(8)初体験(後編)

うつ伏せに横たわっているジャレッドの体を見て、俺は思わず生唾を飲み込んだ。このような場面は数え切れないほど経験している。それにもかかわらず、俺はまるで初めての時と同じ、いやそれ以上に興奮していた。初めての時、それはまだ俺が十代後半だっただろうか。友達と冗談半分で体験してしまった。同性愛という意識はまるでなかった。冗談で言ったことでお互いその気になってしまい、やり方もよくわからず大騒ぎしながら無理やり突っ込んでしまった。そんな感じである。女との経験もないままの男との初体験、あんまり気持ちのいいものではなかったからもう二度と男とはやるものかと思った。




映画スターとして注目を浴びるようになってからは、いやになるほど女がそばにやってきた。いちいち断るのも面倒なので、近づいてきた女ととりあえず一回は寝ることにした。その一回で終わりになった女もいれば関係が長続きする女もいて、俺の女に対するテクニックは磨かれていった。だがどうも女とでは悪くはないが、いけないことをしているという後ろめたさやときめきはとうてい味わえない。やがては男とも寝るようになった。相手が男の場合、女のようにただ突っ込めば濡れるというわけにはいかない。初体験で痛い思いをしたのはそのへんがマズかったのだろう。女より男の方がいろいろ工夫をしなければならないことが多いが、その分お互いに快感を得られた時の気分はサイコーである。もちろんきれいな女との噂は映画スターとしては必要不可欠のものであるから、とりあえず女ともつきあったが、どちらかと言えば男との関係の方が俺にとっては重要になってきた。




数え切れないほどの女や男と寝てきた俺ですら生唾を飲み込むほど、ジャレッドの体は魅力的である。顔も体も決して女のような美しさというわけではなく、男本来が持つ美しさを充分に持っている。とびきりハンサムというわけではないが、三十を超えているという事実が信じられないほど若く見える整った顔立ち。胸から腰にかけて肉付きはいいのに華奢に見えるすらりとした体つき。首の太さ、腰から足にかけてのラインの美しさ・・・よくぞこれだけ男の気をそそる男が今まで何もなかったと不思議に思う。首から肩にかけて口付けし、背中に手をそえれば俺の中の男である部分が否が応でもかきたてられていく。もちろん女から見ても魅力的な男であることには変わりないが、やはりこれは男に抱かれるべき男であろう。それもただの男ではだめだ。世界を征服しようとした王の中の王、男の中の男であるアレキサンダーのような者こそ、この男を抱くのにふさわしい。俺は夢中になってジャレッドの背中に口付けを落としていく。体が振るえ、うっすらとにじみ出ている汗ですら宝玉のように美しく見える。俺がどこに触れてもジャレッドは激しく反応を返してくる。




「いい体だ、ジャレッド。どこに触れてもこんなに反応してくれるなんてうれしいよ。お前のここはどうかな?」

俺はできるだけやさしくジャレッドの尻の穴に指を入れた。指ぐらいでこんなに気を使ったことは今までなかった。

「うわー!!」

嵐の音も暗闇をも引き裂くようなすさまじい悲鳴が聞こえた。これだけ大きな叫び声を上げられたのは初めてである。

「そんなに驚くことないだろう。まだ指を入れただけだよ」
「・・・・」

本当にこいつは正真正銘間違いなく初めてらしい。指ぐらいでこれほど反応するとは・・・今まで寝た男の中には初めてというやつも何人かいたが、これほど激しく反応したりはしなかった。それならば望む所だ。俺の今までの経験とテクニックを使ってこいつをイカせてやろう。

「もっと体の力を抜いた方がいいぞ。指でよく慣らしておいてやるからそんなに痛くはないはずだ」
「力を抜けといっても・・・」
「俺に全てをまかせろ!」

ジャレッドの体は硬直し、ガタガタ震えている。全くこいつは役者を何年もやっているくせに力の抜き方も知らないのか。この状態でもう一度指を入れたらもっと大きな声を出すだろうか?俺の中の悪魔がニヤリと笑った。

うわー!!」

思ったとおりさっきよりももっと大きな悲鳴を上げた。目には涙まで滲んでいる。

「指ぐらいでこれだけ騒ぐやつも珍しい。まあそれぐらいの方が一度快感を味わえば病み付きになったりするけど・・・」
「快感・・・これが快感なのか・・・」
「そうだ、今まで味わったことのない素晴らしい快感を味あわせてやるよ」

俺はもっともらしいことを言った。怯えるジャレッドの顔が、声が今まで経験したことのない興奮を与えてくれる。こんないい獲物は初めてだ。だけど苦しめてはいけない。あんまり痛い思いをさせたら逃げられてしまうから、うまいこと快感も与えないと・・・俺の中の悪魔は確実に目覚めている。そいつを呼び起こしたのはジャレッド、お前だ・・・たっぷり楽しませてもらうよ・・・

ジャレッドの尻の穴をこじあけ、油を流し込んだ。固く目を閉じている彼は恍惚の表情を浮かべている。もしこの男が生まれてくる時代が違っていれば確実に王を狂わせ、国を滅ぼすこともできるであろう。表情が、悲鳴が、体の動きが・・・すべてのものが相手の男を興奮させ、高めて狂わせていく。指を入れかきまぜていくとあろうことか自分から腰を動かし出した。油にまみれた指が彼の快楽を伝えてくれる。目を閉じ、あの恍惚の表情を浮かべて腰を浮かすジャレッドの姿はこの世のものとは思えないほど美しい。

「そうだジャレッド、感じているのか、もっともっと声を出していいよ」

ジャレッドの大きな声がこだまする。これは歓喜の声、彼のモノも大きくなり、俺達は同じ高まりのなかにいた。我慢できなくなって彼の中に、自分のモノを勢いよく突き刺した。

「ギャー・・・アー!!」

すさまじい絶叫が聞こえた。悲鳴の中、俺の興奮は頂点に達した。自分も狂ったような声を上げながら激しく彼の体の中に自分のモノを打ち込んだ。絶叫し、逃れようとのたうちまわる体は俺のモノも情け容赦なく締め付けてくる。もうテクニックも経験も全て忘れていた。俺の中の悪魔が、失われた野生の血が全身を駆け巡っている。それはもはや快感というものではない。拷問と同じ苦痛の中で、体中に血が巡り、生きていることを確かに実感させる生と性、ただもう狂ったように彼の中で暴れまくった。体中を駆け巡る激しい衝動、いつしか嵐の音も聞こえなくなっていた。夢中になって求め合い、叫び声を上げ、獣のようにぶつかりあって俺は精液を彼の体の中に吐き出した。自分が男であることをこれほど強く感じた瞬間はなかった。全てが終わった時は死んだようにぐったりしていた。




ぜいぜいする呼吸を整え、話しができるようになるまでにはかなりの時間がかかった。ようやく落ち着いて彼の体を見ると、尻の部分に血が滲んでいる。

「ごめん、お前があんまり興奮しているから、俺もつい夢中になってしまって気がついたら血が出ていた」
「あれくらいたいしたことではない」
「初めてとは思えないぐらいよかった。あんなに興奮したのは久しぶりだよジャレッド、もう他の男や女は当分抱く気にはなれない」
「当たり前だよ。俺はお前より年上だし、そういう経験はなくてもいろいろ人生経験をしているから、でもこれは初めての体験だがいい経験だった。これだけの快楽は初めて味わった」
「本当か、そんなによかったか」
「ああ、お前はそっちの方のテクニックも一流だよ」

なんてやつだ。こっちは興奮して何がなんだかわからなくなっているのに、テクニックを考える余裕まであったとは・・・やはりこいつは男に愛されるために生まれてきたような人間だ。いまやっと目覚めてむさぼるように快楽を求めている。さっきまでとは顔つきもすっかり変わっている。

「外はまだ雨だな。暇だからもう一回いいかい」

もちろんこれは冗談だ。あれだけ激しい動きをした俺が続けてすぐできるわけがない。

「ちょっと待て、一度に何回もしたら快楽は薄れてくる我慢に我慢を重ねてようやくって時やった方が何倍も快楽を感じられる。まだ一週間はあるのだから、楽しみは一日一回、日が暮れてからということにしようぜ」
「それはいい考えだジャレッドやっぱりお前は頭いいよ。俺のベストパートナーだ」

俺はとりあえずそういってジャレッドに口付けをしたが、冷や汗が流れているのを感じた。こいつは人間ではない。あれだけ死にそうなほどの行為に人を導いたくせに、もう次のことまで計画している。こいつにかかったらたとえ王でも身を滅ぼし、国を滅ぼすであろう。こういう男がなぜ今まで何も経験せずに生きてこれたか、本当に信じられない。奇跡のようだ。


                                            −つづくー


後書き
 今度はコリン視点からの初体験、会話部分をあわせるために、前に書いたのを印刷して読み直しながら書いたので恥ずかしかったです(いつもは自分の書いたものを印刷して読み返すことはしていません)コリンの側からだとまたジャレッド側とは違ういろいろな思いがあるようです。


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