太くてもいい邪ない?(6)

コリンと会わないで2ヶ月が過ぎた。俺達は今までも会う時は10日や2週間べったり一緒にいる時もあったし、互いのスケジュールによっては数ヶ月会わないこともあった。直接会って体を重ねなくても俺達の絆に変わりはない、そういう自信が今まではあったが、今回は妙な不安に襲われた。俺は映画のために30キロ太った。最初の10キロくらいは大したことはない。だが、さすがに30キロ太って体型がすっかり変わると周りの目も違ってくる。

「おい、ジャレッド、お前そこまでの体型になったんだから、当分目立つ所へは行くなよ。バンドのボーカルとしてイメージが崩れる」

シャノンははっきり言った。実の兄だし、今まで言いたいことを言ってきた仲なので今更遠慮などせずはっきり言っているのだが、それでも俺はムッとした。

「どうしてだ?体重が増えても俺が俺であることに変わりない」
「わかっているさ。お前はお前だ。だけど周りの目はどうだ?体つきが変われば違うだろう?」
「ああ、今まで俺は街を歩いていると必ず背後からいやらしい視線を感じていた。俺が映画俳優でバンドのボーカルだからサインが欲しいという目ではない、なんかこう、こいつを裸にして四つん這いにさせ突っ込んだらどんなに気持ちがいいか、そういう妄想をいつも感じていた。それがすっかり変わった」
「お前、それは考えすぎだぞ。いくらなんでも街を歩く男が全てお前を犯したいと思っているわけでもないだろう」
「そうだけどさ、やっぱりそういう視線を常に感じるわけだよ。だけど今はどうだ。夜、わざとゲイの集まる街の繁華街を1人で腰振りながら歩いてみる・・・」
「お前、そんな危険なことやったのか。浮気して彼は怒らないのか。俺はそんな気にはとてもならない。不特定多数の男とやるなんてゾッとする。絶対できないな」
「以前の俺ならやらないさ。だけどそうやって媚を売るように夜の街を歩いても、何の視線も感じないんだ。なんだアイツ、いくら飢えていてもあんなでかい尻には突っ込みたくないという忍び笑いが聞こえてくる。大勢の男が酔って一夜限りの相手を求めている街で、視線を外されて無視されるんだ。人が大勢いてネオンの明りがまばゆいほどたった1人で放り出されたようなむなしさを感じる。別に俺はそんなことしなくてもいいけど、たとえばバーでちょっと話そうとするだろう。みんな胡散臭そうな目で見てすぐに離れてしまう。以前なら考えられないことだ」
「いや、中にはそういう男専門でやりたいっていうヤツもいるからさ。お前そんなに寂しければそれ専門のところに言ったらどうだ?」
「シャノン!それが実の弟に言うアドバイスか!俺が言いたいのはそういうことではない。つまり、人は見かけで判断し中身はどうであるかなんてちっとも考えてないということだよ。俺は何も変わってないのにある時は寝たい男ナンバー1にされて、ある時は全く無視される」
「いいじゃないか。これはお前の仮の姿だ。撮影のために太ったんだろう。終わったら元に戻ればいい」
「ああ、俺もそのつもりだった。だけど、こうして体型まで似てくるとあの男が俺の中に入り込んでくるんだよ。無視されて冷たい嘲笑を聞けば聞くほどもう誰でもいいから愛されたい、言葉をかけて欲しいと気が狂いそうになる」
「お前はあらゆる意味でマゾだからな。わざわざそういうところへ出かけて自分を傷つける。それが役作りになればいいが、自分を見失うところまでやるなよ」
「わかっているさ」

俺はため息をついた。今の俺が感じているどうしようもない苛立ちやむなしさをどう兄貴に説明すればいいのか。役作りとしては成功している。俺は体型も感じ方も今では彼とそっくりになっている。ただそこから抜け出せなくなるのではないか、そんな恐怖にも襲われている。

「正直に言って、兄貴は俺の役、あの犯人をどう思う?」
「どうしようもない狂信者だ。誰もがきっとそう思う。だけどお前はそうじゃないと考えて役を引き受けたのだろう」
「狂信者・・・俺もそうだ。歌で世界が変えられ、自分が救世主になれると信じている。だけど彼は自分ではなく別のスターにその資質を見出してしまった。彼は自分が殉教者になりたいと願った。救世主が命を落とし、自分もまたその教えを広めるために殉教する。彼が願ったのはそうした結末だ。彼はあまりにも純粋過ぎた。もし他の人間と交わることができたなら、そこまで純粋に自分の思想、妄想を実行することはなかっただろう。役をもらった当時、俺は冷静に分析して気楽に本も読んでいた。でも今は彼のバイブルになったあの本も時と場所を選んでしか開けなくなった。彼が入り込んだ今、本の言葉は恐ろしい勢いで俺の血の中に入り、体中を駆け回る」
「体を変えて、精神まで変えてしまったのか。だがな、ジャレッド、お前は自分を見失うなよ」
「わかっているさ。だからこそ撮影前にコリンと会う約束をした。それで一度自分を取り戻す」
「大丈夫か?彼だって一人の男だ。今のお前の姿に少なからず驚くだろう」
「そんなことは承知している。でもコリンは会いたいと言ってきた。俺はアイツを信じている。彼には俺の体重と腰周りの長さをいつも知らせていた。それを見て会いたいというんだ、本物だろう?」
「ああ、そうだな。彼だけはお前の中身を見ることができる。今の姿に惑わされたりはしないだろう」
「俺達は前世からの強い絆で結ばれている。どんなこともきっと乗り越えられる」

兄貴には自信を持って答えたのだが、実は不安なことがあった。あいつに送ったデーター、体重は正直に書いたのだが腰周りはありえないほど太めの数字を送った。すぐバレると思ったのに、意外にもコリンは俺の腰周りの数字が嘘だと気付かず、それをそのまま信じている。今まで付き合った男も女もよっぽどスリムだったのか、その数字では実際どれくらいの大きさになるかという概念がまるでできていない。携帯の着信音が鳴った。メールがきたようだ。俺は兄貴から離れ、自分の部屋でメールを読んだ。

「ジャレッド、随分太ったようだな。日常生活に不自由はないか?でも俺はお前を愛している。早く会いたい」
「今の俺は横を向かないとドアを通れないし、バスに乗ると2人分の座席を占領してしまう。お前が俺を見てショックで立たなくなるのではないかと心配だ」

大袈裟に書いて返信した。ヤツの驚く顔を想像すると笑いがこみ上げてくる。

「お前がどんな姿になろうと、やっぱり愛している。海を越えてキスを送る」

絵文字で唇のマークが来た。女とのメールじゃあるまいしと思いながらも、俺もそのマークに軽く口を押し付けてしまった。





恋人同士の甘い夜、2ヶ月ぶりに会った俺達は激しいsexをする予定であった。俺は初めての夜を思い出し体が疼いた。全身を貫くあの痛みは決して忘れるものではない。翌日になってもズキズキと痛んで歩けなくなるほどの快感は、付き合いが長くなるとそう簡単に得られるものではない。だが2ヶ月ぶり、しかも脂肪があの周りを圧迫して強く締め付けていることを考えると、そこをヤツの太い棍棒でこじ開けるのがどれほど激しい行為になるか、期待に胸は膨らみ、ついついヤツの上に直接裸で跨って自分のものを擦り付けてしまう。

「やい、ジャレッド。お前自分がどれほど重くなっているか気付いてないな」
「あ、悪い、体重はかけないようにする」

慌てて体をずらし、口と舌を使ってヤツの体の中心を丁寧に舐め上げていく。コリンの指も俺の中をかき回している。ツバでねっとりとしたコリンのものと同じように、俺の内部からも粘液が染み出してグチャグチャと卑猥な音を立てる。

「お前の体は女と同じだな。自分でもわかるか、指だけでこんなに濡れて何を妄想している?」
「ああ、早くお前が欲しい。思いっきり激しく貫いて殺してくれ」

いつものような戯れの言葉を交わした。だが、コリンのそれはいくら丁寧に舐めても少しもピンと立ってはくれない。角度を変え、裏側も舐め上げ、口を開いて奥まで飲み込んでもその大きさは変わらない。

「悪い、ジャレッド。飛行機から降りたばかりで頭痛がする。薬を飲んでもいいか」
「ああ、飲んでこい」

なんの薬を飲むかはすぐにわかった。それでも俺は知らん顔をして自分のものを弄んだ。俺のモノは激しくいきり立っているのだが、逆になることはできない。実際にはそういうカップルの方が遥かに多いと聞いているが、俺達はずっと同じやり方ばかりしていた。だが、それが今崩れるかもしれない。コリンがバスルームで水を飲む音がした。俺は立ち上がって歩いた。

「おい、あんまり無理して薬飲み過ぎるなよ」
「おかしいなあ、ちっとも効き目が出ない」
「そうすぐに効くものでもないだろう。俺はかまわないさ。少し話でもしようか」

ベッドで寝転がった俺の背中をコリンが撫で回した。

「随分広くなったと思っているだろう」
「いや、別に俺は・・・・いくら太ってもお前はお前だから・・・」
「正直に言ってかまわない。やっぱりお前は驚いているし、立たなくなった」
「まあな、俺のお前に対する気持ちは変わらないけど、体がいうことをきかない」
「そういうものだろう。人は見かけが変われば態度も違ってくる。俺は今までもやせ細ったり、中毒患者の役でフラフラして歩いたりしたこともあったが、今回ほど長期間にわたって体型を変え、それで人の目がどう変わるか実感したことはなかった」
「それで、役はつかめたのか」
「おそろしいほどにな。俺は自分のことを歌で世界が変えられる救世主だと思っている。だが、彼は自分ではなく他の人間にその資質を見出してしまった。彼の感受性は1人のスターを救世主にしてしまい、そのために自分は殉教者になろうとした。悲しいかなスターにとって彼は大勢いるファンの1人に過ぎない。でも彼にとってはスターが絶対的な存在になってしまった。あの映画で俺がお前に感じたように・・・」
「ちょっと待て、あの映画で俺達は対等に愛し合う同士だった」
「対等じゃないさ。撮影当時は俺もそう思っていた。だけど実際は俺の役の思いの方がずっと大きかった。仕方ないんだよ、彼にはお前が演じた王がただの友人や恋人だけではなく神でもあったのだから。目の前にいながら決して手が届かない神に恋してしまった。その飢えや渇きがどれほどのものか、今になって俺はよくわかる」
「しかし、あの場合は俺の役、王だって彼を深く愛し、だからこそ彼の死で精神は崩壊した」
「ああ、死んだ後にな。殉教者は皆そうだ。その死が壮絶であるほど後になって聖人として祭られる。生きている時ではない。俺が言いたいことわかるか。彼は自分が思いを寄せたスターが神となり、自分が殉教者になることを望んでしまった。でも現実はそうではない。スターであっても現実の生活があり、神とは思えない部分が見えてくる。だから・・・」
「だから、殺した。そういうことか」
「言葉にするのは簡単だ。でも俺はそれを感情で掴んでしまった。同じ本を読み、同じ体型になり、同じようにニューヨークの街をほっつき歩いた。そして同じ感情が俺の中に入り込んでしまった。怖いんだよ。今の俺は自分を見失っている」
「何を怖れることがある。お前はお前だ。何も変わってない」
「よく言うよ。お前、太った俺の姿を見て立たなくなったくせに・・・」
「・・・・・・」
「結局体型が変われば、人を見る目も変わってしまう。俺はもうsexする相手ではなくなったんだろう!」
「違う!立たなくてもsexはできる!俺はその、こうなってしまったのは初めてだからどうしたらいいかわからないけど・・・正直言って驚いてもいるし、だけどお前を満足させ、不安を取り除くことぐらいはできる」
「それならやってくれ」
「少し痛い思いをしてもいいか?」
「俺がどれだけマゾか、お前はよく知っているだろう」
「まずは目隠しだ」

目隠しをされ、腕に手錠をはめられてうつ伏せに寝かされ、足を大きく広げられてロープでベッドにくくりつけられた。手錠をはめられた腕もどこかに縛られているようで大きくは動かせない。でもこれくらいは俺達にとっては普通のプレーだ。コリンの指が俺の内部をかき回す。油をたっぷりとまぶし、指の数を増やして俺を興奮させていく。

「やい、ここまでやっておいて、最後にやっぱりできないなんて言ったらただじゃおかないぞ」
「醜く太って身動きもできなくなっていながら、まだ欲しがっている」
「お前が縛るから動けないんだろう!役のために太ったんだ!」
「こんな体に欲情する男がいると思うか?ハハハ、それなのに体をくねらせてこんなに濡らし欲しくてたまらない顔をしている」
「言葉攻めか。俺は言葉だけで満足したりはしない」
「もちろんたっぷり楽しませてやるさ。ああ、醜く太っても、このでかい尻を震えさせて、お前は何を望んでいるのかな?」
「ああああー・・・ちょっと待て、お前」

背中に鋭い痛みを感じた。熱くした蝋燭を垂らされたようだ。そういうプレーも経験あるが、以前は少しは手加減していた。手が届かないから確かめようがないが、かなり大量に垂らされたようだ。

「傷跡が残るだろう。変なことはしないでくれ」
「それなら絶対人に見られないところにやってやるさ」

腹の下にクッションを入れられ、足の角度を変えられた。これだと尻がまともに上に向かって突き出された格好になる。俺の中に再び指が突っ込まれた。

「待っているんだろう。この穴に直接熱い蝋燭が垂らされることを・・・それとも直接油を熱して注いだ方がいいか」
「待て、やめろ。それは犯罪だ。拷問と同じだろう。お前、何考えている?」
「何って、マゾのお前を満足させるにはそれくらいのことしないと・・・少しくらいの痛みじゃお前感じないんだろう。ほら、ここは喜んでヒクヒク蠢いている。お前は幸せだよ、ジャレッド、マゾだからどんなことでもできて苦痛が快楽に変わる」
「いい加減にしろ!いくらマゾだからって熱い油を入れられて喜ぶヤツがいるか」
「そうかな、お前は絶対気に入ると思う。うるさいから口もふさいでおこう」

口も猿轡でふさがれた。俺達は今までいろいろなことをやってきたからそういうものをヤツはたくさん持っている。だが、今まではいずれも俺の了承をとってプレーは行われた。今のコリンは俺の体のことは無視している。自分ができなくなった屈辱で本性を表わして徹底的に責めようとしているのか。

「ああー・・・・ううー・・・」
「おや、涙まで流して許しを請うのか。いい眺めだ。こんなお前の姿を見れるなんて一生の記念になる。そろそろ油もあたたまった頃だな」
「ううー・・・・ああああ・・・・」

止めろと怒鳴りたいのだがどうにもならない。体の一番敏感な場所に熱いものが触れた。

「うわああああー・・・・ひいいいー・・・・」

ありったけの力で叫び、体をくねらせて暴れた。だが、熱い塊はどんどん奥へと押し込まれていく。俺はこいつに殺されるのか。ああ、死ぬ役は何度もやったが、意外とその瞬間は気持ちいいものかもしれない。いつものsexと同じだ。うっとりとするほどの快楽に全身が包まれていく・・・・・?

「いいだろう、声を聞かせてくれ」

猿轡を外された。これでしゃべることだけはできる。だが、目隠しはそのままでひどい格好をしているに違いない。

「お前、俺に何をした?」
「そんなに熱くしていない。それなのにお前ときたら死にそうな声を出した。いいだろう?」

俺の中でゆっくりと動くものがある。油まみれになっているので少しも痛くはない。

「なんだ、代わりのものを入れたのか、油をつけて」
「そうだ、悪くないだろう。たっぷり油を塗りたくればすんなりと入る」
「俺を散々驚かしやがって」
「お前はマゾだ。苦痛が大きいほど喜びも大きい」
「そうじゃない!お前にマゾの何がわかる!いいか、マゾはやたらに苦痛を与えればいいってもんじゃないぞ。苦痛には三種類ある。1つはお前といつもやっているような、それはもう快楽につながる苦痛だ。2つ目はやったことないけど、もしかしたらいいかもしれないと思える苦痛、そして絶対にやられたくはない苦痛、いいか、よく覚えておけ。マゾにだって絶対やって欲しくないことはあるんだ。俺は特に神経が敏感だから」
「へえ〜そうか、それにしてはお前、いい顔していたぞ。青くなって震えている顔は綺麗だった。今もそうだ、そんなに気持ちいいのか」
「お前、自分ではなく道具を使ってもうまいな」
「よくわかっているからさ。お前の好みを全て・・・・」
「そんなことはない・・・お前はマゾというものをちっとも・・・・ああ、そう、そこをもっと激しく・・・・いい・・・どうして俺はこんなにも・・・」

霰もない格好で縛られてのたうちまわる俺は傍目にはさぞ不気味に見えただろう。だが、コリンは丁寧に俺を満足させてくれた。もし彼に男の恋人がいたならば、あんな事件は起こさなかっただろうとふと思った。彼はゲイではない。だがその感受性は極めてゲイに近く、だからこそあそこまで思いつめたのではないか。

「俺はゲイではない」
「はあ、お前今更何を言っている?」
「本当のゲイは経験をせず、自分で抑圧している。だからこそその感情が向けられた相手は神と思われてしまう」
「お前の言うことはよくわからない。だけどお前がゲイでないなら、世界中にゲイなどいなくなる。ただたまたま男とsexしているだけだろう」
「いや、気付いてないゲイがたくさんいる。俺はそのことを知っている。だからゲイではない」
「よくわからないな。この程度じゃ生ぬるいか。もう一度熱くしようか」
「やめてくれー、このままでいい・・・・ああ、お前は最高だよ。俺をよくわかっている」
「俺にはお前のことよくわからない」

コリンの攻撃は続き、俺はいつもと同じ喘ぎ声を出した。こうしてこいつに会えばいつでも元の自分に戻れる、もう感情を支配されるなどと怖れなくてもいいだろう。

「これぐらいでいいか?」
「もっとやってくれ。どうせお前が疲れるわけじゃないだろう」
「明日、お前の体がどうなっていても知らないからな」



                                          −つづくー





後書き
 あの事件の犯人はある特定のスターに特別な感情を持っていたのでしょう。それを肯定してはいけないけど、彼はそういった感情も自分の中でうまく取り入れて丁寧な演技をしていたと思います。もちろんマゾなので、人から無視されたり違った目で見られるという状況もおおいに楽しんでいたと思います。苦痛だけでなく不利な状況も楽しめるマゾというのもなかなかいいかもしれないと最近は思っています。なかなか彼のようにはなれませんが・・・
2008 3、17




目次に戻る