闇の水底に咲く華(7)

登場人物  ファラミア25歳 ボロミア30歳 デネソール70歳 マルディル30歳
        ガシム36歳 フィロス14歳 マドリル45歳

時代     フロドが指輪を捨てる旅に出る10年ほど前、ファラミアがイシリアンに来て5年後

洞窟の奥深く、蝋燭を灯しただけの薄暗い中でマルディルは私を抱いた。少量の酒を飲んで酔うと同時に体を暖め、身にまとっていたマントだけを下に敷いての行為、野伏となって5年目になる私の体はゴツゴツした岩の感触やはみだした足にあたる冷たさよりも彼の指の動きや息遣いに敏感に反応していた。彼は言葉のきっかけを待っていた。慣れた手つきであらわになった私の足を開き、自らの粘液で後肛を濡らしゆっくりと中へ入った。おそらくこれが最後になろう。私は目を閉じて意識を集中させた。

「彼は多くの男に犯された」
「誰のことを言っている」
「数え切れぬほどの暴行と陵辱を受けてきた。それでも最初に犯された日のことだけははっきり覚えている。父による思わぬ行為に体を避け逃げようとしたが抵抗することはできなかった。口を押さえられ、無理な行為を強いられ終わった後にはおぞましい欲望を隠すための激しい折檻が加えられた。鞭打たれ蝋燭の炎を近づけられ何度も意識を失った。おそらく10歳にもなっていなかっただろう」
「そんなこと・・・・」

彼の言葉に私は思わず体を固くし次ぎの一撃を避けようとした。だが体は思うように動かず鋭い痛みを感じた。

「わかったか。逃げることはできない。お前は大きな罪を犯した。それをつぐなうために罰を受けているのだ。聞こえるはずのない父の声が聞こえ、覚えることができない言葉が理解できた。大きな罪を犯したのだから罰を受けるしかない。彼はすべてを受け入れることにした。幼い体では拷問にも等しい父の欲望を受け入れ、奴隷として鉱山に連れていかれてからは歪んだ欲望を持つ大人のかっこうの餌食にされ、自分の身を守ろうとする他の少年からは助けも得られない。どれほどの暴力にさらされようと黙って受け入れるしかない。自分は抵抗すべき言葉ももたぬ罪びとであるのだから・・・・いつのまにか痛みは喜びにすりかわっていった」
「あああー、待ってくれ・・・・やめてくれ・・・・そんなに強く・・・・」

彼は激しく私の中で暴れまわった。粘液は乾いて擦れ、血が滲んできたことを感じた。

「君のやろうとしていることはよくわかった。あの子と同じ経験をさせ、私を死から生へと連れ戻そうとしているのであろう。幼い体で受けた傷がどれほどその後生きていくうえで苦しみを与えるか私もよくわかっている。だがもういいだろう。やがて私も敵に捕えられて拷問される。成長していない子を苦しめた罰は充分受けるに違いない。君がこんなことをしなくても・・・・ああー、だめだ・・・・これ以上は・・・・血が出ている・・・・」
「血が滲み、痛みで泣き叫んでも決しておぞましい行為は途中では終わらず最後まで続けられた。自分の血を分けた実の子にそのようなことをするとは・・・・同じ人間がこうも欲望に取り付かれ堕ちてしまうとは・・・」
「あの子には本当に気の毒なことをした。だからこそ私は彼をミナスティリスに連れて行き安心して暮らせるよう手配した」
「そんなことであの子が救えるとでも思うのか。ファラミア、お前は聡明でエルフと同じように人の心が読め未来もわかる。だが自分自身についてはまるでわかっていない。あの子は守られて穏やかに暮らすことなど望んでいない。自分の犯した罪を償うためには男達の餌食となり、傷つけられて死ぬしかないと信じている。最初に父親にそう教え込まれたのだからな。そしてファラミア、お前も同じだ!」

思いがけない言葉に私は上半身を起こした。一糸纏わぬ姿の彼が真っ直ぐに私の目を見て肩を押さえ叫んだ。

「ファラミア、お前もあの子と同じだ。実の父親、執政という最高の権力を持つ者から幾たびも傷つけられ、自分の罪を贖うためには苦しみぬいて死ぬしかないと頑なに信じている。そんな呪縛はいいかげん解き放て!ここイシリアンにいる者はお前が執政家の血を引いているから命令に従うのではない。もがき苦しむお前の今の姿に自分を重ね、共に戦う決意をしたのだ。呪縛に苦しみ自分の命を捨てようとしてもいい。だがそれでもここにいる者のために生きて帰れ」
「物心がつくころから生きることなど考えてはいなかった。自分が生まれてすぐ母は病気で寝込むことが多くなりまもなく亡くなったと聞かされた。魔法使いや学者と話をして何かを学べば父にひどく叱られた。兄ボロミアだけを見て生き、兄のために命を捧げたいとずっと考えていた。生きることなど最初から私にとって苦痛でしかない」
「ならばなぜあの子をボロミアに託した?ボロミアに見守られて眠りにつくこと、それがお前の最大の望みなのだろう。俺はボロミアではない。でもこうしてお前に温もりを与え見守ることができる」

彼は私の肩を引き寄せ、包み込むように抱きしめた。

「人間はドワーフのように体が丈夫で長生きでもなくエルフのように気高い魂を持つ種族ではない。寿命は短く欲望のためには簡単に人を裏切り互いに殺しあう。それでも人間は互いに近づいて温もりを与え、強い者が弱い者を助けて生き抜いた。俺がお前を気にかけたのは自分が10くらいの子供の時だ。ボロミアの弟として紹介された5歳のお前は弱々しく頼りなげでいつも抱きしめていなければどこかへ消えてしまいそうだった」

私を抱く彼の手の力が強くなった。胸の鼓動と脈打つ血の流れがはっきり聞こえる。

「今の私はそのような弱々しい子供ではない。自分の運命を悟り、それにしたがってどう動けばよいかわかっている」
「わかってはいない!鞭打たれるのを恐れ執政の言いなりになっている。いいかファラミア、20年前に戻り5歳の子供の心で周りの者の心を感じ取れ。ボロミアがどれほど弟のお前を愛し慈しんで見守ってきたかわかるだろう。城にいた侍女や衛兵、中には執政の命令でやむを得ずお前を鞭打った者もいたであろう、だが内心はどれほどそのことで悩み苦しんだかお前にはわかっていたはずだ。俺やイシリアンの野伏の心を読むことなどお前にとってはたやすいはずだ。お前は人だけでなく時には獣の心さえ読み自由にあやつることができる。イシリアンの森に暮らす生き物、木々や岩山、この洞窟や足元の石ですら心あるならばお前の死ではなく生を望んでいる。聞こえるだろう、お前を見守るものの声が・・・・」
「聞こえるのは君の胸の鼓動と血が流れる音ばかりだ」

私は言いながら小さな声で笑った。彼はまたまだ完全に満たされてはいない欲望をおさえつけようと必死で戦ってもいた。

「でも不思議と心は落ち着く。こうやって目を閉じ君の温もりを感じるだけで充分だ。もう一度この場所にもどってこよう。たとえそれが父の命令にそむくことになっても・・・・」
「ファラミア、わかってくれたのか!」

ゆっくりとうなずき再び体を横たえた。この夜、全てのものが私の生を望み見守ってくれている、そしてもっとも強い力を持つ者が私の体に覆いかぶさり、激しい性の動作を繰り返した。



                                    −つづくー





後書き
 今回の話でマルディルは一番よい役です。5歳年上、ボロミアの友人という設定でファラミアを独り占め、こうしたいと思う行動やセリフは全部彼に託しています。

2009、11、13






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