2、愛馬

僕はその馬に市場で出会った。父に連れられ初めて自分の馬を買おうとした。たくさんの
馬を見たが、どうも自分と気が合いそうな馬はなかなかいない。ただ速いだけの馬ではだ
めだ。これから先一緒に戦いに行くのだから、どんな時にも怖れず、敵に立ち向かえる馬
でなくては・・・

激しく暴れる一頭の馬がいる。

「この馬は気がふれています。近づかないでください」

大きな声で引き止められた。でも僕はまっすぐその馬の方に歩いていった。僕には聞こえた。その馬が助けを呼ぶ声が・・・

「お前は何をそんなに怖がっているのだ」
「お止めください。危ないです。こんな馬はすぐに処分しますから」
「怖がらなくてもいい。僕の言う通りにして」

僕はその馬に飛び乗った。周りから悲鳴のような声が聞こえる。馬は暴れて僕を振り落とそうとする。僕は手綱をしっかり握り、馬に話し掛けた。

「僕にはわかるよ。お前が怯えている黒い影、それはおまえ自身の影だよ」

馬の動きが一瞬止まった。僕の言うことをわかってくれたのだろうか。

「よく見てごらん。ほら、僕の影も見えるだろう。お前は自分より大きな生き物を見たことがないから怯えているのだろう。でも怖がらなくていい。影はお前自身なのだから。お前が動けば影も動く。見せてあげるよ。走ってごらん」

馬は大きくいななき走り出した。市場を抜け、草原をどこまでもどこまでも走っていく。

「そう、その調子だ。影はどこまでもお前についてくる。だからお前はどこまでも逃げ続けなければいけない。僕だって同じだよ。いつも黒い影に追われている。逃げ続けなければすぐに追いつかれてしまう。僕は休むこともできない。走り続けなければならない。お前も一緒に走ってくれるかい?」

返事をするかのように馬はまた大きな声でいなないた。僕は今度はゆっくり馬を歩かせて市場に戻った。僕が馬から降りると周りを取り巻いていた人たちから歓声と拍手が聞こえた。父もにこにこしながら僕に近づいてきた。

「りっぱだったぞ、アレキサンダー。お前と一緒に馬を走らせ、戦場を駆け抜ける日も遠くはないな」
「はい、父上」
「だが、お前は一体何から逃げようとしていた」
「それは・・・自分でもよくわかりません」


後書き
 映画で見たシーンそのままです。馬よりもアレキサンダー自身の方が一生影に追われて遠征を続けたという印象も受けました。

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