太くてもいい邪ない?(2)

その役を引き受け、30kg太ろうと決意した俺は食べる物にも気をつけるようにした。コリンの泊まっているホテルへ行く前にアイリッシュ・パブに寄り、あいつの好物のフィッシュチップスなどを大量に買い込んだ。男同士のsexでどれほど体力を消耗してカロリーを使ってしまうか、まして相手がコリンならば10km走るのと同じくらい使ってしまうかもしれない。腹ごしらえは絶対に必要だ。

フィッシュチップスがあがる間、ぼんやりと今度の役について考えた。予想したとおり誰よりも激しく反対したのは兄シャノンだ。

「おい、ジャレッド。俺は映画業界のことはよくわからないから、今までお前がどんな役を引き受けようと反対はしなかった。チンピラ、麻薬患者、人殺し・・・イメージを壊すであろうどんな役を引き受けてもな。だけど今度の役だけは許せない」
「どうして?スーパースターを殺した殺人犯の役だから?」
「そうだ。よくわかっているじゃないか。ただの殺人犯人じゃない。よりによってあのジョンを殺した犯人なんだぞ。世界中に彼のファン、信奉者がどれくらいいると思っているんだ!お前、殺されても知らないからな!」
「なんでそんな極端なことを言うんだよ。俺は映画に出るだけで、別に犯罪を犯そうとしているわけではない」
「ただのフィクションならどんな役やったってかまわないさ。なんて愚かで残酷な犯人だ。思い出すのもイヤでゾッとする。何?ジャレッド、聞いたことないなあ。他の映画にも出ていたっけ・・・そういう観客の反応がお前は好きなんだろう?目立ちたがり屋なくせに、自分が誰だかわからないでいてくれ、観客に罵られることに快感を見出す。お前はマゾだから他の俳優と役を選ぶ基準がまるで違う」
「別に俺が選んでそういう役をやっているわけではない。たまたま・・・・」
「ハリウッドの監督はお前の性癖までよく知っているからな。まあ、それはいいとして、今までは今まで、だけど今度の役は俺は絶対反対だ!」
「別にいいだろう。バンドの活動はしばらく休みにする。30kgも太ったら人前には出られないから」
「30kgも太るのか!・・・・お前、歌手として致命傷だぞ・・・いや、そんなことは問題じゃない、俺が言いたいのはあれだけのスターを殺せば、お前のキャリア、いやバンド全体の致命傷になって・・・」
「俺は映画をやるんだ!フィクションと現実をごっちゃにしないでくれ!」
「お前はそう思っても、見るやつがそう受け取れるか?よく考えろ、彼はただのスターじゃない。歌を通して世界を変えようとした。その熱狂的な信奉者が世界中にいるんだぞ。彼らを刺激するような映画を作ってどうする」
「兄貴、俺も信奉者の一人だ。実際に会ったことはないけど・・・・信奉者で同じ歌い手である俺だからこそこの役ができると確信した」
「そんなこと確信するな。お前、一体何考えている?過激なのは歌詞だけでいいぞ」
「歌や言葉は世界を変えることができる。それを証明するためにもこの映画を成功させる」
「ああそうか、だけど映画の成功がバンドの終わりになるかもしれないぞ」
「そんなことはない」
「いや、俺はそう思う。映画の影響で俺達が危険な目にあったら、バンドは即解散だ。あいつらにも先に言っておく」
「二人は映画に賛成してくれた」
「本当のことを言えるのは、兄弟の俺だけだ」
「わかった、解散覚悟でこの役を引き受ける」

目の前にはいつのまにか大量のフィッシュチップスが運ばれていた。兄貴は大反対だった。だが、映画が完成すればわかってくれるだろう。





充分すぎるほどたくさんの食べ物を腹に詰め込んで、俺は裸になってベッドに横になった。これから起こることを考えるだけで俺のものは自然と固くなり、体の内側をドロリとした液体が駆け巡る。俺は男同士のsexこそ人間が体験しうる最上の快楽であると信じている。コリンと付き合いだした最初の頃、それは拷問以上の苦痛と屈辱であり、その中でさえ快楽を感じる俺はよっぽどのマゾなのだろうと考えていた。だが、体が慣れるにしたがい、そうではないことに気が付いた。アレキサンダーの撮影のために古代ギリシャ、マケドニアについては随分勉強した。強大な力を持つ王が同性愛のもつれで暗殺された、なんてことが何度もあったようで随分驚いたものだ。何人もの王妃がいる王が、なぜ子供ができるわけでもないちょっと綺麗なだけの男にそこまで夢中になって溺れるのか、ましてや愛された男がかっとなって王を殺すなどとうてい理解できないでいた。

「ジャレッド、会いたかった」
「コリン、俺もだよ」

コリンのゴツゴツした指が俺の内部に差し込まれた。食事で言えば前菜ということだろうか。俺の感じるポイントを知っている指が艶かしく動いて俺をパラダイスへと導く。耐え切れずに喘ぎ声を漏らせば、さらなる刺激に襲われる。

「あー・・・・う〜ん・・・・はあーん・・・・」

体をよじらせ、足を開いて快楽に身をまかせる。長い歴史の中、人間が感じうる至上の喜びを今味わっている。アレキサンダーに愛されたヘファイスティオンや小姓バゴアス、そしてフィリッポスに愛された小姓パウサニアスも全く同じ喜びを味わったのだろう。だからこそヘファイスティオンはアレキサンダーを暗殺しようとした者にあれほど凄惨な罰を与えたし、パウサニアスはフィリッポスを暗殺した。喜びが至上であるほど相手は神となり、それが奪われることは狂気へと走らせてしまう。撮影の時わからなかった感情が、今ならはっきりわかる。だが、チャップマンの場合はなぜ彼を・・・・これはまだ俺の中で理解できていない。

「ジャレッド、気持ちいいか」
「ああ、最高だ。俺は今人類が経験しうる最高の快楽を味わっている。地球の渕に突き刺され、体をぐにゃりと溶かされるようだ」
「お前は詩人だ」
「ああ、体が溶かされ、流れて新しいものへと生まれ変わっていく。早くきてくれ」

指とは太さも固さもまるで違うコリンの一突きが俺の脳天に届いた。至福の喜びに体を震わせ、腰を振れば内部がドロドロと溶けていく。地中にたまった火山のマグマが爆発し、溶岩がゆっくり流れていく。ドロドロとした流れはチョコレートにも似ている。コリンの刺激に俺は溶けて液体を流し続けた。

「ああー・・・・体が溶けていく・・・・」
「お前の中は熱く心地よい。本当に何もかもとろけそうだ。ああ、ジャレッド・・・・」
「だめだ、溶けていく・・・・チョコレートケーキ!」

とんでもないものを思い出してしまった。来る前に寄った店で大きなチョコレートアイスケーキも買っていた。デザートに食べようとテーブルの上に置いておいたのだが、その前にベッドに来てしまった。部屋は暖かく、このままではアイスケーキなど溶けてしまう。

「ああ、溶ける・・・・」
「いいさ、ドロドロに溶ければいい」
「俺、あの店のアイスケーキ、かなり好きなんだよ」






がばりと体を起こした。何も考えてはいない。裸のまま真っ直ぐテーブルに向かい、大きな白い箱の中身を出した。チョコレートはぐにゃりと溶けているが、まだ原形はとどめている。思い切ってスプーンですくい、一口食べてみた。

「あ〜・・・・うまい・・・甘くて、滑らかでトロリとして・・・・」

もう少し食べた。溶けている部分だけ食べて、後はコリンのために冷凍庫にでも入れておこう。だが、とけかかったアイスとチョコはなんてうまいんだろう。舌の上でのとろけるハーモニー、これはもう人類が味わうことができるもっともよい味かもしれない。もう少し、もう少しだけ・・・・

「なにやっているんだよ、ジャレッド!」
「悪い、お前の分もちゃんと残しておくから」
「それはいいから、早く戻って来い。途中で抜け出して俺は困っているんだぞ」
「ああ、もうこれしか残っていない」
「全部食べろ!俺の分はいらない!」
「そうだ!アイスを電子レンジで少し溶かして舐めればたくさん食べられるかもしれない」
「いいから早く食べて来い!」

電子レンジでアイスを溶かす、これはいい考えかもしれない。そもそも俺はなかなか太れない体をしている。少しくらい食べて太っても、sexなどやればげっそりと痩せる。だが、こうして毎日大量にアイスクリームを取れば・・・・栄養士は言っていた。アイスはカロリーは高いけど冷たいものは体を温めるために食べたカロリーくらいはすぐ消費してしまうと・・・・それにホットチョコレートは俺の大好物だ。

「信じられないやつだ。お前が中断して何か食べるなんて初めてだろう」
「そうかもしれないな。でもこれで太るコツがつかめたような気がする」
「いいから来い!」
「お前の分、全部食べてしまった」
「そんなものはどうでもいい。俺が食べたいのはお前だ!」





急いで口をすすぎ、手を洗ってからコリンのかぶっている毛布にもぐりこんだ。チョコレートの匂いが毛布の中に充満した。甘い香りに包まれてのsex、これも幸せなのだろうけど、どこか違う気もする。だが、コリンの巧みな指使いが再び俺をパラダイスへと導いた。人は甘いものを食べる時、一瞬すべてを忘れて幸せな気持ちになれる・・・そうか、だからチャップマンは常に食べ続けた・・・でも俺はそうしなくても・・・・後ろからのこの刺激で・・・世界一の快楽を味わっている。




                                  −つづくー





後書き
 今日12月26日はジャレッド36歳の誕生日です。誕生日のお祝いということでこの話を書きました。太めになろうとする話でお祝いというのもなんですが(笑)、そして人類が体験しうるもっとも大きな喜びも味わってもらいました(本当にそうかどうか知らないけど)

2007、12、26





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