(1) インタビュー
鞭の音が聞こえる。俺は10歳ぐらいの子供なのか。背中に痛みを感じて大声を上げて泣き叫んだ。なぜ鞭で打たれているのか理由はよくわからない。ただ泣き叫んでいる俺がそこにいる。
「大丈夫か」
同じ年位の子供が俺を見つめている。
「ひどいな、またとうさんにやられたの?」
「関係ないだろう、あっち行ってくれ」
「僕はここにいる」
「じゃあ、助けてくれよ」
彼は黙って手を出した。俺はその手を握り締めた。痛みが少し和らいで気持ちが楽になった。
「おい、ジャレッド!早く起きろ!・・・・今日から仕事だ!・・・・ちょっと待て、お前何してる!」
「しごと・・・」
「仕事だよ、し・ご・と!・・・・この手を離せ!・・・・なんだようれしそうな顔して手なんか握って・・・」
目を開けると兄のシャノンの顔があった。
「きのう言っただろう。テレビ出演の仕事が入った。まったく1週間も急にいなくなって・・・どこにいるか連絡ぐらいしてもいいだろう」
「ごめん・・・・」
「また新しい女ができたのか?どうせ女といちゃいちゃしている夢でも見ていたんだろう。いきなり俺の手を握って・・・」
女といちゃいちゃしているような夢ではなかったが、どうも夢というには妙なリアリティがあった。それにあの子供の顔は・・・・間違いないあいつだ!あれも俺の前世なのか・・・・
「俺、ここを出て、別の場所で暮らしてもいいか」
「やっぱりそうか、新しい女ができたのか。別に俺はお前が同棲しようと結婚しようといっこうに構わないさ。仕事さえちゃんとやってくれればな・・・だけどお前は夢中になりやすいたちだから・・・それで結局うまくいかなくなるんだよ。周りが見えなくなってさ・・・まあ、だめになったらまたいつでも戻ってくればいい。俺は待っていてやるから・・・・」
確かに俺はここ10年ほど女と付き合っては同棲し、そして別れてまた兄と一緒に暮らすという生活をしていた。ただ違うのは今回は俺が同棲しようと思っている相手が男だということである。兄のシャノンはゲイなどというものには全く興味がなく、いつもきちんと女とつきあっている。もちろん弟の俺も同じタイプと信じている。男と暮らすなどと宣言したら天地がひっくり返るほどの大騒ぎになりそうなので、しばらくは相手は女と言っておいた方がいいだろう。
「今日の仕事は?」
「テレビの歌番組に出演すると言っただろう!きのうあれほど話したのにもう忘れたか」
「テレビは好きじゃないな・・・・ライブの方が観客と一体になって俺らしさを出せる」
「ぜいたくを言うな。テレビで宣伝でもしてもらわねえと、ライブのチケットが売れねえだろう。ジャレッド、歌の前にインタビューがあるそうだからお前何かおもしろい話でも考えておけ、俺たちが有名になるチャンスだ」
「では次は最近人気急上昇のバンド、30 seconds to Mars の皆さんです。ボーカルのジャレッドさんにお話を聞いてみましょう。ジャレッドさん、きょうはまた一段とすがすがしい顔ですが、最近何かよいことでもあったのですか?」
「はい、僕はつい最近、数万年別れていた前世の恋人と再び出会えたのです」
「まあーロマンチックなお話ですねー。それでその前世の恋人はどのような方だったのですか?」
「彼はマンモス狩りの名人でした。僕はウサギやネズミしか獲れないだめな原始人で、飢え死にしそうになっているところを助けられたのです。そして僕達は男同士だということを越えて深く愛し合いました。それは初めての体験だったけど、本当にお互いの心と体を深いところまで・・・・」
「じゃ、ジャレッドさん、そろそろ・・・あ、もう準備できているようです。歌の方よろしくお願いします。素晴らしいお話しありがとうございました!」
俺にインタビューをした若いアナウンサーの子はかなりあせっていたようだが、会場は盛り上がり、俺の歌も絶好調であった。大満足して楽屋に戻るのだが、兄のシャノンを始め、仲間が冴えない顔をしている。俺がまだ化粧を落とし終わる前に、シャノンが近づいて説教を始めた。
「ジャレッド!お前どういうつもりであんな話をした!」
「どういうつもりって、おもしろい話をしろっていうからさ・・・けっこう受けてたじゃないか。あれ以上しゃべると放送禁止になるってところでちゃんと話をそらしてもらえたし・・・」
「お前のうその才能はたいしたものだよ。だけど、自分がどう見られているってこと自覚しろ。男と愛し合ったなんてよくもまあそんなことをベラベラと、それも前世の恋人だと・・・・」
「誰も本気になんかしないだろ。俺はうそつきだと有名だから・・・まあ盛り上がってチケットが売れればいいじゃない」
「まだわかってないのか!俺もつい最近まで知らなかったけど・・・マットが忠告してくれた」
今度はマットが俺のそばに来て、1冊の雑誌を開いて見せた。
「いいか、ジャレッド、怒らないで冷静に聞けよ。これはゲイの雑誌だが、お前は最近この手の雑誌によく写真が載るようになっている」
「ちょっと、待ってくれ。俺は別にゲイじゃないぜ」
「いいからよく見ろ」
手渡された雑誌のそのページには俺の写真が大きく載っていた。そしてそのタイトルは?
「読者が選ぶ、恋人にしたい男ベスト10・今月の1位・・・・」
俺の名前が1位のところに書いてあって写真も一番大きい。そしてコメントまでついている。
「あの、青い瞳に吸い込まれそうだ」
「声がたまらなくセクシー・・・1日中CDをかけています」
「一夜を共に過ごせたら死んでもいい・・・・」
「なんだよこれは!俺はゲイじゃない!」
大声で叫んだ俺の耳に兄の声が冷たく響く。
「お前がそのつもりはなくても、こういう見方をするやつはたくさんいる。来月号でお前また特集記事がでるぞ。恋人にしたい男ナンバー1のジャレッドにはマンモス時代の前世からの恋人がいた!とかいう見出しがついて・・・・俺は知らないからな」
−つづくー
後書き
「オーディション」の続きの話です。島から戻ってきた二人が同棲生活を始めようとするのですが、周りの人間とまた様々なトラブルが起こります。別パターンの前世話も織り交ぜて展開していきます。よろしくお願いします。
2005,12,16
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