新負土似亜物語(51)〜(55)



お礼文(51)   「新負土似亜物語」(51)

フィリボ酢王に誤解され、王宮を追い出されそうになった元小姓今は護衛兵のパウですが、アツ太郎のとりなし
で王の誤解もとけ今までどおり暮らせるようになりました。もちろんアツ太郎は親切心でしたわけではなく、さ
まざまな陰謀を考えてパウを利用しようとしているのですが、そんなこととは知らない彼は大喜びです。そして
ゆっくり話がしたいと言われたパウは、喜んで見張りの仕事がない日の夜王宮内にあるアツ太郎の部屋へ行きました。

「アツ太郎様、ご恩は一生忘れません。おかげでまた陛下のもとで働けるようになりました」
「礼を言う必要ない。パウサはかわいそうだったが、あんな場所でウロウロしていたあの子が悪いのだ。それを
陛下は何か勘違いしてお前がそう命じたように思われていた。わしはお前に限ってそんなことはないと信じている」
「はい、私はそのようなことはけっして申してはいません。ただ前の日にパウサと話をしたのでそう思われたの
かもしれません。実を言うと彼は前の日に兵士に取り囲まれ・・・もしそのようなことが陛下のお耳に入れば、彼ら
はただではすまないでしょう。けれどもそのことで私を恨んだ者が告げ口したのかもしれません」
「ならば、陛下にそうはっきりと申せばいいものを・・・」
「知られれば死罪は免れられません。そのような理由で死ねば戦死よりも遥かに不名誉で家族まで罪を問われます」
「だから黙っていたというわけか。お前は顔立ちや体つきだけでなく心栄えも本当に美しい若者だ。陛下の寵愛を
一心に受けた理由もよくわかる。さあ、もっとブドウ酒を飲んでくれ」
「アツ太郎様、私は明日の朝見張りの仕事がありますのでそんなにたくさんは飲めません」
「いいではないか。まだ酔ってはいないだろう。負土似亜の男がこれぐらいのブドウ酒で酔いつぶれるわけがな
い。わしはうれしいのだよ、お前のようなりっぱな者の役に立つことができて、さあ、俺の顔を潰さないでくれ」

明日の仕事が心配になりながらも、パウは大きなカップになみなみと注がれたブドウ酒を飲み干してしまいました。
小姓の仕事中、そして護衛兵の時にブドウ酒などほとんどの飲めませんし、仲間と飲んでもこのように気持ちよく
会話をすることなど滅多にないでしょう。彼は少し眩暈がしましたがかまわず次に注がれたブドウ酒も飲んでし
まいました。急に体が熱くなり、顔が火照ってきます。それもそのはず、アツ太郎はパウに国中で一番強いブドウ
酒を飲ませていました。けれどもパウはそれに少しも気付いていません。

「ああ、なんだか気分がよくなってきて、少し休ませていただきますか」
「いいとも、朝日が出るまで寝込んでしまったら、わしが起こしてやろう」

アツ太郎はすぐ自分用の奴隷に命じて長椅子を持ってこさせました。パウが横になると奴隷は親切に柔らかな
布までかけてくれます。これぐらいで酔うわけがないと思いながらもパウは心地よく目を閉じてしまいました。




「本当にいいのかよ。フィリボ酢王様のお気に入りだったんだろう。俺達がやっていいのか」
「アツ太郎様のご命令だ。この男を好きなだけ犯して金がたんまりもらえるなんて俺達はなんて運がいいんだ」
「こんなことは二度とないぞ。いいか、誰にも言うなよ。他のラバ追い達はさぞ悔しがるだろうな」

いつの間にかパウは手足を縛られて馬小屋に連れてこられていました。周りには10人ぐらいの男達がいます。彼
らはラバを使って何日もかかる遠くの村から麦や野菜などを王宮に運んできました。王宮の馬小屋で一晩寝ようと
していたところをアツ太郎の奴隷に呼ばれて彼の部屋へ行き、長椅子でぐっすり寝ているパウの服を剥ぎ取り、手
足を縛ってここまで運んできたのです。自分の置かれた状況がまったくわかっていないのか、彼は安らかな寝顔
でした。二十を過ぎても小柄で柔らかで薄い髭しか生えてこないパウは十六、七の少年のようです。色白で柔らか
な肌、赤味をさした頬と形のよい口、商売宿で一番安い下品な女しか抱いたことのない男達はゴクリとツバを飲み
こみました。荷物を運んで得られる金の2倍以上を渡され、こんな素晴らしい男を自由にしてよいと言われたのです。

「まあ、そうあせるな。動けないようにしっかり縛って順番に楽しめばいい。どうだ、まだ起きないのか?」
「目と口に何かかぶせた方がよくないか。俺達の顔を見られては困る」
「俺達にはラバの臭いが染み付いているぜ。鼻も閉じておくか?」
「息ができなくなったら困るだろう。なあに、ラバ追いなんていくらでもここに来る。俺達だってことわからないさ」
「第一こんなことされて、誰かに言えるわけない」
「おや、目が覚めたようだ。声が出ないよう目と口もしっかり布をかぶせて縛っておけ。ははは、震えているようだ」
「本当の男がどんなものだか、たっぷり知らせてやろう」

意識が朦朧としている中、パウは体の下半身に今までにない激しい痛みを感じました。けれども手足は縛られ、目も
見えなくされていてどうすることもできません。体をずらすこともできないほど固く紐で縛られ、もがけば手首足首
に食い込んできます。大声で叫んでも布からもれて自分の耳にはかすれた声が届くだけです。男達に代わる代わる
体を貫かれ、パウはもう生きた心地もしません。何人の男がいるのか、次にどんなことをされるのか想像もつかな
いからです。激しい衝撃に何度も気を失いそうになり、皮膚が裂けて血がダラダラ流れるのを感じながらどうする
こともできません。泣き叫び、呻き声を上げながらとうとう気を失ってしまいました。



意識を取り戻したパウはベッドの上にいました。護衛兵用の狭い自分の部屋のようです。手足を縛られてはいま
せんが下半身がズキズキと痛みます。伸ばそうとした手を誰かに押さえられました。アツ太郎です。

「一体何が・・・まさかあなたが仕組んで・・・」
「目が覚めたか?ひどく酔って心配だったがお前がどうしても一人で戻るというから送り出したらこんなことに
なっていた。お前は馬小屋で縛られ体から血を流して・・・」
「そうなるようあなたがわざと・・・私にブドウ酒を飲ませて眠らせ・・・どうしてそんなことを・・・」
「パウサは死んだ兄から預かった大切な子、その子供がお前のせいで・・・ハハハ、少しくらい復讐を考えても
いいだろう。本物の男の味はどうだった?陛下とは全く違うであろう。あのラバ追い達が言ってたぞ。お前は
最初泣き叫んだが、後からはうっとりするようないい声で喘いでいたと、わしも試せばよかったな」
「そんなこと、陛下にすべてお話してあなたや昨晩のラバ追い達を処罰してもらう」
「それができると思うのかな?小姓ならともかく護衛兵になったお前が自分の身も守れなかったなど、恥をかく
だけだと思うがね。お前だけでなく一族全て殺されなくとも生涯笑いものにされる。あれがラバ追いに犯されて
喘いだ王の元お気に入りだってね。陛下まで恥をかかされる。お前の一族がどうなっても知らんぞ」

パウははっとした。アツ太郎に対する怒りよりも故郷にいる家族のことが心配になった。自分はどうなっても
いいが家族は・・・彼はベッドの上に起きてきちんと座った。体の下から痛みが貫き、軽い呻き声を漏らした。
まだ血も完全には止まってないようだが、その姿勢で深く頭を下げた。

「アツ太郎様、どうかこのことは誰にも言わないで下さい。このような理由で私がお咎めを受けて家族まで
巻き込むなどたまりません。どんなことでもします。どうか誰にも言わないでください」

アツ太郎は下を向いたパウの頬を指で触った。その余りにも冷たくじめっとした感触に悲鳴をあげそうにな
ったがじっと我慢した。頬から唇にかけてゆっくり指でなぞられ、唇を指で押さえられた。

「内緒にしておいてやろう。だが、お前も以後俺の命じたとおりに動くのだぞ。そして決して陛下には言うな」
「はい」
「お前はおりん王妃の行動を調べろ。そして報告しろ」
「おりん王妃様のですか。無理です、男の私が王妃様の部屋に近づくなど・・・」
「近づかなくても他にいろいろ方法はあるだろう。もしうまくできなければ、昨晩のお前について全て陛下と
王宮にいる者に話してしまおう。噂は一日で広まる。そうなったらお前はどうする?」
「どうかそれだけはお許しください。どんなことでもいたします」
「ならばここに誓いの口付けを・・・」

アツ太郎はサンダルを履いたまま自分の太くて汚い足の片方をパウのベッドの白い毛布の上にドンと乗せた。
パウは震えながらも、その足に顔を近づけ、唇で軽く触れた。

「いいだろう、かわいいパウよ、これからお前はわしの命令どおりにどんなこともするのだぞ」




お礼文(52)   「新負土似亜物語」(52)

「あー、おもしろくない。どうして父上はアレス王子だけを連れて宛内(アテナイ)へ行ったんだ!」

カッサンがぶつくさつぶやいています。もっとも彼がにこやかな笑顔でいることなど滅多にありませんが。
プトレ、ヘファオン、フィロ太がまわりを取り囲んでいます。

「パトロンズ大臣に何か考えがあるんだろう。少しでも負土似亜から離れたところに置こうとしているのか
もしれない。宛内、手倍連合軍との戦いは終わったが、アツ太郎がまた何を考えるかわからない」
「アツ太郎、将軍に任命されて併留宇斜(ペイルウシャ)遠征の先発隊に選ばれたみたいだよ。父上と同じだ」
「本当か、フィロ太。パルメ将軍と同じ立場なんてありえない。どうして陛下はそんなことを決めたんだ?」
「エウリだよ。近いうちに正式に結婚するという噂だ。おりん王妃様を追い出して・・・」
「えー!そんなことになったらアレスはどうなるの?もう王子ではなくなって、そんなの困る」
「ヘファオン、声が大きいぞ」
「王位継承権を取られるだけならまだいい、命を狙われるかもしれない」
「そ、そんなー!」
「ヘファオン、お前どうして小さな声で話せないんだよ。今この周りにもアツ太郎の命令を受けて様子をさぐ
っているヤツがいるかもしれないんだぞ。あの戦いでどんなことが起きたかお前知っているだろう。だから・・」
「父上がアレスを負土似亜から離した。どうせなら俺も連れていってくれればいいものを・・・哲学と芸術の
都宛内、この俺にこそふさわしい場所だ。それなのにまだ一度も行ったことがない」
「カッサン、宛内へ行ったことないの?だってパトロンズ大臣は何度も宛内へ行って僕にもお土産を買ってきて
くれたよ。難しい書物なんだ。宛内の昔の戦いについて書かれている」
「巻本くらい俺だってうんざりするほどもらっている。哲学とか弁論術、どうして宛内人はああいう面倒なこと
ばかり考えているんだろう」
「俺達負土似亜人は、怒るとすぐ相手を殴り倒して槍を構えるもんな」
「だから野蛮人て言われるんだよ。でも大丈夫かなアレス、宛内人はきっと僕達のことを恨んでいるよ」
「お前やフィロ太と違ってアレスは大活躍だったからな」
「おい、静かにしろ、あそこに誰かいる」

プトレの声で他の3人も息を止め、指差した先を見つめました。木の後ろに誰か立っています。

「あいつを捕まえろ!」

声よりも早く、4人はその男に飛び掛っていました。護衛兵の服を着ていますが武具は何も着けてなく
随分小柄で細い兵士です。

「お前は確か・・・」
「パウです。申し訳ございません。通りすがりに何気なく聞いていたらアレス王子様のことが・・・つい
気になって木の後ろで聞いてしまいました」
「俺達の話を陛下に告げ口するのか!」
「とんでもございません。アツ太郎様の横暴は私も、いえ、なんでもございません、失礼します」

パウは頭を下げ、フィロ太とヘファオンの2人は掴んでいたパウの服を離してしまいました。彼はそのまま
足早に去ってしまいました。プトレはフィロ太の胸もとを掴み、頬をピシャリと叩きました。

「プトレ、どうして・・・」
「何故手を離した。あの男のあの慌てよう、何か隠しているに違いない。それをお前は簡単に・・・」
「だってヘファオンも手を離したから・・・」
「お前はパルメ将軍の子だろう。いずれ何千人もの兵を率いて戦わなければならない時がくる。ちょっと
した判断の過ちが何千人もの命を危うくするんだぞ。お前は戦場で何を見た!」
「恐くて震えていたんだろう。どうせフィロ太とヘファオンの2人は・・・」
「カッサン、余計なこと言うな。俺達はもう子供じゃない。まして今の負土似亜ではどんなことが起きても
不思議ではない。アレスは殺されそうになったんだぞ」
「ごめん、プトレ、僕がもっとしつこく彼に噛み付いてでも何をしようとしたのか聞き出せばよかった」
「噛み付くなんて。パウは僕達の友達だよ。ほら、イノシシ狩りの時に一緒にウサギを追いかけたり・・・」
「あ、そうだねえ。たった1匹だけウサギを捕まえて・・・」
「お前ら何昔のこと思い出して喜んでいるんだよ。いいか、あのパウからは目を離すなよ」
「ええー!噛み付くんじゃなくて、目をくっつけるの?」
「ヘファオン、どうでもいいけどもう少し小さな声で話してくれ」




4人が話している頃、パウは王宮内にあるアツ太郎の執務室に来ていました。周りを用心深く見渡してから
そっと部屋の中に入りました。

「パウ、ここに入ることは誰にも見られてないだろうな」
「は、はい」
「何か目新しいことはあったか?」
「おりん王妃様については特に・・・でもプトレ様達が話をしているのを聞きました。パトロンズ大臣が
アレス王子様を和平交渉のため宛内に連れていかれたのは、王子様を負土似亜から離す目的があったので
はなかろうかと」
「そんなこと、子供らだけでなく誰でも知っていることだ」
「失礼ですが、プトレ様達はもう子供ではありません。私よりもよほど背も高く力も強く・・・」
「おお、そうだったな。だが、お前のような者なら逆に彼らも怪しまないだろう。これからも見張りを
続けてくれ・・・」
「しかし、私にそのような役目、もう無理でございます」
「無理か。わっはははは・・・陛下に最も愛された者のとんだ笑い話、他の者に漏れてもよいのかな。陛下
の耳に入りでもしたら・・・そうでなくても最近陛下は気難しく・・・」
「わかりました。私にできることなら何でもお言いつけください」
「彼らの側で会話を聞いていろ。ただし今回のようにつかまらないように・・・」
「ご覧になったのですか」
「ははははは・・・自分の目で見なくても伝えてくれる者などいくらでもおる。そのことを忘れるな」

アツ太郎の目が怪しく光り、パウは思わず目をそらせました。でもあのことを仕組んで結果をよく知っている
彼に逆らうことはできません。唇を噛み締めました。


お礼文(53)   「新負土似亜物語」(53)

やがて和平交渉が終わり、パトロンズ大臣とアレス王子が負土似亜に帰ってくることになりました。大臣に
話したらきっと反対されると思ったのでしょう、フィリボ酢王は密かにアツ太郎の姪エウリとの結婚の準備
を進めていました。パルメ将軍は併留宇斜(ペイルウシャ)遠征の先発隊として東に向かっていました。す
べてはアツ太郎の思い通り、邪魔な大臣や将軍のいない間にフィリボ酢王とエウリの結婚を決定的なものに
したのです。もちろんおりん王妃対策も忘れてはいません。パウを密かに呼んで話します。

「おい、あのお方は確かに今負土似亜にはいないのだな」
「はい、生まれ故国エペロスに帰っておられます。なんでも弟君のアレス王様のお誕生祝いがあるそうです」
「そいつはつごうがいい。戻られてもフィリボ酢王様の結婚についてあの方の耳には何も入れないように手配
しろよ。護衛兵、侍女達によく話しておくのだ」
「私の口からですか?」
「護衛兵パウはその昔陛下にたいそうかわいがられたようだからな。お前が話せばフィリボ酢王様のお考えで
あると誰もが納得するであろう」
「私はもう陛下にお声をかけてもらうことすらありません。それに陛下のお言葉として他の者を騙すなど・・・」
「今あのお方に騒がれては、フィリボ酢王様のたいそうなご迷惑になるのだ。そもそも今まで負土似亜にはこの
国で生まれた正式の王妃はなく、みなよその国からきた方ばかりだ。陛下は謀反を起こすかもしれない方とばかり
お過ごしで心休まる時はない。だからこそお前のような小姓を寵愛するのだろう。同じ国に生まれ、後継者の争い
で下心を持たぬ者が一番安心できるからな。今まではそうであった。だが、エウリが正式の王妃となって跡継ぎ
を生めば、負土似亜は大きく変わるであろう。その手伝いをするのだから誇りに思え」
「は、はい」
「ただ心配なのは、あのアレス王子の学友とかいう連中だ。彼らが浅はかにいつ陛下の結婚をおりん王妃に話し
てしまわないとも限らない」
「それはないと思います。彼らは絶対おりん王妃様に近づいたりはしません」
「なぜそうと言い切れるのだ?」
「彼らは王妃様をたいそう恐れておりますから・・・申し訳ございません、余計なことを・・・」
「ぐわっはっはっはっはっは・・・恐れておるか。大臣や将軍の子が情けないのう」
「とても恐れています。私もその、おりん王妃様は・・・・」
「お前の言いたいことはわかった。あのお方はたいそう恐いからそばに近づきたくない、そう言いたいのだろう」
アツ太郎はニヤリと笑い、パウも苦笑いしました。パウはアツ太郎の側にいる限り心の底から笑うなどということは
まったくありませんでした。あの屈辱的な事件、思い出すだけでも体が怒りに震えます。それでもパウは彼に合わ
せてぎこちない微笑を作りました。




「ねえ、みんな知っている?おりん王妃様が今日負土似亜に戻られた」
「ああ、知っているさ。ヘファオン、お前のその大きな声どうにかならないのか?お前が話すと見張りの兵士
が一斉にこっちを向く」
「でもこれは秘密の話ではないよね。僕だって秘密の話をする時は用心するさ。ちゃんとフィロ太にも聞いて
確かめた。アレスは3日後に帰ってくるって」
「そうか、やっと帰ってくるのか。アレスがいないと僕達どうも気合が入らないから」
「お前はもともと気合が入ってないだろう、フィロ太。あの厳格なパルメ将軍の家に生まれて、どうしてそん
なにぼんやりしていられるのか不思議でたまらない」
「そうそう、僕がフィロ太の家に生まれていたら、もう少しシャキッとしていたと思うよ」
「そういう冗談は後にして、もう3日後だというのに誰も何もそのことを話さないのは変だと思わないか?
俺達ですら、どこで行うかも聞いていない」
「アレスの凱旋パレードなら劇場でやる予定だよ」
「違う、結婚式だ!」
「えええー!アレスの結婚式!だってアレスは僕と同じ年なのに・・・」
「違う!フィリボ酢王様の!ヘファオン、頼むから小さな声で話してくれ」
「カッサンだって怒鳴ったじゃないか!」
「それはだな・・・」
「ヘファオン、カッサン、けんかしている場合じゃない。しばらくの間負土似亜にはパトロンズ大臣とパルメ
将軍がいなかった。アレスもおりん王妃様も・・・この機会にアツ太郎はフィリボ酢王様とエウリの結婚話
を進めてしまったのさ。ちょうどアレスが戻ってくるその日に結婚式が行われる。本来ならアレスの活躍を
祝って凱旋パレードを行うところだが、それも中止だ」
「そのことアレスは知っているの?」
「知るわけないだろう。これは絶対ひと悶着あるぜ。おりん王妃様がカンカンに怒って騒ぎ出すかもしれない」
「それを狙っているのさ。結婚式当日騒ぎを起こしたということで王妃様が王宮から追放される。そうなると
もうアレスだって今までのように王子の身分ではなくなり・・・」
「プトレ、それは本当なの?」
「いや、そうなるかどうかはわからない。だが俺がアツ太郎ならそこまで考えておくさ。でなければエウリ
が危険すぎる。王妃様と同じ王宮にいては、いつ何があるかわからない」
「なるほど、そういうことか。やっぱりプトレは頭がいいな」
「感心している場合か!とにかく俺達で何か手立てを考えよう。後で俺の部屋へ来い」
「わかった」
「ヘファオン、後つけられるなよ。さりげなく行くんだぞ」
「わかっているよ。まったくカッサンはうるさい」

ヘファオンが頬をふくらませました。近くでガサゴソと葉っぱの揺れる音がしましたが、彼らは気付いていません。




お礼文(54)   「新負土似亜物語」(54)

負土似亜王宮内のおりん王妃の部屋は夜遅くまで松明のあかりがともっていました。王妃と侍女達はおりん
王妃の故国エペロスから戻ってきたばかりですが、明日にはもうアレス王子が宛内から帰っての凱旋パレー
ドがあるのです。荷物を開けるまもなく明日の準備をしなければなりません。

「ああ、なんて忙しいのでしょう。何もこんな時にすぐパレードをやらなくても・・・」
「何を言っているの!アレス王子様の凱旋パレードですのよ。私達おりん王妃様の侍女がはりきらなく
てどうするの!こんな素晴らしいことは一生の間に何度も起こらないわ」
「そうですけど、私達遠いエペロス国から戻ってきたばかりで・・・」
「いいじゃない。エペロス王様のお誕生日会素晴らしかったわ。私達他の侍女達にうらやましがられている
のよ。おりん王妃様の弟君ですけど、あれほど美しくりりしい顔立ちの王様は世界中探してもきっといないわよ」
「そうねえ、フィリボ酢王様はイマイチ・・・あまりかっこいいとは・・・」
「でも、フィリボ酢王様とおりん王妃様、お互いに一目ぼれだったんでしょう。なんでも秘密の儀式を覗き見し
て、その頃は王子の王様を見て好きになり、殺されるところだったのを助けたというのよ」
「なんてすてきなお話かしら」
「今では王様、王妃様のところには全然いらっしゃらないのにね」
「エウリというアツ太郎の姪をいつも部屋に呼んでいるという噂よ。大丈夫かしら、もし彼女が王様と正式に
結婚しておりん王妃様が追い出されたら、私達まで仕事を失うわ」
「そんなことあるわけないじゃない。大丈夫よ」

その時、侍女達が集まる部屋の扉をコツコツ叩く者がいました。侍女の一人が用心しながらそっと扉を開け
ました。そこにいたのは今は近衛兵になった小姓のパウでした。

「夜遅くすみません。どうしても陛下よりおりん王妃様にお伝えしなければならないお言葉があったもの
ですから。おりん王妃様はいらっしゃいますか?」
「長い旅で疲れてお休みになっています。ヘビもご一緒なのでとても中へは・・・」
「わ、わかりました。では伝言をお伝えください。明日、アレス王子様の凱旋パレードと祝賀会が開かれる
時、おりん王妃様はこちらの部屋で待機して、夜のパーティーのみ参加していただきたいということです」
「そんなこと、王妃様はアレス王子様の実の母なのですよ。それなのにどうしてパレードや祝賀会に参加
できないのですか!王妃様がお聞きになったらどれほどお怒りになることか」
「お気持ちはよくわかります。でもすべてはアレス王子様のためなのです。今度のパレードには他国から
大勢の者が見に来て、そこで陛下は王子様を正式な後継者だと発表するおつもりなのです。おりん王妃様
は負土似亜の方ではなく、しかも奇妙な風習を身につけておられます。ヘビなどがもし他国の者の目に
入り、耳に入ったらどうするのです?そのような方の子を後継者にするとなると・・・」
「大丈夫です!王妃様のお連れになるヘビはとても大きいので目や耳に入ったりはしません!」
「そういう問題ではないのです。わかりました、正直に申し上げるのが難しいようなら、どうか祝賀会や
パレードの時だけでも王妃様を会場に近づけないようにしていただきたいのです。すべては王子様のため
です。陛下はそのことにたいそう心を砕いておられました」

パウの目には涙が浮かんでいました。彼は本当は明日フィリボ酢王とエウリの結婚式が行われ、騙された
アレスが怒って無礼を働き追放されるというアツ太郎の考えた策略をよく知っていました。アツ太郎に脅
されて嘘をついている自分が恥ずかしく、また戦場であれほどの活躍をしながらも、故国から追い出され
てしまう運命のアレス王子を気の毒に思ったのですが、侍女達はまだ美少年の面影を残した兵士の涙に
すっかり感動してしまいました。

「わかりました。私達もアレス王子様のためにできる限りのことをします」
「それでは明日の朝、王妃様のお飲み物にこれを混ぜてください。そして静かに眠らさせてください。目が
さめる頃にはすっかり夜になっていると思われますので・・・」
「これを飲み物に入れればいいのですね。ああ、なんだかドキドキしますわ。おりん王妃様をだますなんて
私達今まで一度もしたことがないんですもの」
「だますのではありません。これもみなアレス王子様のためです」




夜遅く、フィリボ酢王は小姓に命じて自分の寝室にエウリをこっそり招きいれました。小姓や近衛兵達はもう
みな知っていましたが、それでも知らないふりをしたのです。

「エウリ、なんだか顔色が悪いぞ。明日はいよいよ婚礼の儀式、お前は晴れて負土似亜国王の王妃となるのだ」
「そのことですが陛下、やはり私では荷が重過ぎます。どうか今までのように日陰の身でいさせてください」
「何を言う。お前のためにアツ太郎を将軍にまで出世させたのだぞ」
「伯父にとっても身にあまる光栄、もうそれだけで充分でございます」
「お前はおりんと違って欲がない。だが王子が生まれればそれも変わるだろう。今ここにいる子がやがては
負土似亜の王となるのだぞ。うれしくはないのか?」

フィリボ酢王はエウリの少しふくらんだおなかの上にそっと手をおきました。アレス王子や他の王女が生まれた
時、王はいつも遠く離れた戦場にいました。自分がそばにいて子の誕生を待つのは初めてです。

「まだ顔も見ぬ子にこれほど愛情を注げるとは思ってもみなかった」
「陛下にはアレス王子様がいらっしゃいます。この子は王子様のお役に立てればそれで充分です」
「アレスは死んだ、そうでなければ遠くへ行ってしまった。もともとわしの子ではなくあの女は神の子を身ご
もったと常々ぬかしておった。このわしと似ているところなどどこもない。あの女がどこかの男とかってに
作った子だ。そうさ、わしとはなんの血のつながりもない」
「陛下・・・」
「もしあれがあの女の言うとおり神の子ならば、必ず神が助けるであろう。そうさ、あれだけの戦いで傷一つ
負わず、暗殺者に囲まれてもおかしくない宛内でなんの危険もなかった。負土似亜を離れ、もっと大きな国の
王となるかもしれぬ。わしと同じように羊飼いや百姓を集めて槍の使い方から教えてな。あれは負土似亜の王
にはならない。後継者はお前の子だ」
「私にはそんな大役はできません。お許しください」
「アレスを王にすればおりんが好き放題に国を動かし、負土似亜は滅びる。小さな国が内乱など起こしては
あっという間に他国に攻められてしまうのだ。お前の血を引く子なら誰も文句はいうまい。負土似亜のためだ」
「でも、パトロンズ大臣様やパルメ将軍様は?」
「カッサンやフィロ太がいるから最初は反対するかもしない。だが、お前の子が少し成長すれば必ず別の子を
差し出して忠誠を誓う。家臣とはそういうものだ」
「彼らはどうなるのです?」
「やさしいエウリよ、もう何も考えるな。お前はただみなの前で王妃としてふさわしい態度をとればいいのだ」

王は目を閉じ、首を横に振りました。エウリは豪快な王の顔に深い悲しみの色が浮かんでいるのを見て、それ
以上は何も言わず、静かにそばによりそいました。月の美しい夜でした。近衛兵のパウはおりん王妃の部屋か
らもどり、王の部屋の外で見張りを始めました。真っ直ぐに立てた槍が月に届きそうになり、少し斜めにしま
した。それを見て少し離れた場所に立つ近衛兵達が笑います。

「おい見ろよ、パウのやつ力がないから槍をまっすぐ立たせることもできない」
「この前の戦いでも全然役に立たなかったしな」
「あいつにできるのは槍を受け入れることだけだ」
「ハハハ、ほらまた動かした。まっすぐ立っていられないヤツだ」
「昔のことを思い出したんだろう。なまじ寵愛なんか受けると後が悲惨だな。男としてまともにできなくなる」
「本当にそうだ。あいつが男になるところなんて想像できない」
「ハハハハ・・・」

兵士達の悪口はパウにも聞こえてしまいました。でも彼は何も言いません。ただ黙って月を見上げました。



拍手ありがとうございました

お礼文(55)   「新負土似亜物語」(55)

「ねえ、フィロ太、この皮のベルトきつくない?これじゃパレードの後のごちそうが食べられないよ」
「きつくしないと馬に乗っている時ずれてみっともなくなる。これでちょうどいいんだよ」
「ハハハ、フィロ太とヘファオンはまだ皮ベルトでなく女みたいに腰紐を結んでいるだけだったからな。戦場で
敵を殺したことがないヤツはベルトをつける資格がない。まあ今回はアレスと並んで馬に乗るからいくらなんで
も腰紐ではかっこ悪い。だから俺のベルトを貸してやったんだ」
「やっぱりプトレのベルトを借りた方がよかったかな」
「ダメダメ、プトレじゃ太すぎ、いやプトレは僕達の中でも特別体が大きいから君ではうまくしまらないよ。
おかしいな、カッサンはそんなに背が低いわけでもないのに、どうしてそんなに腰が細いんだろう」
「やめろ、フィロ太!やたらにさわるな。俺はお前達と違って体全体のバランスが理想的なんだ。彫像のモデル
を頼まれている。アレスはほら、ちょっと背が低くてそのまま彫像にするにはカッコ悪いだろう」
「お前達、いつまでしゃべっている。もうパレードが始まるぞ。カッサン、短剣も貸してやれ」
「しょうがないなあ。これは宝玉がついていて高いから絶対に失くすなよ」
「そんなジャラジャラしたやつは使えない。お前が持ってないなら俺のを貸してやる」

プトレはいきなりヘファオンの前で短剣を抜きました。日の光を受けてキラキラ輝く鋭い剣の先を見て、ヘファ
オンはドキリとします。とてもよく切れそうでした。
「これ、僕が持つにはちょっと・・・カッサンのものの方がきれいだし・・・」
「何を考えている!ヘファオン、しっかり持て。いいか、もしアレスの命を狙う者があったら、これで刺し殺せ」
「え、命を狙う者って・・・だってパレードでは護衛兵も周りにいっぱいいるし、負土似亜国内でそんなこと・・・」
「護衛兵の中にはパウもいる。他にもアツ太郎の指図を受けている者は多い。宛内(アテナイ)、手倍(テバイ)
や他の国の者がこっそり紛れ込んでいるかもしれない。何が起きても不思議ではない。その時アレスのそばいる
のはお前だ。お前が暗殺者を殺せ」
「でも、僕はみんなの中で一番・・・・」
「ヘファオン、どんなに力がなくてもアレスを守れるのは君しかいないんだよ。僕達はみな父の立場があるから
公の場でアレスの側にいられない。何かあった時には君が動くしかないんだ」
「そうそう、俺達はそれぞれ将軍や摂政の子、どんな時でも父の立場も考えなければならない。一番身分の低い
ただの書記官の子であるお前が一番自由に動けるんだよ、悔しいけど」
「カッサンの言う通りだ。君がうらやましい。さあ、早く行って、アレスが待っている」




旗を持った護衛兵の馬が通った後、いよいよアレスと並んで馬に乗ったヘファオンも負土似亜の大通りを進みま
す。ヘファオンの乗りなれた小型の馬でしたが、それでも馬も豪華に飾り付けられていました。もちろんアレス
の乗るブケファラとそしてアレス自身はまるで王の凱旋のように豪華な衣装を身につけていました。そして道に
並ぶ人の歓声、軍楽隊の音楽も聞こえます。負土似亜の軍楽隊は宛内から教師を招いて練習し、宛内との関係が
悪化した時に教師も皆逃げ帰って指導者がいなくなったのであまりうまくはありませんが、それでも精一杯大き
な音を響かせてパレードを盛り上げています。でもヘファオンはこの華やかなパレードを喜んでいる余裕はあり
ません。どこかから暗殺者が飛び出してくるかもしれないと目を光らせ、腰の短剣をすぐ抜けるように準備して
いました。もちろん、プトレ、カッサン、フィロ太の3人も道路わきの人込みの中、アレスから目を離さないよ
うにずっと追いかけていました。彼らは気付いていません。アレスを先頭にした騎兵隊、そして重装歩兵達の
パレードの後、アツ太郎が自分の騎兵を率いて通り過ぎ、その後ろに馬車に乗ったフィリボ酢王とアツ太郎の姪
エウリが来ていることを・・・エウリは真っ白なドレスを身に纏い、金の王冠を頭につけていました。主な通り
をパレードは進み、その後将軍や貴族などの役職についている者だけが王宮の広間に入りました。中はもうす
っかり祝宴の用意ができています。

「皆の者、よくぞわしとエウリの婚姻の席に集まってくれた。わしは今まで多くの女を妻としたが、それは他国
との条約の末、いわば人質として王宮にあずかったまでのことだ。だが今宵わしの王妃となるエウリは違う。純粋
な負土似亜の血を持つ、しかも古くから我が王家と繋がりの深い家の娘だ。わしはこの年になってようやく真の
王妃を娶り、真の後継者を持つ喜びを味わうことができた。乾杯じゃ、おおいに飲むがよい。そして我が息子
アレスは併留宇斜(ペイルウシャ)遠征の指揮官としてここで正式に任命しよう。アレスの活躍はみなよく知って
いるはずだ。まだ年若い指揮官だが、我が盟友パルメがしっかり補佐してくれるであろう。負土似亜の未来に
栄光あれ、世界は負土似亜の手の中にある」
「陛下、エウリは我が娘と思って育ててきた。これから陛下のことをなんてお呼びしたらよいものかと・・・」
「ガハハハ・・・そうであったな、アツ太郎。今後お前はわしの義父となり、生まれてくる子の祖父となるの
だな。呼び名などどうでもよい。お前はもう家族も同然、王家の者となる」
「ありがたいお言葉・・・ここでもう1つお知らせが・・・我が娘エウリはもうすでに陛下のお世継ぎを身ご
もってございます。この婚姻の儀式ではさらに負土似亜に正式な跡継ぎが生まれることをお祝いください。
エペロスなどという野蛮人の国から来た女から生まれたアレス王子など問題外、これでやっと負土似亜は高貴
な血を持つ正式な跡継ぎができるのです・・・あわわわ・・・殿下、な、何を・・・」
「誰が野蛮人から生まれた王子なんだ。お前、言わせておけばいい気になって。今すぐ私と母を侮辱したこと
を皆の前で謝罪しろ。さもなくばお前の首を刎ねる」

アレスはすばやくアツ太郎の側に行き、後ろから彼の体を押さえ、首に短剣を突きたてていました。

「な、何を、殿下、早まってはなりませぬ。私は王妃となったエウリの叔父で・・・」
「王妃は私の母1人、他の女は側室に過ぎない。私は冷静だ。今すぐ皆の前でお前の言葉を取り消せ」

アレスはアツ太郎の首に届くギリギリのところに剣を持っています。少しでも動けば彼の命はないでしょう。

「待て、アレス。今すぐアツ太郎を離して皆の前で謝罪しろ。さもなくば、お前とおりん、そしてお前の
友人4人、すべて反逆者として死罪とするぞ」

フィリボ酢王がゆっくりと2人に近づきました。鋭い目でアレスを睨んでいます。

「ええー!僕達も死罪だなんてそんなー」
「ヘファオン、声が大きいぞ。だいたいお前、アレスのそばにいろと言っただろう。なんで俺達のところに
来るんだ」
「だ、だってパレードは終わったし、アツ太郎がお前は王子とは身分が違うからあっちへ行けと言うからつい・・」
「なんでアイツの言いなりになるんだよ。お前がアレスを止めるべきだった」
「止めるってどうやって?」
「いいか、これは罠だぞ。アツ太郎はわざと皆の前でアレスを怒らせた。そうして逆に俺達を殺すか、そうでなく
てももうアレスが後継者とは認められないように仕組んだのだ。お前がアレスを止めていれば・・・」
「わかった、話してくるよ」
「今からでは遅い!」
「しょうがない、俺が何かうまいこと言ってきてやるよ」
「カッサン、大丈夫か?」
「ああ、俺は口がうまいと評判のパトロンズの子だ。なんとか命だけでも助ける」
「頼むよ、カッサン」
「心配するな」

カッサンは胸を張り、フィリボ酢王に向かってスタスタと歩いて行きました。


                                  −つづくー


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