WEB拍手お礼文「吹雪の夜」(6)〜(10)
お礼文6 「吹雪の夜」(6)
ジャレは覚悟を決めて目を閉じました。こうなってはもう逃げようがありません。たくさんの苗を手に入れ
て仲間に自慢しようと<ウルフ族>の国になど来てしまった自分が悪いのです。<ウルフ族>は思っていた
よりも遥かに残忍で凶暴、コリーのようなタイプの方が珍しいのかもしれません。たった一人でも<ウルフ
族>の人間と友達になれた、それだけでもう奇跡に近いことのように思われました。
「いますぐ彼の手を離せ、さもなければお前達全員この場で殺す!俺は数人の仲間に大怪我させた」
懐かしいコリーの声が聞こえました。けれども目を開けてみるとコリーの目は血走り、顔や手にたくさんの
血がついていました。そして彼は持っていた剣を抜き、仲間の前に突きつけました。その剣の刃は一面血に
染まって真っ赤になっていました。それまでジャレを押さえつけていた中間達の顔色が変わりました。
「おい、コリー、まさか俺達を殺す気じゃないだろうな。冗談だよ、冗談。お前があんまり得意そうになって
いるから、ちょっとからかってやっただけだよ。何も本気で剣を使うことないだろう。早くそれを下ろせ」
「もしこの剣でお前らの大事な場所を切ったら、それでもお前らは笑っていられるのか!これが冗談だと?
ふざけるな!俺達<ウルフ族>が今まで<ゴート族>の人間にどれだけの苦痛と恐怖を与えてきたことか・・
もし、<ウルフ族>の人間が同じ目にあったらおそらくショックで死んでしまうだろうな。こんな残酷なこと」
<ウルフ族>の男達の顔が恐怖で引きつり、少しずつ後ずさりを始めました。コリーは気が狂っている、仲間
達はそう考えました。人一倍力が強く剣術の達人であるコリーが狂って暴れたらどういうことになるか・・・
中間達は先を争って逃げてしまい、その場所にジャレとコリーの二人だけが残されました。
「大丈夫だったか。あいつらに何かされなかったか。怖かっただろう・・・俺は仲間に大怪我をさせてしまった。
すぐに守備兵に捕まるに違いない。お前はできるだけ早くここから逃げろ!うまく逃げ延びたらお前に必用な
苗を持って山へ行く。あの時の洞窟で待っていてくれ。さあ急げ、ぐずぐずしていたらお前はまたすぐに他の
男に捕まってしまう。さあ、早く行け!俺が時間稼ぎをしてやるから・・・・」
「あんなに血を浴びて、君は怪我をしてないの?」
「俺の怪我は大したことない。早く行け!心配しなくても苗なんかいくらでも取ってきてやる」
「待って!苗はもういいよ。それよりも一緒に逃げよう。君は僕を助けようとして仲間に大怪我をさせた。捕まっ
たら大変なことになるだろう。一緒に逃げよう。さあ、早く・・・・」
「だってお前、苗を持って帰らなければ苦労してここまで来たかいがないだろう」
「いいんだよ、苗なんてもうどうでもいい。早く逃げよう!僕は苗よりも君の方がずっと大事だよ。だって君は
初めてできた<ウルフ族>の友達だもの。一緒に逃げるのが当たり前だよ」
「そうだな、俺達は友達だもんな。一緒に逃げよう」
こうして二人は手に手を取って走り、<ウルフ族>の国を抜け出しました。けれどもその先はまた雪の山です。
−つづくー
お礼文7 「吹雪の夜」(7)
<ウルフ族>のコリーと<ゴート族>のジャレは手に手を取って走り、また二人が出会った山へと戻ってきま
した。<ウルフ族>の国では守備兵が慌しく動いていますが、さすがにこの雪山までは追いかけてこないよう
です。けれども山は寒く二人は今にも凍え死にそうでした。特に色白のジャレの顔色がいっそう白くなり、唇
が紫色になっているのがコリーには心配でした。コリーは急いで雪を避けられる洞窟に入り、木の枝を集めて
火を焚きました。ジャレの冷え切った体はなかなか温まらず、ガタガタふるえています。
「このままでは凍え死んでしまう。早く濡れた服を脱げ!」
コリーが手伝ってジャレの濡れた服を脱がせました。けれども彼のふるえはますます激しくなり、歯をカチ
カチさせているのがよくわかります。コリーはあわてて自分の服も脱ぎました。色白で滑らかな<ゴート族>
の肌とは全く違う、茶褐色で毛だらけのゴツゴツした自分の肌、そんな自分の体が悲しくなりました。
「俺はこんな体だけど、それでも少しはお前を温めることができるかもしれない」
コリーは両手を広げ、小柄なジャレの体を強く抱きしめました。紫色の唇にそっと自分の唇を重ねると頬に
少し赤みがさしてきました。冷たい体も少しずつ温かみを取り戻してきます。同時にコリーの体に激しい
欲望がわきあがってきました。いますぐにも彼を犯したいという強い気持ち、<ウルフ族>に流れる彼の
血が激しく脈打っています。
「何を考えている。俺はこいつと友達になった。俺はもう<ウルフ族>の人間じゃない。
「もし、君が<ウルフ族>でなくなったなら、僕達の住む<ゴート族>の国へ行って一緒に暮らさないか」
「だけど俺は<ウルフ族>の人間だ。いくら何もしないと言っても<ゴート族>の人間は恐れて近づかな
い。俺なんか連れて帰ったら、お前まで仲間からつまはじきにされるぞ!」
「大丈夫だよ。君は僕にとって命の恩人だ。<ゴート族>は力が弱いから互いに助け合って生きている。君
が僕にしてくれたことをみんなに話せば、きっとわかってもらえるよ。だから、僕と一緒に行こう。
「そうか、それならば一緒に<ゴート族>の国に行こうか。でも今夜はここで休んだ方がいい。もう寒くないか」
「君と一緒ならどんなに寒い吹雪のなかでも大丈夫だよ」
二人はしっかりと抱き合い、洞窟の中で一夜を過ごしました。
−つづくー
お礼文8 「吹雪の夜」(8)
<ウルフ族>のコリーと<ゴート族>のジャレは山を下り、<ゴート族>の国に入る城門の前までたどり着き
ました。門には長い槍を持つ門番が何人も立っています。二人はたちまち捕らえられてしまいました。
「<ウルフ族>の男と一緒にお前こんな所で何をしている!」「怪しいやつらだ、女王様の前へ連れて行け」
何かいう余裕はありませんでした。二人は手足を縄で縛られ、<ゴート族>の女王の住む宮殿へと連れていか
れました。この国は占いをつかさどる独身の巫女が長い間女王をしています。苗を植える時期も政もすべて占
いの結果を見て巫女が指図をしていました。女王の権限は絶対的で誰も逆らうことはできません。そして巫女
の死の直前、占いによって新しい巫女の名が告げられ、新しい女王となるのでした。
「<ウルフ族>の人間がこの国に<ゴート族>の人間と入って来るとは前例のないこと。今までこの国へ来て
捕らえた<ウルフ族>の男は神への生贄に捧げるのがしきたりだったが、はて、この男はどうしたらよいものか」
「待ってください。彼は<ウルフ族>の人間です。でも僕に危害を加えることはなく、逆に僕を助けてくれま
した。僕達は友達になったのです。どうかこの国で一緒に暮らすことをお許しください」
「友達とは・・・<ウルフ族>の人間と<ゴート族>の人間が友達になるなど、今までの記録にも、これから
先の占いにも出たことはない。そのようなことが本当にできるのか?私には信じられない」
「できるのです。僕達は友達です。どうかこの縄をほどき、この国に住む許可を与えてください」
「お前の熱心さに負けた。ではその男をこの国に住む許可を与えよう。ただし、万が一この国の人間に危害を
加えるようなことがあれば、その時は容赦なく裁きを与える。よいな」
「大丈夫です。そんなことは決してありません。よかったね、コリー、僕達は一緒に暮らせるよ」
こうして二人は<ゴート族>の国に一緒に暮らすようになりました。国の端にある土地が与えられると、力の
強いコリーはたちまち立派な家を建て、荒れた土地を耕して広い畑を作ってしまいました。二人は幸せに暮らし
やがて苗を植える春がやってきました。でもジャレはまだ新しく植えるための苗を1本も用意していません。
そこで知り合いの家に頼みに行き、苗をもらう代わりにコリーがその家の畑を耕すことになりました。ところが
約束の土地を耕しても、ちっとも苗はわけてもらえません。
「約束が違うじゃないか!コリーはこんなに働いたんだ。もう苗をもらってもいいはずだ」
「約束?相手は<ゴート族>の男だろう。約束など成立するわけがない。ジャレお前はだまされているぞ!
うまいこと言われて土地も手に入れたけど、最後には大事なトコ切られてさらわれるさ。お前達一緒に暮らして
いるのか、よくそんな野蛮人と一緒に寝ていられるな。お前のモノはいつまで無事でいられるかな」
「何を!よくも言ったな!・・・・このやろう!」
ジャレの怒りが爆発し、相手に殴りかかってしまいました。相手は短剣を取り出し、ジャレを刺そうとします。
「やめろ!けんかぐらいでこんなもの使うな!」
それまで黙って見ていたコリーが慌てて相手の男が持っていた短剣をとりあげました。ところが手元が狂い、
コリーの手にした短剣が相手の男の手を傷つけてしまいました。
「よくもやったな!<ウルフ族>が<ゴート族>を傷つけた。ただではすまされないぞ!」
−つづくー
お礼文9 「吹雪の夜」(9)
<ゴート族>の人間を傷つけてしまったコリーはたちまち捕らえられ、連れていかれてしまいました。ジャレも
必死で後を追いかけようとしたのですが、他の男に捕まえられて身動きができません。やっと抜け出した時には
コリーも捕らえた兵士達の姿もどこにもありません。ジャレは怖ろしい予感を感じました。あの場所にコリーは
連れていかれたに違いない、早く助け出さなければ大変なことになる!広い<ゴート族>の国の中、ジャレは、
必死に走り、その場所へと向かいました。
「我らが神よ。今ここで宿敵<ウルフ族>の男を生贄に捧げます。どうか我らのことを末永く見守り、<ウルフ族>
の侵略を防ぎ、我らの国に平和をもたらしてください。さあ、皆の者、我ら<ゴート族>が受けてきた長年の恨み
と屈辱をこの男で晴らすがよい。皆の者、石を一人一つずつ持つのだ。我らの神よ、<ゴート族>に栄えあれー」
ジャレは怖ろしい光景を見てしまいました。神殿の前の広場に木の柱が立ち、コリーがそこに縛り付けられていま
す。周りにはたくさんの<ゴート族>の男が大きな石を持って取り囲み、巫女である女王の合図を待っています。
合図と共に石が投げられ、コリーは殺されてしまうのでしょうか。
「やめてー!殺さないで!・・・彼は僕の友達だ!・・・命がけで僕を助けてくれた・・・やめてー」
ジャレの悲痛な声が響きましたが、一人が石を投げると他の者もそれに続きました。大きな石が次々と・・・
「やめてー!殺すなら僕を殺してくれ!・・・お願いだから彼を殺さないで・・・・」
ジャレは思わず広場の前に飛び出しました。ジャレの体にもたくさんの石が当たりますが、かまわずコリーの
近くに駆け寄ります。コリーの顔や体はたくさんの石で血だらけになり、ぐったりとして目を閉じています。
「石を投げるのをやめよ!同胞の男まで殺したら、神の怒りは我らに降り注がれる。もうよい、これで終わりだ」
女王の一声で石を投げる者はいなくなりました。ジャレは急いでコリーを縛っている縄をほどきました。彼の体
はピクリとも動きません。死んだようにぐったりしています。
「死なないで、コリー!僕達は<ウルフ族>の国も<ゴート族>の国も行ってはいけなかったんだ。吹雪の中で
君と初めて出会ったあの洞窟に連れて行くよ。僕達はそこで暮らそう。今度こそ二人だけで・・・・あの吹雪の
夜、僕は君と出会えてうれしかった。君と暮らせて幸せだった。もう一度そこへ行くよ。しっかりして!」
死んだようになったコリーの体を背負ってジャレはゆっくり歩き出しました。小柄なジャレが体の大きなコリー
を背負って歩くのは大変なことです。それでも一歩ずつ山に向かってジャレは歩いていきます。彼を止めよう
とするものは誰もいませんでした。
−つづくー
お礼文10 「吹雪の夜」(10)
ジャレはコリーを背負って一晩中山道を歩き続け、ようやく二人が初めて出会った山の洞窟にたどりつき
ました。あの日はひどい吹雪で凍え死にそうになりながらここについたのですが、今はすっかり暖かく
なっています。ジャレは少しも動かないコリーの体を静かに岩の上に横たえました。頬に触れるとまだ
ぬくもりが残っています。顔についた血をふき取ろうとしましたが、涙が溢れ手が震えてうまくできません。
「着いたよ、コリー、僕達が初めて出会った洞窟に・・・あの日、君は何も考えずに僕を襲ってここを切り
取り、奴隷にしてくれればよかった。そうすればこんな悲しい思いをしなくてすんだのに・・・・」
その時、コリーがうっすらと目を開けました。
「ここはどこだ、俺は<ゴート族>の男を奴隷にするために山に来て吹雪の中を歩き、洞窟に入って・・・」
「コリー、無事だったんだ!よかった。よかった、死ななかったんだ」
「誰だお前は!俺達の仲間じゃない。<ゴート族>の男か。ちょうどいい、苦労しないで奴隷が手に入るとは」
「コリー、しっかりして、僕だよ、ジャレだ。君は石で打たれて殺されそうになり、意識を失っていた」
「俺は誰だ!俺の名前は!ああ、頭が割れるように痛い、俺は<ウルフ族>で奴隷を狩るために山へ来て、一体
どうしたというのだ!少しも寒くない。お前は何者だ。何故俺を恐れない。俺は<ウルフ族>の人間だ」
コリーは石で打たれて記憶を失ってしまったようです。ジャレは自分の短剣をコリーの手に握らせ、身に着けて
いたものを全て取りました。その美しい白い肌を見て、<ウルフ族>コリーの血はいやでも騒ぎます。
「君は僕のことを忘れてしまっても、<ウルフ族>の人間であることは覚えているんだね。<ウルフ族>が
<ゴート族>に対してすることはただ一つしかない。この短剣で僕のここを切り、陵辱して連れ帰ればいい」
「何故お前は自分から俺に短剣を差し出す。お前は俺のこと知っているのか?俺とお前はどういう関係だ」
「知らないよ、今初めて会ったばかりだ。恐ろしさに僕の頭はおかしくなっているんだ!さあ、早く切って
くれよ。俺が逃げ出さないうちに・・・怖くてたまらないんだ。だから早くして、お願い、これでいいんだよ」
「お前は何か知っている。教えてくれ。俺はお前をどうすればいい。俺の血がいくら騒いでも、心の奥にある
何かが叫んでいるんだ!お前を傷つけてはいけない。こんなもの使ってはいけないと・・・・」
「君の血が命じるとおりにすればいいんだよ。掟を守れば僕達はまた一緒にいられる。それしか方法がないんだ。
掟を破れば僕達は引き裂かれる。君ができないなら僕が自分でやる。その短剣を貸してくれ。こんなもの君の
命に比べれば少しも・・・君の命が、君のぬくもりが欲しいんだ!・・そのためならどんなことでもやる!」
ジャレはコリーから短剣を奪い自ら自分のものを切り取ろうとしました。「危ない!やめろ!」コリーは飛び掛
り短剣を奪おうとします。二人はもみくちゃになりました。かろうじてコリーが短剣を遠くに投げましたが、も
みあったまま、二人の体は絡まりいつしか激しい情熱に包まれていました。抵抗し、もがきながらも二人の血は
同じ行為を目指し、やがて二人は一つに結ばれました。<ウルフ族>の男が<ゴート族>の男を傷つけずに抱い
た初めてのできごとでした。二人は何もかも忘れ、ただひたすらお互いを求め合っていました。
「これからどうする」コリーが尋ねます。
「旅に出よう」ジャレが答えました。
「旅ってどこに?」コリーは心配そうに聞きます。
「この山を越えてずっと歩いていくと<ゴート族>の国でも<ウルフ族>の国でもない別の種族の住む国がある
そうだ、そこへ二人で行こう」「そんな話聞いたことないぞ」コリーは真顔で聞きました。ジャレだって本当は
そんな国のことなど知りません。うそをついているのです。でもジャレは笑顔でこういいました。
「君は何もかも忘れてしまったみたいだね。でも僕が覚えているから心配しないで・・・別の種族の住む国
がどこにあるか、僕達がどこへいけばいいか、みんな僕が知っている。君が忘れていても僕は覚えているよ
君が僕のためにしてくれたこと、どんなに大切に思ってくれたか、僕は決して忘れない」
こうして二人は<ウルフ族>の国でも<ゴート族>の国でもない、別の国へ向かって歩き出しました。
−おわりー
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