コリントスの誘惑(3)
レオニダス 48歳
ディリオス 43歳
アルテミス(隊長) 51歳
「さあ、あなたはこちらでございます」
レオニダスとは別の部屋にディリオスが案内された。こういう商売女のいる場所では、いくら普段は恋人同士であっても別の部屋に通されるということはわかっているが、それでもなんともいえない居心地の悪さを感じた。
「お待ちください。今すぐとびきりの女を連れて参りますので・・・・」
部屋には簡素な椅子とテーブル、そしてベッドがあるだけだった。案内の男達はディリオスに椅子に座るよう勧めると、すぐに出て行った。しばらくすると何人かの女が入って来た。薄い布を体に巻きつけただけの女は、みな若くて美しい。日頃女には全く関心のないディリオスも、さすがに体のラインを遠慮がちに眺めた。1人の女が視線に気付き、顔を赤らめた。
「私のこと、気に入ってくださいましたか?」
「いや、スパルタ人は普段兵舎で生活することが多く、女というものは見慣れてないから・・・」
「ディリオス様は勇敢な戦士というだけでなく、とても知性と教養に溢れた方だと聞いております。そのような方のお相手ができるのは光栄です」
様々な国から来た使節をもてなすよう、日頃歌や踊り、そして会話や仕草までも仕込まれている女達はディリオスの側の椅子に座り、巧に緊張を解くように話しかけてきた。
「さあ、ブドウ酒をどうぞ」
「まあ、ずいぶん大きな手でいらっしゃる」
「いや、私などスパルタ兵の中では小柄な方だ。だが、長年弓や槍を握り続け、手もこんなに固くなった」
「スパルタの方はやはり体つきが違いますわ。理屈ばかりいうアテネの方とは大違い。言葉は少なくても男らしい強さに溢れ・・・・」
「おやおや、スパルタの男を知っているのかね」
「ええ、いろいろな国の方がここに来ますけど、スパルタの方ほど魅力的な男の方は他にはいませんわ」
「ディリオス様、なんて引き締まったこのお体・・・・」
女達の手はディリオスの肩や足へと伸びていった。そうして体に触れながらしきりとブドウ酒を勧めてくる。
「もういい、あんまり飲んだら何もできなくなってしまう」
「まあ、そんなこと・・・・スパルタの男はギリシャの中で最も強いと聞いております」
「そのスパルタの男が、ここまで来て何もできずに帰ったなんて、もの笑いの種になる。あんまり飲むわけには・・・・」
「そうおっしゃらずに飲んでください。一度お休みになられましても私達はかまいません。夜は長いのですから」
「ああ、そうか。なんだかいい気分になってきた。少し横になってもいいか」
「ディリオス様、どうかお休みになってください」
ディリオスはベッドに横になった。女達の手が体にかすかに触れ、心地よさを感じた。強靭な体を持つスパルタの男とはまるで違う柔らかな女の手が触れ、胸元が体に押し付けられた。ディリオスは夢見心地でウトウトしてきた。
今どこにいるのか。固い石が背中に当たる。手足がうまく動かない。ブドウ酒を飲み過ぎたのか、頭が割れるように痛い。起き上がろうとするのだが、どうしたことか、手首足首が締め付けられるように痛い。目が開けられない!目隠しをされているのか!
「おい、ここはどこだ!誰がこんなことをした!」
ディリオスは大声で叫んだ。自分の置かれている状況がはっきりとわかった。背中に当たるのはベッドではなく石の台、手足は奴隷化捕虜のように鎖で繋がれている。そして目には目隠しを・・・・
「どうやら目が覚めたようだ」
「目隠しは取ってやれ。あの綺麗な青い眼が見えた方がいい」
「暴れないか。スパルタ人だぞ」
「なあに、そのために繋いである」
目隠しが取られた。手足が固定され、起き上がることはできない。薄暗い部屋の天井と周りに立つ数人の男が見えた。壁の棚には別鎖や鞭などが見える。壁の一部には鉄格子がはめられている。
「ここは地下牢の拷問部屋か」
「さすがスパルタで一番の頭を持つ男だ。察しがいい」
「なぜこんなことをする。お前達も国を代表してコリントスに来ているのだろう。私を拷問してスパルタの何を聞きだそうとする?スパルタが主導権を握らずに、どうやってペルシャと戦う」
「こんな格好でも弁論の術は衰えていない。恐怖は感じないのか?今、お前の身を守るものは何もないのだぞ」
ディリオスは目線を下に向けた。確かに自分の体は今丸裸で、白い上着も腰布も外されている。周りにいた男の一人が鞭を手に取り、石の床を打ち鳴らした。ディリオスは笑い声を上げた。
「何がおかしい」
「スパルタ人が鞭くらいで屈服すると思うのか。鞭など、子供の頃から数え切れないほど打たれてきた。スパルタ人には全く通用しない」
「だが、別の効果はあるようだな。音を聞いただけで立ち上がるとは、お前の王は乱暴な男なのか?」
男達の手がディリオスのモノに触れた。体を自由に動かせないからこそ、その場所は異常な熱をおび、固く膨らんでいた。
「何をする!やめろ!こんなことをしてただで済むと思っているのか。私はスパルタで王に次ぐ権限を持っている。私への侮辱は王への侮辱と同じ、スパルタとの全面戦争になるぞ」
「全面戦争、なるほどね・・・・いまそのような事態になったら同盟は白紙にもどる。それでペルシャと戦えるとでも思うのか?賢いスパルタの参謀なら、そうならないよう知恵を絞るハズなのだが・・・・」
クツクツといういやらしい笑い声があちこちから漏れた。
「何が目的だ!私をどうしたい!」
「怒った顔がまた一段と美しい。スパルタの参謀よ、みなの前で話すお前の姿が余りにも美しく、我々はすぐに同盟を組んでしまった。命を奪おうなどとは言わない。ただちょっと我々に新しい楽しみを与えてほしいのだよ。わかるかい?」
「楽しみが欲しければ、ここコリントスやアテネにいくらでも商売女や美少年がいるだろう。なぜわざわざ危険を冒してまで私など・・・・」
「女や美少年などいくらでも手に入れられる。だが、どんなに富や権力があっても、スパルタの男はそう簡単には手に入らない」
「恥を知れ!お前達は国を代表して来ているのだろう。プライドというものはないのか!」
「うるさい口だ。ふさいでおいた方がいいのか」
「いや、そのままでいい。ディリオスよ、よく考えるがよい。このことがスパルタ王に知れたら、同盟は成り立たない。同盟を成り立たせるためにはどうしたらいいかね」
「私がお前達の要求を黙って受け入れ、何も言わずにスパルタに帰る。そうすれば会議は成立し、スパルタを中心とした同盟が成り立つ」
「よくわかっているじゃないか。ならばその通りにするのだな。安心しろ、王にわからないよう、体に目立つ傷はつけない。だが、噂に聞くスパルタ人がどれほど我慢強いのか試してみたいだけだ」
「好きにしろ。スパルタ人は決して退却も降伏もしない。体中を鎖に縛られてもそれなりの方法で戦う。油断すればお前たちが痛い目にあう」
「それはおもしろい。この格好でどれだけの抵抗ができるものか・・・・」
「ああー・・・・やめろ・・・・そんなことを・・・・・」
「ははは・・・・口は達者でもそんなに感じやすいとは・・・・美少年の比ではない・・・・屈強なスパルタの男がこれほど淫らだったとは・・・・体中どこを触っても・・・・ハハハ・・・・これじゃ王がお前を手放さないわけだ・・・・この年になるまで結婚もさせず・・・・」
「ああー・・・・・レオ・・・・やめろ!」
ディリオスは激しく首を振って抵抗した。男達の手の動きでレオニダスの名を叫びそうになり慌ててそれを否定した。彼らの前で王の名前を叫ぶ、それだけはけっしてしないようにと固く心に誓った。
「ああー・・・・・ひいいー・・・やめろ・・・・」
「少し口をふさいでおこうか」
ディリオスの口に布が巻かれ、目隠しもされた。次に何をされるかわからない恐怖に、ディリオスの背筋は凍りついた。戦場で感じるのとは全く別の恐怖である。
−つづくー
後書き
甘いレオディリというリクエストでありながら、なんだかディリオス苛めになってます。でもいろいろな理由で攻められるディリオスを書くのは楽しくて(笑)ついつい同じパターンで次回まで続けたくなってしまいました。
2007.8、22
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