(38)謀反
ファラミア20歳(13歳)、ボロミア25歳、デネソール73歳(49歳)
ミナス・テリスで暮らすようになって数ヶ月が過ぎ、僕は20歳になった。20歳になったといっても相変わらず僕の体は小さく12,3歳の子供にしか見えないだろう。
「ファラミア、誕生日おめでとう。今年の誕生日は俺が直接プレゼントを手渡すことができてうれしいよ」
朝早く、兄がプレゼントの包みを持って僕の部屋にきた。あの戦いの日以来、僕達は一緒にミナス・テリスに暮らしていても、抱き合うことはもちろん、同じ部屋で寝ることもなくなった。兄は夜、時々見張りの兵士達が寝泊りしている場所に出かけているようだったが、いつも相手を変え、特定の一人をということはなくなっていた。僕は眠れない夜を一人本を読んで過ごした。あの日以来ゴンドール国内にオークが出たという話は一度も聞かず、他の国との争いもなくて平和が保たれていたため、ボロミアもずっとミナス・テリスで暮らしている。ボロミアは毎日執政である父の手伝いをさせられて忙しそうであったが、僕は特にやることもなく、昼も夜も一人で本を読んでいるだけであった。
「どうした、ファラミア。お前のために今年はとっておきのプレゼントを用意した。あの魔法使い、何ヶ月も前に頼んでおいたのにきのうやっと持ってきた。間に合わないかと思ってヒヤヒヤした」
「何を頼んだのですか」
「エルフの国に伝わる本だ。お前はミナス・テリスにある本などとっくに全部読んでいるだろう。エルフ語で書いてある。俺にはさっぱりわからないし、お前だって簡単には読めないだろう。お前には時間がたっぷりある。全部読み終わったらどんな話しが書いてあったか俺に聞かせてくれ」
「兄上・・・・」
「寂しい思いをさせてすまない。俺の気持ちに変わりはない。愛しているのはお前だけだ。さあ、そろそろ着替えて出て行かないと父上がお怒りになる。今日はお前の誕生日パーティーだ。今までお前の誕生日はろくに祝ってももらえなかったが、今度ばかりは父上も前から準備して大勢の人を招待しているようだ。お前のおかげでゴンドールに平和が訪れた。充分に楽しむがよい。それに隣国の王族なども招待している。どこかの国の姫などが、お前に夢中になるかもしれない」
「僕はまだ子供です。歳は20になっても、体は子供と同じ・・・僕のことよりも兄上はどうなのですか?」
「すぐに大きくなるさ・・・俺は結婚はできない。どんなに美しい女性が目の前にいても、まったくたたない。男しかだめなようだ」
「兄上!冗談は言わないで下さい」
「冗談ではなく本当のことだ。父上には言うなよ!」
「言いませんよ、そんなこと」
パーティーの会場で僕はたくさんの人に取り囲まれた。今まで僕がこうした華やかな宴会に顔を出すことはなかったから珍しいということもあり、オークの出現を預言したという話も皆の注目を集めた。さらに、女の子のいる家の人は身分が高くても低くても、執政の跡継ぎのボロミアは無理でも、僕ならばという考えもあって、入れ替わり立ち代り話にくる。夢中になって話しているうちに僕は兄の姿を見失った。そして事件は起きた・・・・・
・・・・・・最初、何が起きたのか全くわからなかった。すさまじい叫び声と怒鳴り声が聞こえた。パーティー会場にたくさんの兵士が入ってきた。
「どうした!なんの騒ぎだ!」
「ボロミア様が刺されたらしい」
「ボロミア様は無事なのか」
「わからない、すぐに病院に運ばれた」
「誰が陰謀を企んだ!」
「わからない、切り込んできた者は5人、ただちに取り押さえられた」
騒ぎが少し静まった時、父が大きな声で叫んだ。
「みなの者、わが執政家の跡継ぎであるボロミアが突然襲われて大怪我をした。今宵のパーティーは中止だ。今執政家に向かって刃をつきたてた者は直ちに取り押さえたが、まだこの中に反逆を試みる者がいるかもしれない。充分に用心して帰られるがよい。とり押さえた者は直ちに地下牢に連れて行け、この謀反に加担した者の名をすべて吐かせるまで決して死なしてはならない。全員が捕らえられたら、直ちに処刑の準備をしろ!よいな、一人残らずとらえるのだ!」
僕もすぐに自分の部屋に戻るように言われた。ボロミアはどうなったのか、誰も何も教えてくれないまま、長い時間が過ぎた。やっと何人かの役人が僕の部屋にやってきた。
「ファラミア様、あなたにも聞きたいことがあります。すぐに来てください」
「兄上は、ボロミアはどうなのですか!」
「そのことは今はお教えできません。執政殿のご命令です。すぐに私達と一緒に来てください」
「どこに行くのですか」
「とにかく一緒に来てください」
役人に連れられて地下通路にと入った。とたんに苦しげなうめき声があちらこちらから聞こえる。さっき捕まった者が拷問を受けているのだろう。僕もそうした拷問用の部屋の一つに入れられた。
「ファラミア様をお連れした」
「早く拷問にかけ、他のやつの名前を言わせろ」
「執政のご子息だ。それもこんな子供を拷問するのか」
「関係ない、捕らえた者の全員が、この計画を立てた首謀者はファラミア様だと言っていた。他にもいるはずだ。全てしゃべらせろ」
「しかし・・・」
「デネソール様のご命令だ。ファラミア様からも事情を聞けと言われた。早くしろ!夜明けまでに全員の名前を聞き出せなければ、俺達も同罪だ。拷問にかけられ、火あぶりにされる」
「それは本当か」
「ああそうだ、ボロミア様が生きるか死ぬかの大怪我をされた。執政殿の怒りは俺達にも及ぶぞ。早く取調べをしろ」
「しかし、ファラミア様を拷問するなど・・・」
「ファラミア様は普通の子ではない。呪われたヌメノールの血を濃く受け継ぎ、人もオークも自由自在に操ることができるそうだ」
「早く、縛り付けろ、手遅れになる前に!」
僕は衣服を脱がされ、拷問台の上に固く縛りつけられた。
「ファラミア様、私達もこんなことはしたくありません。すぐに全てを答えてください。ボロミア様を亡きものにしようというこの計画、いつ誰が立てたのですか」
「知りません。僕は何も知りません」
「正直に答えてください。あなたは執政の子、何を言っても処刑されることはありません。早く答えてください」
「知りません、本当です」
激しい鞭の音がして僕は悲鳴を上げた。
「ファラミア様になんてことを!」
「うるさい、わかっているのか、俺達も同罪、火あぶりにされるのだぞ!あの執政はもう気が狂っている。狂った執政に忠誠を誓って何十年も必死に仕えて、その仕打ちが拷問や処刑だ。ここにいる者だけではない。もしボロミア様がこのままお亡くなりになれば、執政殿の怒りはすさまじくなる。俺達だけでなく、家族や親類縁者まで巻き添えをくらい、拷問されて火あぶりになる。どうせ兄弟同士の権力争いだろう、それになぜ俺達が巻き込まれなければならない」
「そうだ、ファラミア様がミナス・テリスに戻って来なければこんな事件は起きなかった」
「すべてのことがわかる預言者だ。知らないはずがない」
「早く聞き出せ。全員の名がわかれば俺達は助かる!」
「早くやれ、家族を救うためだ」
激しく鞭で打ちつけられ僕はまた悲鳴を上げた。彼らの怒りがおさまるまで、しばらく打たれ続けているしかない。打たれるたびに悲鳴を上げ、泣き叫んだが、鞭の勢いは強くなるばかりだった。
「待ってください・・・・僕が首謀者です・・・・僕がすべて・・・みんなに命令しました・・・・」
途切れ途切れに言った声が彼らに聞こえているのかどうか・・・・鞭の痛みは続き、僕は気が遠くなった。
激しい痛みで再び意識を取り戻した。鞭ではない、背中に熱い焼き鏝を押し付けられている。
「なにもそこまでしなくても・・・ファラミア様はさっき自分が首謀者だと・・・・」
「それだけではだめだ。全員の名前を言わせなければ・・・早く言え・・・こいつは俺達にとって、オークよりも怖ろしい悪魔だ!」
「つかまった・・・ひと・・・だけ・・・他には・・・・だれも・・・・アアー!たすけて・・・ボロミア!」
再び焼き鏝が当てられ思わず兄の名前を叫んでしまった。激しい痛みに呼吸が荒くなる。
「もうよせ、これ以上は見ていられない!俺はもういい、火あぶりでもなんでもいい」
「待て、あきらめるな・・・もう少しだ・・・もう少しでこいつは全部しゃべる。闇の力を持っている、簡単にはしゃべらないだろう。時間を掛けてゆっくりと・・・」
「わるいのはぼくです・・・・もうやめて・・・イヤー!ヤメテー!」
鞭と焼き鏝による拷問は続き僕は半狂乱になって叫び続けた。何度も意識を失っては、また意識を取り戻す。自分が何を考えているか、何をしゃべっているかもわからなくなってきた。もう充分だ。早く終わりにしてほしい・・・・
−つづくー
後書き
かなりかわいそうな状態です。でも人間は理由さえみつかればどんな残酷なことでもしてしまうから・・・自分を守るため、家族を、国を、信念をと理由さえみつけてしまえばどんなこともしてしまうだろう。
2005、11、17
目次へ戻る