過去(ファラミア16歳11歳、アムロス16歳13歳


「本当にこんな格好で寝られるのかよ」
「大丈夫、寒くはない?痛くない?」
「もうそんなことは忘れてたよ。全くお前は変なやつだよ。昔、弟が抱きついてきたことはあったけど、もっと小さかったし裸で抱きついてはこなかった」
「弟がいたの?」
「3人もいたけど、みんな殺された」
「ごめん・・・そうだったよね」

 僕とアムロスは薄暗い洞窟の寝台の上、毛布にくるまって裸で抱き合っていた。この洞窟は捕らえた敵を拷問したり、きまりを破った者が罰を受けたりするために作られた場所で、寝台の上には手足を拘束する道具もあるし、すぐそばの棚には鞭なども置かれている。僕をたたいて気絶させたということで、アムロスは鞭打ちの罰を受けた。僕は気になって彼を探しにここまできた。昔、僕が父に鞭で打たれて泣いていた時、ボロミアは自分も裸になって僕を抱きしめ、一緒に寝てくれた。その大きな体に包まれ、肌の温かさを直接感じた時、痛みも悲しみもすべて忘れることができた。だから僕はアムロスにも同じことをした。彼の痛みをなくすためには、それが一番いい方法だと思っていた。

 いつのまにか寝てしまった。彼に抱かれているからだろうか、幸せな夢を見た。昔、ボロミアがよく見ていた幸せな時の家族の夢。僕がまだ生まれる前、小さなボロミアが母に抱かれ、父と楽しそうに話している。同じような夢をボロミアは何度も何度も見ていたから、一緒に寝ていた僕も同じ夢を見るようになっていた。僕自身の記憶にはない幸せな家族の夢、でもいい夢は長くは続かない。母は気が狂い、何もわからなくなって死んでしまう。父が僕を見る目は兄を見る目とは全く違う。僕がちょっとでも父の気に障ることをしてしまうと、ベッドに縛り付けられ、ひどく鞭で打たれた。

「お前さえ生まれてこなければ、お前の母は気が狂うことも死ぬこともなかった」
「ごめんなさい、僕が生まれてこなければ・・・助けて・・・ボロミア・・・たすけて!」
「ボロミアも本当はお前のことを憎んでいる」
「違うよ、ボロミアは僕のこと好きだと言っているよ・・・たすけて・・・痛いよ・・・たすけて」

「たすけて、誰かきて・・・みんな殺される・・・」

 別の助けを呼ぶ声が聞こえ、別の夢の中に入っていた。炎が見え、家が燃えている。ミナス・テリスのような石の街ではなく、村の木でできた家が次々に燃やされた。恐ろしい叫び声とともにオークの群れが来る。逃げ惑う村人を次々殺していくオークの群れ、大人も子供も関係なく殺されていく。いやらしいオークは殺された人間を調べて価値のありそうなものだけうばいとり、死体を一箇所に集めて数を数えている。中にはまだ生きていてうめき声を上げている者もいるが、その死体の山にオークは構わず火をつけた。

「やめて!まだ生きている・・・たすけて!」

 大声で二人とも起きてしまった。

「俺たち、同じ夢を見ていたのか」
「そうみたいだね。たくさんの人がオークに殺されていた」
「あれは俺の夢だよ。家族はすべてオークに殺された。一人を除いて・・・家族だけでなく村人すべてが殺された。俺だけは隠れていて助かったけど、恐ろしくて動けなくなっていた。声も出せなかった。ただ目の前の残酷な光景をじっと見ているだけだった。2年前、14歳の時だ。そのあとどうしていたかしばらく記憶がないが、この近くで倒れていたらしい。俺の父親もここの野伏で、何回か来たことがあったから、無意識にここまできていたんだろう」
「そうだったんだ。だから君も強いんだ」
「いくら強くても、村がオークに襲われる前に死んでいる。ヌメノールの血を引いて、予言の力もあった。もし生きていたら、村が襲われることがわかっていたら、その前に野伏達を集めて戦えた。イシリアンのはずれにある村だ。少しは犠牲が出たかもしれないけど、あんなふうに皆殺しにされることはなかったはずだ」
「そうか、それでいつもうなされて・・・」
「別に父親が生きていなくても、誰か助けに来てくれればよかった。同じイシリアンの村で、ここにいるのはみんなヌメノールの血を引いて予言の力がある者ばかりだろう。なんでわからなかったんだよ。毎日西に向かって祈っていたってなんの役にも立たないじゃないか。昔の言葉を覚えてそれでオークが倒せるのか。そんなことなんにもならない」
「ごめん・・・僕は何も知らないで・・・」
「お前に言っているわけじゃないよ。ただいろいろなことに腹が立って・・・」

 アムロスはしばらく黙っていたが、また話し始めた。

「それに俺はここへ来て、知らなくていいことまで知ってしまった」
「なに?」
「俺の父はオークと戦って殺された。そうずっと信じていた。でも本当は違っていた。気が狂って自殺した」
「え・・・」
「ここは男だけの世界だし、男同士そういう関係があることも知っている。でも家族がいて子供がいるのに、なんでそれに溺れるんだよ。男同士関係を持ったって構わないよ。でもその相手が死んだからってどうして気が狂って自殺しなければいけないんだよ。どうせ欲望を処理するだけだろう」
「僕にはよくわからないけど・・・大切な人がいなくなったら僕もどうしたらいいかわからなくなる」
「お前に言ってもしょうがないよな・・・お前の方はどうなんだ・・・同じ夢を見てしまった」

 僕がアムロスの夢を見てしまったように、彼も僕の夢を見たのだろうか?

「最初の夢は結構幸せそうじゃないか。お前も小さい頃は大切にされていたんだな」
「あれは僕の夢じゃないよ。兄のボロミアの夢だよ」
「えっ?」
「僕には幸せな家族の記憶なんてないから。ボロミアは小さい頃の幸せな家族の夢をいつも見ていた。一緒に寝ていた僕も繰り返し同じ夢を見て、自分の夢のように記憶してしまった。僕が生まれてから母は気が狂い、ボロミアの生活はすっかり変わってしまった。僕が幸せな生活を奪ってしまった・・・」
「そんなことないだろう、そんなことあるわけない」
「でも本当に僕が生まれる前はみんな幸せだった」
「そんなの偶然だよ。お前のせいじゃない・・・」
「父は僕を憎んでいた。お前さえ生まれなければ・・・そう言われて鞭で打たれた」
「よく見せろ・・・こんなにたくさんの傷・・・憎しみを込めて・・・お前今までずっとそんな思いをして生きてきたのか」
「・・・・・」
「俺は何も知らないで、酷いことばかりしていた。執政の子で大事にされ甘えているとばかり思っていた。いつも何かにおびえて抵抗もできないでいるお前をいいように扱って自分の不満を解消させていた」
「ひどいことされたなんて思っていないよ。君の言うことは正しいし、僕はできなくてもしょうがないと甘えていた」

「ファラミア、俺がお前を守ってやるよ。もう家族のことも今までのことも忘れろ。俺ももういままでのことは忘れてここで生きていくことだけを考える。ここなら誰もお前を傷つけたりはしない。みんな大切に思っている」
「でも僕は剣も弓も下手だし、一番弱くて体力もなく・・・」
「それも俺がなんとかしてやるよ。お前がここで生きていかれるようなんでも教えてやる」
「厳しく教えるの?」
「当たり前だ」

「辛くて泣きたい時は、こうして抱きついてもいい?」
「わかったよ。それでお前の気がすむのなら、いくらでも抱きついていいよ。ただし他のみんなには見つからないようにしてくれよ」
「わかっているよ」
 
 僕はアムロスの体に強く抱きついた。ボロミアよりはずっと小さく僕より少し背が高いだけの彼の体が大きく感じられた。

「アムロスも大きいね。ボロミアよりずっと小さいのに、大きくて温かい」
「何わけのわからないこと言っている。全くお前は変なやつだよ・・・」

          
                                 −つづくー

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