上から俺をうまく説得するように頼まれているのだろう。まあよい、部屋に入れ。ファレスはここにいても構わないか?」
「できれば二人だけでお話したほうが・・・」
「わかった、そうしよう」

ファレスを外に出し、クローディルと二人だけで部屋のソファに座った。かって何度も抱き合った相手だけに、二人きりになると落ち着かない。

「父上からの用件はなんだ。俺の結婚か、それとも執政の仕事を手伝えということか・・・」
「そのどちらもです」
「俺を説得できないとお前はどうなる。父上から攻められるのか」
「たぶんそういうことになるでしょう」
「お前は交渉がうまいな。軍隊をまとめるだけではない。執政の手伝いだってお前がやった方がよほどうまくいくだろう」
「ボロミア様もデネソール様の状態についてご存知だと思われますが・・・」
「わかっている、父上は歳を取った。もう前のようには・・・」
「年齢を重ねるのはしかたがないことです。でもデネソール様の心はまだ悲しみに閉ざされています。このままではいつかお心を壊されてしまうのではないかと・・・」
「母上と同じように気が狂うということか!」
「はっきりしたことは申し上げられません。でもこのままでは・・・ボロミア様が結婚され、お世継ぎがお生まれになればデネソール様はさぞかしお喜びになるでしょう。そうすればきっと・・・」
「俺は結婚する気はない!もし今俺に世継ぎが生まれたらファラミアはどうなる。ますますやっかいもの扱いされ、危険な場所に行かされる。俺とファラミアは生まれてくる順番が逆ならよかった。俺と違ってファラミアは頭もよく人の気持ちがよくわかるやさしい子だ。きっとりっぱな執政になり、ゴンドールの民に慕われ、結婚しても幸せになれる。俺はどうだ。戦いが好きな乱暴者で勝つことだけを考えて生きてきた。人の気持ちなど少しもわからず、愛する者を傷つけてばかりいる。どうやって人を愛したらいいのかわからない。欲望を満たすことができてもそれだけだ・・・」
「ボロミア様・・・」
「お前はよく父上に何十年も仕えることができたな。他の者は皆、父上を恐れて深い関係になることを避けていたのだろう。幼いファラミアにさえあれだけの仕打ちをした。お前に対してどれだけのことをしてきたか・・・俺も同じだよ・・・どれだけひどいことをしたか・・・同じ血が流れている・・・」
「・・・・・」
「俺は一生結婚する気はない。ファラミアが結婚して世継ぎをもうけ、執政を継いで欲しい。俺はずっと軍隊にいてファラミアとこのゴンドールを守っていきたい。俺は一生オークを倒し、敵を倒して、この国に住む全ての人間を守り、幸せに暮らす姿を見れたら、それだけで幸せだ。だから今は結婚する気もないし、執政も継がない・・・これが結論だ」

クローディルの目に涙が浮かんでいた。

「今の話を父上にするか」
「いいえ、何も話しません。役立たずと攻められるかもしれませんが・・・」
「お前はいつも大変な役目ばかり引き受けているな」
「ボロミア様と同じです」




イシリアンに戻って数週間が過ぎた。僕の体の傷は治ってきて普通に生活できるようになった。でも夜になるとやはり夢でうなされていた。何度も何度もうなされて飛び起きるその繰り返し・・・このままではいけない。ただ寝込んでみんなに迷惑をかけているだけでは・・・モルドール近くの場所では相変わらずオークがよく現れ、戦いが続いている。僕はまだ戦いでは役に立たないが、ほかの事では少しは役に立つかもしれない。思い切ってダムロドに相談した。

「そうか、ファラミア。また見張り塔の方へ行こうと考えているのか」
「はい、僕のせいでこのグループはずっとこの場所にいるままで、オークと戦うこともありません。それに僕も見張りの仕事なら少しは役に立てると思うのです」
「無理をするな。傷はまだ完全に治ってはいないのだろう」
「まだ痛みます。でもこうしている間にも誰かがオークと戦って怪我をしたり、死んだりしているかと思うと・・・僕は誰よりも早くオークを見つけ出し、どこにいるか知ることができます。だからきっと役に立てると思うのです」
「誰よりも早くか・・・ふむ・・・わしも昔は長い間そう思っていたが、今はお前に負けているだろう。やがてお前は誰よりも強くなり、わしの後を継ぐであろうが・・・」
「そんなに強くなるかどうかはわかりません。でもいまできることをしたいと思います」




翌日僕達は東の方、前いた見張り塔の場所に向かって、出発した。前と同じ12人のグループでリーダーはマルディルだった。僕とアムロスも初めてみんなと同じ濃い緑色の野伏の衣装を身につけた。僕はまだ少し衣装の方が長すぎて裾を引きずりそうになるが、アムロスは背も他のみんなと変わらないぐらい伸び、衣装もぴったりであった。

「アムロス、よく似合うな。やっぱりお前はこういう格好が一番いい」
「どうせ俺は薄汚い野伏の子供ですから」
「前、言われたことをまだ気にしているのか。いや、実にいい。みんなの視線がお前に集中しているのわかるか」
「俺よりもファラミアの方が上品でいいと思うけど・・・」
「ファラミアは上品過ぎてあんまり野伏っていう感じではない。まだ子供だし・・・そこへいくとお前は・・・実は俺たちはこっそりかけをしている」

マルディルの声が小さくなり、アムロスの耳元でささやいていた。

「そんなことでかけをするな!そんなにかけをしたかったら俺がいつ何人オークを倒すかかけをしてくれ」
「3日後に1人」
「7日後に3人」
「まだ当分の間無理だと思うけど・・・」
「いや、アムロスは一人でずっと訓練を続けていた。すぐにでもオークを倒す」
「本当か、ファラミアのそばにずっといたんじゃないのか」

みんなの話を僕は黙って聞いていた。ここでは僕よりもアムロスの方が話題になることが多い。でもこうやってみんなと一緒に歩いていることが今の僕にはうれしかった。



                                              −つづくー

後書き
 それぞれ、自分にできることを精一杯やろうと決意を固めています。ボロミアが生涯独身で戦いのことばかり考えていたというのは、ひょっとして、ファラミアのことを考え、自分は弟を守るために影の存在でいようとしたのかなとも考えてみました。



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