屈辱と栄光の絆(9)
レオニダス 18歳
ディリオス 13歳
ボロトス(ディリオスの兄) 19歳
デネソロン(ディリオスの父) 59歳
セロン 17歳
ペリクレス(セロンの父) 55歳
いつもはつらい訓練所の生活だったが、今だけはここにいる限り安全だとディリオスは思った。レオニダスが成人の儀式を終えて戻ってくる日まであとわずか、早くその日がきて欲しかった。セロンによってつけられた傷は激しく痛んだが、ディリオスはそのことを誰にも言わず、毎日の訓練をこなした。言えば兄ボロトスのしたことが議会の話題となり裁判にかけられる、そのことを何よりも怖れていた。そして予定より2日ほど過ぎてレオニダスはスパルタに戻って来た。以前よりかなり痩せてはいるが鋭い目つきは変わらない。背中には大きなオオカミの毛皮を背負っていた。
「レオニダス様、よくご無事で・・・・」
「俺が戻ってこれないとでも思っていたか、ディリオス。すぐにでもお前を抱きしめたいが、またあのように告げ口されても困る。落ち着いたらゆっくり話そう」
「今夜は無理ですか?」
ディリオスはレオニダスが疲れていると知りながらも無理を言った。セロンは昨日から家の用事で訓練所にはいない。あの男以外に密告する者はいないであろう。
「今夜か」
レオニダスはしばらく考えたが、大きな笑い顔を見せた。
「いいだろう、ディリオス。俺もお前に会いたくてたまらなかった。教官には俺が適当に話しておく。前に手当てをした隠れ家に暗くなったら来い」
「わかりました」
「なんだかお前、俺が戻ってきたのがあまりうれしくないような、なんか不安そうな顔をしている」
「そんなことはありません。あなたが無事戻られてどれほどうれしいか。でも僕は今まで生きてきてこんなにうれしいことはなかったから、どんな顔をしたらいいかわからないのです」
「そうか、俺は無事戻ってきたが、まだお前の試練は終わってないからな。だけど安心しろ、どうしたらお前を一人前のスパルタ戦士にできるか、山にいる間ずっとそのことばかり考えていた」
「僕のことばかりですか」
「そうだ。お前を一人前の戦士にするのは難しい。だからこそたった一人でそのことだけに意識を集中し、孤独に陥らずにすんだ」
「役に立ったのですか」
「まあ、そういうことだな」
レオニダスはディリオスの坊主頭を撫でた。山で暮らした彼は髪も髭も伸びている。すぐにでも飛びつきたい気持ちを抑え、ディリオスもまたレオニダスの頬に手を伸ばした。
「ディリオス、お前がいたから俺はここに戻ることができた」
「どうした、その体は!俺がいない間に何があった?答えろ、ディリオス!」
隠れ家で二人きりになった時、レオニダスはディリオスの背中の傷跡に驚いて叫んだ。
「訓練所ではここまでひどく打たれない。それにこの傷は・・・・」
レオニダスは目をそらせた。背中の傷に手をそえて下に進み、尻の間を押し広げた時にさらに酷い傷跡を見つけてしまった。とっさにその時の光景がレオニダスの目に浮かんだ。傷つけられ、血だらけになりながら陵辱されるディリオスの姿・・・・
「誰だ!誰がお前にこんなことをした。お前は無抵抗だったのか!」
「僕はスパルタ人として失格です。抵抗することはできませんでした」
「何か理由があるのだろう。何を言われてお前は脅された!」
「兄があなたを襲い、殺そうとしたというのは本当ですか?」
ディリオスの問いかけにレオニダスは言葉を詰まらせた。何を答えればいいのか。彼はもう知っているのだろうか。実の兄が自分の愛する相手を殺そうとしたことを・・・・ディリオスはレオニダスの目をじっと見て、それから下を向いた。
「やっぱり本当だったのですね。兄はあなたが王族であることを知っているはずです。それなのに殺そうと・・・・」
「待て!ディリオス。確かにボロトスは俺を襲った。俺が一方的にお前を陵辱したと勘違いしていたようだ。だが、俺達はよく話し合い誤解を解いた。だからもう何も心配する必要はない」
「王族を襲ったことが知られれば兄は死罪、父も追放されると言われました」
「そうやって脅され、お前はしかたなく・・・・誰だ、その男は・・・・」
ディリオスはゆっくり首を振った。
「言えないのか。言えば俺がその男に復讐するとお前はわかっているからな。ディリオス、もっと近くに来い。辛かっただろう?よく辛抱した」
「もう一度抱いてもらえますか」
「こんな体のお前を抱くなど・・・・」
「僕はその時すぐにでも死んでしまいたいと思いました。でも、どうしてもあなたにもう一度会いたくて・・・・無事に帰ってきてあなたに抱かれたらもう何も・・・・」
「心配しなくていい。俺が戻って来た以上、その男が誰であれ、これ以上絶対お前に手出しはさせない」
「兄のことでまた脅されたら」
「俺は嘘の証言をしてでもお前の兄を守る。心配するな」
「レオニダス様・・・・もう一度前のように抱いてください」
「わかった、ディリオス。お前がもうイヤだというくらい抱いてやる」
言葉使いは乱暴だったが、レオニダスはたくさんの香油を使い、今までになく丁寧にディリオスの後腔へと塗りこめた。指が微かに触れるだけでもディリオスの顔は歪み、小さな呻き声をあげた。これだけ傷つけられた後での暴力行為はどれだけ苦しかっただろうか。レオニダスの頬に涙が伝わり、ディリオスの背に落ちた。
「レオニダス様・・・・」
「だめだ、ディリオス。俺にはできない。お前がその時どんな思いをしたかと考えると・・・・」
ディリオスが顔を上げるとレオニダスがベッドに顔を埋めた。
「ディリオス、目を瞑っていろ。スパルタの王が部下の前で涙を見せるわけにはいかない」
「まだ王ではありません」
「いずれ王になる。誰よりも勇猛果敢な王に・・・・涙など見せるわけにはいかない」
「ずっと目を閉じています。どうかあなたの全てを僕に感じさせてください」
目を閉じたまま、ディリオスはレオニダスの頬に口付けをし、唇で首筋から胸へとなぞっていった。短く刈り込まれた金色の毛がレオニダスの厚い胸に心地よい刺激を与えた。レオニダスは腕を伸ばしてディリオスを抱きしめた。ディリオスもまた腕をレオニダスの体にまわした。すすり泣き、嗚咽する声が聞こえる。
「泣いていいぞ、ディリオス。俺の前でお前はいくら泣いてもいい。ただし、俺の前だけだ。泣いて全てを忘れろ」
「はい」
どれくらいの時が過ぎただろうか。レオニダスはウトウトしていた。ハッと気付いた時、抱きしめていたはずのディリオスがそこにはいなかった。まさか・・・・イヤな予感がした。どこへ行ったのか・・・・もし死を選ぶとするならば・・・・レオニダスは成人の証として与えられた新しい皮の腰巻とマントを身につけた。外は真っ暗で月も星も出ていない。だが、山での暮らしに慣れたレオニダスは暗闇でも昼間と同じように歩き、走ることができた。まっすぐ東に向かって走った。この先は海があり断崖絶壁になっている。ディリオスはそこへ行ったに違いない。レオニダスは走り続けた。途中でサンダルが脱げ、裸足になったがそのことにすら気付かなかった。ディリオスはどこにいるのか。頼む、間に合ってくれ!祈りの言葉をつぶやきながら走り続けた。
遠くから小さな声が聞こえた。まだ声変わりしていない少年が歌うようにつぶやく声、ディリオスのものだった。ディリオスは崖の上にいた。レオニダスは息を殺してそっと近づいた。すぐ近くまで行き、飛び掛るように抱きしめると小さな体はびっくりするほど冷たくなっている。
「ディリオス、今はまだ冬だぞ。お前は寒くなるとすぐに熱を出す。こんなところにいてはいけない」
「死んだらもう熱を出すことはありません」
「なぜ、死ぬことを考えた」
「僕はスパルタで生きるべき人間ではありません。体も弱く、それに禍をもたらします。僕が生まれてすぐに母は死に、兄は僕のためにあなたを殺そうとしました。これ以上生きていてはいけないのです」
「スパルタで生きられないならどこへ行く?アテネ、テーバイ、それともペルシャにでも行くか?」
「レオニダス様、何を・・・・」
「冗談で言っているわけではない。俺は本気だ。1年間山で暮らした時、お前がいたからこそ俺は正気を保つことができた」
「でも、僕はもうあなたに愛される資格はありません。他の男に跪き、陵辱されています」
「ならば俺もお前の目の前で跪き、他の男に陵辱されよう」
「そんなこと、あなたが・・・・」
「できるわけないと思っているのか。だが俺はお前を取り戻すためなら、それぐらいのことは平気でできる」
ディリオスはレオニダスの腰に手をまわした。寒さのためか、体はガタガタ震えている。
「寒いのか、ディリオス。さあ、もう戻ろう。ここは街からかなり離れている」
「少しだけこうしていてください。そしてあなたは夜が明ける前にもどってください。僕をここに置いて・・・・1人で死ぬつもりだったのに、どうしてももう一度あなたに会いたくてここで待っていました。一目会えたら、もう一度抱かれたらそれでもう満足と思っていたのに、また離れればすぐに会いたくなって、あなたを感じることができて、幸せな気持ちのまま・・・・」
「お前は今幸せなのか、ディリオス?」
「はい」
「俺も幸せだ。もしお前が今ここから海に飛び込むというなら、俺もすぐ後から飛び込む」
「レオニダス様・・・・」
「山でお前のことが気になってしょうがなかった。お前のようなスパルタ人とは思えないほど弱いやつが、一人で死の国へ向かったらどうなる?途中で会う化け物に震え上がり、永遠にどこかでさまようかもしれない。俺が一緒についていく」
「・・・・・・」
「お前が死ぬ時と場所はここではない。俺はまだ死ぬべきではない。お前も同じだ」
「でも僕は・・・・・」
「お前の死ぬべき時と場所は俺が決める。それ以外の時に死ぬことは許さない。お前は死ぬ以上に辛い思いをしたかもしれない。だが、それも俺がすべて忘れさせてやろう。少し寒いか」
「はい」
レオニダスはディリオスを抱きしめ二人の体をマントで包み込んだ。そしてディリオスの腰布を外し、中のモノを手でしごいた。
「あ、何を・・・・」
「お前が大人になる日を楽しみに待っていた。もう充分成長したはずだ。お前の悲しみや苦しみは俺が飲み込んでやろう。お前は全てを吐き出して大人になれ」
レオニダスの大きな手で握られたディリオスのモノはたちまち固く膨らんだ。レオニダスはそれをそっと口に含んだ。
「あ、レオニダス様、何を・・・・・あなたは・・・・」
「そう、俺は王になる男だ。その俺がたった1人、お前のためだけにはどんなこともできる、安心して吐き出すがいい。そして今ここで誓え。お前の命は俺に預け俺に捧げると・・・・」
「あなたに命を預け、捧げると・・・・」
「ああそうだ。これでもうお前の命は俺のものだ。かってに死ぬことは許さん」
「ああ、待ってください。もう我慢が・・・・どうか口を離して・・・・」
ディリオスは腰を動かそうとしたが、レオニダスの手がしっかり押さえていた。ディリオスの体から力が抜けた。ためられていた熱はすべて吐き出されていた。
「さあ、今度は俺の番だ。お前はこともあろうに俺の口の中に精を吐き出した。お前はまだ味わったことがないだろう」
レオニダスの声が変わった。ディリオスは静かに頷いた。
「こんなものは二度と飲みたくない。お前には一生をかけて今の償いをしてもらうからそのつもりでいろ」
「でも、それはあなたが・・・・」
「口答えは許さない。さっさと跪いて四つん這いになれ。声は出すなよ。香油など持ってきてない。これで我慢しろ」
レオニダスは手のひらにツバを吐きかけ、それで指を濡らした。ディリオスの後腔を荒々しく刺激するのだが、すぐに指の代わりに自分のモノを挿入した。ディリオスの悲鳴が聞こえたがレオニダスはニヤリとするだけだった。
「ここならどんなに大声をだしても波の音が消してくれる。好きなだけ叫んでいいぞ」
「あなたはひどい人です」
「何か言ったか、ディリオス。よく聞こえないぞ。俺はお前を陵辱したケチな男よりよっぽど豪快でもっと乱暴だ。じきにお前のされたことなど忘れさせてしまう。いいぞ、ディリオス。お前もだんだん腰を使うようになってきた。え、痛い?少しは我慢しろ。さっきお前の痛みは全部飲み込んでやった。もう何があっても平気なはずだ」
「ひどい・・・・ああ・・・痛い・・・・」
「お前の命は俺のものだ。かってに死ぬことは許さん」
「ああ、もうだめ・・・・助けて・・・・・ひいいー痛い・・・・・」
「いいぞ、ディリオス。お前も少しずつ大人になっている。痛みにも次第に慣れてくる・・・・」
「あああー・・・・痛ああーい」
一際高い声を上げ、ディリオスは意識を失った。
「ほら、ディリオス、目を開けろ。朝日が見えるぞ」
レオニダスに頬を叩かれ、ディリオスは目を開いた。ちょうど朝日が出たばかりで、海は金色に輝いていた。
「俺は山で何度も朝日を見た。だが朝日を見てこれほど美しいと思ったことはない。お前が成人の儀式を無事終えたならば、もう一度ここへ朝日を見にこよう」
「ここは・・・・海までこんなに高さがあるなんて・・・・」
「知らずに来ていたのか。もういい、ディリオス。お前の命は俺が預かっている。それだけは忘れるな」
「はい」
「それに俺はお前のとんでもないものも飲まされた。それも一生忘れるな」
「はい。レオニダスさま」
「さまはつけなくていい。まだ王になったわけではない」
「はい」
ディリオスは立ち上がった。レオニダスも彼を支えるようにして立った。
「まったくお前は危なっかしくて目が離せない。あんまり俺に心配かけるな。俺はこれから忙しくなる。王位を継ぐ後継者として戻ってきたのだから。お前の相手ばかりはしていられないぞ」
「はい」
ディリオスが後ろを振り返れば、そこにはしっかり足をつけて立つ堂々としたレオニダスがいた。ディリオスはちょっと微笑んだが、レオニダスの厳しい表情は変わらなかった。
−つづくー
後書き
8話の続きでかなり深刻な話になってきたのですが、最後は明るくまとめました。お前の命は俺が預かるというのがレオニダスの愛の表現で勝手に死ぬことは許さないと強い姿勢でディリオスを引き止めています。
2007、7、30
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