告白(ボロミア23歳、ファラミア18歳12歳、デネソール71歳47歳、クローディル45歳36歳、アムロス18歳14歳


 僕がイシリアンに来て1年が過ぎた。5月、イシリアンの森は一年で一番美しい季節となる。でも僕はその美しさにうっとりしている余裕はなかった。暖かくなると、野外活動の時間が長くなる。マブルングは僕達11人を連れてよくイシリアンの森を歩くようになった。ただの散歩ではない。武器や食料、着替えなど荷物をそれぞれ自分の分を背負い、日が出ている間はほとんど休みなく歩かされる。慣れていない僕は荷物を背負うだけでも大変で、すぐにみんなに遅れてしまう。

「おい、ファラミア、何度も言うようだけど、お前もう少し速く歩けないのか。みんなの姿が見えない」
「無理だよ。こんな荷物まで持って・・・」
「お前は体が小さいからな。少し手伝ってやろうか」
「いいよ、それより僕に付き合って遅れると君もマブルングに怒られるよ」
「毎日お前に付き合って怒られている。慣れてしまって何を言われても平気になった」
「僕はほんの少し怒られるだけでも震えてしまう。まただめだ、やっぱりだめだ、と思って。怒られると鞭の音を思い出してしまう」

 アムロスは立ったまま僕を抱きしめた。

「俺も同じだよ。今でも夢でうなされている・・・でもお前だけはどんなことがあっても守ってやる・・・マブルングによく言っておくよ・・・」
「静かに・・・足音がこっちに向かっている。マブルングが僕たちを探しにきた」
「ファラミア、荷物をおろしてしゃがんでいろ。俺がうまく言うから、お前は黙っていろ」

 言われたとおりに僕は座り込んだ。アムロスが僕に水を飲まそうとしているとき、マブルングがそばまで来た。

「どうした、お前達がいつまでたっても来ないから、迎えに来た」
「すみません。ファラミアが急に倒れて、気分が悪そうなので休ませていました」
「なぜもっと早く大きな声を出して助けを呼ばない。もう日が暮れるからここにいては危ない。俺はお前達の荷物を運んでやるから、アムロス、お前はファラミアを背負って歩いていけ」
「え、・・・俺が・・」
「お前はいつもファラミアのことばかり心配している。それぐらいできるだろう」
「は、はい」
「倒れて動けないでいるのだろう、安全な場所に着くまで決して下におろすな。戦いの後、けがをして動けなくなった者を運ぶことはよくある。これも訓練の一つだ」
「わかりました」

 マブルングは僕達の荷物を持って先に行くが、ちょうど僕達が見えるぎりぎりの場所で待っている。アムロスは僕を背負って歩き出す。いくら僕の方が体が小さいとはいえ、背の高さも体の重さもほとんど変わらない僕を背負うのはかなり大変だと思う。それでも彼は僕を背負って歩き始めた。

「お前、みかけよりも結構重いな」
「大丈夫?これじゃ大変だよね」
「俺のうそ、ばれていたのかな?」
「そうだよ。そんな大げさだよ。いくら僕だってそう簡単に倒れたりはしないよ。・・・でもうれしかったよ。それに背負われていくのも気持ちがいいね」
「それだけ元気なら降りて歩いていけ」
「だめだよ、マブルングがしっかり見ている」

 毎日、野外での訓練が続いた。マブルングはこの時期にイシリアンの森すべてを僕達に歩かせようとしているのだろうか。何日か歩いてある洞窟にたどりついた。そこには20人ぐらいの野伏達が寝泊りしていた。おそろいの濃い緑の服を着ている。みんな背が高く目つきも鋭い。何年か過ぎたら、僕達も同じように働かなければいけない。僕達見習いの訓練生はここでしばらく彼らと一緒に生活することになった。一緒に生活するといっても彼らにはもう毎日の決まった行動パターンがあったから、僕達子供はなるべくじゃまにならないようかたまって隅の方にいるだけだった。ここで初めて本物のオークも見た。オークとの戦いは主に夜行われた。僕達は離れた場所でただ戦いの様子を見ているだけだったが、4,5十人のオークを近くで見ると体が震えた。オークよりも野伏達の方が圧倒的に強くて、最後にはいつもオークが倒されていたが、それでも何人かは怪我をしていた。オークを見て震えていたのは僕だけではなかった。よく見るとアムロスのほうがもっと真っ青な顔をして震えていた。声をかけることもできずに、ただ震える彼の体を抱きしめた。そうやって1ヶ月ほど実際のオークとの戦いを見たあと、僕達はまたマブルングに連れられて、何日も森の中を歩き、元の場所に戻った。

「やっぱり俺もオークを見て震えてしまった」
「しかたないよ。あんなことがあったんだから」

 夜、僕とアムロスは拷問用の洞窟でねっころがって話をしていた。同じ夢を見たあの日いらい、僕達は時々夜中にみんなに見つからないようにこっそりここに来ている。敵の捕虜を捕まえて拷問するなどということはめったにないし、ここなら誰もこないから、安心して話しをしたり、抱き合って寝たりできる。

「おい、お前もう服を脱いでいるのか。全くこういうことだけはすばやいな、ほかのことは遅いくせに・・・」
いつも遅いって言うね」
「本当にそうだろう。全くお前を背負ってあんなに歩かされるとは思わなかった。こっちが倒れそうだった」
「背負われているのも気持ちよかったよ」
「いい加減にしろ」

 僕達は裸になってふざけあっていた。この季節、寒さは少しも感じなかった。

「でもアムロス、最近は勉強の時抜け出さなくなったし、お祈りもちゃんとやるようになったね」
「お前を守ると約束した以上、仕方がないだろう。いつもそばにいて同じことしないと・・・」
「僕達は同じヌメノールの血が流れているから、きっと祖先は同じだね」
「そうかもしれない、もともとは同じ人間だったかも・・・全く違うのにお前のことが気になってしょうがない・・・」

 ファラミアがイシリアンへ行ってからは、俺たちが会えるのは1年に2,3回だけになってしまった。ファラミアがミナス・テリスに来る時は大体決まっていたので、その時期は俺もミナス・テリスに戻ってくるようにした。3年が過ぎ、ファラミアは18歳になった。だがどう見ても18歳には見えなかった。見た目も行動も12歳ぐらい、あるいはもっと幼く見えた。でもファラミアは幼く見えても、会うたびに少しずつ成長し、明るくいきいきとした感じになった。それが俺には何よりもうれしかった。

 城門でファラミアを見つけて、すぐに一緒に城の方へ向かった。ファラミアは外では俺に飛びついてこなくなったが顔はにこにこしていた。並んで歩くと、かなり速く歩いていく。

「お前ずいぶん速く歩くようになったな」
「本当ですか?いつも遅いって言われているんですよ。アムロスのまねをして少しでも速く歩けるよう練習したのですが・・・」
「そうか、がんばっているようだな、顔も日に焼けている」
「そうですよ。ほとんど外での訓練ばかりですから・・・」

 父の部屋に行くとクローディルが、父と話をしていた。ファラミアと二人で部屋の中に入る。

「ボロミア様、今デネソール様にこの前の遠征の報告をしていたところです。では、私は失礼します」
「クローディル、もう少しここに座っておれ。よい話は何度聞いてもよい。ボロミアの話につけくわえてくれ」
「父上、クローディルが報告したなら、俺はそれ以上特に話すことなどありませんよ。いつもと同じようにオークを倒しただけですから」
「お前の話は遠くローハンにまで伝わっているようだ。ゴンドール最強の英雄として・・・」
「父上、大げさですよ。クローディルをはじめ、他の者がみなよく戦っているからです。ファラミアもイシリアンでよくがんばっています。ここまで一緒に歩いてきて驚きました。俺より速く歩いているのです」
「ファラミアの話はするなと言ってあるだろう。誰に似たのか全くの役立たずだ。クローディル、お前は知っているだろう。わしがまだ執政になる前、戦いに出ていた頃のことを・・・」
「はい、よく覚えています。あのころの私はまだ子供でしたが、デネソール様のことははっきり覚えています。とても勇敢な方でした」
「あのころのお前はファラミアと同じ年ぐらいであったが、よほどしっかりしていた。ファラミアはもう18になるというのに、いつまでも子供のままだ。少しも成長しない」
「私はもう失礼してもよろしいでしょうか。次の遠征の準備がありますので・・・」
「あとでまたわしの部屋に来い。話の続きが聞きたい」
「かしこまりました」

 ファラミアと一緒に自分の部屋に戻った。弟は部屋に入ってドアに鍵をかけるととたんにはしゃぎ出す。確かにあまりにも子供っぽい。だが俺にはその子供っぽい無邪気さが何よりもうれしかった。父に何を言われてもたいして落ち込まなくなっていた。ひとしきりはしゃいだあと裸になってベッドにもぐって俺に抱きつき、イシリアンでの話を夢中になって話す。

「最近はよく森の中で、二つのグループに分かれて戦いの練習をするんです。広い森の中で、剣と弓を使って、どっちも危なくないようにとがってないですけど・・・」
「へえ、おもしろそうだな、俺もそういう訓練やってみたいな」
「兄上は強いからいいですよ。僕なんか弱いから・・・数に数えられていないんですよ」
「どういうことだ」
「11人いて二つのグループに分かれるとき、僕は必ず6人いる方のグループなんです。1人多くても全く役に立たないと思われているみたいで・・・」
「へえ、そうかい、でもお前、楽しそうだな」
「訓練とかいろいろあって大変だけどでも楽しいです。みんな親切だし、特にアムロスはすごく僕のこと心配してくれるんです。僕達時々抱き合って寝ているから少しも寂しくないし・・・兄上・・・なんだもう寝ている・・・」

 イシリアンで僕は大切な話があるからと、アムロスに呼び出され、いつもの洞窟に行った。

「大切な話しって何」
「あんまりこういう場所でするような話でないけど・・・」
「僕はこの場所好きだよ。寂しい時はここに来て、君と一緒に寝ているし・・・」
「お前、ここが何のために作られたかよくわかってないな」
「知っているよ、悪いことしたら鞭で打たれる」
「それだけじゃない、もっと他にもいろいろあっただろう。外に出ようか」
「うん、いいけど」

 外はちょうど満月が出ていた。僕と違ってアムロスは顔も大人っぽくしっかりした顔をしている。

「俺たちがここに来て3年が過ぎた。俺もお前ももう18だ」
「そうだね」
「そろそろ俺たちも一人前と扱われ、それぞれの場所に行かされる」
「もうそうなるの」
「たぶんお前はそんな危険な場所には行かせないだろう。何かあったら大変だから、イシリアンでは一番安全なこの近くに残される。でもあとの10人はどこに行かされるかわからない。すぐにオークとも戦わなければならない」
「君は強いからどこに行っても大丈夫だよ」
「強くなんかない。オークを見て震えていた。・・・もしかしたら殺されるかもしれない・・・怖くてたまらない」
「アムロス・・・」
「俺は本気でお前を愛している。お前を抱きたいと思っている。お前は俺のことどう思っている」
「どうって、僕も君が好きだよ」
「そういう意味じゃなくて・・・だめか・・・お前はまだ何も知らない子供だな」
「子供じゃないよ。もう18だよ」
「キスしてもいいか」
「いいよ」
「ここじゃ、顔がよく見えて恥ずかしい。中に入ろう」

 僕達はまた洞窟の中の部屋に戻った。ここは薄暗くて、あかりをつけなければほとんど顔も見えない。彼は服を脱ぎ僕の服も脱がせた。それから僕を寝台の上に寝かせた。僕はじっとしていた。いつも裸で抱き合って寝ていたのに、今日だけはアムロスの様子が違っていた。

「愛しているよファラミア」
「僕も愛しているよ」
「今から俺が何してもお前は耐えられるか」
「耐えられるよ」

 アムロスは僕にキスをした。長い長いキス。僕の口を開かせようとする。僕が少し口を開くと舌を入れてくる。それから僕の足を開かせ、彼の足を絡ませてくる。僕はこわくなって目をつぶった。彼は手に力を入れて僕を抱きしめる。

「愛しているよ、ファラミア。そんなに心配しないで・・・力を抜いて・・・大丈夫だよ・・・愛しているから・・・」


                                                  −つづくー

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