33、予知夢

ファラミア19歳(13歳)、アムロス19歳(15歳)、マルディル24歳(19歳)、ダムロド94歳(63歳)、マブルング64歳(51歳)
ボロミア24歳、デネソール72歳(48歳)、クローディル46歳(37歳)、ファレス17歳、

僕は今暗闇の中にいる。空は雲に覆われ、月も星も見えない。見えるはずのない月を探して空の一点を見つめる。今夜の月は刃のように鋭く尖っているはず・・・鋭い月の光が見えたらそれが合図となる。今夜アムロスはマルディルに抱かれる。僕だけを愛しているはずなのに他の誰かに抱かれる。それは僕に対する裏切り?でも僕は彼の気持ちに応えることができない。そしてボロミアもまたこんな夜には彼を抱いている。僕によく似た、けれども僕とは違う人間の彼。兄上は彼のこと愛しているの?違うよね。兄上が愛しているのは僕だけだよね。彼はただの身代わり、兄上の欲望のはけ口・・・・でももうこれ以上抱かないで・・・体と体が触れ合えばいつか心も奪われてしまう・・・抱かないで・・・僕から愛を奪わないで・・・僕だけを愛して・・・

強い風を感じた。雲は吹き飛ばされ、一筋の黄色い光が見える。鋭く尖る細い細い月。黄色の光が僕の体を包む。

「ファラミア、目を覚ませ。お前の力が目覚める時がきた。お前の欲望、お前の願い、すべてかなえられるであろう」

闇にうごめく無数の生き物。森の奥から、地の底から、山の陰から・・・次々と現れる闇の世界のもの。月の光に照らされて、次第に形が見えてくる。怖ろしい顔をしたオーク達、手に槍や鎌を持ち、うなり声を上げ、走っていく。どこからこんなにたくさん集まったのか。ミナス・テリスに向かって走る。それを止めようとする人間達。オークの勢いは激しく、人間は次々と殺される。剣のぶつかる音、人間の悲鳴、オークのわめき声、ここは戦場になっている。まわりにあるのはおびただしい数の人間とオークの死体、血の匂いに吐き気がする。どうして僕は今ここにいるの助けて・・・だれか助けて!





「ファラミア、目を覚ませ!どうした、しっかりしろ」

アムロスの顔が見えた。

「ひどくうなされていた。いやな夢を見たのか」
「つき、月は見える?」
「出ているよ。きれいな丸い月が」

僕は慌てて外に飛び出した。大きな丸い月が見える。鋭く尖った細い月ではない。でもあの夢はまだ生々しく僕のそばにある。オークが地の底から這い上がる気配を感じる。うめき声や血の匂いをまだ覚えている。アムロスも一緒に寝ていた天幕から外に出てきた。

「どうした、ファラミア」
「よかった、まだ月は尖っていない。・・・でもあれはただの夢ではない・・・あんなにはっきり・・・」
「話してみろ」

僕はアムロスに夢の話をした。といっても最初の方は話さず、たくさんのオークに襲われたことだけを話したのだが・・・

「お前、予知夢ってやつをよく見るよなあ。最近は夢でオークの出る場所もあてているじゃないか」
「今度は、数が多すぎる」
「どれくらいいた、このイシリアンには200人ぐらいいるけどそれより多いか」
「数え切れないほどいた・・・ここの森も山も野原もオークで埋め尽くされていて、・・・みんな殺され、ミナス・テリスに向かっていた」
「それはいつ起こる」
「月が細く鋭く尖った日に・・・」
「まだ10日以上ある、すぐにダムロドに知らせよう」





アムロスは僕の夢の話をリーダーのマルディルに話した。それから僕達はイシリアンの大将ダムロドがいる滝の裏の洞窟へと向かった。僕達のいる見張り塔からそこまでは急いで歩いても1日はかかる。まだ夜が明けないうちから歩き出した。明るくなった頃、道の途中で昔僕達の指導をしてくれたマブルングに出会った。

「ファラミア、アムロス、お前達の所へ行く予定だった。お前達はどこへ行く」
「大将のダムロドの所へ、ファラミアが大変な夢を見ました」
「もしかして、大将が見たのと同じ夢か、たくさんのオークが一度に集まってきた」
「そうです。そんな感じの夢です」
「ちょうど月が細く鋭く尖った夜・・・」
「そのとおりです」
「全員呼び集められるだろう。お前達は先にダムロドの所に行っていろ。俺は他のやつに知らせてもどる」
「わかりました」
「ところでアムロス、ファラミアは元気だったか?」
「まあ、元気です」
「お前はどうだ、マルディルに逆らっていないか」
「逆らってばかりいます」
「お前は相変わらずだな・・・反抗的なのはいいが、お前達はもう訓練ではなく実戦で戦っている。命を落とす者も多い。お前達と一緒に訓練を受けた者、もう二人も死んでいる。仲間の死はどんな場合でも辛いが、特にお前達のような若いやつが死んだという知らせを聞くとたまらない。気をつけてくれ」
「わかっています。俺はそう簡単に殺されたりはしないから大丈夫です」





暗くなった頃やっとダムロドのいる洞窟にたどりついた。これでも僕としてはそうとう頑張って早く歩いたつもりだ。そこでは昔の僕達と同じように10歳ぐらいの子供が10人ぐらい野伏の見習いとして訓練を受けていた。そこで生活している30人位の人と一緒に久ぶりにイスに座ってテーブルで食事を食べる。前線の見張り塔では全員がそろって食事を食べるということはほとんどできず、食事も寝るのも2,3人ずつ交代でして、地面に座って食べていた。広いテーブルの前に全員がそろうと、みんな一斉に立ち上がって西の方角を向く。ダムロドが祈りの言葉を唱え、全員目をつぶる。僕達も普段は一人一人がそれぞれに食事の前には簡単な言葉をつぶやいていたが、こうして大勢で一緒にするとやはり気分も違い、厳粛な気持ちになる。ふと、隣にいるアムロスの顔を見ると、彼は目をつぶり、別の言葉をつぶやいていた。僕は小声で聞いた。

「何を祈っているの」
「イシリアンとゴンドールが闇の支配を逃れ、再び平和を取り戻すようにと・・・」
「それは難しいよ」
「きっと来る。オークが一斉に襲ってきても、それで闇の世界が広がるわけではない。すべてのオークを、サウロンの手先を葬ってしまえば、平和な日がくる。俺はむしろわくわくしているさ。たくさんのオークを一度に殺せるチャンスだ」
「君は強いな」
「強くはない。オークとの戦いには勝てても、自分との戦いで負けている」
「自分との戦い」
「そうさ、俺は自分の感情をもてあましている。それはどうしたらいいか全くわからない」





食事の後、僕達二人はダムロドの部屋に呼ばれた。

「そうか、ファラミア、お前も同じような夢を見たか。ならばそれは間違いなく起こるであろう。わしも最近は歳をとり過ぎて、予知夢をみる力も衰えている。予言だけではない、すべての面で衰えを感じている。早くお前に跡継ぎになってもらいたいのだが・・・・」
「僕がですか?」
「そうだ。初めてお前に会った時からわしはそれを決めていた。お前ほど濃くヌメノールの血を受け継ぎ、予言やそのほかの力に秀でた者は、中つ国全体を見ても、極わずかしかいないだろう」
「僕の力というのがよくわかりません。確かに僕は他の誰かより目や耳はよくて、早くオークを見つけることができます。夢でこれから起こることを知ることもあります。でもそれだけです。戦いの時、正直言って怖くてたまらず、まだ一度もまともにオークと戦ったことさえありません」
「恐怖はいずれ克服できる。前にもそんなやつがおった。あいつは7,8歳の時ここへきたが、家族全員がオークに殺されるところを見てしまい、恐怖でまともに口も利けないような状態でつれてこられた。いつも悪夢におびえてまともに食事もとれない、ひどい状態だった」
「俺も家族のほとんどをオークに殺されたけど、そこまでひどくはならなかった」
「お前は強いからな、そんな状態のやつをつきっきりで面倒をみた男がいた。アムロス、お前の父親だ。あんなことになってしまって残念だったが、本当に気持ちのやさしい男だった。実の子でもないのに、よく世話をしていた」
「その代わり、実の家族は、実の子の俺は捨てられたも同然だった。家族のところにはめったに帰ってこなかった」
「それはすまなかった。わしがもう少し気をつけていれば・・・」
「それがあいつの性格だろう。いいよ、どうせもう死んでいるんだから。それでそのどうしょうもない子供はどうなったんですか」
「今ではこのイシリアンでも1、2位の腕を持つ野伏に成長した。そういうこともある。今は恐怖を克服できなくても、いずれ時が解決してくれる。お前は必ずここで一番強い者となり、みんなを率いていく」

僕にはよくわからない。僕の弱さは恐怖感だけではない。体も細く、剣を持っても力が入らない。こんな僕が強くなる日がくるのだろうか?

「イシリアンでも1,2位の腕前か、会ってみたいなそいつに・・・いまどこにいるのですか」
「もうとっくに会っている。マルディルの話だ」
「本当ですか?だとしたらあいつ、俺の父に恩があるくせに、・・・俺のこと思いっきり鞭で打って・・・」
「それはお前が悪いのだろう。マルディルがカバーしているから、お前は命拾いをしているのだろう、まあそれはさておき・・・・ファラミア、それだけのオークの大群がきてはイシリアンの者だけでは太刀打ちできない。執政殿とボロミア殿に援軍を頼もう。ボロミア殿の軍隊には何人ぐらいの兵士がいる」
「大きな戦いが終わった後なので今いるのは50人ぐらいだと思います」
「すぐに連絡をとって、できれば千人以上集めてもらいたい。ボロミア殿はどこにいるかわかるか」

ダムロドは地図を目の前に置いた。僕はその地図をじっと見てから指差した。

「兄はここにいます」
「手紙か何かきたのか」
「いいえ、何も連絡はきていません。でも僕にはわかります。兄がいまどこにいるか。もし兄の身に何かあってもすぐにわかります。おそらく兄も僕に何かあればわかると思います」
「わかった。すぐにボロミア殿に使いを出す。これは大きな戦いになる。だがファラミア、お前だけは心を乱さずなるべくいつもと同じように生活していろ。心が乱れては力も衰える。また何か夢で見たらすぐに教えてくれ」
「わかりました」

大変なことが起ころうとしている。でも僕は一つだけ誰にも話していないことがあった。夢の中で声が聞こえた。あの声は誰・・・そして願いがかなうというのはどういう意味なのだろうか・・・・・



                                         −つづくー




後書き
 長編を書いていると、あれ、この話前にも書いたような覚えがある、と思うことがよくあります。自分でも思い出しながら、行ったり来たりして書いているのでなかなか先に進みません。
2005、10、12



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