響感(ボロミア21歳、ファラミア16歳11歳、クローディル43歳34歳、アムロス16歳13歳


 冬が来た。ミナス・テリスは雪はそれほど降らないが、寒さは厳しい。ファラミアは小さい頃から毎年冬には必ずかぜをひいて熱を出していた。もっと寒さの厳しいイシリアンで大丈夫なのだろうか?もっとたくさん服や毛布などを持たせておけばよかったと思う。城の中は充分暖かくなっているが、ファラミアがそばにいないと、寂しく寒く感じられる。

 ローハンとの国境近くでよくオークが来て村を襲っているという噂を聞いた。俺はさっそくオーク退治に行くことを考えた。反対する父を説得し、ミナス・テリスに残っていた兵士100人の中から、50人ぐらいを選んで行くことにした。正規の遠征ではなくただオークの退治に行くだけだと話したが、それでも父は盛大な儀式を行い、たくさんの人に見送られて出発した。

 戦場に行く時と違って、人数も50人と小数だし、装備や荷物も前の時とは比べ物にならないほど少しであった。だがそのほうが、どこにいるかわからないオークを追って馬で移動するのには都合がよかった。クローディルは戦場で指揮を取るときだけでなく、オークの追跡でも優れた能力を発揮した。ヌメノールの血を引く彼は、普通の人間にはわからないかすかな足音や風の匂いなどでオークのいる場所を正確に探すことができた。オークを倒す時は誰よりもすばやい動きで、たくさんの敵を倒していた。だが彼は決して自分が部下に命令したりすることはなく、常に俺をたて、自分は目立たないように動いていた。

 国境地帯では寒さも厳しく、食料も満足に手に入らない日々が続いた。テントも小さく、風を防げる程度であった。だが俺はこの生活に大きな喜びを感じていた。同じ目的を持った者同士、何日もかけてオークを探して敵を追い詰め、取り囲んでいっせいに殺す。相手が人間でなく、また双方とも人数が少ないので、思い切って戦うことができる。たまに怪我をすることもあったが、そんなことは少しも気にならないぐらい毎日が充実していた。

 夜はほとんど毎晩のようにクローディルと寝た。彼もまた俺と同じようにこの生活に満足しているようだった。ミナス・テリスや前の戦場の時には見せなかった表情をするようになった。俺たちは抱き合っている時、ほとんど言葉は交わさなくなった。言葉を口にするといやでもお互いの身分や立場を感じてしまう。だからお互いの顔もよく見えない暗いテントの中、手の感触や体の熱さだけを強く感じていた。同じ戦士としての熱い血を持つ彼を抱くことは何よりも大きな喜びになっていた。彼もまた、いつのまにか俺の上にも乗るようになり、自らの体を激しく動かして熱い情熱を伝えてくれた。昼間はオークと激しく戦い、夜は激しく愛し合う、求めていたものの大部分をここで手に入れたような気がした。


 イシリアンに来て初めての冬がきた。ミナス・テリスにいた時も毎年熱を出していた僕はやはりここでもかぜを引いて熱を出した。苦い薬を飲まされ、しばらくすると熱はさがるのだが、またすぐに熱を出してしまう。そうなるといつも寝ているテントではなくて特別にダムロドのいる洞窟の部屋でベッドに寝かせてもらえるようになった。病気で寝ているときは水汲みや薪拾いといった仕事は一切しなくていいし、剣の稽古もお休み、洞窟の部屋では本が好きなだけ読めるし、みんな心配して僕の好きな食べ物を持って見舞いに来てくれた。だから本当はもう元気になっていてもわざと苦しんでいるようなふりをした。ダムロドやマブルングは僕の下手な芝居にはとっくに気がついていたと思うが、それでも病人扱いしてくれた。ずっとこのままでいたいと思ったが、さすがに春になって暖かくなると、元のテントに戻され、またみんなと同じ生活をするようになった。

 ある日、アムロスに呼び出された。彼は僕が寝込んでいる時は、一度も見舞いには来てくれなかったのに、剣の稽古についてはうるさく言う。ボロミアにそれは稽古ではなくていじめだからついていくな、とさんざん注意されていたが、彼の鋭い目と口調で言われると、そうしなければいけない気分になってしまう。おそるおそる彼のあとについていった。

「お前、冬の間何やっていた。お前がここに来てもうすぐ1年になるだろう。1年の間にどれだけのことを身につけた。俺たちは寒い冬だって訓練を続けていたのに、お前は何もしなかった。一番弱いお前がこのままでいいと思っているのか。あと2年、18になったら俺たちは一人前とみなされ、それぞれの場所に行かされてオークと戦わなければならない。あと2年だ。わかっているのか」
「わかっているよ。これからがんばるよ」
「今日はお前が勝つまで終わりにしない・・・」

 すぐに剣の稽古は始められた。彼の動きはすばやく、僕はすぐに倒された。だがそれで終わりにはならなかった。彼は僕を無理やり立たせ、何度も同じことを繰り返した。何度か彼に剣でたたかれた僕はもう戦う気力もなくしていた。倒れたまま泣き出していた。

「おい、立てよ!泣けばすむと思っているのか」
「もう無理だよ。許して」
「だめだよ、お前はこのままじゃだめだ。許さない」

 彼は何度も剣で僕の体をたたいた。僕は必死でこらえた。父に鞭で打たれた時のことを思い出した。もう少し、もう少しがまんすれば・・・いつのまにか意識を失っていた。

 気がついたとき、僕はテントの中で寝かされていた。背中がひどく痛い。上半身裸にされ、たたかれた場所に薬を塗られていた。
まわりのみんなが心配そうに見ている。

「ファラミア、大丈夫か?」
「どうして、ここに」
「アムロスが運んできた。意識を失っていると言って」
「あいつもひどいやつだな、何もここまでしなくても」
「前からやられていたんだろう。なんでもっと早く誰かに言わなかったんだ」
「でも、あいつもこれで反省して、こういうことしなくなるだろう」
「アムロスはどこ?」
「マブルングが連れて行った。きっと今頃罰を受けているだろう」
「罰って」
「たぶん鞭だろう。あの性格は少しぐらい打たれても直らないと思うけど、お前には手をださなくなるだろう。ちょうどよかったじゃないか」
「鞭で打たれるの、僕のせいで・・・」

 食事の時間になっても、寝る時間になってもアムロスは戻って来なかった。遠くで僕を呼ぶ声が聞こえた。

「アムロス、戻ってこないね」
「向こうで寝るつもりじゃないか。俺たちに泣き顔は見せたくないだろう」
「どこにいるの、教えて」
「いいよ、ほっとけば、明日になれば戻ってくるだろう」
「ちょっと見てくるよ」

 僕は声のするほうに向かって歩いていった。人間の声と違っているようだがでも僕の名前を呼んでいる。星明りだけの暗い森の中声をたどって歩いた。やがて洞窟の入り口についた。入ってみると中は広い。薄暗い中よく見るとベッドのような台がおかれ、その一つの上でアムロスは横になっていた。上半身裸で鞭で打たれた跡がある。

「ファラミア、お前なんでこんなところまで来た。俺がどんな罰を受けたか確かめに来たのか」
「僕の名前を呼ぶ声が聞こえたから・・・」
「お前の名前など呼んではいない」
「声には出していないけど、でも呼んでいたよ。僕には聞こえた。痛かったよね」
「お前何言っているんだ。俺がお前に何したか、まさか忘れたわけじゃないだろうな。お前を気絶するまでたたいて俺はここに連れてこられた」
「そうだけど、でも君は僕のことを思って・・・」
「そんなんじゃない、ただお前を見ているとイライラするからやっただけだ、さっさと戻れ」
「君は戻らないの」
「ほかのやつの前でうめき声とかあげたくない」
「じゃあ、僕もここで寝るよ。ここにも毛布とかあるし・・・鞭で打たれた時、一人でいるのは辛いけど、二人なら大丈夫だよ」
「大丈夫って何が・・・」

 僕は毛布を持ってきて自分の服を脱いだ。それから彼の服も全部脱がせようとした。

「ちょっと待てよ。お前何する気だよ」
「こうやって裸になって抱き合って寝れば痛みを忘れられるよ」
「痛みって、お前もけっこう鞭のあととかあるな」
「うん、でもボロミアが抱いて寝てくれたから。一人で寝るときは痛かったけど・・・」
「ボロミアって?」
「僕の兄だよ」
「お前、兄弟で裸で抱き合って寝たことあるのか!」
「うんそうだよ」
「・・・・・」
「お前何にも知らないのか。それで今はその兄弟がいないから、俺が代わりをしろと言うのか」
「代わりというわけではないけど、本当に痛くなくなるから、やってみて」
「お前は本当に変なやつだ。わかったよ。言われたとおりにすればいいんだろう」

 僕はアムロスの服を脱がせて抱きついた。暖かな肌の感触、手触り、兄とは違う匂い。夢中になって彼の体を触った。

「アムロスは随分小さいね」
「お前よりは大きい!」
「ボロミアはいつもすごく大きいから」
「兄はいくつだ」
「21、僕より5つ年上で、すごく体が大きくて強いんだよ。18の時には軍隊の隊長になって戦いで大活躍した」
「お前とは全然違うな・・・」
「うん、全然違うよ。僕もボロミアみたいだったらきっと父上にも気に入られて・・・でもそれでもやっぱり父上には嫌われたかもしれない。僕がどんな子であっても・・・」
「嫌われて・・・鞭で打たれたのか・・・大丈夫だよ。イシリアンには誰もお前を嫌うやつなんかいないよ。みんなお前を大切に思っている。俺だって・・・ただ今のままじゃお前本当に危ないぞ」
「わかっているよ」
「おい、こんな格好で本当に寝られるのか」
「寝られるよ、すごく気持ちよく・・・・」

 僕はアムロスに抱きついたまま気持ちよく寝てしまった。誰かの肌の温かさを感じながら眠りにつく、それが僕にとって一番幸せなことであった。

                                        −つづくー

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後書き
  「響感」、「共感」ではなくてもっとお互いの感性が響き合い魂が触れ合う、そんな話をイメージしたのだが、実際にはなかなかイメージどおりに話は書けない。