19、脱出
薄暗い洞窟の中に一人残されると、途端に不安になる。
「遅い!一体何しているんだ!俺はこんな場所で待っているんだぞ!」
いくら怒鳴っても返事はなく、自分の声が洞窟に木霊するばかりである。コリンは俺のために食料や水は充分すぎるほど手の届く範囲に残しておいてくれたが、時計を置いていないから今が何時でどれぐらい待ったかちっともわからない。こういう点、若いあいつは人の立場に立って物事を考えるということがまったくできていない。いや俺だって相棒が岩に挟まって動けなくなるという体験などしたことがないから、どうしたらいいか戸惑うかもしれないが・・・
「待てよ・・・俺は待つことには慣れているに違いない。狩猟生活をしていた頃、あいつはマンモスを追いかけてしょっちゅう出かけていたはずだ。俺は何をして待っていたんだろう・・・・目を閉じると毛皮を身につけた俺の姿が見えてくる。焚き火が見える。今日捕まえたらしいウサギが2,3匹、横においてある。
「今日はいい日だ!ウサギが3匹も罠にかかった」
ウサギの肉を食べながら、俺は上機嫌であった。前に獲ったウサギの毛皮を並べて考え込んでいる。
「この前は毛皮で首巻を作ったから、今度は何を作ろうか・・・・そうだ!腰巻を作れば暖かくていい。あいつの大きさはこれぐらいだから、この毛皮とこれをこう並べて切って・・・・コリン、俺はお前のことならなんでも覚えている。手触りも匂いも大きさも何もかも・・・でも早く会いたい・・・早く戻ってきてくれよ・・・・」
ウサギの毛皮をせっせと縫い始めた。コリンのことを思い浮かべると自然に笑いがこみあげてくる。俺はもう一人ではない!待つ相手がいることは幸せなことだ。
「なにそんなにうれしそうな顔をしているんだ」
「コリン!いつ戻ってきた」
「さっきからずっと後ろに立っていた。でもお前があんまりうれしそうに何かしているからそっとしておいた。何を作っている?」
「できた!ウサギの毛皮の腰巻だ。お前が外を歩く時寒くないように・・・」
「ジャレッド、お前はそんなに俺のこと思ってくれているのか、うれしいよ。さっそくつけてくれ」
俺はコリンの身につけていた毛皮をまくりあげ、腰巻を巻いて木の枝で止めた。
「どうだ?」
「ああ、暖かくて手触りもよくて最高だよ。それに大きさも俺にぴったりだ。どうしてあわせもしないでぴったりに作れる?」
「お前のことなら何から何までよく覚えている。そばにいなくてもお前の姿を思い浮かべることができる」
「俺もいつもお前のこと思い出すよ。でも俺は思い出だけじゃ我慢できない。この腰巻も心地いいけど、お前の中はもっと暖かくて心地いい。入ってもいいか?」
「もちろんだよ、ずっと待っていた」
「でも、お前にはかなり痛いんだろう?」
「こんなに気持ちのいい痛みはないよ。お前を見ると、ほら、俺も興奮して!」
「愛しているよジャレッド」
「愛している、コリン」
「やめろー!やめろー・・・いい加減にしろ!・・・なんだお前達いい気になって!」
俺が怒鳴るとたちまち幻想は消えて元の俺一人がいる薄暗い洞窟になった。
「まったくどうしてあんなやつが俺の前世なんだよ!男にデレデレして、ウサギの毛皮のパンツなんかうれしそうに作ってさ!俺は原始人じゃないんだ。そんな悠長なことやってられるか!こんな岩の隙間がなんだ!あいつが戻ってこないなら俺が先に抜け出してやる!」
大きな声で怒鳴ったが、さてどうやってこの岩から足を抜き出せばいいのだろう。岩の隙間はぴったり俺の足に食いついて離れそうもない。何か道具はないかと周りを見回すが、コリンが置いていった食料しかない。だがよく見ると、ちょうど近くに鋭く尖らせた石がいくつも置いてある。これで岩を砕くことができるか・・・・何故今まで気づかなかったのだろう。こんなにたくさん尖った石があるというのに・・・自然にできたとは思えないほど見事に形作られた石、俺はそのうちの一つを足元の岩にあて、手に持ちやすそうなもう一つの石で思いっきりたたいた。
「うわー!!」
足に石をおもいっきりぶつけられたような痛みを感じた。あまりの痛さに目から涙も滲んでいる。
「しっかりしろ、ジャレッド、よく見ろ。岩が少し欠けただけで、お前の足は少しも傷ついてはいない。大げさなんだよ。お前はマゾだろう。マゾだったらこれぐらいの痛みは喜んで耐えられるはずだ」
気を取り直してもう一度石を手に取り、思いっきりたたきつけた。そのたびに俺は悲鳴をあげるが、それでも岩は少しずつ砕けていき、最後の一撃で大きく砕け、俺の足は自由になった。だが少し血が出ている。服を破いて包帯代わりにし、ゆっくり立ち上がった。大丈夫、骨は折れていない。歩くことができる。コリンなんかの力を借りなくても俺はここから脱出することができた。あいつがここに戻ってきたらなんて言ってやろう。
洞窟の外に出ると青い海が広がっている。日の光がまぶしい。一人で随分長い間あの洞窟にいたような気がしたが、実際にはそれほど時間は過ぎていないのかもしれない。しばらく海を見つめていると何か生き物が浜辺に打ち上げられた。くらげだろうか?二匹がしっかりからまってジタバタしている。俺はあわててその生き物を海に帰してやった。
「お前達、気をつけろ。せっかく出会えたのに・・・・。一度別れ別れになったら次に出会うのは難しいぞ」
俺ももう少し素直になった方がいいのかもしれない。せっかく出会えたのだから・・・・素直になって自分の気持ちを伝えよう」
「コリン、愛している。もうお前とは離れたくないから、一緒に暮らそう・・・・だめだだめだ!ちっともうまくない。俺まともな恋愛映画って出たことないからどういったらいいのかわからないな。海に向かって叫べばいいのか」
「コリーン!おれはーお前をーあいしているー!!」
後ろから笑い声が聞こえた。振り向くとそこにコリンが立っている。
「コリン!お前いつからそこにいた」
「さっきからずっと後ろにいた。お前がなにかゴチャゴチャ言っていたからどんなセリフを言うか楽しみにしていた」
「人のセリフにけちをつけるな!大体お前だって・・・・」
「ちょっと待て、今ここで仕事の話をするのはナシだ。どうせ俺たち何ヶ月もロケで一緒になるんだから・・・今はこうしたほうが・・・」
俺は目を閉じて顔を少し上向きにした。偉そうにしてるけど、俺の方が年上だ。あいつの考えぐらい簡単に読める。
「なにそうやってものほしそうに待っている」
目を開けるとコリンが意地悪そうな顔で笑っている。
「お前。だましたな!」
「いつも思い通りには・・・」
いい終わらぬうちにいきなり顔を抑えつけ、唇を押し付けてきた。
「よく、あの岩から抜け出せたな」
「お前の力など借りたくはねえから・・・・」
「それで一人で抜け出して海に向かって愛の告白か」
「お前がいると気がつかなかった。早く忘れろ」
「忘れはしない・・・・一生忘れないよ」
コリンが俺の唇を強く吸い付き、舌を絡めてくるから俺は頭がボーッとなってきた。ちくしょう!こいつが戻ってきたらいいたい事が山ほどあったのにみんな忘れてしまうじゃないか!
−つづくー
後書き
なんだか一昔前の青春ドラマのようになってしまいました。自分の気持ちを自覚してもやっぱり本人を前にすると素直になれないジャレたんです。2005、11、25
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