2、大隊探しての新人訓練

陰謀の匂いを感じてシャープ少佐の目つきが急に鋭くなった。陰謀や裏切りという種類の事柄を何よりも嫌うのが
少佐の性格である。その潔さ、正義感の強さにいつもほれぼれとする。だから女性にもてるのだろう。あんまりモテ
て欲しくはないが・・・いやそんなことを言っては少佐に失礼に当たる。

「どう考えてもおかしい、それだけの人数の大隊がどこへ消えた。きちんと訓練して、登録してあるはずなのに・・」
「そうですね・・・」
「ハーパー、どう思う?」
「怪しいですね」

せっかく俺に問いかけてくれたのに、どうも間の抜けた受け答えしかできない自分がうらめしい。拳銃に弾をこめて
撃つことは誰よりもすばやく的確にできるが口から出る言葉はそうはいかない。

「一緒に調べてみよう」
「わかりました!」

何をどう調べるのかよくわからないまま、返事だけはいつもどおり大きな声で元気よくしていた。




暗い夜道を歩いている時、怪しい足音に気がついた。

「シャープ少佐、つけられているようです」
「知っている。相手は二人、あの橋の下で一人ずつ撃つ。しくじるなよ」

橋の下、二発の銃弾が聞こえ、相手は倒れた。近くにいた女が悲鳴をあげる。少佐は女の腕を掴んで言った。

「いいか、シャープ少佐とハーパーが何者かに殺されたとふれてまわれ、いいな」
「俺達はまだ死んでいません」
「黙っていろ、俺達はここで死んだことにする。死体の服を取替え、川に投げ込んでおけ。いそげ、誰にも見つか
らないようにしろ!」
「シャープ少佐」
「わけは後で話す。早くしろ!」




数日後、俺とシャープ少佐は新入りの兵士の訓練所にいた。名前を変えて登録を終えると灰色の訓練戯を渡さ
れた。まるで囚人服のようなだぶだぶのセンスのない衣装、頭にはこれまた変な帽子をかぶらされる。

「この服、なんか囚人みたいですね」
「そうか、俺は夜、女が寝る時に着るネグリジェを思い浮かべた。なかなかかわいいじゃないか。これなら俺達のこ
とは誰にもわからない」

かわいい!確かにシャープのこうした格好を見るのも悪くない。灰色のネグリジェと帽子があの笑顔に妙に似合う。
いますぐにもベッドに運んで抱きしめたくなる。

「そこの新人、なにニヤニヤしている!しっかり立っていろ。最初から鞭は欲しくないだろう、よし、これで全部そろ
ったな。全体整列!前へ進め!」

そして訓練は始まった。毎日毎日並ばされ、怒鳴られ、時には殴られながら、走らされたり、穴掘りをさせられたり、
全く新人でもない俺達がなんでこんな訓練を受けなければいけないのか。少佐は何を考えているのかよくわから
ない。落ち着いて話をする時間はないし、いつも監視されていて居心地もすこぶる悪い。まあ、あのシャープのこと
だから、何か計画があるのだろうけど、俺にはさっぱりわからない。わかったことといえばどんな衣装を身に着けて
もシャープはチャーミングに着こなしてしまうということだ。

「お前、どうしていつもあの男の顔ばかり見ている!」

いやな上官に因縁をつけられた。

「ホモなのか、だったら俺が相手してやるから、教練が終わったら俺のところに来い」
「すみません、自分には約束した女がいますので、お相手はできそうもありません」
「そうか、だったらよその男など見てないで、まっすぐ前を向いてろ」
「は、はい」

危ないところであった。あんなやつに俺の○○を奪われたく・・・いやベッドインなどしたくはない。俺が思うのはただ
一人だけで、しかも別の立場を望んでいるのだから・・・

「なんかヤバイこと言われたみたいだな。あんまり俺のこと気にするなよ」
「しょうがないじゃないですか。いつも俺はあなたの方だけを見て命令を待っているのですから」
「そうだな、でも今の俺達の上官はあの男だ。まっすぐ上官の顔を見ていれば文句言われないだろう」
「あんな顔、長い時間見ていたくはありません」
「そういうな、俺だって我慢している。もう少しで確実な証拠がつかめる。それまでの辛抱だ」
「そこの二人、何話している!」
「なんでもありません。ただこの隊の教官はみな素晴らしいと驚いています。前にも少し別の場所で訓練を受けまし
たが、これほどきちんとしたものではありませんでした」
「そうか、お前はなかなか違いがわかるじゃないか、顔立ちもよいし・・・もっとゆっくり話してみたいな」
「ありがとうございます。近いうちに天幕の方へお伺いします」
「お前は多分この中で一番早く出世できるだろう。みどころがある」
「ありがとうございます」

「シャープ少佐、いいんですか!あいつはホモですよ。少佐のこと狙っているのですよ!それをあんな約束までして」
「かまわないさ、その頃にはもう証拠を掴んで俺達の正体もわかってしまう。あいつには指一本触れさせない。他の
やつもそうだ。お前以外の男には触らせない」

今なんて言ったのか、まさか!俺の気持ちをシャープも気づいていて・・・そんなことは・・・




「あのバカ!何やっている!・・・・おーい、戻って来い!」

甘い夢想は一人の新人が逃げ出してあっけなく壊れてしまった。走っていく若い男とそれを追うシャープ。そしてその
二人を拳銃を持った教官が追いかけた。俺は彼らの前に立ちはだかった。

「待ってください。撃たないでください!今撃ったら彼に当たるかもしれません」
「脱走した者は銃殺が絞首刑だ」
「彼は逃げようとしているのではありません。ただもう一人を追いかけて・・・少し待ってください。すぐに彼が連れ戻し
ます」

その間もシャープは必死に逃げようとする若い男を追いながら説得しようとしていた。

「戻って来い!今ならまだ間に合う。自分から戻れば殺されない。せいぜい鞭打ちだ」
「いやだ!もうたくさんだ!こんな苦労をしてさらに鞭で打たれるくらいなら死んだ方がましだ」
「鞭ぐらいどうってことない、早く戻れ!お前だって夢を持って訓練を受けに来たのだろう」
「夢も何もないさ、ただ毎日きつい訓練とただ働き、思っていたこととは大違いだ」
「確かに違うかもしれない。だがこれが終われば・・・俺が約束する・・・きっとお前はいい狙撃主になって活躍できる
さあ、戻ろう」

川に入って逃げようとした男を追って、シャープも川の中に入った。溺れかけていた男の体を抱えて岸に上がってき
た瞬間、拳銃の音がした。逃げ出した若い男は息絶えた。




シャープは何も言わずに死んだ男を葬り、また訓練へと戻った。俺も何も言わなかった。言わなくても何を思っている
かよくわかった。言葉は必要ない。そして数日が過ぎ、シャープはこの訓練所で訓練した兵士を密かによそに売る人身
売買が行われていたことを突き止めた。大隊が消えたのにはそんな理由があった。陰謀はすべて暴かれ、俺達の正体
も明かされた。全てはうまくいった。それなのにシャープの顔は冴えない。

「俺がもう少し早く気がついてなにか言ってやれば、あいつは死なずにすんだ。証拠を探すのに夢中になって一緒にいた
やつが何を考えていたかなど、まるで気にしてなかった」
「しかたないですよ。人の気持ちなんてそう簡単にわかるものではないですから」
「そういうもんか。お前は顔を見ればすぐわかるが、他のやつはそう簡単ではないか」
「そうですよ、人の心なんて簡単にはわからないものです」

そう、人の心などわからない。この俺は自分の気持ちさえもてあましているのだから・・・・



                                                     −つづくー


後書き
 「消えた大隊」の話です。あの話はかなりスリルもあり、ずっと目をそらさずにテレビに見入ってました。新人の服が
かわいいと見とれていたのは私だけでしょうか?
2006、2、8

目次に戻る