18、原始の海
ゆっくりと身にまとった毛皮を下に落とし目を閉じた。体に触れる熱い手の平。彼の熱い息が俺の体にかかる度に異常なほど体が震え、ビクビクと痙攣を起こす。
「ジャレッド、本当にいいのかい。お前のこの場所はそのためには作られていない。ここでは痛いだろう」
「そうかもしれない、でも俺はお前に喜びを与えられるならどんな痛みにも耐えられる。いや、痛みとすら感じないかもしれない。この体でお前と愛し合うことができるなら・・・」
彼も毛皮を脱いで下に敷き、俺の目の前で四つん這いになった。洞窟の中、わずかな薪のあかり。俺は彼の足の間、俺のいくべきところの近くに手を置いた。遠い記憶が蘇る・・・・俺達がまだ人の姿をしていなく、意識も記憶も持たないいきものだったころ、確かに交わったことがある。温かな水に囲まれて・・・
「アアー・・・ひいー!」
身悶えし、無意識に逃れようとする体を懸命に押さえつけ、叩きつけるように奥へと自分のものをのめり込ませる。彼は泣き叫んでいる。女との経験ではこんなことは決してなかった。悶え苦しむ体は俺を強く締め付けて離さない。自然な営みではないこの行為。無理をして痛みを感じ、それでもお互い一つになろうと体を絡めていく。泣き叫ぶ声は俺のものかもしれない。突き刺すような、痺れを感じるような痛みの中、それでも俺達は離れようとしなかった。泣き声は獣の吼える声となり、狭い洞窟にこだまする。離れ離れになっていた長いときを埋め合わせるように激しい行為をいつまでも繰り返した。
「こんな暗い中でやると、感覚が研ぎ澄まされるな。まるで獣にでもなったような気分だ」
「ああ、お前の声は人間離れしているよ。そんなに痛いのか」
「当たり前だ。おまけに今俺は足を挟まれて固定されている。身動きできない状態でやられれば拷問と同じだ」
「誘ったのはお前だろう。なんだか俺も変な気分になった。毛皮を着てずっと大昔の人間にでもなったような・・・・俺にも前世の記憶が蘇ったのか、それともお前の変な話に感化されてしまったのか」
「確かに記憶というのはあるんだよ。でなきゃ、なんで俺がお前とこんなことやらなきゃいけないんだ!もともと俺は女を愛するストレートの普通の人間だった。それがお前のせいでこんな痛い思いをするようになった」
「痛い思いか・・・前世のお前はもっと素直だった。お前を喜ばせるためなら俺はどんな痛みでもがまんできるって、俺はその言葉にぐっときた」
「あの時はお前が命の恩人だからそう思っていた。今はどうだ、別に俺はお前に痛いのを我慢してまで抱かれるような義理はない」
「そう思っているなら、それでもいい。もうすぐこんな生活は終わりになる。この島を出たら俺達はまた別々に暮らす。お前もまた元のストレートに戻れば痛い思いをしなくてすむだろう」
「もどれねえよ!元の俺にはもうもどれねえ。俺が本当は男を愛して、お前が前世の恋人で、おまけに自分がマゾだということにまで気づいてしまった。これでどうやって女と元通りやれるんだよ。お前責任取れよな」
「ジャレッド、お前は本当にひねくれているな」
「ああ、ひねくれているよ。男に向かって愛しているとか、欲しいとかそんなことは口が裂けても言いたくない。だからお前から何とか言え!」
「わかったよ、ジャレッド、愛している。一緒に暮らさないか、この島を出ても・・・俺はできるだけ長くお前のそばにいたい」
「しかたねえな、前世からの借りがあるから、お前の言うとおりにするよ」
ほおっておけばこのひねくれた男はいくらでも俺を困らせることを言うに違いないから、適当に話をやめて、唇でふさいでやった。こうすればジャレッドは全く抵抗しなくなり、自分も舌を絡めてきたりする。そしてまた俺のものも再び熱くなり、息を吹き返してきた。
「おい、どうしてお前はすぐそうなるんだ。1日1回という約束じゃなかったか」
「わかっている。我慢するから心配するな。寒くないように服を着て俺にもたれかかって寝ろ」
「お前はいいやつだな、前世の時から・・・・」
朝になり、俺はジャレッドの手の届く所に水や食べ物などをたっぷり用意して、洞窟を後にした。急いで戻って何か岩を砕けるような物を持ってこなければならない。森を抜けて反対側に出るのに、俺1人なら2時間もあれば充分だろう。往復で4時間、幸い天気もいいから道に迷う心配もなさそうだ。俺はなるべく早足で森の中を歩いた。少しでも早くジャレッドを助けてやりたい。あのままの格好で一人で何時間もいるのは大変だろう。まあ、意地っ張りでひねくれ者のあいつのことだ。助けてやっても礼など言わず、もう少しこのままでいたかったなどと言い出すかもしれない。無人島の森といっても人が通ったような跡がある。道がついているのはありがたい。早足でどんどん歩いていく。
森の中をどんどん歩いていく。歩きながら次第に俺はおかしなことに気がついた。暑い南の島の森なのに、木の様子が違っている。背の高い杉のような木ばかりになってくる。歩いて汗をかいているのに体はどんどん冷えてくる。遠くで狼の遠吠えが聞こえ、目の前をうさぎが横切る。寒い、どうしてこんなに寒いのか・・・それにもう随分長い間歩いているはずなのに元の場所に着かない。どれくらい歩いたのだろうか、腕時計を見ようとしたが、時計ははめていなかった。空から白いものが落ちてくる。まさか雪!、雪が降ってきている。寒いわけだ。俺は毛皮一枚だけを身にまとい、裸足で・・・・いつの間にこんなに降り積もったのだろう。手足は冷たいのに背中だけは熱くて重い。誰かを背負っている。
「コリン、ここでいい。ここでもう満足だ。降ろしてくれ」
俺は言われた通り、背中に背負っている彼を降ろした。それは俺と同じように毛皮を身にまとっているジャレッドであった。体がひどく熱い。
「ジャレッド、大丈夫か」
「もういい、ここで充分だ。お前の顔がぼんやりとしか見えない。何もかもわからなくなってしまうのだろうか」
「しっかりしろ!ただ熱があるだけだ。すぐによくなる。前にもこんなことあっただろう。大丈夫だ」
「いや、前の時とは違う、もうだめだと思う」
「ジャレッド、しっかりしてくれ!お前が死んだら、俺は一人になる」
「お前はマンモス狩の名人だ。俺と一緒にいなくても仲間ならいくらでもできる」
「だめだ、俺の仲間はお前しかいない。お前の吼える声は俺と同じだった・・・だから・・・」
「海はまだ遠いのかな」
「うみ、うみが見たいのか・・・ちくしょう!俺は一人で旅をしている時、海などいくらでも見てきた。それなのにお前が見たがっている海はこの近くにはない」
「近くにあるよ。もう少し先に・・・海の匂いがする」
「本当か。そこへ行ってみよう」
俺はジャレッドを再び背負って走り出した。熱い彼の体が少しずつ冷たくなっているのがわかる。雪は激しくなってきた。やめてくれ!もうこれ以上雪はふらないでくれ!体が冷えてしまう、俺の愛したたった一人の仲間が・・・・空に向かって獣のように吼えた、だが雪はやまない。俺は夢中になって走り続けた。
目の前に氷の山が見えた。今は寒い冬の時期。ジャレッドに話して聞かせた青い海が見える季節ではない。氷の山の間にわずかに見える冷たい濃い青の色。
「着いたよ、ジャレッド。海が見える。でもお前に話して聞かせたような海はどこにもない。今は雪の季節、青い海は見えない」
「見えるよ、コリン、俺の目には青い海が見える」
「お前、いま幻を見ているのか!俺の顔は見えるか。見えるよな!幻を見てはだめだ!俺の顔だけを見ろ」
「まぼろしではない・・・ふかいうみのそこで・・・おれたちはたしかにいっしょにいた・・・またいつかあえる・・・」
「ジャレッド、しっかりしろ!・・・だめだよ俺は・・・・お前がいなければだめだ・・・なんであの日お前を助けたかいまやっとわかった。俺達は意識も記憶もないずっと昔から・・・・ジャレッド、おい、どうして返事をしてくれないんだ・・・うそだろう・・・こんな雪の降る場所にいてはだめだ・・・・あそこに洞窟がある」
俺はジャレッドを抱きかかえ、洞窟の中へと入った。急いで枯れ木を集めて火を焚き、氷を溶かして水を作った。
「ジャレッド、ほら少しは暖かくなっただろう・・・今、水を飲ませてやるよ。あの時だってお前は半分死にかけていた。俺が水を飲ませたら目を開けて不思議そうな顔をして・・・」
水を口に含み、唇を近づけたが、その冷たい唇が動くことはない。水は口には入らずにこぼれ落ちていく。
「貴重な水だ・・・こぼさずにしっかり飲めよ・・・水を飲めばお前はすぐに・・・・ジャレッド・・・ジャレッドー!」
−つづくー
後書き
ちょっと悲しいシーンになってしまって・・・でもこれは前世ですから
2005、11、18
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