太くてもいい邪ない?(3)

1ヶ月ぶりにジャレッドに会った。待ち合わせのレストランで会うなり、俺はまずヤツの顔の輪郭をチェックした。あごの辺りが少し膨らんでいるようだが、顔全体の印象はまだそれほど変わってはいない。

「なんだよ。俺の顔そんなに変わったか?」
「いや、この程度ならまだそれほど変わったとは・・・俺の許容範囲だ」
「1ヶ月頑張ってたった10キロしか太ってないんだよ。こりゃ、やばいな。後2ヶ月で20キロも太らなければいけない」
「ちょうどいいだろ。1ヶ月で10キロなら」
「3かける10で30キロか。あいにくそういう単純計算は通用しないんだよ」

オーダーした前菜が運ばれてきた。ジャレッドはサラダの上から生ハムやアボガドなどを取り出すと、皿を俺の方へ寄こした。

「なんだ、食欲がないのか」
「違う、野菜で腹を膨らませたら後のものが食べられなくなるだろう。お前にやるよ。その少し出っ張ってきた腹をなんとかするのにちょうどいいだろう」
「お前の腹はどうなんだよ」
「まだまだ、お前の足元にも及ばない」

レストランの入り口は暗くて全体の輪郭がよく見えなかった。今は座っているので、テーブルの上に出ている部分しか見えない。俺は10キロ太ったという事実とアゴのラインから想像したジャレッドの全身を頭に思い描いた。腹は俺ぐらい出ているのか。ダメだ、そんなヤツを押し倒して・・・

「何首振っているんだよ。お前は生野菜嫌いだったか」
「いや、その、お前とのアレを想像してつい・・・」
「気の早いヤツだな。しばらく予定は入っていない。じっくりお前の相手をしてやるよ」

ジャレッドが笑った。アゴのあたりに皺が入る。今までヤツの顔に皺がよるなどということは絶対なかった。まだたったの10キロだというのに・・・・

「スパゲティー、半分もらってもいいか?」
「俺のを食うのか?」
「いやならもう1人前注文するさ。生クリームと卵の黄身でこってりしたカルボナーラ、こりゃちょうどいいや。同じスパゲッティでもペペロンチーノなんかは唐辛子やニンニクが体を燃焼させてしまうから太りにくいんだ」
「そ、そうか。それじゃ、俺のを半分やるよ。俺はちょっと腹周りを気にしなければならないと思っていたところだ」
「サンキュー、恩にきるぜ」

ヤツはさっそく俺のスパゲッティーの皿から半分以上を自分の皿に乗せた。俺の分はかなり少ない。でもこれも今夜ヤツを押し倒す時のためだ。もう1人前注文されるよりもカルボナーラ半皿分でも腰周りが細いままでいてくれた方がいい。だが俺のささやかな望みなどジャレッドは完全に無視して、油のこってりした肉料理を注文し、デザートにケーキを2人前食べた。

「あーうまかった。やっぱり食事は気心の知れたヤツと一緒に食べるのが一番だ。兄貴やバンドのメンバーは撮影のことを知っていて俺を太らせようと気をつかうし、一人で食べるとほんとフォアグラにされるカモの気分になっちまうんだ。不思議だよな。目の前に食べ物がいっぱいあるのに、それを食べることが死期を早めるような気になって、そういうのも本能なんだろうな、なんか食べられなくなってしまうんだよ。でも、お前と一緒だと心の底から食べることを楽しめるんだ」
「それはよかったな」

こっちは食べたものの味なんかちっとも覚えていない。それでもまあヤツが喜んで満足しているのだからそれでいいのだろう。夜食を大量に買い込んだジャレッドと一緒にホテルへチェックインした。





ジャレッドが夜食を買っている間に、俺はこっそりゲイ用のHな雑誌とビデオを買った。この俺に限ってできなくなるとかそういうことはないと信じているが、それでも全身のシルエットを見た時に軽いショックを受けた。アレキサンダーの撮影の時には筋肉をつけていたが、もともとジャレッドはかなり細身で俺が抱きかかえられるほどだ。別に少しぐらい太っても俺達の愛に差しさわりがあるとは思えないが、恋人が太ったためにどうしてもできなくなってしまったという友達もいた。俺はそんなことはない、はずだ。

「先、シャワーを浴びてもいいか」

夜食を食べていたジャレッドが立ち上がった。見たくはないけどつい何を食べていたのか見てしまうと、テーブルの上にはチョコがたっぷりかかったやつと生クリームの入ったドーナツ、そしてドロリとした濃いホットチョコレートを飲んだらしいカップが置いてある。

「ああ、いいとも。早くシャワーを浴びろ。俺は待ちきれない」

ジャレッドは俺の目の前で服を脱ぎ、下着だけになった。レストランを出た直後より腹の周りがさらに太くなったように思える。腿の付け根もどっしりしている。これじゃあ前からやる場合、両足を開いて乗せた俺の肩にかなり負担がかかるかもしれない。いや、そんなことはない。俺の愛は肩の痛みぐらいでなくなるものでもない。だが、脂肪が厚すぎてちゃんと俺のモノが奥まで届くだろうか。前にこだわらなくてもいい。後ろから攻めればいいじゃないか。

「コリン、お前のその俺を見る目つき、全身嘗め回すようでホント、いやらしいんだよな。純情な男が相手なら、その目付きだけで逃げられるぞ」
「ジャレッド、お前の体に清純な部分が残っているのか?その体のどこを触っても喜びに震えて喘ぎ声を出すのに・・・」
「お前に会う前、俺は普通の男だった」

誘うようなねっとりとした流し目で俺を見て、ゆっくりとパンツを下に下ろした。その仕草は男に与えられる喜びを知り尽くしているヤツだからこそのものだった。だが、何かが違う。普通ならその体を見ただけで立ち上がる俺のモノが、穴の開いた風船のようにみるみるうちに萎んでいくのを感じた。ジャレッドの腹や腰周り、これぐらいアメリカ人としてはちょうどいい、今までが細すぎたぐらいだ。そう自分に言い聞かせながらもつい目をそらしてしまう。

「早くシャワーを浴びて来い」
「ああ、そうする。お前もすぐ浴びてくれよ。俺は汗臭いのは嫌いだ」
「わかった」

ジャレッドがシャワー室に入り、俺の視界から消えた。俺は大きなため息をつき、股の間に手をやった。やっぱり萎んだままでいる。ベッドの上にジャレッドが脱いだパンツとシャツがある。よせばいいのに俺はそのパンツを持って自分の前にあててみた。デカイ!俺も最近腹が出ていると気になっていたが、その俺が楽々はけるほどの大きさである。慌ててパンツをベッドの上に置き、買ったばかりのビデオを袋から出した。





そのビデオは筋肉隆々の男が小柄で少し太めの男を組み敷いている絵柄が気に入って購入した。タイトルなどロクに見ていない。「太い男はきらい?」とあった。さっそくつけてみると、画面にすぐ裸の男二人が出てきた。

「僕は君に会えない寂しさでこんなに太ってしまった」
「すまない、お前をこんなに悲しませてしまった。もう一度愛してもいいか」
「今の僕は昔とは違う。それでも・・・」
「俺を愛するお前の心の深さが、お前をこんなに変えてしまった。それならば、俺はお前を丸ごと受け入れ愛するとしよう。この柔らかい腿の付け根、腰のラインの肌触りはどうだろう。ふくよかになったお前は前よりもはるかに大きな喜びを俺に与えてくれる」
「ああ・・・そんなところにまで口付けするなんて・・・僕は本当に愛されているんだね」
「お前をもっと喜ばしてやろう、さあ力を抜いて・・・」
「ああ・・・いいい・・・・」

俺もまたベッドに寝っころがって、自分のモノをいじりだした。心配することはない、俺も男だ、ちょっとその気になるビデオを見ればすぐ回復するじゃないか。

「ああ、お前のここはまるでドーナツの穴のように俺を強く締め付ける。この強さこそ愛の絆・・・」
「ドーナツの穴・・・アイツ、ドーナツをいくつ食ったんだ」

俺はビデオを消し、立ち上がってテーブルの上にあったドーナツの袋に手を入れた。レシートに記された購入数と残りの数を引いてみる。

「10個買ってあまりは3個、ということは・・・・」
「ああ、コリン、お前もドーナツ食っていいぜ。あ、でもお前は腹を気に方が・・・」

シャワー室から出てきたジャレッドは裸のままもう1つドーナツを食った。残り2個、俺は自分の体から力が抜けていくのを感じた。せっかく立ったモノがもうまた萎んでいる。

「お前はまるでドーナツの穴のように俺を強く締め付ける」

とっさにさっき見たビデオのセリフを思い出した。あの男は今のジャレッドよりもっと太っていた。愛があれば多少の困難などすぐに乗り越えられる。丸く柔らかくなったジャレッドはそれなりにおいしいかもしれない。

「ドーナツを見てまでHなことを想像するのかよ。お前は本当に好きなんだな」

耳元で囁かれてゾクっとした。それなのにアレはますます小さく縮んでいく。どうすればいいのだろう・・・



                                     −つづくー



後書き
 映画を見てのいろいろな想像です。他人からみれば多少太くてもいいじゃないということでも、恋人となるとけっこういろいろなところに支障が出て困るのではないかと思います。ましてそれまでスリムだったらなおさらショックは大きいでしょう。でもまだ10キロ、これからもっと太らせます。



目次に戻る