コリントスの誘惑(6)

            レオニダス 48歳
            ディリオス 43歳
            アルテミス(隊長) 51歳

ディリオスの耳に波の音が聞こえた。頬をやさしくなでる手の感触がある。目から涙が流れ、それを拭おうと動かした手が別の手に触れた。

「ディリオス、気がついたか」

目を開けばスパルタ王レオニダスが自分の顔を覗き込んでいた。硬い岩や砂浜ではなく、柔らかなベッドの上に寝かされている。

「ここは・・・・レオニダス様・・・・」
「サラミスの領主に頼んで、一番よい家を貸してもらった。お前は海岸で意識を失ったからな。何もないところだが、ここでしばらく静養すればよい」
「申し訳ございません。陛下の前で意識を失うなどあってはならぬことです」
「いや、お前がいかに酷い目にあったのか、気付かない俺が悪かった。お前ほどの男が意識を失う、よほどのことをされたのであろう。それでもお前は俺には黙って何事もなかったように振舞った」
「私の体のことは私個人のことです。どのような侮辱を受けようと、そのことでスパルタの国全体、そして同盟の方針を変えるわけにはいきません」
「お前の態度はスパルタ人として非常に立派なものだ。だが、ここはスパルタの領土ではない。俺は今ここにいる間、スパルタ王であることを忘れよう」
「レオニダス様、何を・・・・」

レオニダスはベッドに腰を下ろすとディリオスの上半身を起こして自分の胸にもたれかけさせた。金色に光るディリオスの髪をなで、顔を胸の奥深くに埋めさせた。

「陛下・・・・レオニダス様・・・・・」
「泣いてくれ、ディリオス。黙って耐えているお前を見るのはもっと辛い」
「しかし・・・・」
「ここには俺とお前以外スパルタ人は誰もいない。思い切り泣くがよい」
「そう言われましても・・・・」
「王の命令だ。俺の胸で泣け、ディリオス!」
「さっきあなたはスパルタ王であることを忘れるとおっしゃいました」
「ああ、確かにそんなことも言った。お前は賢い男だ。だが、その賢さがお前の心を傷つけ、苦しめることもある。もっと俺を頼りにしろ」
「レオニダス様・・・・」
「潤んだ瞳はいっそう美しい。そんなお前の表情を見られて俺は幸せだ」

ディリオスの背中が小刻みに震えた。泣くまいと耐えているのだろう。背中をやさしくさすり、顔をさらに自分の胸に押し付けると、ディリオスの口から嗚咽が漏れた。

「ディリオス、屈辱と苦痛によく辛抱して耐えた。お前を俺は誇りに思う」
「レオニダス様、私はずっとあなたのことだけを思っていました。コリントスで彼らの陵辱を受けながらも、これが終わればまたあなたのところへ戻れると・・・・」
「お前は俺のところへ無事もどってきた。それだけで充分だ」

ディリオスはいっそう激しくしゃくりあげ、レオニダスの胸から腹へ涙が流れ落ちた。拭おうともせずにレオニダスはただその跡を指で辿った。長い時間が過ぎた。





「少し外へ出ようか」
「申し訳ございません、陛下、私はずっと・・・・」
「なんの、なかなか心地よかった。長年の夢がこれでかなった」
「陛下・・・・」
「子供の頃、お前が泣いているのを見てずっとこの胸で抱きしめ慰めてやりたいと思っていた。あの頃ならもう少し胸も柔らかく心地よかったはずなのに・・・・今では盾よりも硬くなっているだろう」
「あの頃の私でしたら、髭も生えてなく顔は滑らかでした。今はこんなに髭も伸び、陛下の胸にあたって・・・・」
「ああ、それも心地よかったぞ。お前の髭は俺の胸を充分刺激してくれた」
「陛下、お望みでしたら私はどんなことでもいたします」
「それは当分しない。お前の傷が完全に治るまで、決してそのことはしないと誓う」
「もう大丈夫です」
「また意識を失ったら困る。アテネから来た歴史学者だと言っているんだ。何度も気絶したお前を抱えていては怪しまれる」
「そうでしたね」
「さあ、外へ行こう」
「待て、お前の上着は俺が着せてやろう」
「レオニダス様がですか?・・・・わかりました」

普段皮のパンツとマントだけを身につけて、普段の生活も訓練もしているレオニダスはアテネ風に白い上着をきちんと着てちょうどよい長さで腰紐を縛るのは苦手であった。見かねてゴルゴ王妃かディリオスが途中で直すというのがいつものことである。それを逆にディリオスに着せようというのだから片方だけ長くなったり裾をひきずったりとなかなかうまくいかない。それでもディリオスはレオニダスが不器用に着付けた上着のまま外に出た。

「歩けるか、ディリオス」
「大丈夫です。歩くくらいなら・・・・」
「無理をするな。俺が肩をかしてやる」
「はい・・・・」

背が高く鉄のように硬いレオニダスの肩にもたれかかって歩けばかえって歩きにくいのだが、ディリオスは素直に王の好意に従うことにした。上着がゆるくなって裾を引きずっているが、それも手早く自分で結び直した。変な格好だが通る人も少ないので気にしなくてもいいだろう。

「海がきれいだ」
「はい、レオニダス様」
「スパルタは今まで陸地での戦闘にのみ力を入れてきたが、これからペルシャとの戦いに備えて船の上での戦いを学んだ方がいいかもしれない」
「そうですね」
「おっと、そんな話をするためにここへ来たわけではない。ディリオス、お前の傷を少しでも治そうと・・・・ああ、海がきれいだ・・・・なんという名前だっけ、トロイからなかなか故郷に帰れず、20年間も海の上をさまよったのは・・・・」
「オデッセウスのことですか」
「そうそう、オデッセウスだ。俺達もそうやって海をさ迷い、島で暮らして20年後にスパルタに帰るのがいいかもしれない。そのころにはお前の傷もすっかり癒えるだろう」
「とんでもございません。陛下が戻らなければスパルタはどうなるのです!私の傷などほっといてもすぐに治ります」
「心配なんだよ。お前のことが・・・・・」

レオニダスはそっとディリオスの頬にキスをしたが、すぐに唇を重ね、互いの舌を絡めあう激しいものへと変わった。

「すまない、ディリオス、お前を傷つけないと誓っておきながら・・・・」
「大丈夫です、レオニダス様」
「愛している、ディリオス」

レオニダスの激しいキスは続き、ディリオスは倒れて海岸のゴツゴツした岩に体をぶつけないよう注意を払った。





夜、島の領主が運んでくれた食べ物をレオニダスは大きな口をあけて次々に平らげた。ふと気がついてディリオスの方を見ると、ほとんど何も食べていない。

「どうした、口に合わないのか?」
「いえ、肉も魚もとてもおいしいのですが、どうも体の調子がよくなくて」
「それはよくない。よし・・・・」

レオニダスは手に持っていた骨付きの大きな焼いた肉の塊を短剣で細かく切って皿に乗せた。その一切れを指でつまんでディリオスの口に近づけた。

「あ、レオニダス様、自分で食べます」
「いいから口を開け。俺の指を噛むなよ」
「こんなところ、誰かに見られたら」
「ここにスパルタ人は誰もいない。それに俺達はアテネ人ということになっている。アテネの学者どもが、日頃どれだけ男同士ベタベタ愛し合って暮らしているかお前も知っているだろう。そういう振りをしなければ俺達がスパルタ人だとバレてしまう。見ろ、柱の影で俺達の様子をこっそり見ているヤツがいる。そこの者!隠れてないで出て来い!」

レオニダスが大声で叫べば、すぐに柱の影から2,3人の男が姿を見せた。

「申し訳ございません。何か必要なものはありませんか」
「うん、もう少しぶどう酒を持ってきてくれ。金貨ならたくさん持っている」
「かしこまりました。そちらの方はあなたのお弟子さんですよね」
「そうだが、何か問題があるのか?」
「この島にはよくアテネからの学者が来るのですが、皆さん若くて美しいお弟子さんを連れているものですから・・・」
「レオニダス様、アテネの学者は美少年を相手にして連れ歩いているのです」

言葉に詰まったレオニダスの耳元で、ディリオスが素早く囁いた。

「そうか、この小さな島にそんなにたくさんの学者と美少年が来ているのか。だが、これほど美しい男は、今まで見たことがないであろう」
「・・・・・」
「何をぼんやりしている!必要なものを運んだら、さっさと出て行け!この島は客のもてなし方も知らないのか!」

レオニダスの迫力に男達は散り散りになり、1人の男が恐る恐るぶどう酒の樽を運んできた。レオニダスはカップにも注がずに樽に口をつけてぶどう酒を口に含んで、ディリオスの方に近づいた。

「レオニダス様、それは・・・・」

無言のまま、レオニダスはディリオスに唇を重ね、含んだぶどう酒をゆっくりと彼の口に注ぎ込んだ。ディリオスの飲み込む音を確認すると唇を離し、赤く染まった舌でディリオスの首筋を舐めた。

「あ・・・・ふうん・・・・レオニダス様、そんな・・・・」
「これくらいですぐ赤くなるとは・・・・ディリオス、お前はかわいいやつだ」

ぶどう酒を運んだ男が目を丸くして立っているが、レオニダスの目にはもう他のものはうつっていなかった。赤く染まったディリオスの首筋から頬、胸元へと舌は這い、肩に纏わり付いた白い上着を外していた。

「レオニダス様、私はまだ・・・・」
「わかっている、お前を傷つけたりはしない」

そう言いながらもレオニダスの舌はディリオスの体を執拗に嘗め回した。だが約束どおり、傷ついたディリオスの体を押し開くようなことだけは決してしなかった。同じベッドで横になっても、レオニダスはただディリオスの体をさすり、腕をまわして抱きしめるだけにした。ディリオスの静かな寝息を聞き、レオニダスはかってない満ち足りた気持ちになっていた。





「陛下、聞いてください!うちのアスティノス、やっぱりステリオスと関係を持っていました。まだ一人前の戦士になってもいないのに、男の前で跪き、足を開いて女のように受け入れるなど、私はもう情けなくて・・・・陛下のおっしゃるとおりでした」
「はて、アルテミス、俺はお前にアスティノスのこと何か言ったかな?」
「私はスパルタに戻ってすぐ、アスティノスに問いただしてみました。最初は否定したのですが、鞭を使って白状させました。まったく近頃の若い者は訓練よりもすぐそっちへ走ってしまう。あ、いえ、もちろん陛下のことをとやかく言うわけではございませんが・・・・」

スパルタに戻ったレオニダス王のところには、夜中だというのにアルテミス隊長がすぐに駆けつけた。隣にディリオスもいたのだが、隊長はそれも気付かずに一気にまくしたてていた。

「あの小さかったアスティノスが、もうそんな年になったのか」
「陛下、笑っている場合ではありません。息子が女のように男と関係を持ったなど、父親としてとうてい許せることではありません」
「よいではないか、ステリオスはスパルタ軍の中でも抜群の腕を持つ戦士、彼を目標にすればアスティノスも成長するだろう」
「そんなことではなく、私は息子にはあくまでも訓練で成長して欲しいのでございます」
「ディリオスがよい例だ。お前も覚えているだろう。訓練所の中でもひときわ体が小さくいつも鞭で打たれて泣いていた。そのディリオスが俺を目標にしたことで、ここまでの戦士になったのだ」
「一緒にしないでください!ああ、今夜もまたアスティノス、ステリオスのところに出かけたかもしれないと思うと、私は気が狂いそうで・・・・」
「それほど心配なら鎖に繋いでおけばいいだろう」
「そうだ、その手がありました!さっそくやってみます」

アルテミス隊長は来た時と同じように急いで帰っていった。

「これで邪魔はいなくなった。ディリオス、傷はもう治っただろう」
「レオニダス様、あんなこと言ったら彼は本当に息子を鎖に繋いでおきますよ」
「アスティノスにはちょっと気の毒だが、なあに、それはそれで捕虜になった時に役立つかもしれない。お前のように騙されてクスリを飲まされ、縛られるということもありうる」
「そんな訓練は厳しすぎます」
「それがスパルタのやり方だ。さ、もういいだろう、ディリオス、もっとそばへ来い」
「でも、戻って来たばかりですし、今夜はゴルゴ様のところへ行かれた方が・・・・」
「ゴルゴにはさっき会ってきた。ディリオスには苦労をかけたのだから充分ねぎらってやれと言われているのだ。何も心配しなくていい」
「でも、私はコリントスでその、ですから今陛下のお相手をするのは・・・・」
「ディリオス、お前今いくつになる」
「はい、43でございます」
「スパルタで40年以上も生きてきて、まだこの国のやり方がわかってないのか。鞭打たれて泣くような子供はさらに打って痛みにならし、傷口は無理にもこじ開けて毒を出す。お前がコリントスで傷つけられたのなら、それ以上の苦痛と屈辱を与えて慣らしてしまえばよい」
「ちょ、ちょっと待ってください。あのサラミス島では・・・・」
「島では島、スパルタではスパルタのやり方がある。そうだ、鎖で縛って試してみようか?」
「レオニダス様、お願いです、やめてください」
「そうやって怯えた顔、男をそそってやまない。ああ、島でずっと我慢していたコイツが出番を待っているぞ」
「それならばせめて手荒な真似をしないで下さい。無理をしたら意識を失い・・・・」
「ここはスパルタ、気絶するほどの激しい情交、鞭打たれる子供、殺される奴隷、悲鳴や叫び声など普通に聞こえ、誰も驚かない。さあ、もっとそばに来い、ディリオス」
「レオニダス様、どうか・・・・」
「お前もスパルタの男なら潔く覚悟を決めろ。安心しろ、ディリオス、誰よりもお前を愛している」
「私もあなたを愛しています。でも・・・・」

ディリオスの声はひきつっていた。レオニダスはニヤリと笑い、ディリオスの腰をそばに引き寄せた。

「さあ、ディリオス、コリントスで男達に何をされたか、ゆっくり話してくれ。俺もそいつらの快楽を少し味わってみたい。

震えて紫色になったディリオスの唇にレオニダスは自分の唇を重ねた。舌を絡め、指をディリオスの秘部に抜き差しすれば早くも卑猥な音が聞こえてきた。

「ああー・・・・レオニダス様・・・・・どうかお許しを・・・・ああー・・・・ふうーん」
「どうして欲しい、ディリオス?」




                                  −完ー




後書き
 25000hitでのチョロ様からのリクエストです。大人になってからの甘いレオディリというリクエストだったのですが、最後甘くなるかなあと思ったら、やっぱりスパルタ式の王様になってしまいました(笑)まあ、スパルタ式の甘さということでお許しください。ディリオスがいろいろ大変な目にあうという話は書いていてすごく楽しかったです。リクエスト、ありがとうございました。
2007、9、21




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