17、始まりの時

暗闇の中、感覚だけは以上に冴えている。足は固定されたままだが、自由に動かせる手を使って愛撫を続けた。それは愛し合うためというよりも何かを確かめるためにコリンの体に触れていく。俺は確かにこの体の手触りを覚えている。彼のものに頬擦りし口に含んでいく。この味も覚えている。夢中になってしゃぶっていると闇の中に昔の記憶が映し出される。もっともっとお互いを感じていたい。それにはどうすればいい・・・





俺は長い間たった一人で暮らしていた。男のくせに狩にも行けないヤツとばかにされてきた。仲間や家族から遠く離れたところで、ウサギやネズミをとって暮らしていた。たまに他の人間と会って一緒に暮らすこともなくはないが、結局うまくいかなくて一人になる。もうあきらめた。人間に期待するのはやめて最後まで一人で生きていこう。だがある時ウサギ用に作った罠にうっかり自分の足を挟んでしまい、大怪我をした。たった一人、怪我をして動けなくなれば死ぬしかない。俺は住み慣れた洞窟に身を横たえた。目を開けても目を閉じても見えるのは冷たい岩の壁。腹が減って苦しくてたまらないのになかなか死ねない。いっそうのこと自分で刺せばと思って石槍を見るがそれもできない。苦し紛れに岩をつめでかきむしり、叫び声を上げた。けものの遠吠えのような声が洞窟にこだまする。長い間一人でいる間に人間の言葉すら話せなくなっている。だれかそばにきてくれ!俺はもう自分が人間かけものなのかもわからなくなっている。誰でもいい・・・・そばにきて・・・たすけてくれ・・・狼のような声がこだまする。これが俺の声なのか・・・それとも本当に狼がすぐ近くにいるのか・・・飢えて死ぬより体を引きちぎられて死ぬ方がましなのか・・・たすけてくれ・・・





「お前一人か、何でこんな所にいる」
「・・・・・」
「俺の名前はコリンだ、お前の名は?」
「・・・・」
「大丈夫か、水を飲め、早く!」

目の前の男にいきなり口移しで水を飲ませられた。おどろいてむせび、激しくせきをした。

「何をするんだ!いきなり」
「いいから早く水を飲め!死ぬぞ」

もう一度水を飲まされた。今度はしっかり飲みこむ余裕があった。水が喉を通り体の中にしみこむのを感じた。

「お前人間か」
「当たり前だ、けものに見えるか」
「一人だけか」
「そうだ、もっとも狩に行く時は適当に他の人間と行くが・・・・」
「何を獲っている」
「シカやいのしし、時にはマンモスも・・・」
「マンモスを捕まえられるやつがなぜ一人でいる」
「一人の方が好きだからだ。お前、酷い怪我をしているな、もう何日も食べてないだろう」
「そうだ、一人でいるやつが怪我をしたらおしまいだ。どうせウサギとネズミしか捕まえられなかったけど、それすら獲れなくなった」
「マンモスの肉を持っている。乾燥させて焼いてあるから少し固いが、食べてみろ」
「なぜ、俺を助けた」
「声が聞こえたからな・・・・遠吠えのような声が・・・」
「けものの声とは思わなかったのか」
「やっと仲間に会えたと思った」
「仲間・・・俺は役に立つ仲間にはなれねえよ。たいしたものは獲れねえ」
「マンモス狩りの仲間などその気になればいくらでも見つかる。でも俺がさがしていたのはそんな仲間じゃない。同じ声で吼える仲間がほしかった」
「言っている意味がよくわかんねえ、変なヤツだな。とりあえずこの肉はもらっていいのか」
「ああ、たくさん食べろ、食べて元気になれ」

俺はそのマンモスの肉にかぶりついた。久しぶりに食べる肉・・・固い肉をむさぼるように食べた。もう食べられないというところまで食べたが肉はまだたくさん残っている。

「これぐらいでいいか、まだお前の名前を聞いていなかった」
「名前・・・・そんなもの忘れていた・・・確か昔ジャレッドと呼ばれていたような気がしたが・・・」
「ジャレッドか、いい名前だ・・・お前のそばで寝てもいいか」
「構わないけど俺は女じゃない」
「そんなことは最初からわかっているさ」





こうして俺達は同じ洞窟で一緒に暮らすようになった。コリンは実によく歩けない俺の面倒を見てくれた。水を運んでくれたり、木の実やちょっとした小動物を捕まえてきてくれた。そして俺はそんなコリンのそばにいき、ただ体をさわることしかできなかった。少しずつ俺達は大胆になり、今まで誰も触らせたりしないところをなであったりするようになった。

「なあ、コリン、お前は女と一緒に暮らしたこともあるんだろう」
「もちろんあるさ」
「女と寝た方がいいよな、俺は男だから何もできない。ただこうやって体を触っているだけだ。どうしたらいい、お前がいつか遠くへ行ってしまいそうで怖いんだ」
「俺はどこにも行かない。ずっとお前のそばにいる」
「どうして」
「同じ声で吼えるやつだから」
「コリン・・・」

俺はコリンの体に抱きついた。彼のものに頬擦りをし、口に含んだ。初めてのその味は苦味があったが決していやな味ではなかった。夢中になって彼のものをしゃぶり続けた。

「俺は女じゃないからこれしかできない」
「これで充分だよ。女と寝るよりずっと気持ちがいい」
「でも、全身でお前のことを感じたいんだ。どうすればいい」
「どうすればって、俺達男同士だし・・・」

俺は座り込んでしばらく考えた。どうすれば俺達はもっとお互いを感じあうことができるか?そして一つの結論が出た。俺は身につけていた毛皮を取り、コリンの前で四つん這いになった。

「おい、ジャレッド何をしている」
「俺達は同じ声で吼えるけものだ。だからけもののように愛し合えばいい。この穴を使ってくれ」
「ジャレッド、そこはそのためにある場所ではないだろう」
「俺にとっては同じだ。けもののようにお前と愛し合いたいんだよ。あの日、お前が俺を救ってくれた。食べ物をくれ、命を助けてくれただけじゃない。たった一人で寂しくて苦しくてのた打ち回っていた俺を救ってくれたんだ。だから俺も女と同じように愛し合いたいんだ」
「ここでは痛くないか」
「かまわないよ、お前に喜びを与えられるなら、俺はどんな痛みでも我慢できる。どんな痛みでも喜びに変わる」





どんな痛みでも我慢できると言ったが、それは想像を絶する痛みであった。俺は絶叫し、そして意識はもとに戻っていた。今の姿になって裸になり四つん這いになっていた。足は挟まれたまま、そしてその鋭い痛みにやはり絶叫していた。けれどもそれは自分が求めていたもの。彼に喜びを与えるためにはどんな痛みでも我慢すると言ったのは自分なのだから・・・始まりの時・・・そして今も絶叫するほどの痛みの中で、俺は言いようのない喜びを感じていた。



                                           −つづくー



後書き
 もはやオーディションとは関係ないところで話が続いています。タイトルを「原初の記憶ー始まりの時」とでも変えた方がいいかしら(笑)それにお前に喜びを与えられるなら俺はどんな痛みも我慢できるなんて究極のMのセリフです。男同士の関係もMの起源もこんなところから始まったのでしょうか?いえいえこの話はまったくのデタラメです(笑)


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