(56)執政家の呪い・前編(***)
ボロミア25歳 ファラミア20歳(13歳) デネソール73歳(49歳) クローディル48歳(37歳)
アムロス20歳(16歳) マルディル25歳(20歳) ダムロド95歳(64歳) マブルング65歳(52歳)
僕はいくつもの夢を見た。それが幻とわかっていても何度も悲鳴をあげ、ぐったりとして意識を失った。血と悲鳴の記憶は僕だけのものではないだろう。父には固く禁じられていたが、僕は書庫で昔のゴンドールについて書かれた記録を読んだことがある。魔法使いミスランディアに話も聞いた。どれだけ多くの血がゴンドール王家と執政家の間で流され、無実の罪で殺された者がいたことか。僕に流れるヌメノールの血が次々と幻を見せていく。
冷たい石造りの地下牢、これは僕の記憶だ。ボロミアが暗殺されそうになった時、僕が首謀者ではないかと疑われた。
「デネソール様、ファラミア様がそのようなことお考えになるわけがございません。拷問にかけるなど・・・・」
「ファラミアは体は小さく幼く見えるがもう二十歳だ。ヌメノールの血を強く引き、自分こそ執政に相応しい人間とうぬぼれている。兄の代わりに執政になろうと考えてもおかしくはない。過去、ゴンドールにそのような騒動はいくらも起きた。モルドールの力が強くなった今、内乱になれば国は滅びる」
「しかし、ファラミア様がそのようなこと・・・・、首謀者は他にいてファラミア様はただ名前を出されただけでは・・・・・」
「そうかもしれぬ。だが、執政の跡継ぎを暗殺しようとした疑いがあればこのまま見過ごすことはできない。拷問にかけ、徹底的に調べ上げろ。もしためらうならば他の者達に調べさせる。お前達の子供を使ってもだ」
「デネソール様、何を・・・・」
「執政の命令を聞けぬ者がどうなるかはわかっているだろう」
「父上!」
僕は大声で叫びたかったが、手足は別の兵士に押さえられ、口に棒のようなものを詰め込まれていた。
「早く拷問にかけろ。執政の子と思わなくてよい。徹底的に調べ上げろ」
僕の体は拷問を行う台の上に鎖でくくりつけられた。激しい鞭の音、火で熱したかたまりを押し付けられるたびに僕は絶叫し意識を失った。ズキズキと痛む背中に鞭が繰り返し食い込み、叫び声も擦れて口からも血を吐いた。何度か意識を失った後、僕は小声でつぶやいた。
「父上、いえ、執政を呼んでください。すべて話します」
「その必要はない、ずっとここで見ていた」
兵士の後ろに父の顔が見えた。
「わしの前で跪いてすべてを話せ。もう鎖をはずしていいぞ」
立ち上がろうとするが体はフラフラする。兵士に支えられてヨロヨロ歩き、父の前で倒れるようにしゃがみこんだ。父は手に持っている杖で僕の背中を数回打った。
「なぜお前が生まれてきたのだ。お前が生まれてすぐフィンドラスは正気を失い、やがて力尽きた。そして今ボロミアまで・・・・お前さえ生まれてこなければわしは何も失うことはなかった」
「はい、私は生まれた時から呪われていました。母上を不幸にし、そして今度は自分の野心のために兄上までも・・・・」
「デネソール様、ファラミア様はこのような体で拷問を受け気が動転しているのです。どうか寛大な処遇をお願いします」
「黙っていろ!わしは我が子のことを誰よりもよくわかっている。お前はわしが禁じているにもかかわらず魔法使いに会い、書物を読んでついには自分の方が執政にふさわしいと考えるようになった、違うか?」
「はい、その通りです。モルドールの影が迫っている今、兄上のように力はあっても知恵のない者が執政となってはゴンドールは滅びるでしょう。その昔王家を継いだイシルドゥアは愚かにも指輪の誘惑に負け、やむを得ず弟のアナリオンが反乱を起こしてゴンドールの王となりました。今そのようなことをしていては国は滅びます。私が確実に執政となるには兄上、そして父上を暗殺するしかありません。先に父上を殺したのでは、兄上はかえって私をかばって執政職を譲り、逆に反乱が起きる可能性があります。だから先に兄上を・・・それに私はイシリアンに逃げ込んでしまえば父上でさえ手出しをすることなどできません。執政の地位を得ることなどたやすいと思っていました。ただ、使った男がこんなにあっさり私の名前を出さなければ・・・・」
「おのれ、言わせておけば・・・・執政家の命を狙った者は死罪、しかもゴンドールで一番重い罪を犯した者に対する罰、火あぶりだ。刑を執行する日まで逃げられないようしっかり見張っておけ」
「父上、1つだけお願いがあります。兄上がこのことを知る前に私をどこか遠くで処刑してください。兄上にはただイシリアンで戦いの途中に死んだと・・・・」
「それがいいだろう。ボロミアはやさしい子だ。真実を知ったら悲しむに決まっている。あれほどかわいがっていた弟に殺されそうになったなど・・・・」
父は出て行った。僕の体は再び拷問台に乗せられ鎖で縛られた。逃げられないためなのか足をひどく鞭で打たれ、口の中に棒を突っ込まれた後松明の炎が足に近づけられた。体を捻って声も出さずに唸り、強く噛んだ棒は血の味がした。再び炎が近づけられ意識を失った。
「ファラミア、ファラミア・・・・」
誰かが呼ぶ声がする。僕の体は拷問台の上にうつ伏せで縛られ顔を持ち上げることもできない。
「そのままでいい。俺の姿はお前には見えない」
「君だったのか。僕は今生きているのかどうかさえわからない。何が幻で何が本当のことなのかも・・・・」
「なぜあんな言い方をした。まるで執政を挑発するような。お前が暗殺の首謀者になるわけないだろう」
「拷問に耐えられなかった・・・・」
「嘘をつけ、お前はそんな弱い・・・・」
「弱い人間だよ。君がいなければ生きていけない・・・・それなのに僕は君を殺してしまった・・・ヌメノールの血は呪われている。いつか本当にボロミアを殺してしまうかもしれない。そうなる前に死んでしまった方が・・・」
「火あぶりにされる・・・お前はヌメノールの血が強い、すぐには死なない」
「苦しみぬいて死ぬ方がいい。僕の心はいつも2つに引き裂かれていた。ボロミアを愛しながらなぜ自分ばかり酷い目にあうと恨んでもいた。君を愛しながら殺してしまい、すぐに死にたいと願いながらボロミアの側で生きたいと思う。僕の体は鞭や炎を恐れながらも、痛みに耐え、抱かれて貫かれた時には喜びで打ち震えていた。こうして君の幻を見ている瞬間にも、ボロミアの手が僕の体にふれ、体を貫いてくれることを期待している。同じ血を分けた兄弟でありながらそんな罪深い行為で誰よりも喜びを感じてしまうんだ」
「ファラミア、俺はお前のためにもう何もできないのだな」
「そんなことはない、僕は痛みと恐怖で気が狂いそうになっている。何度も泣き叫んで意識を失って、もう楽になりたいと嘘の告白をして・・・・・」
僕の頬を涙が伝わった。それをなぞる指を感じる。
「目を閉じて、ファラミア。俺はお前の目で見ることはできない。誰もいないと思って泣けばいい。お前はもう兄の前ですら泣けなくなっているんだろう」
「アムロス・・・・」
「俺の魂はけっしてお前のそばを離れない。お前の心がどこをさ迷っていてもだ」
「僕は呪われている・・・・僕だけでなく父上、母上、執政家の人間は皆ヌメノールの血が流れて呪われている」
「俺達イシリアンの人間もみなそうだ。だからこそ俺達はお前を指導者と認め大将として指揮をあおぐ・・・・」
「イシリアンの大将はダムロドだ。僕はもうすぐ殺されるし、君はいったい何を?」
「俺には未来が見える。やがてお前は幻覚を抜け出し現実の世界にもどる。そうなればもう俺と話はできなくなる」
「何が現実で何が幻覚か僕にはわからなくなっている」
「俺がお前を独り占めできるのは幻覚の中だけだ。それでも俺はお前に欲情してしまう。昔傷ついたお前を抱いたように・・・・」
「かまわないよ。僕もそれを望んでいる」
鎖に繋がれた僕の体に手を触れ、熱い息を吹きかけてくる者がいる。体を動かすことはできないが徐々に中心に近づいてくる手にあわせて僕も腰を振るわせた。指を入れられれば僕の手足は縮こまり、鎖が擦れてひりひりと痛む。腿の内側、炎を押し付けられた火傷の跡に太い足がぶつかり思わず悲鳴をあげた。鞭の傷跡を舐められ、火傷の跡に手が添えられ、僕は悲鳴とも嗚咽ともつかない声をあげた。
「ファラミア、お前わかるのか。喜んでいるんだな」
僕は頷き、手足に力を入れて腰を少しだけあげた。次に体を貫かれる力に怯えながらも、熱く固くなる自分の中心を台に擦りつけ腰を小刻みに揺らした。口から吐いた息はびっくりするほど熱い・・・・
「こんなになってもお前は・・・・・」
体を貫く鋭い痛みに我を忘れて悲鳴をあげた。でも拷問台の固い衝撃はない。鎖はとかれたようで手足を自由に動かすことができる。僕はさらに腰を高く上げ夢中で振り続けた。
−つづくー
後書き
今度はファラミア側の幻覚です。幻覚を書くには前の部分との辻褄あわせが必要と前回よりももっと多くの章を1度読んでから書き始めました。でも思いっきり現実離れした話を書いたほうが、本人は現実のさまざまな問題を忘れてすっきりできます。
2009年、6月23日
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