6、嵐の夜

俺はいつのまにかたくさんのワインを飲んでいた。目の前にいるジャレッドにどう言葉をかけるか迷い続けていた。今すぐにでも彼を抱きたい。今まで出会ったどの男よりも彼は魅力的である。だが同時に恐怖にも襲われる。二人きりのこの島で彼を抱くのは簡単だが、そうした場合ジャレッドは俺のことをどう思うか?彼は男との経験など一度もない。無理な行為は苦痛と屈辱を与えるだけで、彼は俺に対して深い嫌悪感を抱くであろう。今までこんなことに気を使ったことなど一度もなかった。気に入った相手にはすぐに声をかけ、断られればそれはそれと特別気にすることもない。その気になってくれる相手はいくらでもいた。長いこと一緒に暮らした相手もいたが、俺が浮気しても格別文句を言われたりもしなかったし、また自然に離れて暮らすようになってしまった。男と女、そして男と男の関係も全てはそんなものだと割り切っていた。それなのに今の俺はこのジャレッドに嫌われることをひどく恐れている。嫌われないためにはどうしたらいいか?自分の欲望を押さえてあくまでも友人として接するか、それとも彼を溺れさせ、離れられなくなるほどの快楽を与えてやるか・・・だが俺は本当にそれだけのテクニックがあるのだろうか?いままでつきあっていたやつは、俺に溺れたのではなく、大スターの恋人という立場に溺れ満足していたのかもしれない。目の前にいるあの男を自分のものにして溺れさせたい・・・俺は今ほど自分が男であると強く感じたことはない。さあ何か言えコリン、お前はいままで気に入った相手を逃したことはなかっただろう。

「おい、ジャレッド!歌を歌え!・・・いますぐに・・」

俺の口から思いがけない言葉が出た。体中が熱く、しびれるような気分である。ジャレッドの近くに行こうとするが足がもつれてうまく歩けない。

「歌なんて歌えないよ・・・俺は歌は下手だ!」
「何を言っている。お前は歌手だろ!」
「バンドのボーカルと言ってくれ・・・」

その後彼が何をしゃべったのかほとんど記憶にない。自分が何を言ったのかもよくわからない。気分は最高であった。大声で何かしゃべりまくっていた。酔った頭ではうまい言葉は出てこない。それでも俺はジャレッドに話したいことがたくさんあって大声でしゃべり続けていた。




気がつくと俺は暗いテントの中に寝かされていた。すぐそばで規則正しい寝息が聞こえる。ジャレッドのものだ!彼もすぐそばで寝ている。今彼は何を考えているのだろう。俺に襲われなくてよかったとほっとして、気持ちよく夢でも見ているに違いない。俺は手元にあったライトをつけ、彼の顔をのぞきこんだ。サラサラとした長い髪、閉じた瞳を縁取るまつげも男にしては長い。頬にそっと手を触れてみた。

「まったくお前はこんな時よく平気で寝ていられるな。こんなきれいな顔して寝ているやつを俺がそのままにしておくと思うのか?今すぐにでも俺のものをお前の体に突っ込んでメチャクチャにしてやりたい気分だよ・・・だけど俺はどうやら本気でお前に惚れちまったらしい。本気だからどうしたらいいかわからない・・・ただお前に嫌われたくはない・・・」

俺は彼の唇にそっと指をあて、それから自分の唇を押し付けてみた。ジャレッドは少し顔を動かした。俺は慌てて唇を離した。まったくこの俺がキスぐらいで慌てるなんて・・・自分の心臓の鼓動がうるさいほど大きな音に聞こえる。彼に聞かれたら大変だ。少しはなれたところでまた横になった。心臓の音は少し静かになり、またジャレッドの寝息と波の音が聞こえてきた。俺は目をつぶった。こういうのを幸せな気分というのかもしれない。まだ抱いてない男の寝息を聞きながらそばで寝るということは・・・




雨の音が聞こえてきた。まあこのテントは大きめだし、少しぐらいの雨ではびくともしないだろう。だが雨の音は次第に大きくなりテントをたたきつけるようになった。

「雨だ!」

ジャレッドが飛び起きた。

「ヤバイ、このままでは水浸しになる。早くライトをつけてくれ。スコップとロープを貸してくれ。俺はちょっと外を見てくるから、お前は濡れて困る物を濡れない場所に集め、ビニールに入れてくれ」
「俺も一緒に外に行こうか」
「いや、一人でいい。コリン、こういうことはお前より俺の方が慣れている。テントを張って水浸しになったことなどいくらでもある。大事な物だけ濡らさなければ大丈夫だ」

ジャレッドはろくに服も着替えずほとんど下着のままで外に出て行った。雨と風はますます強くなってくる。ハリケーンでもきているのだろうか。天気予報ではそんなことを言ってはいなかった。とにかく衣類や食料などをビニールに入れ、テントの中央に集めた。それから監督に連絡して天気の様子を聞き、早めに迎えに来てもらおうと無線機を探した。ところがテントの中、どこを探しても無線機は見つからない。最後に使ったのは夕食の時、焚き火にあたり、酔っ払っていい気分で監督と話をした。そのあとどこに置いたか?酔っていて記憶が途切れている。焚き火のそばに置いたいすに無線機も・・・・この雨で、水に濡れたら・・・俺は慌てて上着を着てテントの外に出た。

「どうしたコリン、お前は中に入っていろ!」
「焚き火のところ、いすがあっただろう」
「そのまま置いてあるが、いすぐらい日がさせばすぐに乾く、心配するな」
「そこに無線機も置きっぱなしだ。取って来ないと・・・」
「本当か!いいよ、俺が取ってくる。お前は中で待っていろ。かぜでもひいたら大変だろう。お前の方がずっときついスケジュールで活動しているのだから・・・」

ジャレッドは俺を無理やりテントの中に押し込み、自分は走っていった。雨の勢いはますます強く、彼はびしょ濡れであった。やがて彼は無線機を持って戻って来た。

「早くテントの中に入れ」
「俺はいい。もっとしっかりタープを張っておかないと中まで水がしみこむ。溝を深く掘り直したから浸水はしないと思うけど・・・」
「お前はすごいな」
「それより無線機の調子はどうだ。ちゃんと使えるか」
「今試してみる」

慌てて無線機のスイッチを入れた。だがランプがつかない。どこをどういじってもスイッチは入らない。水に濡れて壊れてしまったのだろうか。俺はなんてバカなことをしているのだろう。あいつのことで頭が一杯で大切な物を平気で外に置き忘れていた。そのジャレッドは雨の中一人でテントを直している。演技以外何もできない俺と違って、あいつはいろいろな体験をしているからなんでもできる。

「無線機の調子はどうだ」

ジャレッドがテントの中に入ってきた。彼はなんのためらいもなく俺の目の前で濡れた服を脱いで裸になった。

「だめだ、水で濡れて故障した」
「そうか、お前もびしょ濡れだな。早く着替えた方がいい」
「お前!ことの重大さがわかってないのか!無線機が壊れた!この島で俺達は連絡手段をなくしているんだぞ。ケータイだってここでは電波が届かない」
「そうか、でも連絡しなくてもそのうち迎えは来るだろう。まだ水も食料もあるし・・・」
「俺は酔っ払って余計なことを監督に言ってしまった。こっちはすごく楽しくやっている。連絡しなければ一週間は迎えに来なくて良いって・・・」
「それならそれでいいだろう、一週間楽しく暮らせば・・・」
「ジャレッド、お前は俺のことわかっているのか。俺は寝ているお前を襲おうとした・・・」
「襲っても構わないよ・・・俺は初めてだからどうやったらいいか全くわからない。お前の好きにしていい・・・こんな気持ちになったのは初めてだよコリン、お前となら二人っきりで何ヶ月も一緒に暮らせるよ」
「ジャレッド・・・」
「早く濡れた服を脱げ。こんなところでかぜを引かれたら困る。医者も薬もない」
「脱がしてくれ、体が震えてうまく脱げない」
「しょうがないな、いつもそんなこと言っているのか」
「お前が初めてだ」
「何か言ってもらわないとそんなことできない」
「愛している、ジャレッド」
「それだけか」
「それだけだ。俺の気持ちは言葉ではなく体で伝える」

ジャレッドは俺の服を脱がせ、タオルで丁寧に濡れた所を拭いてくれた。俺も彼の体を拭いてそれから抱きしめた。長い間雨に濡れていたため彼の体は冷たくなり、ガタガタ震えていた。

「冷たい体だ。大丈夫か」
「いや、温かいよ。温かいし気持ちいい。雨に濡れるのもいいもんだな。人の体がこんなに温かくやさしく感じられる」
「雨に濡れてなくても、こうすることは気持ちいいことだ」

俺はジャレッドの体を強く抱きしめた。冷たくなった体は少しずつ温まり、青白い肌が赤みを帯びてきた。俺はまだ紫色で震えている唇に自分の唇を重ねた。彼の震えはなかなか止まらない。そして俺も初めての経験をするかのように喜びにうちふるえていた。



                                                 −つづくー



後書き
 大変な状況だけど、すごく幸せそうなシーンでもあります。雨降って地固まる、とはこういうことでしょうか(←意味が違う)次回はいよいよ初○○です。


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