16、前世

「ここじゃあ横になって眠れそうもないな」
「いいよ、一晩ぐらい」
「座るのはどうだ。足は痛くないか」
「座っているくらいなら大丈夫だ」
「夜は冷えるかもしれない、ジャケットを持ってくる」
「お前もこんな狭い所で寝るのか」
「当たり前だ。お前を一人でほっておけるか」

俺は洞窟の外に出て、リュックからありったけの服を取り出した。南の島といっても夜は冷える。ジャレッドの肩にジャケットをかけ、俺も隣に座った。

「ローソクは残り少ない、明かりを消してもいいか」
「いいよ」
「トイレは大丈夫か」
「大丈夫だ」

ローソクの火を消し、懐中電灯を持ってジャレッドの隣に座った。彼の手が俺の唇をなでる。俺は座っているジャレッドを抱きしめ、唇を重ねた。

「悪いな、今はこれしかできない」
「これで、充分だ。朝になったらドリルか何か持ってきてこの岩を取り除いてやる。それまでの辛抱だ」
「おい、電源のないところでドリルは使えないだろう」
「ああそうか、それならハンマーか何かで・・・」
「しっかりしてくれよ、お前だけがたよりなんだから・・・ちょっとやめろよどこ触っている?」
「触るぐらいいいじゃないか」
「困るんだよ、たってくる」
「心配するな、なんとかしてやるから、本当にお前は感じやすいな、どこを触っても・・・・」
「やめろー場所を考えてくれ」
「何も気にするな、今ここにいるのは俺とお前だけだ。それに明かりを消せば何も見えなくなる」

懐中電灯を消すと洞窟の中は何も見えない本当の真っ暗闇になった。ただ手触りで隣にいるジャレッドの体だけを感じる。

「同じだ・・・あの時と同じ・・・俺は今お前の手と体だけを感じている」
「あの時っていつのことだ?」
「ずっと昔、まだ人間が洞窟に住み毛皮を着て狩猟生活をしていたころ俺はお前と出会った」
「本当か、聞かせてくれよ、どんな話だ」
「恥ずかしい話だから・・・・」
「俺とお前はもう恥ずかしいことをやっている仲だろ、話せよ!」

俺は手探りでジャレッドの下着に手を入れ、穴に指を入れた。

「バカ、よせー!やめろ!・・・何をする・・・アアー」
「話さないと指の数を増やす」
「わかったよ、話すよ、話すからその指も離せ!」
「入れたままの方が話しやすいだろう。お前の声は最高だよ。顔が見えないのが残念だが・・・」
「アー・・・ヒイー・・・やめろー!」

少しの刺激でもジャレッドはおもしろいように反応し、その声は狭い洞窟によく響く。指の動きを止めてもまだしばらくはゼイゼイと荒い呼吸を続けている。

「早く話せよ、それともこっちの方がいいか」
「は・・・はなすからさ・・・それ以上手を動かすな・・・ハアー・・・狩猟生活の頃、俺はうさぎやねずみしか捕れないだめな男だった」
「へー、うさぎやねずみか」
「それに比べてお前はマンモス狩の名人さ。俺は飢えを満たすためお前と取引をした。自分の体を差し出して代わりにマンモスの肉をもらった。まあ、そんなところだろう」
「ちょっとまて、マンモスの肉が欲しいからって、お前はそんな理由で・・・」
「さあな、きっかけはよくわからないけど、男同士の関係なんてきっかけはたいていそんなものだろう。狩のできない弱いやつが肉を手に入れようとしたか、それとも戦いに敗れて命乞いのために体を差し出すとか・・・まあ愛だの恋だのというロマンチックなものじゃないと思うよ。こんな場所使って、痛い思いをしてやるんだから・・・」
「痛い思いか・・・まあ最初はそうかもしれないな・・・でもそれがだんだんよくなって病みつきになっていくんだろう」
「アアー・・・やめろー」

指の数を増やして中で暴れるとまたしばらくは叫び声を上げ、逃れようともがくがもう片方の俺の手で押さえつけている。ひとしきり騒ぐとその刺激にも慣れてきて、また大人しくなる。

「まったくお前はいいやつか悪いやつかよくわからねえ。だけど昔の俺はすっかりお前に飼いならされていたみたいだ」
「飼いならされていたなんて人聞きの悪い言葉を使うな。愛していたんだろう」
「そんなにロマンチックな言葉が聞きたければ、そう言い直してやるよ。お前に飼いなら・・・いやお前を愛するようになった俺は、食料確保だけでなくお前と会うことを楽しみに待つようになった。お前が他の仲間とマンモス狩りに行っている間、せっせとウサギを捕らえてはその毛皮を縫いあわせて腰巻のような物を作っていた」

「つまり・・・ウサギの毛皮のパンツか!・・・あ・・・あははは・・・ヒー・・・・」

俺は思わずジャレッドの体に入れていた指を離してしまい、大笑いをしてしまった。

「おい、何がそんなにおかしいんだよ。人がせっかく心をこめて一生懸命作ったものをそんなに笑うな!」
「だってお前、想像してみろよ。俺が裸になってウサギの毛皮のパンツだけはいているところを・・・」

「そんなやり方でしか愛を伝えられなかったんだからしょうがねえだろう!」

ジャレッドの激しい勢いに俺は驚いた。

「お前にとっては単なる同情で気まぐれだったかもしれないけど、俺は真剣だった。ずっと一人で生きてきて、初めて愛した人間が命を助けてくれたお前で、ずっとお前のことだけを思い続けてウサギの毛皮を集めていたんだ。そんなやつの気持ちお前にはわかんねえだろう。マンモス狩の名人でいつもまわりの人間にちやほやされて、男でも女でもいくらでもそばにいたお前なんかになにがわかる!」
「悪かった、笑ったりして本当に悪かった。・・・・謝る・・・このとおりだ・・・知らなかったよ。お前が俺のことそんなに真剣に思っていたなんて・・・・」
「ちょっと待て・・・それはみんな過去の話だ。別に俺は今のお前にそんなに愛着を持っているわけではない」
「だけどお前、今のはよかったぞ。俺なんかもう心臓をわしづかみにされたようで、涙が出てきた。確かに俺はちやほやされていたけど、こんなに真剣に愛されたことはなかった」

「だからこれは前世の話だって言っているだろう!」

「前世でもなんでもいい。他に俺達、どんなことを話した」
「もういい、恥ずかしくてとてもいえない」
「なあ、いいじゃないか、教えてくれよ。お前の話、下手なドラマや小説よりはよっぽどおもしろい」
「じゃあ、もうひとつだけだ。これはお前のセリフだ。久しぶりにマンモスの肉を持って俺の前に現れたお前は毛皮を脱ぐがウサギの毛皮のパンツだけは身につけたままで俺にこう言う・・・これはお前がはずしてくれ、これをはいているといつもお前に包まれているような気がして安心できる・・・」
「おれがそんなこと言ったのか」
「ああそうだ、そして俺はその毛皮の腰巻を静かにはずし、その中のものをいとおしげに触った。その時の俺にとってそれは世界の全てだったから・・・」

ジャレッドは静かに俺の服を脱がせると下着を下ろし、俺のものに頬擦りをした。

「おい、ジャレッド、いまそういうことができる状況じゃないだろう」
「静かに・・・コリン・・・今確かに感じているんだ・・・俺はお前のことを・・・」

暗闇の中、それでも固く目を閉じるとジャレッドの姿が見えてきた。そして感じている。どうしようもないほど深く愛していることを・・・俺のものにジャレッドの舌の感触が伝わってくる。そしてそれはゆっくりと口の中にのみこまれていく。



                                     −つづくー



後書き
 前世での記憶を思い出し、少しずつ積極的になっていくジャレたん。でも足はまだはさまったままです。
 2005、11、4


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