The last night (next)

ペルシャとの決戦の前の夜、私は初めてアレキサンダーと結ばれた。その日から私達はほとんど毎晩のように、夜は一緒に過ごすようになった。始めは王と側近として言葉遣いや態度に気を使っていた私であったが、共に過ごす夜が続くと、いつのまにかお互いの立場や身分を忘れるようになった。もっとも私もアレキサンダーも他の者がいる前では、お互いの立場に気を配り、それにふさわしい言葉遣いをしていたのであるが・・・

最初の頃ぎこちなく、激しい苦痛を感じたその行為も、慣れるに従い、強い快楽をもたらすものへと変わった。長い口付けと愛撫で、私達はお互いの気持ちを感じ取り、快楽を分け合った。体を重ね一つになりながら互いの夢を語り合った。私達は強い絆で結ばれ、死が二人を別つまで、決して離れないと信じていた。そう、その日がくるまでは・・・

アレキサンダーは突然皆の前で結婚を宣言した。私に対して何もかも語ってくれた彼であったが、結婚についての話をしたことは一度もなかった。王である彼がいずれは結婚し、世継ぎを作らねばならないことは私もよくわかっていた。だがそれは遠征を終えて、故郷のマケドニアに帰ってからだと信じていた。こうして遠征を続けている限り、例え行く先々でその土地の女を手に入れ、連れていくことはあっても、正式に結婚して王妃として迎える事はないだろう、私だけでなく誰もがそう思っていた。だから彼がペルシャ人の王女と結婚するという話を聞いたときは周りの者は皆反対した。




「どうしてお前まで反対するのだ。お前ならわかってくれると思っていたのに・・・」

夜、いつものように私を抱きながら、彼はつぶやいた。

「僕は今どういう立場で話せばいい。王の側近としてなのか、それとも親友としてなのか」
「親友として話して欲しい」
「それならこの結婚には反対だ。いくら王女といっても今まで敵だったペルシャ人の女を王妃にするなんて・・・みんなが反対するのは当然だ。気に入ったなら遠征につれていけばいい。でも結婚は故郷のマケドニアに戻って、しかるべき家柄の娘と・・・それが王として一番・・・」
「言いたいことはそれだけか!俺はお前ならなんでもわかってくれると思っていた。俺達はただ領土を増やし、そこに住む人間を征服するために戦っているのではない!新しい世界を作ろうとして・・・違う国の者同志が結婚して分かり合い、血が交じり合って新しい世界を作っていく。そのために俺は・・・まず俺から・・・結局お前も他のやつと同じか!出て行ってくれ! ・・・出て行け!」

あまりにも激しいアレキサンダーの剣幕に押され、私は自分の衣類をつかんで慌てて彼の天幕を離れた。彼の叫び声が聞こえ、何か物を投げつけている。私だけは彼の言うことに理解を示せばよかったのだろうか。いや、そんなことをしたら、多くの側近がこぞって反対し、大変なことになるかもしれない。いくら彼が暴れようと、あきらめさせるのが一番である。私はアレキサンダーの性格を子供の時からよく知っている。夢中になりやすいが、しばらく経てば案外ころっと忘れていたりする。早くこの土地を出発して新しい場所へ行けばいい。そうすればうまく収まるだろう。




どれだけ反対されてもアレキサンダーの考えは変わらなかった。考えが変わらないとわかると、誰も王に対して意見は言わなくなる。下手に反対して処罰されたくはないのだろう。それどころか、王の真似をして同じようにペルシャ人の女と結婚したいという者まで出てきた。

「ヘファイスティオン、お前はまだこの結婚に反対なのか」

意地悪く彼は皆の前で私に質問する。

「はい、私はやはり王妃には故郷マケドニアの者がふさわしいと考えています。王家の血に他の国の者が混ざれば、災いを呼び起こし、国を滅ぼすかもしれません」
「王の意見に反対することはどういうことなのかわかっているのか」
「わかっています。私はあなたを信じ、あなただけを見つめてここまで来ました。その絆が切れた今、どのような処罰を受けることも覚悟しています」
「そうか、近いうちにお前の処罰を決める。それまでは決して私の前には現れるな」
「かしこまりました」




私の天幕の周りは常に誰かが見張っているようになった。逃げ出せないようにしているのだろう。逃げるつもりなら最初から反対意見など言わない。他の者と同じように適当に話を合せていれば自分の身は安全である。だがそれでうまくいくのだろうか?いつか大きな反乱が起きて・・・そうなる前にと思ったが私の気持ちは伝わらなかった。あれほど何度も体を重ね、快楽を分かちあいお互いを理解していると思っていたのに、その絆はとっくに切れていた。それならばいっそうのこと彼の結婚する姿など見たくはない、それまでに処刑して欲しい、そんなことまで考えるようになった。




結婚式の日が決まり、準備が進められていた。私は見張られたままで、自分の天幕から外に出ることはほとんどなかった。そして結婚式の前日、私はアレキサンダーに呼び出され、彼の天幕へと向かった。彼の近くに行くのはおそらくこれが最後であろう。


                                               −つづくー


後書き
  思いがけず、ヘファイスティオンがこの結婚に強く反対してしまったので、2話で終わらずに、3話まで続きます。

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