5、南の島の夜
コリンと二人、ロマンチックな気分になって夕日など眺めていたが、空が暗くなるにつれ、俺の心も暗くなっていった。肝心なことを忘れていた!夜になったらどうしよう!さすがのコリンも太陽が見える時間には少しは遠慮してくれた。だけど夜、南の島で二人きり、ついに俺もそういうことになってしまうのだろうか?今まで人に聞いた話や、雑誌などで見た知識を総動員してそうなった場合について想像を張り巡らしてみた。男同士でもやっぱり最初は女と同じようにキスから始めるに違いない。キスをしてお互いの体を触りあい、気持ちを高めあってそれから・・・それからここからが女とは大きく違う・・・・やっぱり俺は「受け」という立場にまわらなければならないのだろうか?
「おい、しっかり受け止めてくれよ」
「ちょっと待て!俺はまだ受けでいいとはいってないぞ」
「何をぼんやりしている。怪我はないか、ナイフの刃をしまったまま投げてよかった」
「いきなりナイフなんか投げてよこすな」
「これから夕食の準備をすると言ったばかりだろう」
「ああそうだったな、悪い悪い・・・ところで俺は何をすればいい」
「お前、俺の話を全然聞いてなかったな。何を考えていた・・・彼女のことか?」
「何も考えていない、ただ夕日を見ていただけだ。海が太陽を受け止め・・・いやなんでもない」
俺はいったいどうしてしまったのか・・・変な言葉ばかり口から出てしまう。ライブをやっている時、いきなり歌詞を忘れたみたいだ。映画やテレビの撮影はうっかり間違えてももう一度撮ってくれるが、生のライブではそうはいかない。しっかりしろジャレッド!お前は歌詞を忘れても適当にうまくごまかしていたじゃないか!
「火をおこして肉でも焼こうか、バーベキューよりもただの焚き火の方が気分がでるだろう」
「なんの気分だ」
「アレキサンダーの気分だよ。彼は遠征の時コックや奴隷まで引き連れて移動していたが、いつも豪勢な食事ばかりしていたわけでもないだろう。時には火をおこしてパンを温め、肉を焼くだけの食事をしていたかもしれない。特に戦いの前夜などあまり食べる気にはなれなかったに違いない。ただ友と一緒に火を囲み、語り合いながら何かを口にする。きっとそうだと思う」
「戦いの前にはあまり食べられなくなるか・・・」
「俺も撮影の前には食べられなくなるし、一人で寝ている。何度経験しても撮影前は怖ろしくなる。もしかしたらこの映画で失敗して俺はスターの地位も名誉も財産も何もかも失うかもしれない、そんなことまで考えてしまう」
「コリン、お前のような大スターでもそんなこと考えるのか」
「その代わり撮影が無事終わって成功したら後はお祭り騒ぎさ、気に入ったホテルの部屋を何週間も貸切にして、気に入った相手を呼んで毎日パーティー、そして夜は好きな相手と好きなだけ抱き合う、この繰り返しだ。撮影前と後では俺の暮らしは全く違う」
「そうか・・・」
二人で協力して枯れ木を集めて火をおこした。大きな牛肉の塊を棒に刺して焼き、パンを火の側において温め、ワインを用意する。たったそれだけの質素な夕食であるが、なぜかうれしくなってしまう。肉が焼ける香ばしい匂い、今俺達は肉でも魚でも欲しい物を好きなだけ食べられる暮らしをしているが、こうして肉が焼けるのを見ていると遺伝子に刷り込まれている原始の記憶がよみがえるのだろうか?今日一日の糧を得られ、友と分け合って食べられることに感謝したくなる。
「おい、肉が焼けたぞ」
コリンが肉をナイフで切ろうとするが、うまくできずに苦労している。
「不器用だな。貸してみろ」
俺はコリンの手からナイフと肉を受け取った。焼けたところから薄く削ぎ切りにしていく。これぐらいのことはキャンプで何度も経験していたから別にどうということもないのに、コリンは俺の手を睨むようにじっと見ている。
「うまいものだ、教えてくれ」
「いいよ、いいか、そもそもお前はナイフの持ち方からして悪い。王様の役ならいいけど、コックの役では困るな」
「コックの役などまわってきたことはない」
俺は手を添えて彼にナイフの持ち方から教えた。コリンの手は俺よりも大きい。手添えて教えているとどうしても体全体が密着してくる。俺の心臓の鼓動は早くなり、汗が出てくる。
「だめだだめだ・・・人に教えるより自分でやってしまったほうがよっぽどうまくできる」
「すまない・・・」
コリンは急に悲しそうな顔をする。まったくこいつはなんて表情をする。堂々とした大人なのに小さな子供がしかられて泣きそうになるようななんとも言えない顔を見せる。なんだか急にかわいそうになって肩でも抱いてなぐさめてやりたくなる・・・ちょっと待てジャレッド!この表情がこいつの最大の武器だ。この顔で男も女もつい同情してコロリとだまされる。だまされるってなにを・・・いや早く肉を切らなくては・・・
「ほらできたよコリン、覚めないうちに早く食べろ」
「お前はやさしいな・・・顔がよくてたくましくてセクシーでおまけにやさしい。こんないい男に会ったのは初めてだ」
「もう酔っ払ったのか。さっさと食べて寝ろ」
「ああ酔っ払っている。このワイン、口当たりはいいがかなり強い。お前みたいだ」
「ジャレッド うたをうたってくれ!」
「酔っ払いがなに騒いでいる」
「ジャレッド、うたえよー!」
「いやだよ!歌なんか歌えない!」
「歌えないって・・・お前歌手だろう?」
「バンドのボーカルと言ってくれ!俺は歌は下手だ。人前ですぐには歌えない!」
「人前で歌えない!それでも歌手か!」
「そうだよ、俺は昔から人と話すのは下手だし、歌なんて、学校の成績で音楽にFがついたことがある。FだよF!全く声が出なくて学校中で一番下手だと言われた。俺はなんとかそんなこというやつを見返してやりたくて・・・だけど一度ステージで歌ったらそんなことはどうでもよくなった。ステージに上がれば俺は俺でなくなる。自由自在に歌うことができる。だけどステージから降りてしまえば元通りの俺だ。歌が苦手でうまくしゃべることもできない俺にもどる。
「ジャレッド、おれとおまえはおんなじだ。おれはついに見つけることができた!おれのヘファイスティオンを!」
コリンは酔ってわけのわからないことをしゃべり続けた。まさか彼がこんなにアルコールに弱いとは・・・そんな話は聞いていなかった。とにかく俺は酔ったコリンをなんとか寝かしつけようと、彼を支えて歩かせながらテントへと向かった。こんな展開になるとは思ってもみなかった。今夜、俺の体が無事なまま朝を迎えられそうなのはよかったが・・・
−つづくー
後書き
ジャレッドの音楽の成績がFだというのはもちろんでっちあげ、うそです(笑)本当はすごくうまいです。またまたファンの方ゴメンナサイ。
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