11、記憶
波の音を聞きながら俺は必死で痛みをこらえていた。少し動きがゆっくりになったようだ。動きが激しい時は考えることもできない。ただ泣き叫び、のた打ち回り、許しを乞うばかりだ。だが彼はどんなに泣き叫んでも決して許してはくれない。笑いながらさらに激しく攻めるばかりだ。こんな痛くて屈辱的な行為、誰が最初に始めたのだろう。男同士の場合絶対お互いを愛し合ってとか、尊敬しあうなんていうロマンチックなところから始まったのではないと思う。使う場所が場所だから、なんともいえない屈辱的な痛みと奇妙な快感を感じる。快感と認めたくはないが、ほかにいいようのない心地よさにも包まれる。と思った途端、また激しい痛みに襲われて絶叫した。
「ちょっと待て!いきなり激しくやるな、せっかく少し快感を感じていたのに・・・」
「なに、快感を感じたか!それはすごい。とうとうお前も快感を感じることができたか!」
「ちがう!言葉を間違えた。こんなことやられて快感を感じるわけないだろう。少しはマシになって楽になったというだけだ。いい気持ちになったわけじゃない」
「それが感じているということだ。素直じゃないな」
彼はまた激しく攻撃してくる。俺の方が絶対弱い立場にある。こんなこといやなんだけど、どこかでそれを喜んで受け入れている自分がいる。遠い昔、同じような痛みを感じていた。記憶の底にある懐かしい感覚、意識がふっと遠くなった。
俺は洞窟の中にいた。裸に近い格好で、毛皮のようなものを身につけている。目の前にあるのは1匹のうさぎの死体。
「やっとうさぎが獲れたか、今夜はごちそうだ、それにうさぎならいい毛皮が取れる」
独り言を言っている。随分腹も減った。ここ数日、ねずみのようなものしか捕まえていない。全く俺は狩が下手だと自分でもいやになってくる。彼と出会っていなかったら、とっくに飢え死にしていただろう。もう何日も彼は戻ってない。
「大丈夫、あいつがマンモスにやられるわけないだろう。すぐに戻ってくる・・・来てくれるよなあ・・・俺のこと見捨てたりは・・・」
「おい、ジャレッド、起きてるか!戻って来たぞ」
「コリン!待っていたよ」
懐かしい声がして、俺は洞窟から飛び出し、彼に抱きついた。大柄でたくましい体の彼コリン、俺と同じように毛皮だけを身にまとっている。
「ジャレッド、お前またやせたな。待たせてすまなかった。大きなマンモスをしとめたぞ。肉をひとかけらお前のために先に持ってきた。さあ早く食え」
「お前はもう食べたのか」
「いやまだだ。お前のことが心配でずっと走ってきた」
彼はまだ息を切らしていた。胸の鼓動は早く、汗で濡れている。俺は彼の体にしがみつき、懐かしい匂いをかいだ。
「俺のためにこんなに走って・・・」
「そうだよ、お前は狩が下手だから、どうせねずみしか食ってないんだろう」
「俺はだめな男だよ。マンモス狩りなどとても怖くていけない。お前は怖くないのか?」
「怖くはないさ。仲間と一緒だ。マンモスを追い詰め、止めを刺す、その瞬間がたまらない。肉なんかどうでもいい。俺はずっとマンモスを追いかけ、戦いながら生きて生きたい」
「お前ほどの腕前があれば、いくらでも仲間を集め、女を集めて家族を増やすことができる。それなのになぜ俺のところにくる?」
「お前が好きだからだよ。仲間はマンモス狩りの時だけでいい。女はいらねえ。家族が増えたらいろいろ面倒だ。俺はお前さえそばにいてくれたらそれでいいんだ」
「どうして俺を好きになった。ねずみとうさぎしか捕まえられないような男を・・・同情か」
「最初はそうかもしれない、ほっとけば死にそうだったから・・・でもお前を抱いてすごく幸せな気持ちになれたんだ。他の男や女の時はそうじゃなかった。やっと探していたものを見つけられたような安心感があった」
「安心感か、俺にとってはお前が全てだよ。お前がいなければ生きていけない」
俺は彼の口に自分の口を重ねた。体がほてり、熱を帯びているのを感じた。
「まてまて、少し肉を食べてからにしろ」
「だめだ、待ちきれないよ」
「しょうがないな、洞窟の中でだ」
俺は洞窟の床に毛皮を敷き、自分の毛皮をとった。コリンと比べて余りにもやせて貧相な自分の体が情けなくなる。コリンも身につけていた毛皮を脱いだ。その下にまだ腰巻をつけていたが、そのまま俺に抱きついてきた。
「コリン、毛皮がくすぐったいよ」
「これはお前が俺のために一生懸命うさぎの毛皮で作ってくれたものだ。すぐにははずせないよ。これを身につけていると、離れていてもお前に包まれている感じがする」
「いま、俺はここにいるよ」
「それなら、お前がはずしてくれ、ああ、早くお前の中に入りたい」
俺は彼のモノを包んでいる毛皮を丁寧にはずし、彼自身を両手に入れた。俺の命、俺の喜び、俺の未来、すべてがこの手のひらの中にある。俺は幸せをかみ締めながら、丁寧にそれをなでた。
「お前は最高の男だよ。マンモスなんか獲れなくていい。愛しているよ、ジャレッド」
彼は俺をうつぶせにした。俺の体は彼を待ち望み、喜びに震えている。
「ギャー!!」
自分の悲鳴と激痛で意識が戻った。俺は今洞窟ではなくテントの中にいる。下にあるのは簡易ベッドのシーツ、上からのしかかっているのは原始時代のコリンではなく、現代の彼、夢でも見ていたのだろうか。
「なんだよ、さっきまであんなにうれしそうな顔して笑っていたくせに・・・」
「笑っていた、俺が!」
「そうだよ、まったくわけのわからないやつだ」
「夢を見ていたようだ」
「ゆめ!お前は俺が一生懸命やっていたときに寝ていたのか!」
「いや、間違えた、夢ではない」
「なんだ、はっきり言え」
「やっぱりゆめなのかなあ」
「どんな夢だ」
「へんな夢だよ、聞かなくていい」
「教えろよ、よっぽどいい夢見てたんだろう。まさか美女とやっている夢とか」
「ちがう!ゆめの中にまでお前が出てきた!」
「ほんとか、おい、どういう夢だ、教えてくれよ」
「だめだ、ものすごく変な話だ」
どうして俺はあんな夢を見たのだろうか?まさか前世の記憶とか・・・いやそんなことは絶対無い。そんなはずはない・・・
−つづくー
後書き
またまたとんでもない妄想を思いついてしまいました。ウサギしか捕れない情けない原始人のジャレたん、変な話ばかり思いついてもうしわけありません。2005、9,30
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