(46)遺言(**)

ファラミア20歳(13歳) アムロス20歳(16歳)

僕達は獣のように交わり、生き物を殺してはオークの森を東に進んだ。時には人間も殺した。このオークの森を通りかかる人間は闇の力に魂を売り渡した者ばかりだ。ここに来るまでの間に多くの村を焼き払い大勢の人を殺してきたに違いない。見かけは人間でももはや人の心は持ってない。そうした人間を殺すのにためらいはなくなってきた。どんなことでも慣れてしまえば当たり前のこととなる。いつの間にか僕はアムロスに抱かれることも普通になってきていた。彼を愛しているのか?こんな獣のような生活に愛など必要ないだろう。1日の終わり、ただ互いの体を求め合って欲望を満たせば安らかな眠りが得られる。どれほどたくさんの人を殺し、またオークに襲われて怖ろしい目に遭おうとも、彼の温もりを感じて眠れば悪夢を見ることはない。生まれてからずっと僕を悩ませ続けた怖ろしい悪夢、もうそんなこともない。

「ファラミア、ここはもうサウロンのいる場所に近いのではないか。空気が変わってきた」
「そうだね。今までの森だってオークがたくさんいたけど、全然違う。まだ昼間だというのにこんなに暗い」
「イシリアンはどこよりも美しい場所だった。サウロンもオークもいない頃、森はエルフやエントの住む聖地だった。もし俺達がサウロンを倒し、闇の勢力を滅ぼすことができたら、お前はゴンドールに戻れ」
「僕はもう二度とゴンドールには戻らない。あの国にいる限り禍をもたらしてしまう。僕は離れた場所でゴンドールの平和と兄上の幸せを祈るしかない」
「本当は戻りたいのだろう。いつかきっと戻れるようにしてやる」
「そんなことはない。君とこうして生きていられれば、それで幸せだ」
「自分の心を誤魔化してはいけない。お前が愛することのできる人間はたった一人だ」
「そうかもしれない。でも、今僕のそばにいるのは君だけだ」

僕は彼の顔に自分の顔を近づけた。唇を重ね、舌を絡めあう、もう何度も繰り返した行為だった。

「オークの気配がする」
「かなりの数だ。剣はしっかり持っているよね」
「ああ、これだけ数がいたらお前のことをかばっている余裕はない。しっかりやれよ」

僕達は体を離した。周りを取り囲むオークの群れ、木の陰に隠れているのも合わせればかなりの数だ。剣をさやから抜き、相手の動きを見て慎重に切り込んだ。森での生活を続けるうちに僕の体は軽くなっていた。動きも素早くなり、オークの動きが不器用にすら思える。それになぜかオークは僕に向かってなかなか自分から攻撃をしかけてはこない。剣を振り回せば次々と倒れていく。

「やー!・・・それー!・・・・いくぞー!・・・・うぉおー!」

剣はたちまちオークのどす黒い血に染まったが、切れ味が落ちることはない。むしろ血に染まれば染まるほど穂先は鋭く尖り、ひとりでにオークの体にささってその命を奪っていく。いやな臭いがあたりに立ち込める。かっては美しいエルフだったオーク達、だがそんな姿は微塵もみせずに醜い死骸となっていく。

「ぎゃああー・・・・ぐわああー・・・・」

いやな悲鳴が聞こえる。地面に倒れのた打ち回っているオークがいる。僕はその胸に剣を突き刺した。

「それでよいことをしたと思っているのか。お前は呪われている。エルフから醜い化け物にされた俺達よりももっと呪われている。覚えているがいい」

息絶えたオークの胸から剣を抜き、再び別の敵へと向かっていった。どれぐらいの数の敵を倒したのかわからない。いつの間にかあたりは真っ暗になっている。本当の夜が訪れたようだ。もう動いている敵は一人もいない。だけど、アムロスの姿はどこに・・・・彼の姿も見えない・・・・






「アムロス・・・・どこにいる・・・・アムロス!」
「ファラミア・・・・ここだ・・・・」

遠くからかすかな声が聞こえた。

「動けないの?待っていて・・・・今すぐそこへ行くから・・・・」

彼は草の上に倒れていた。身につけた毛皮が血に染まっている。

「ひどい血だ・・・どこをやられたの・・・すぐ手当てをしないと・・・・」
「胸が・・・血を止めてくれ・・・・早く・・・・」

僕は素早く自分の下着を破り、彼の傷口を縛った。白い布がたちまち真っ赤に染まった。

「なんだ、お前、たった一枚残った服を破いてしまったのか。毛皮だけじゃ、どこの人間かわからなくて怪しまれるぞ」
「そんなことより血が止まらない、どうしよう」
「ファラミア、落ち着いてよく聞け。俺の命はまもなく終わる」
「そんなことはない!君は誰よりも強いし同じヌメノールの血が流れている。これぐらいの怪我で死んだりはしない」
「同じヌメノールの血、だから俺はお前の気持ちがよくわかるし、自分の未来も見えてしまった」
「それは間違っている!君よりも僕の方がずっと濃くヌメノールの血が流れている。その僕にはなんの未来も見えてない」
「未来など、必要なければ見えない方がいい。でも俺にはその必要があったようだ。いいか、ファラミア、あのオークの群れを呼び寄せ、俺を殺そうとしているのはおまえ自身なんだよ」
「どうして・・・・僕は君を愛している・・・それにオークを動かす力など・・・・」
「お前の心はそうだ。だがその奥底にあるもう一つの心にサウロンが働きかけた。お前の力をサウロンが欲している。だからここで俺を殺し、お前一人を行かせようとした」
「僕が君を殺すなんて・・・どうしてそんなこと・・・・」
「お前が兄以外誰も愛せないということはわかっていた。でも俺はここまで一緒に来て、お前の力を引き出すことができた。それで充分だ」
「死んではだめだ。アムロス!僕に力があるならば、君の命を助けることだってできる。ここはオークの死骸ばかりだ。もっと安全なところへ行って手当てをしよう」
「見えるか、ファラミア。死んだオークの魂が元のエルフとなって森へ帰っていく。長い間醜い肉体に閉じ込められていたのが、今やっと解放されたんだよ」
「僕には醜いオークの死骸と、いやな臭いしか感じない。こんな場所、早く離れて・・・・」
「ここでいい。俺の魂もきっとこの場所に住み続ける。サウロンが来る前、ここはどこよりも美しい森だった。美しいイシリエンの森、俺の目にうつっている。お前はここで幸せにくらす」
「いやだ!君が死んで、どうして僕は幸せに・・・・」
「お前の力でサウロンを、闇の勢力を倒せ。そうすればここは光に包まれる。お前にかかった呪いも解ける。ファラミア、俺はお前の苦しみをほんの少しでも取り除いてやりたかった。その気持ちは死んでも変わらない。きっとすぐそばにいる」
「だめだよ・・・・死なないで・・・君の血はどんどん失われ、顔が青ざめていく・・・・」
「ファラミア、俺の体を死ぬまでずっと抱いていてくれないか。体が冷たくなっていく。いつかこの日が来ると覚悟していたが、それでも死は怖ろしい・・・早く・・・・」

彼の体を抱きしめるとびっくりするほど冷たくなっていた。ガクガク震えている体を僕は強く抱きしめた。

「大丈夫、君は死んだりはしない。こうして体を寄せ合えば、痛みはすぐになくなる」
「ああ、暖かい・・・・ファラミア、お前は選ばれた者・・・・使命を果たせ・・・・」
「僕に流れるヌメノールの血は誰よりも濃くて強い。君はきっと助かる。僕はもうゴンドールの服をすべてなくしている。この森で君と一緒に獣のように生きて・・・・もしサウロンを倒すことができても・・・・この森で君と暮らすことに変わりはない。君の体も温かく・・・・ああ、僕はもう待ちきれない・・・・」






夜が明ける頃、彼の体は完全に冷たくなっていた。僕は彼の死を悟った。彼の体を背負って歩き、小さな洞窟に入った。毛皮を敷いて体を横たえた。胸に巻かれた布が血で染まっている。

「君に初めて抱かれた夜のこと、僕はよく覚えている。僕の苦しみや悲しみは全部飲み込んでくれる、そう言ってくれた。僕は一人では生きられない、一緒に行くよ」

剣を取り出し鋭い刃に自分の顔をうつした。

「初めて会った頃、僕は剣もまともに持てなかった。君はそんな僕を怒ったり叩いたりしたから、嫌われているとばかり思っていた。もう一度、剣の持ち方を教えて欲しい・・・・僕は自分一人では剣も握れないほど弱い人間だから・・・」

彼の手を握り、剣に添えた。

「ありがとう・・・すぐそばに行くよ・・・・剣の持ち方も知らないって、また君に怒られそうだ」

僕は剣を自分の胸に突き刺した。鋭い痛みがして、血がドクドクと流れ出た。僕は彼の体に覆いかぶさるようにして倒れた。

「同じ痛みを感じている・・・・・フフ・・・・・僕はおかしいのかな・・・・死にかけて血が流れているのに、ちっとも怖くはない。・・・・ああ・・・・気持ちいい・・・・やめて、アムロス・・・・そんなとこ触ったら・・・・僕の体はもう大人になっているから・・・・ようやく人を愛せるようになって・・・・フフフ・・・・ひいいー・・・・あはははは・・・・だめ・・・・痛い・・・・・知らなかった・・・・愛し合うことがこんなにも心地いいなんて・・・・ああー・・・・やめて・・・・だめだよ・・・・僕はもう君に溺れて何もわからなくなる・・・・フフフ・・・・」



                                              −つづくー





後書き
 自分の死期を知った時に最後に書きたいと思う物語の一つとして長い間温めてきた話です。といってもこの話はまだ続きますが・・・だから本当の意味での最後ではありませんが・・・・
2007 10 2



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