闇の水底に咲く華(4)

登場人物  ファラミア25歳 ボロミア30歳 デネソール70歳 マルディル30歳
        ガシム36歳 フィロス14歳 マドリル45歳

時代     フロドが指輪を捨てる旅に出る10年ほど前、ファラミアがイシリアンに来て5年後

「エランド公国は数年前から急に豊かになった。ゴンドール執政もそのことを気にしてたびたび密使を送ったが詳しいことはわからなかった。何をしたのだ?他国と密かに条約でも結んだのか?」

今は住む人もない村の家にガシムという男を連れ取調べを始めた。念のため手を紐で固く縛り、2人のイシリアンの男が両脇に座った。私とマルディルは木の机を挟んだ反対側に腰を下ろした。マルディルは記録用の紙とペンを取り出した。

「エランドのことを文書にしてミナステリスへ送るのか」
「お前の証言によってはゴンドール正規軍を派遣する。だが心配しなくていい。お前達2人の命は私が保証しよう」
「ファラミア、安易な約束はするな。この男の犯した罪によっては処刑ということもありうる」
「俺はどうなってもいい、だがあの子のことだけは・・・・」
「わかった、では彼の命だけは保障しよう。それでエランドではなにがあった」
「俺は何も知らなかった。ただ領主より多くの子供を集めろと・・・」
「子供を集める?どういうことだ!」

私は強い口調で叫んだ。一瞬だが多くの子供が鎖に繋がれ山に向かって歩かされている姿が浮かんだ。私に流れるヌメノールの血が見せた事実なのだろうか。男の歯がガチガチ震えている。

「俺は何も知らなかった。ただ領主に命じられるまま・・・・エランド独立のためには多くの兵が必要だからどこからでもいい、12,3歳ぐらいの男の子をたくさん集めろと・・・たくさんの金貨を渡されて貧しい村をまわった。ゴンドールの正規軍に入れて毎年給金が出るといえば跡継ぎ以外の子をどの親も喜んで差し出した。子供の強さは問わない、ただ数多く集めればいいと・・・・」
「馬鹿なことを・・・正規軍など幼い頃から訓練を受けた者でもなかなか入れないのだぞ。10歳を過ぎていればよほど才能がある者しかとらない。村で生まれ育ってろくに読み書きもできない子供を正規軍に入れるなど、よくもそんな嘘をついて・・・・そして騙して連れて来た子供は鉱山で働かせたのか。エランドには大量の銀が取れる鉱山があるからな。どれくらいの数の子供を奴隷として働かせた。エランド以外のゴンドールの村からもたくさん連れていっただろう!」
「マルディル、すまない、少し黙っていてくれ」

私の目に鉱山で働かされている子供の姿が映った。裸同然の体には泥がこびり付きみなやせ細っている。少ない食べ物を奪い合い、弱い者を仲間同士で傷つけ、倒れれば情けようしゃなく鞭で打たれる。私は男の目をじっと見た。

「お前はその鉱山でどんなことが行われているか見たのだな。それでも村人を騙し子供を連れていった」
「知らなかった。本当だ。俺だけではない。エランドにいた下級兵士はみんないっせいに同じことを命じられた。ただ集めてくればいい、その後のことは教えられてない」
「だがゴンドールの正規軍にするためでないことはわかっていたのだろう。奴隷のように働かせ、弱った者から死んでいく。そうやって掘った銀でエランドは豊かになり領主は財宝を蓄えたのか。だがどうしてあの耳の聞こえないフィロスまで騙して連れて行った?」
「あの子を連れていくつもりはなかった。だが母親に頼まれた。耳が聞こえずしゃべれないばかりに父親から酷い扱いを受けている、正規軍になど入れなくてかまわないが、どうかミナステリスに連れていってできる仕事を見つけてやって欲しい、そう頼まれた。その母親からは逆に銀貨1枚渡された。必死でためたのだろう」
「そんな子供まで鉱山の奴隷にしたのか。オークにも劣らぬ卑劣な男だな」
「いや、俺は彼だけは城内で働く者に頼んでここで働かさせてやってくれと言い残した。そしてまた出かけて子供を集め戻った時に彼はいなかった。そこで気になっていろいろ調べたところエランドに連れてこられた子供は鉱山で働かされているということがわかった。そして俺は彼を鉱山から連れ出してエランドを離れミナステリスに行く途中で捕まった」
「そういうことか。良心の呵責に耐えられず耳の聞こえない子1人だけは助け出した。だがお前が騙して鉱山へ送り込んだ他の子はどうなる!お前らの領主の懐を潤すために死ぬまで働かさせられるのだぞ。よくわかった、さっそくエランドに正規軍を送り詳しく調べて何よりも他の子供を解放しなければ・・・・」
「マルディル、待ってくれ。今日の取調べはこれで終わりだ・・・だが、まだ調べなければならないことが・・・・」

私の言葉は途切れ途切れになり胸の鼓動が激しくなった。

「その男を牢に入れておけ」

2人の男に支えられるようにしてガシムが立ち上がり、出て行くのを見送った瞬間、私は意識を失った。






「気がついたか」

目を開けるとマルディルの顔が見えた。

「他に誰か・・・・」
「誰もいない、俺だけだ。安心して休め」
「取調べの最中に気を失うなど・・・イシリアンの大将として失格だ。私は父の言うとおり気が弱くて何もできない人間・・・」
「それ以上いうな、ファラミア、お前は弱い人間ではない。ただ人の心を読み人の痛みを感じ取ってしまうだけだ。拷問を受けた子を見れば同じ痛みを感じ、鉱山で働かされ死んでいく子供の話を聞けば同じ苦しみを心が受け止めてしまう。強すぎる感受性がお前を苦しめる。それがボロミアとの大きな違いだ」
「私は兄のようになりたいとずっと追いかけていた。だが一生兄のようにはなれぬ」
「お前はそのままでいい。あのガシムという男だってお前だから全部話したのだろう。耳の聞こえない子だからこそ気になって居場所をつきとめ助けようとした。あの子に出会わなければあの男はずっと奴隷狩を続けていた。本人は知らなかっただろうけど・・・・」
「子供を鉱山で働かせる、本当にそれだけが目的なのだろうか」
「領土内にいくら銀の出る鉱山があってもそのままでは宝の持ち腐れだからな。自分が生きている間に掘り尽くして贅沢したいのだろう。人間はエルフのように何千年も生きられるわけではない。ヌメノールの血を引く古い種族の人間だってせいぜい百年と少しだ」
「そう、人間はエルフに比べ寿命も短く弱い上に悪の誘惑も受けやすい。だが銀が欲しいのなら他に方法はあるだろう。ドワーフの道具を使い手のあいた兵士に奴隷狩をやらせるより直接鉱山で働かせた方がよっぽど効率がいいし、領土内の民を使うならゴンドールから文句もでない。それをわざわざ遠くまで出かけて・・・・どうも納得できない・・・・こうしてはいられない」

私は立ち上がった。

「ファラミア、何をしようとしている」
「フィロスに会おう。あの子なら何かを知っている」
「今夜はもう遅い、明日にしろ。それに俺達が近づいても彼は怯えるだけだ。他の者に話を・・・・といっても口はきけないし・・・・無理だな」
「しゃべることはできなくても、私の目に彼の見たものをうつすことができるかもしれない。心を読むことができれば・・・」
「やめろ!人の心を読んで秘密がわかるだけならいい。だけどお前の心は人の痛みまで背負ってしまう。もう少し落ち着いてからにしろ。今会えばお前までまた倒れるぞ・・・」
「それだけのことを命じたのだからしかたがない。真実を知らなければ・・・そのために彼は私のところに来た。あの男以上に彼はもっと悲惨な現実を知っているはずだ。言葉を知らなくてもなにかそれを伝える術が・・・」
「そうかもしれない、でも今はお前もあの子も傷ついている。もう少し時間をおいてから会いに行け」
「傷が癒えてからでは心は閉じられてしまう。今ならまだ間に合う・・・・知らなければならない・・・・」
「ファラミア、やめろ。お前の心が砕け命を失ったらならボロミアがどれほど悲しむか。お前が死ねばボロミアは気が狂ってしまう」
「ボロミアが・・・・まさか・・・そんなこと」
「本当だ。お前達2人はこの世の中でお互い決して愛してはいけない者を愛してしまい、気が狂うほどに恋焦がれている。どちらかが命を落とせばもう片方は気が狂う、それでも結ばれることは許されない絶望的な愛だ。お前達2人を同時に愛した俺だからよくわかる。今お前を行かせるわけにはいかない」
「どうしてそんなことまで・・・」

彼の強い力に押さえつけられ、私は再び寝台に寝かされた。

「明日会いに行けばいい。今夜はもう休め」

彼はそばにあった壷を傾けて中の酒を口に含み、口移しで私に飲ませた。舌が痺れ喉の奥が熱くなった私は目を閉じた。下半身を露にされ息を吹きかけられているのがわかったが、抵抗することはできずに彼にすべてをまかせゆっくりと眠りに落ちた。





                                     ーつづくー



後書き
 いよいよ陰謀の内容があきらかになるか、というところで時間切れ(子供が帰ってくる時間)になって全部は書けませんでした。テストのための勉強もしなければならないし、空想と現実の折り合いをつけるのが難しいです。

2009、10、13



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