13、楽園

歩き始めて1時間以上は過ぎていると思う。暑い!おまけに足の間は歩くたびにズキズキと痛む。つくづく運が悪いと思う。大体俺はもともと痛い思いをしたり、苦労したりすることが大嫌いで、できるだけ楽をして、平和な毎日を送りたいと考えている。それなのにどういうわけか俺の人生は波乱万丈な方へと進んでしまう。盗みがばれて警察に捕まったり、カーレーサーになろうとして大怪我をしたり・・・映画監督を目指しても才能不足を知り、やっと役者こそ自分の天職だと目覚めても、まわってくる役は無名のボクサーで殴られて終わりとか、薬物中毒の患者でげっそりやせ細るとかそんなのばかり。今度こそ、俺の役者としての才能が花開く素晴らしい役を見つけたと喜んでオーディションを受ければ、もう役のことなど忘れてしまうほどのとんでもないシナリオが待っていた。

「俺は運が悪いよなー」
「何か言ったか?」

前を歩いているコリンがうれしそうに振り返った。まったくこいつは俺の痛みを知らないからこんなさわやかな顔をしていられるんだ。

「おい、この森はどこまで続いている?」
「さあ、もう少し歩けば向こう側に着くんじゃないか」

海から見た時、この島は随分小さく見えた。探検といっても1時間も歩けば向こうの海岸に着いてしまう、そうたかをくくっていた。だが歩き始めると思ったより遥かに大きいことに気がついた。

「疲れたのなら引き返してもいいぞ」
「いい、もうすぐ向こうに出るだろう」

意地っ張りな俺はムキになってそう言った。そしてまたすぐ後悔した。だがもう遅い。コリンはどんどん先へ歩いていってしまう。ちくしょう、尻の穴が余計痛くなってきた。だいたいこんな無理なこと誰が始めに考えた。穴ならなんでもいいから突っ込めばいいってもんじゃないだろう。こんな一番敏感な穴を使ってどうしようっていうんだ!女とやってもその感覚は誰も似たようなものだから、誰がどうだったかなんていちいち覚えてはいない。だけどケツの穴というのは一度やったらけっして忘れられない独特の感覚がある。絶叫するほどの痛みに襲われ、それはあとあとまで残る。ひりひりとした感覚がすぐに俺をその瞬間に呼び戻す。俺は立っていられなくなり、倒れた木の上に腰を下ろした。

「うわー!」

「どうした!ジャレッド大丈夫か」

俺の叫び声に驚いたコリンが慌てて駆け寄ってきた。

「木の枝でも突き刺さったか」
「いや、なんでもない。ちょっと座ろうとしたら・・・」
「そんなに大変なら引き返そうか?」
「引き換えしたりはしない。先へ行く」
「先に行っても何もないぞ。どうせ森を抜けてまた向こうの海に出るだけだ」
「それでもいい、先へ進もう」

全く俺は何を考えているのか?コリンの言うとおりに素直に引き返せばいいものを、何故奥の方まで進もうとしているのか?




「奥へ行っても何もない。俺達はここで死に絶えるだけだ。全く無駄なことばかりして」
「わかっている、でも何かが見えるかもしれない」
「この先もずっと暗い穴が続くだけだ。どこへ行っても生き延びることはできない。ここではどれほど速く先へ進んでも死だけがある。希望は全くない」
「無駄かもしれない。でもこの先の世界を見てみたい」

足を引きずるようにして、1歩1歩進んでいく。コリンの大きな背中が目の前に見える。体の内側から小さなささやき声が聞こえる。俺の体内に入ったコリンの精液は俺の精液と混ざり合った。男同士、生き延びる希望は全くないのに、それでも俺の体の奥深くへともぐりこんだ精子があるかもしれない。そいつの想いが今俺をかきたて、彼と一緒に奥地へ行くよう誘いかけている。ばかな・・・俺は一体何を考えているのか?女とやる時だって子供ができたらという心配なんか全然してなかっただろう。それがどうして絶対安全な男とやってそいつの精子の運命まで心配してやらなきゃいけないんだよ!まったく俺はどうかしている。前世の原始時代の夢だとか精子の未来とか・・・

「ジャレッド、歩くのが大変なら俺の肩につかまれよ」
「いいよ、そんなこと」
「俺がそうしたいんだ。昔俺はお前を担いで長いこと歩き回っていたような気がする」
「ああ、どうせ俺は昔も今もお前の世話にばっかなっている。昔はお前がいなければ飢え死にするとこだったし、今だって自分がこれだと思う役を掴むためにはお前の顔色をうかがわなければならない。俺の男としてのプライドとか誇りとかそういうもん今はゼロだ」
「そういうのはイヤか」
「イヤじゃないから不思議だ。お前といるとプライドとか誇りとかそんなものはどうでもいいような気がしてくる。そんなものよりももっと大きな借りがお前にある。お前が俺に与えてくれたものは食べ物だけではなかった」
「素直になれよ。俺もこうしてお前と一緒にいることはうれしくてたまらない。欲望を満たすとかそういうことじゃなくてただお前と話したり体を触っているだけで満たされるんだ」
「お前がそこまで言うなら、俺は安心してお前にもたれかかってやるよ」

コリンの肩につかまって歩いた。ただそれだけのことでこんなにいい気分になれるとは思わなかった。足の下に感じる土や落ち葉の感触、熱帯のジャングルの蒸し暑さ、甲高い鳥の声、すべてが素晴らしかった。体内に残った精子は俺の体に溶けていき、無数の想いが口からあふれ出て歌になった。これが愛するということなのか、体の内側の痛みすら、心地よく感じられる。





「ジャレッド着いたよ。海に出た。お前が見たがっていた海だ」
「青い・・・何もかも真っ青だ・・・もうすぐ俺、死ぬのかな・・・」
「死んだりはしない、俺達はいつも一緒だ」

毛皮をまとったコリンが俺を抱きしめ口付けをする。目の前に広がる真っ青な海、俺は安心して目を閉じた。





「ジャレッド、海に出たぞ」

目を開くとそこは真っ青な海が広がっている。

「反対側へ出たのか」
「ああ、お前を担いで歩いてきた。一体何度俺はお前を担がなければならないんだ!それになぜかわからないけど涙を流していた」
「同じ海だ。コリン、俺達は長い時の間に何度も出会って同じ海を見ていたんだよ」

同じ青い海と白い砂浜でもこちら側はもっと美しいように思えた。俺は自分の想いのすべてを込めてコリンに口付けをした。




                                                 −つづくー




後書き
 今回は純愛路線です。といってもやはりいろいろなこと妄想していますが・・・
 2005、10、13


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