(2)共演者
俺は今回の映画の共演者は変わった方法で選びたいと監督に申し出た。この映画で俺の演じる主人公ともっともかかわりが深いのは、結婚相手の王女や父、母ではなく友人役であろう。20歳で王位を継ぎ、わずか数年で世界を征服した男が最も愛し、信頼した男。王はその友人の死後、3日間ほとんど何も口にせずに嘆き悲しみ、ほとんど後を追うようにして亡くなっている。俺はまだこれほど深く1人の人間を愛したことはない。
若いときから映画スターとして成功し、地位も財産もあっという間に手に入れた。気に入った相手は女だけでなく男でもすぐにベッドを共にした。飽きればすぐに相手を変えた。たった一人の相手と長く付き合うことなど考えたことはなかった。街中の高級ホテルで、リゾート地で、数え切れないほどの相手と手軽な恋愛を楽しんだ。欲しいものは何もかも手に入れたはずだった。それなのに俺はそんな生活に飽き飽きしていた。
人のいない浜辺で船を待つ。もう何日この島で暮らしたか。贅沢なホテルの生活に飽き飽きした俺にとって、島での不自由なキャンプ生活はかえって新鮮でもあった。それにここにいればうるさいマスコミに付回されることもない。いつもはホテルの部屋を出るたびに、映画スター、コリン、ファレルを演じなければならない。服装、髪型、歩き方、買い物をする店から入るレストラン、すべての行動でマスコミやファンの期待を裏切らないよう注意していた。だがここではどんな格好でねっころがっていようと誰も気にしない。砂浜で思う存分太陽の光を浴びながら次にくる相手役について思いを巡らせた。
ハリウッドにはスターから無名の役者まで、ありとあらゆるタイプの役者がそろっている。その中から監督が役にふさわしそうな男を連れてくるのだが、どうも俺のイメージと違っている。友人、ヘファイスティオンにどんなイメージを抱いているのか?具体的なイメージがあるわけではない。ただ俺と肌があうかどうか、生死をかけて共に戦おうと思える相手であるか、それが問題であった。そういう目で見て、今まできた男はすべて不合格にした。数時間一緒にいて話などをし、やっぱり合わないと帰したやつもいた。中には一言も話さなく、顔を見ただけでダメのサインを送って上陸すらさせなかった男もいる。
新しく監督と一緒に船でやってきた男は今までとは随分タイプが違う。髪を長く伸ばし、色も白くて遠くからでは女のように見える。ヘファイスティオンは王と一緒に戦う戦士でもあるわけだが、戦いになど出られそうな雰囲気ではない。今度の映画に出演したいのならば、王に仕える宦官の美少年パゴアスなどやったら似合いそうだ。役者なら自分がどういう役を選べばオーディションに通りやすいか、よく知っているはずだ。特に無名のやつほど自分の特徴を最大限に生かせる役をねらう。それなのになぜヘファイスティオンを選んだのか?考えている間にも船はどんどん近づいてくる。俺はあわててオーケーのサインを出した。すぐに船は砂浜に着き、監督とその男が一緒におりてきた。男の長い髪が風に舞っている。
「コリン、新しくオーディションを受けるジャレッド・レトだ」
「よろしく」
手を差し出すと意外なほど強い力で握り返された。
「どうやら第一関門は突破したようだな。二人だけにしてもいいかな」
「ああいいとも、この男は気に入った。だけど別の役で推薦するかもしれない」
「俺はヘファイスティオンをやるためにここへ来た。別の役をやる気はない!」
「見た目によらず気が強そうだな」
「当たり前だ、十年以上役者をやっていれば、いやでもプライドは高くなる」
「十年以上、歳はいくつだ」
「32、お前より年上だ」
美少年の役にぴったりだと思っていたこの男が俺より5歳も年上だという事実に驚いた。
「コリン、どうする、俺は帰ってもいいか?」
監督が小声で聞いた。
「ああいいとも、おもしろそうな相手役だ」
「いやになったらすぐに無線で連絡しろ、この近くにいた方がいいか」
「いや、その必要はないだろう」
「本当に大丈夫か」
「ああ、なんとかやってみせる」
監督は心配そうに何度も振り返りながら船に乗って島から離れた。さて、俺はこのジャレッドとかいう名前の男と島で二人っきりになってしまった。これから何を話せばいいのか。
「なかなかいい島だ。お前の別荘か」
「まさか、島ひとつ買えるほど金持ちではない」
「ハリウッドの有名スターといってもそれほど贅沢しているわけではないのだな。喉が渇いた。何か飲み物をくれ。あ、あと食べられる物があったらそれも頼む」
こんな口の利き方をするやつは初めてであった。友達とバカンスにきているわけではない。これはれっきとしたオーディションで審査はもう始まっているというのに、その審査員でもある俺に向かってなんていう口の利き方をするのか。今まできたやつは俺にたいそう気を使い、中には震えて声もろくに出てないやつもいた。
「飲み物と食べ物!聞こえてないのか?スターは何でも付き人にやってもらって自分ではジュース1本たりとも運んだりはしないのか?」
ジャレッドは口を開けていじわるそうに笑う。その顔が妙に魅力的であった。
「飲み物と食べ物!何回同じこと言わせる」
「悪かった、すぐに取ってくる」
俺はすぐにテントに向かって行った。言われた通りにするのはしゃくだがこれ以上ジャレッドの顔を見て話をする自信がなかった。自分でも信じられないほど顔が赤らみ、胸がドキドキしていた。いったいどうしたのだろうか?今までうんざりするほど、相手が女でも男でも恋愛というものをやってきたのに、こんなに変な気持ちになるのは初めてである。あの男のことをよく考えてみた。俺より年上、たぶん独身、収入は俺のほうが上、顔は・・・まあきれいといえばきれいだが、誰もがハンサムと認める俺と比べて好みがわかれそうだ。好きになるやつはのめりこみそうだけど、そうでないやつは嫌うかもしれない。何かの動物に表情が似ている、それがなんなのか思い浮かびそうで浮かばない。あの手の顔は絶対身近な動物にいる!
「おい、なに考えてニヤニヤしているんだよ。このプレイボーイ!」
いきなり耳元で大声で叫ばれた。ジャレッドは俺の顔を近くでじろじろ見ている。
「新しいガールフレンドのことでも考えているのか?ハリウッドでも1,2位を争うほど噂になった相手は多いからな」
「今考えていたのは男のことだ」
「へえ、男でも女でもお前の恋人になれたら幸せだろうな。長続きはしないだろうけど・・・」
「うるさいな、黙っていてくれないか、思い出せそうで思い出せない・・・あーイライラする!ここまで浮かんでいるんだよ!それなのにわからない。よく見ているあれだよ!あれ!」
「なんの話だ?」
「お前、何かの動物に似ていると言われたことはないか?」
「うさぎだろう、どこが似ているか知らないけど・・・」
「そうだ!うさぎだ!わかった。ぴったりだ・・・これはすごい!」
「何一人で感動している。へんなやつ!お前が戻ってくるのが遅いから先にジュースをとってきた」
彼はコーラのビンのふたを開けると、そのまま口をつけて一気に半分ほど飲み干した。そして残りを俺に押し付けた。
「残りはお前が飲め!間接キスを気にするほどうぶじゃないだろう」
また歯を見せて笑った。まったく俺がオーディションの審査をする立場なのに、早くもこの男のペースにはめられているかもしれない。
−つづくー
後書き
ヘファと違ってなんだかすごい強気のジャレッドになってしまいました。なんでこうなるのでしょうか?
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