40、再生
ボロミア25歳、ファラミア20歳(13歳)、デネソール73歳(49歳)
俺は眠りながら何かの気配を感じた。体を動かそうとしても手足に力が入らない。でもここで起き上がらなければ俺は大切な者を永遠に失ってしまう。起き上がれ・・・・・起き上がって周りをよく見ろ・・・・
「ファラミア!ファラミアじゃないか!・・・・なぜここにいる。・・・・・・おい、まさか!」
ファラミアの体に温かみがなく、いくら揺り起こそうとしても目を開かない。
「ファラミア!なぜ目を覚まさない!・・・・・お前何か飲んだのか!」
慌てて胸に手を置くと微かに心臓の鼓動を感じる。息もしている。慌てて口をこじ開け、指を喉の奥に突っ込んだ。
「いますぐ飲んだものを全て吐き出せ!・・・・・お前どうしてこんなことを・・・・」
苦しそうなうめき声を上げ、ファラミアの口から血が流れ出た。
「ボロミア様!どうなされたのですが」
俺の大声を聞いて、医師が慌てて病室に入って来た。
「ファラミアが何か飲んで死にかけている、早くなんとかしてくれ」
「一体何を!・・・・わかりました、すぐに別の部屋に運んで、手当てを・・・・」
「この部屋でいい。早くしてくれ・・・・お願いだ、助けてくれ!・・・・俺のたった一人の大事な弟だ」
「わかりました、ではボロミア様、せめて目を閉じ、耳をふさいでください。大変苦しまれますので・・・・」
「俺は見ている。決して目をつぶったりはしない。早くしてくれ・・・・」
医師は処置を始めた。ファラミアはまだ意識を取り戻していない。苦しそうなうめき声を上げ、血と汚物を吐き続けている。俺は見ていられなくなって目を閉じ、耳をふさいだ。
「ボロミア様、終わりました・・・・ファラミア様の体に残った薬は全て吐き出させました。まだ意識はありませんが、数時間後には目を覚ますでしょう。あと少し遅ければ・・・・」
「よくやってくれた・・・・感謝する・・・・だがどうしてこんなことを・・・・パーティーの時、俺は何者かに刺されて、それから先何も覚えていない。教えてくれ!その間に何があった!」
「ファラミア様は余りにもお気の毒でした。それ以上のことは申し上げられません」
「ファラミアの体には酷い傷がついている・・・・やけどの跡までこんなにたくさん・・・・俺が刺されたから拷問されたのか!父上の命令で!」
「ボロミア様、お体にさわります。どうかお静まりください。デネソール様の命令ではありません」
「では誰だ!ファラミアをこんな目にあわせて・・・・俺の弟だ・・・・ただでは済まさぬぞ・・・・全員拷問にかけて、もっとも苦しむ方法で処刑してやる」
「あにうえ・・・・どうして・・・・」
「ファラミア!意識を取り戻したか!・・・・よかった、よかった・・・・だけどどうしてこんなことを・・・・少し弟と二人だけで話したい、お前は下がっていてくれないか」
「わかりました・・・では何かありましたら、すぐにお呼びください」
医師は病室を出ていった。
二度とこの目を開けることはないだろうと思って目を閉じた。だがこの目は再び開き、兄の顔を見つめている。
「ファラミア、何があったか俺に全部話してくれ、お前に酷いことをしたやつは俺が全部捕らえて処刑してやるから安心しろ」
「待ってください。僕のために、そんなことはしないでください」
「ではなぜ自分から死のうとした・・・・俺がお前をどんなに大切に思っているかわからないのか!」
「わかっています・・・・兄上がどれだけ僕を愛してくれたか、よくわかっています・・・・でも僕は自分が怖ろしいのです・・・・たくさんのオークを呼び寄せたのは自分かもしれない・・・・だから・・・・」
「何をばかなこと言っている・・・・人間であるお前がそんな力など持つわけないとあの魔法使いがよく言っているだろう。魔法使いにだってオークを支配することなどできはしない。お前は感受性が強すぎるからいろいろな声を聞いてしまうのだ」
「それに僕が戻ってきたから、兄上は殺されそうになって・・・・今の犯人が捕まってもまたそういうことを考える人はきっと出ます」
「それもお前のせいではない。そんなことを考えるくらいなら、いっそうのこと執政家の人間をすべて殺してこの国を支配しようとする人間も現れるはずだ。大国を支配している者は王であれ執政であれ、常にそうした危険がつきまとう。今までのミナス・テリスが平和すぎたぐらいだ。お前の方がいろいろな本を読んでいるのだから、よくわかっているだろう。エルフの時代から戦いは常にあった。今に始まったことではない」
「そうですね」
「二度と自分から死のうなどとは思うな、どんなに苦しい戦いでも、俺にはお前がいるから必ず勝ち、生きて帰ってこれる。一緒に戦わなくても、お前もまた俺と一緒にこの国を守っている、そうだろう」
「はい」
「少し、父上とも話してくる」
「父上に伝えてください。僕に手をかけた者にも、どうか酷い扱いはしないでください」
「お前はやさしいな・・・だがそのやさしさで自分を追い込んでしまう。俺がいない間、医師を見張りにつけておく。お前にもしものことがあったらあの医師は・・・・いいな、どんなことがあっても俺はお前を失いたくはない。それだけは忘れるな」
ボロミアは部屋を出て行き、代わりに医師が僕の部屋にきた。兄には僕の本当の絶望は理解できないかもしれない。でも僕は生き続けなければいけない。
父はいつもいる部屋にはいなかった。俺はあちらこちら探し回り、ようやく霊廟で父の姿を見つけることができた。そこには歴代の王と執政が安置されており、城とは別の建物になっていて、特別な儀式意外は近づくことさえ許されない。
「父上、ここにいらしたのですか」
「ボロミア!怪我の具合はもうよいのか」
「まだ完全に治ってはいませんが、大変なことが起きました」
「ファラミアのことか・・・あれは苦しまずに逝くことができたか・・・わしは何もしてやれなかった・・・せめて無事母に会えるようずっと祈っていた。・・・・フィンドラスはあの子をたいそうかわいがっていた。わしやお前のことはわからなくなってさえ、ファラミアのことだけはわかって抱きしめていた。ファラミアとて、母の顔は覚えてなくとも、どこか記憶の片隅で覚えておるだろう・・・・きっと今頃は・・・・」
「父上!知っていたのですか?わかっていてファラミアを見殺しにするようなことを・・・・ファラミアは生きています!薬を飲んで酷く苦しんだけど、でも生きています!」
「お前がファラミアを連れ戻したのか!あの子は呪われたヌメノールの血を濃く受け継いでいる。生きながらえればどうなるかわからず、苦しみは増すばかりだ」
「ヌメノールの血がなんですか!ファラミアは俺の愛するたった一人の弟です。父上の言うことは俺にはわかりません!」
「今はわからなくても、いずれわかる時がくるだろう。いずれにしてもファラミアをミナス・テリスにおくわけにはいかない。また同じようなことをする者が必ず出る。またイシリアンに行かせるか・・・・しかしそことて・・・・」
「イシリアンに行かせればいいじゃないですか?あそこの人間はみなファラミアを愛しています。弟を利用して何かしようとするような者は一人もいません」
「お前はそう思うか。ならばそうしてみるがよい」
「俺がファラミアをイシリアンに連れて行きます。それからファラミアが言っていました。彼を拷問した者に対して酷い扱いをしないでくれと」
「そう言っておったか。あれは自分のことよりまず人のことを考えてしまう。そしてその押さえつけた心がやがて・・・・仕方がないことだが・・・・だがボロミア、ファラミアに手をかけた者は許せても、お前を殺そうとした者は許すわけにはいかない。ゴンドール執政の跡継ぎを殺そうとしたのだ。この国で最も重い刑罰にしなければしめしがつかない。全員火刑に処す、それでよいな」
「はい、やむをえないと思います」
「わしがまたフィンドラスに報告しておく。お前はもう病室に戻れ」
「母上は俺がしたことを喜んでいます。約束しました、何があってもファラミアを守ると・・・・」
「そんな約束をしていたのか・・・・・」
俺は霊廟を後にして、また病室へと戻った。母はきっと俺達のことを守ってくれている。そんなことが感じられた。
−つづくー
後書き
指輪、久しぶりの更新です。やっぱりファラミアが39話の状態で年を越えるのはいけないと思って更新しました。最近は「大王」の方が話が早くできて更新が進んでいるのですが、新年からはまた指輪も少しずつ更新していきたいです。
2005、12、22
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