14、洞窟

俺はジャレッドに肩を貸してやるとは言った。体の重みも最初は心地よく感じられた。だが背負ってやると言った覚えはない。それなのにジャレッドの重みが次第に俺の背中を圧迫してくる。声をかけたときには遅かった。俺の背中につかまって寝息をたてていた。仕方がないから俺は背負って歩いたが、いくら見た目が華奢に見えても男は男、それなりの重さがある。太陽はじりじりと照りつける。森は果てしなく続いている。クソッ、なんで俺がこんなことしなけりゃなんないんだ。汗がダラダラ流れるが、両手をふさがれてぬぐうこともできない。汗が目に入って痛い。

「もう少し、もう少しで海に着く」

どこからか声が聞こえた。もう少しといったって目の前はジャングルのような熱帯の森で、海など見えそうもない。引き返そうと思うのだが、俺の足は勝手に前へと進んでいく。

「もう少しで海に着く。ジャレッドはずっと海を見たがっていた」
「何を言っているんだ。あいつも俺も海なんて島へ来て飽きるほど見ているだろう。わざわざ島の裏側まで行かなくても・・・」
「ジャレッドは行きたがっている、お前しか連れていけるやつはない。最後の望みをかなえてやれ」
「お前はだれだ!さっきから俺になんの用だ・・・どこに隠れている!」
「お前は俺で、俺はお前だ。姿は見えない」
「何言ってやがる、クソッ!暑さのせいで俺も頭がおかしくなったか」
「もうすぐ海が見える。そこで思い出せ」

足は自然に前へと進んでいた。そして急に目の前が開けてきた。海が見えた。白い砂浜もある。島の反対側に出たのか。

「ジャレッド、海が見えるぜ」
「コリン、俺は今まで?」
「ああ、俺の背中でしっかり寝ていた。全く人の苦労も知らないで・・・」
「俺もお前のせいで夜よく寝られないんだ!」
「昼ねしたけりゃそう言えばいいだろう、なんで探検なんて言い出してわざわざこんなとこまで来るようにした?」
「海が見たくなった」
「海なんていくらでも見えるだろう」
「そうじゃなくて、なにかこう思い出しそうなんだ。まったくお前がゴチャゴチャ言うから忘れちまったじゃねえか」
「どうでもいいけど、お前、とりあえず俺の背中から降りてくれ。いつまでそうしている」
「悪かった。大変だったか」
「いや、別にいいんだ。前にもこんなことがあった」

どうも調子が変だ。心の中で思っていることと口から出る言葉が微妙にずれている。俺は役者だ。カメラが回っているときは別人になりきってセリフをしゃべり、そんな自分を冷静に見ているもう一人の俺がいる。だが今はカメラはまわっていない。演技もセリフも必要ないのにどこからか出てくる。

「俺達は前にもこうやって二人で海を見ていた」
「二日前か、それとも三日前」
「もっとずっと昔だ。お前と二人海を見て、その後何もわからなくなった」
「そうか、俺もだんだんお前の幻覚に巻き込まれてきているようだ。どういう話なのか話せ!」
「いいよ、恥ずかしくてまともに話せるような話しじゃない。ただの夢ださっさと忘れてくれ」




俺達は海岸線に沿ってあてもなくぶらぶら歩きまわった。海に足を入れると水が冷たくて気持ちいい。でも何かこう落ち着かない。もっとこの先に行かなければならないような場所があるような気がする。ジャレッドも同じことを考えているのか、早足で歩き出した。

「洞窟だ、懐かしい」

ジャレッドがつぶやいた。海岸沿いに大きな洞窟の入り口があった。中はかなり広そうである。

「懐かしいってお前、ガキの時家出して洞窟で暮らしたりしたのか。俺も友達と洞窟にいろいろ運んだことがあったけど、夜になる前に見つかってすげえ怒られた。枕や毛布が泥だらけになって使い物にならなくなったって・・・」

ジャレッドは俺の話には答えず、一人でどんどん奥へ入っていった。仕方なく俺も後をついていく。中は見た目よりかなり広く入り組んでいる。

「おい、あんまり奥へ行くなよ。危ないぞ」
「大丈夫だ。おい、すごいぞ。こんな洞窟は滅多にない」
「お前、ケツ大丈夫なのか?さっきまで歩けないほど痛かったのだろう」
「余計なことを思い出させるな」

人、一人がやっとくぐれるような隙間をくぐりぬけて行く。もう日の光は届かず、目を凝らしてやっと少し見えるか見えないかぐらいである。

「ウワー!」

またジャレッドの大げさな悲鳴が聞こえた。洞窟内の反響でそれは何倍もの声になって鳴り響く。俺は笑いをこらえるのに必死だった。どうせまた足でもすべらせて痛いケツでも打ち付けたのだろう。本当に不運なやつだ。余計なことばかりするからますます酷い目にあって・・・泣き声まで聞こえる。

「コリーン・・・・頼む・・・おねがいだ!はやくきてくれ!・・・たすけてくれー」
「わかった、すぐに行く」

そう言いながらも俺はその場を動かずに声を殺して笑っていた。まったくしょうがないやつだ。また痛くて歩けないとか大げさに言うんだろう。今俺が行って舐めてやるから少しは我慢しろ。

「コ・・・リン・・・早く・・来てくれ・・・」

だんだん声が小さくなり、嗚咽のようなものまで混ざっている。ガキじゃあるまいし、転んだぐらいで泣くなよ。まあしょうがねえか。一番敏感な痛いところをぶつけていれば・・・

「今行く、ジャレッド、待っていろ」
「はやく・・・はやくしてくれ・・・死にそうだ・・・」
「おおげさなこと言うな!」

狭い岩の間をくぐった。中はほとんど真っ暗で目が慣れるのに時間がかかる。ようやく少し見えるようになって、ぼんやりとたっているジャレッドの方に近づき、抱きしめた。

「痛い、ヤメロー!バカ!」

「どうしたんだよ、どこかぶつけたのか」

「足が挟まって動けないんだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・!」

よく見ると確かに彼の片足は岩の間の小さな隙間にちょうど挟まっていた。

「なんでこんな隙間に足なんか挟むんだよ」
「しょうがねーだろ。挟みたくて挟んだわけじゃない」
「しょうがねえな、俺がひっぱってやる。そこに腰をおろせ」

ジャレッドは岩の床に腰をついた。俺は彼の挟まれている足をつかんで思いっきりひっぱった。

「うわー、やめろ!骨が折れる!血が出る!」
「これぐらい大丈夫だろう」
「大丈夫じゃない!」

俺は騒ぐジャレッドの足を引っ張ったり曲げたりいろいろなことをした。だが悲鳴が岩に響くばかりで足は抜けそうもない。大きな岩の間にできた小さな隙間にちょっとひねって押しつぶされたような感じで足を突っ込んでしまい、どうにも動かないのである。俺はだんだんあせってきた。

「これはダメだ。引っ張るぐらいでは外れない。何かもってきてこの隙間を大きくしないと、しばらく待っていてくれ。急いで工具箱を取ってくる」
「今から行くのか」

ジャレッドが不安そうな顔をして俺をじっと見る。洞窟の中だけでなく、外も暗くなりかけているようだった。夜、あの森を通ってすぐに戻ってくる自信はない。

「仕方がない、俺もここで一晩過ごしてやるよ。朝になったらすぐに出かければいい。水も非常食もある。一晩ぐらいなんとかなるだろう」
「コリン、お前いいのか」
「お前一人をこんなところに残してはおけないだろう」
「お前は見かけよりもずっといいやつだな」
「おい、泣くなよ」
「泣いてなどいない」
「声が涙声だ」
「俺の声はもともとそういう声だ!」
「ジャレッド、あんまり強がり言うなよ。俺達は二人っきりだ。お互いもっと素直になってもいいだろう」

ジャレッドを抱きしめ、口付けをした。彼も素直に口を開け、舌を絡めてくる。少しの間いい雰囲気になったのに突然口を離された。

「大変だ、トイレ行きたくなった」
「ちょっと待て、今ここでするな。何か持ってくる」
「何かって何を」
「病院とかで使っているだろう、それの代わりになりそうなもの、探してくる」
「早くしてくれ」
「お前、ガキじゃないんだろう。そういうことは早めに言ってくれ」
「しょうがないだろう!早く」

俺は急いで洞窟の外に出た。夕日がまぶしい。まったく大変なことになってしまった。今までいろんなやつとつきあったけど、こんなに手の掛かるやつは初めてだ。

「コリーン、早くしろ!」

ジャレッドの大声が洞窟の外まで聞こえてくる。とりあえず何か見つけないと・・・

                      

                                      −つづくー



後書き
 罠にかかったウサギ状態(!)またまた大変な目にあわせてしまいました。ファンの方、ゴメンナサイ。
 2005、10、21


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